転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第775話 転生勇者、学園交流会へ向かう (魔法学園)

“フゥーーー、シュッ、シュシュシュッ、バッ、シュシュッ、シュッ”

薄暗かった空がいつの間にか明るさを増す、武術訓練場に差し込む日の光が、一日の始まりを知らせる。俺は両手に握った短剣を腰の鞘に戻すと、大きく息を吐いた後一礼をして長椅子に戻る。

長椅子には拭き布と水筒、水筒にはあらかじめ作っておいた蜂蜜魔力水が入れてあり、俺は直に口を付けると、ゴクゴクと喉を鳴らす。

魔力枯渇状態での身体運用訓練は結構身体に負担がくるが、運動後の魔力水が格別に旨く感じるのも事実、この一杯の為に頑張れるといっても過言じゃないだろう。

この蜂蜜魔力水には少量の岩塩を溶け込ませている、これは前世の記憶にあるスポーツドリンクの応用。本当なら柑橘系の果物も欲しい所なんだけど、俺はあまり王都の市場について詳しくないんだよな。今度寮母さんか学食のお姉様方にでも相談してみようかな?

前世でレモンの蜂蜜漬けを女子マネージャーが持ってくる漫画のシーンを見て、ググった事があったんだよね。なんか疲労回復効果があるとか喉にいいみたいな感じの検索結果だったような。

王都学園じゃそんな場面見たことが無いんだけど、地方学園だったらあったりしたのかな?

でもアルデンティア第四王子殿下が差し入れされている場面もあまり見たことが無かったような、一年の時料理教室で作ったクッキーをアリスさんが持って行ってたみたいだけど、他の女子生徒は持って行かなかったんだろうか?

漫画とかアニメの王子様ってもっとモテモテだったよね? 現実には安全上の問題とかで差し入れ禁止とか? 某プロダクションのアイドル? 結構現実って世知辛いよな~。

 

「おはようジェイク君、今朝も短剣の練習をしてたの?」

「あぁ、エミリー、おはよう。どうしたんだ、こんなに朝早く、もしかしてエミリーも棒術の練習に来たのか?」

俺の言葉にエヘヘとはにかみながら何かを取り出すエミリー。

 

「ジャジャ~ン、ジェイク君の為にエミリー特製の飲み物を持ってきました~。疲れた身体の体力回復にバッチリだよ♪」

そう言いコップに注がれた物はどこかドロッとした微妙な何か。

 

「エ、エミリーさん、これは?」

「はいどうぞ、クイッと召し上がれ♪」

もの凄い笑顔で差し出されたコップ、色は出来損ないの青汁といった感じ。俺は引き攣り笑顔のまま恐る恐る口に運び・・・。

 

「・・・普通に飲める。見た目ほど悪くない? しいて言えば布で濾してくれれば尚よし」

エミリーは「あ~、そこは気が付かなかった~」とか言って悔しそうにしていますが、これって一体なに?

 

「えっとね、この前ケビンお兄ちゃんが送ってくれたマルセル村の野菜を擦ったり刻んだりしたものに、蜂蜜と魔力水を入れたものかな。トメートとホウレンとキャベールとキャロルとショウガを使ってみました」

・・・要は青汁の蜂蜜割りだったみたいです。材料がまとも、雰囲気が怪しかったのは単に濾したり絞ったりの行程が無かったからだったみたいでした。

危ね~、エミリーがメシマズ女子じゃなくって良かった~。

逃れられない強制飲食イベント、笑顔で感想を求めるエミリーさん。完全にフラグかと思ったわ、学園ものあるあるかよって警戒した自分が恥ずかしいわ。

大体俺って腹パン男子(被害者)じゃん、そんな主人公属性なんてないっての。俺はちょっと勘違いしそうになった自身を反省しつつ、穏やかな朝の時間を過ごすのだった。

 

「はい、代表生徒の皆は集まってくださ~い。これから魔法学園へ交流会に向かいます。皆さんは王都学園が誇る代表生徒です、その自覚を確りと持ち、魔法学園生徒との交流を行ってください、いいですね♪」

 

・・・フラグ回収、めっちゃ早いんですけど。

武術訓練場での朝練を終えエミリーと少しおしゃべりをした後、部屋に戻り黒蜜にスライム浴をお願いして汗はさっぱり。制服に着替えてから朝食を食べ、ジミーと別れて学園正門前に。

今日は魔法学園との交流会の為、引率のシルビーナ先生とネイチャーマン先生のところに向かったんですが、なんかシルビーナ先生の様子がですね。

 

「なぁカーベル、シルビーナ先生の様子って少し変じゃないか?普段はなんかこうぶっきらぼうというかもっとそっけない人だよな?」

「いや、俺にも分からない。社交界で特にシルビーナ先生の変わった噂は流れていなかったはずなんだが。だが少し警戒した方がいいかもしれない、女性が浮かれている時はその揺り返しが怖い」

 

カーベルからは目茶苦茶実感の籠った回答が。って言うかお前すでに女性で苦労してるのか? 上の姉が大変な人だと、そうなんだ、頑張れよ。

お貴族様にはお貴族様なりの苦労があるようです。

 

「それでは馬車に乗り込んでください。先頭の馬車には引率の私とナバル君、カーベル君、アリスさん。後方の馬車には引率のネイチャーマン先生、ロナウド君、ジェイク君、フィリーさんの組み合わせで乗車してください。

皆さん、あまりはしゃぎ過ぎないでくださいね♪」

 

・・・マジで何があったし。引き攣り顔になる俺たちの事などまったく気が付かない様子で馬車に乗り込むシルビーナ先生、俺はそんなシルビーナ先生の態度に一抹の不安を覚えつつ、魔法学園に向かうため馬車に乗り込むのでした。

 

「ネイチャーマン先生、何か知りませんか?」

「はい? 何の事でしょうか」

ガタゴト揺れる馬車での移動、俺は座席正面に座るネイチャーマン先生にシルビーナ先生の異常行動について話を聞く事に。

 

「シルビーナ先生の事です。何か凄く浮かれているというか、今までのシルビーナ先生はあんな感じじゃありませんでしたよね?

一体どうしたんですか?」

「そう言えばジェイク、お前最近臨時教務棟に行ったか? 俺はつい最近ネイチャーマン先生に用があって訪ねたんだが、トラップの種類が変わってたんだ。

目茶苦茶巧妙で気付かずに発動させてしまったんだが、頭にお花畑が出来た」

 

「「はぁ? 頭にお花畑?」」

俺がネイチャーマン先生にシルビーナ先生の事を聞いていると、横から口を挟んできたロナウド。だがその話の内容に思わず声を揃える俺とフィリー。

 

「ハハハ、そうでしたね。あの時はロナウド君が新しい芸風を身に付けたのかと驚いたものです。他にも幻影の魔法の応用でドレス姿に巻き髪になってしまう罠もありましたか。

ただその罠に掛かったのがミルキー嬢とエイコー嬢だったので、全く違和感が無かったのですが」

「「「あぁ、確かに」」」

 

ドリルヘアのミルキー嬢に対し、ドレス姿にドリルヘアになる罠を掛けたって、ただの衣装チェンジ? これがアルジミールとライオネスとかだったりしたら爆笑間違いなしなんだろうけど。

 

「でもまたなんでそんな事に」

「それはですね」

俺の呟きに、にこやかに答えを教えてくれるネイチャーマン先生。

 

「「はぁ? シルビーナ先生に彼氏ができたんですか? しかもお相手はモルガン商会のロイドさんなんですか?」」

驚きの回答に思わず声の大きくなる俺とフィリー、そんな俺たちの様子に「まぁ驚きますか」と言って、ネイチャーマン先生は更に詳しい話を聞かせてくれるのでした。

 

「四月の入学式の時だったのですが、シルビーナ先生に冬期休暇は何をしていたのかと聞かれまして、田舎に帰って妻と子供と一緒に過ごしていたと伝えたら怒られてしまいまして。

何故か私、独身だと思われていたようでして、話の流れでお相手を紹介する事になってしまったのですよ。

ただ私はあまり顔の広い方ではないのでワイルドウッド男爵閣下にお願いして場を設けていただきまして、後から話を聞いたのですが、ご紹介いただいたモルガン商会のロイド氏は、シルビーナ先生がグロリア辺境伯領の領都学園に通っている時の同級生だったとか。今でも手紙の交流がある程度には親しい間柄だったそうです。

それでその後何度かお会いしているうちにあのような状態に、シルビーナ先生はロイドさんの事を聞いてもそっけない感じの答えしか返してくれませんが、あれだけあからさまですとシルビーナ先生的にはかなり乗り気なのではないかと。

ただその辺がお相手に伝わっているのかどうかが心配なのですが」

「「あぁ、ロイドさんでしたら大丈夫です、ロイドさんですから」」

 

ロイドさんって、本当に何で彼女がいないんだろうって思うくらいに何でも卒なく熟すんだよな~。モルガン商会王都支店でもかなり重要な仕事を任されているって聞いてるし、超優良物件だと思うんだけど。やっぱり地方商会ってところが王都の女性には受けが悪いのかな? 王都の地方下げって凄いって聞くし。

 

「そうか、シルビーナ先生にも遂に春が。俺も負けてられないな」

「はぁ? ロナウド、何言ってるの。なんでロナウドが対抗意識を燃やすんだよ」

シルビーナ先生の衝撃的な話を聞いたからか、突然変な事を言い出したロナウド、こいつ大丈夫か? 勇者病でも再発したか?

 

「あぁ、ジェイクたちにはまだ言ってなかったな、この前の冬期休暇に俺の婚約が決まってな。将来の事を考えれば、今後より婚約者との仲を深めることが重要だと思ったんだ」

「えっ、マジかよ、おめでとう。それでどこのお嬢様と婚約したんだよ、王都学園の生徒の誰かなのか?」

行き成りの婚約宣言にびっくりする俺とフィリー。ロナウド君、しっかりお貴族様をしていたようです。

 

「いや、既に学園は卒業している。いわゆる政略結婚という奴だが、テレンザ侯爵領の安寧を図るためには最適な婚姻だと思っている」

・・・ロナウド君、本気でお貴族様されてました。既に学園を卒業されているって事は、少なくとも二つ以上は年上、領地の為に妻を娶るって事は貴族であれば当然の事、貴族の結婚とは家と家との繋がりであって本人の意思はそれほど考慮されないのが当たり前。

 

「なんだジェイク、それにフィリーも。別に俺はこの婚約に否やはない、俺はテレンザ侯爵家の三男だ、いずれどこかの家に婿に入る事は初めから決まっていた事。それがテレンザ侯爵家にとっての益となるのならば喜んで婚姻に臨もうというもの」

「この前教務室に来た時にその話をされていましたね、向かわれる地で生活魔法の有用性を広めたいとか。

私も他国で生活魔法の有用性が認知される事は大変うれしく思います。アルジミール君とライオネス君も、スロバニア王国のマルローニ侯爵領にビッグワーム農法の指南書と生活魔法の教本を送ってくれたと聞いていますし、これから少しずつ生活魔法が見直されるようになると思うと、胸が熱くなります」

 

そう言いニコリと微笑むネイチャーマン先生。って言うか今凄く大事な事を言ってなかった? 他国で生活魔法の有用性がどうのって、ロナウド、外国に行くの?

 

「ロナウド、他国って、お前オーランド王国を離れるのか?

まさかバルカン帝国に」

「いや、テレンザ侯爵領の安寧の為とはいえ、流石に今の時期にそれはない。俺の叔母はバルカン帝国の貴族に嫁いだと聞いているが、一年戦争以降連絡は取れていないな。

俺が向かうのはその手前、ダイソン公国だ。テレンザ侯爵家にはクリネクス兄上のもとに王家から第三王女が輿入れしている、俺がダイソン公国に向かう事で間接的に王家とダイソン公国の間に関係が出来る。

これもダイソン公国をオーランド王国側に引き込むための外交という奴だ。その為俺は、公家に近しい人物との婚姻を行う事となった」

 

複雑な人間関係、国家間を取り持つ婚姻外交。アルジミールもそうだけど、俺と同じ年なのにロナウドは確りと高位貴族としての道を歩んでいる。

 

「相手はアイリス・ダイソン侯爵、現在ミネリオ・ダイソン大公の宰相となるべくマケドニアル・グロリア宰相の下、外交や政務について学んでいる女性だ」

「「・・・ローラさんじゃん、ロナウドがめっちゃ懐いてたメイドさんじゃん、年上だけど相思相愛じゃん」」

 

真剣に話を聞いていた俺たちって一体・・・。

馬車は進む、王都の街道を抜けて。その後ロナウドの惚気話を聞くはめになった俺とフィリーは、“あれ? こいつってばこんなに頭お花畑だったっけ? シルビーナ先生の罠で頭に生やされた花がまだ抜けてないのかな?”などと思いながら、はやく魔法学園に到着する事を願うのでした。

 




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