「さて、次は俺の番か。ロナウド、ジェイク、後は任せた。俺は派手な事は出来ないからな、いつも通り無難にこなしてくるさ」
席を立ったのはナバル先輩、シルビーナ先生の魔法解説の後で場が興奮する中の出番、これって何て罰ゲーム?
「ナバル先輩、期待してますよ。バッチリ決めてきてください!!」
「そうだな、ナバル先輩は俺たちのリーダーだからな。確り見せ付けてやってください!!」
だがそんなナバル先輩に追い打ちを掛けるフィリーとロナウド、こいつらめっちゃいい笑顔でやんの。ナバル先輩苦笑い浮かべてるじゃん、マジでやめて差し上げて?
「第三演舞、魔法学園バルバロッサ、王都学園ナバル・パイロン」
進行の教諭に呼ばれ、互いに前に歩み出るバルバロッサとナバル先輩。バルバロッサは鋭い視線をナバル先輩に向けると口を開く。
「お前、去年ミリーと対戦したナバルだろう。ノコノコと魔法学園に何の用だ」
「何の用も何も、王都学園の代表の一人なんだが? お前は確かリリアーナ先輩と対戦したバルバロッサだったか、<短縮詠唱>だけじゃなく<多重短縮詠唱>も駆使した対人魔法戦を得意としていたんじゃないのか?
言い方は悪いがこういった見世物のような発表の場はあまり得意じゃないと思っていたよ」
ナバル先輩の返事に“ケッ”と悪態を吐くバルバロッサ。
「ところで何で今日はミリーが来てないんだ? 実力的にはミリーが一番だろうが!」
「ん? あぁ、その事を気にしていたのか。学園長曰く交流会で実力を認められ編入した者は交流会には出られないという規則があるとのことだ。
交流会はあくまで生徒同士の交流が主体、学園同士の優劣を決める場ではないという事らしい。そういう訳でよろしく頼む」
「はぁ? 何温い事言ってやがるんだ、これだから中央学園のお坊ちゃんは腑抜けだってんだよ。俺たち魔法学園の者はな、日々身体を張って訓練に励んでるんだよ!!
それをやれ危ないだのなんだの、魔法が危ないものなのは当然だろうが。
ミリーもこんな腑抜け共の学園に入れられてさぞ退屈だろうさ」
「あぁ、そういう。うん、まぁ、青春だな。因みにミリーは毎日大図書館に籠って魔法の研究に励んでいるぞ、将来はシルビーナ先生のような研究者になるのが夢だと言っていたか、夢や目標がある奴は輝いてるよな」
そう言い優し気な笑みを向けるナバル先輩。ナバル先輩、それ、煽ってますから、バルバロッサの顔が真っ赤ですから。
バルバロッサは「すかしてんじゃねえぞ!!」と捨て台詞を吐き標的に身体を向ける。
「<ファイヤーボール×20><ファイヤーボール×20><ファイヤーランス×5>」
“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ、ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ、ズドンッ、ズドンッ、ズドンッ、ズドンッ、ズドーーーン”
魔法訓練場に鳴り響く轟音、まるでガトリング砲のように撃ち出された<ファイヤーボール>、続く<ファイヤーランス>がとどめを刺すかのように標的にぶち当たる。立ち昇る火柱、観客席からは興奮した生徒達からの歓声が送られる。
「派手だね」
「あぁ。この交流会が観客に対する自己主張の場であるとするのなら有効な手段だろう。その高度な内容にもかかわらずいまいちパッとしなかったカーベルの例もある。如何に周囲に働きかけ自己の有能さを示すか、そうした点においてバルバロッサは見事な演舞を行ったと言えるんじゃないか?」
分かり易さ、派手さ、高度な技術、その三点が合わさったバルバロッサの演舞は、自身の有用性をアピールして王都学園の編入や王家や高位貴族家からのスカウトを狙う魔法学園の代表生徒としては最高のものであったと言えるだろう。どうも俺はその点が分かっていなかったらしい。
カーベルの演舞、凄くよかったと思うんだけど、派手さと分かり易さはな~。結局解説のシルビーナ先生に全部持ってかれちゃったし。
俺は隣の長椅子で大きなため息を吐くカーベルに、心の中で“すまなかった”と詫びの言葉を向けるのだった。
「中々な演舞だな、<多重短縮詠唱>を連続で、しかも一回に付き二十発の<ファイヤーボール>を撃ち出すのは学園生徒としては破格なんじゃないのか? 金級冒険者パーティークラスにならないとそこまでの技術を持った魔法職はいないだろう、もしくは王宮魔法師団か。いずれにしても学園生徒の尺度で測れるものじゃないという事はよく分かったよ」
ナバル先輩はバルバロッサの演舞に素直に称賛の言葉を送ると、自身の標的に向き直る。
「ふん、今からいい訳か? 俺が凄いだけで自分が劣っている訳じゃありませんとでも言いたいってか? 無様だな、おい。去年だって偶々ミリーに勝てただけでお前が「はじめていいか?」・・・」
ナバル先輩はバルバロッサに一言声を掛けると、魔法の詠唱を始める。
「“大いなる神よ、<土と闇の魔力よ>、我が手に集いて<形を成せ>、<それは堅牢にして無比>、眼前の敵を貫く<強固なる刃>、ストーンランス×5”」
“バババババッ”
ナバル先輩の詠唱とともに周囲に展開される五本のストーンランス、だがそれは漆黒の艶光りした強固なる武器。
‟バシュッ、ズゴズゴズゴズゴッ”
一瞬のうちに飛び出し標的に突き刺さる五本のストーンランス、その光景に観客席からは“おぉ~~~”という声が上がる。
「ハッ、黒い<ストーンランス>が現れた時は何事かと思ったが、ただ丈夫な<ストーンランス>を作ったってだけね。まぁあの的に突き刺さるあたりは大したもんだと思うよ? 王都学園のボンボンにしちゃよくやったと褒めて「まだ終わってないが?」・・・はぁ?」
バルバロッサが間抜けな声を上げた、その時であった。
“ズボズボズボズボズボ”
自ら標的から抜ける漆黒の<ストーンランス>、そして。
“ズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴッ”
強烈な勢いで何度も繰り返し突き立てられる<ストーンランス>、その形状は一切崩れる事無く維持され只管に標的を突き崩し続ける。
“ズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴッ、バリーーーーン”
どれくらいの時間が経ったか、ほんの数瞬が永遠とも感じる異様な状況は、漆黒の<ストーンランス>の崩壊により幕を閉じる。残されたものは全体を隈なく刺し貫かれ今にも崩壊しそうなボロボロの的。
「ふむ、流石は最上級魔法にも耐えうるとされる魔法学園の的、突き崩すには至らなかったか。俺もまだまだという事だな、いい勉強になった。
バルバロッサ、いい演舞を見せてもらったおかげで俺も刺激を貰えた、礼を言う」
ナバル先輩は魔法学園代表生徒のバルバロッサに深く礼をすると、静まり返る観客もそのままにその場を下がるのであった。
「・・・シルビーナ先生、出てこないね」
「多分だが、魔力の触腕が使えないんじゃないか? アレは魔力を掌握するというか、そういうものだと開き直らないかぎり中々に難しいからな」
ロナウドの言葉に「あぁ、そういう事ね」と納得する。前にナバル先輩に「ナバル先輩も触腕が出来るんですね」と言ってやって見せた時、「うちの一族の秘伝なんだけどな」と言って遠い目をされたことがあったっけ。
ケビンお兄ちゃんも属性魔法になれちゃうと基礎魔法を操ることが無茶苦茶難しくなるって言ってたし、魔法研究の第一人者であるシルビーナ先生にはやりたくても出来ない技だったりするのかもしれません。
それでも魔力障壁で階段を作っちゃう辺り非凡な才能の持ち主なんですが。
「次は俺の番だな、ちょっと行ってくる」
「ロナウド、控えめでお願い、もうすでに一杯一杯なの。これ以上期待値を上げられちゃったら、俺、何していいのか分からなくなっちゃうから」
魔法訓練場には六つの標的があったものの、その内の一つはカーベルが<溶岩ストーンランス>で刺し貫いたところにシルビーナ先生が<獄炎ランス>を放って破壊、そして隣の的はナバル先輩が<漆黒ストーンランス>で崩壊寸前にしちゃってます。
あれ、お高いんだろうな~、最上級魔法にも耐えられる施設だってシルビーナ先生が言ってたし、建設にも相当資金を使ったはず。
俺はふと観客席の魔法学園関係者が座っている席に目を向けます。そこには何人かの頭を抱える先生方とドッと疲れた表情をした学園長。うん、見なかった事にしよう。ロナウド、がんばれ~。
「第四演舞、魔法学園エリザベート・テーラー、王都学園ロナウド・テレンザ」
向かい合い挨拶を交わす両者、エリザベートさんはカーテシーを、ロナウドは胸に手を当て騎士の礼を。
「はじめまして、三英雄ロナウド・テレンザ様、お噂はかねがね。昨年度の交流会では我が学園の代表生徒の魔法攻撃を歯牙にもかけず、全ての魔法を受け切るもまるで野山を散策するかのように涼しげであったとか。
流石は噂に名高い三英雄だと感心したものです」
「ご評価痛み入る。昨年は会場に着いたところで魔法による対人戦と聞かされてね、どうして良いのかよく分からなかったんだ。魔法による対戦の筈が、結局魔法を撃たずに決着してしまったくらいだからね。
今年は演舞の披露、漸く少しは魔法職らしいことが出来ると喜んでいたところなんだ」
そう言い肩を竦めるロナウド、なんか大人の余裕を感じるんですけど?
アイツ、ローラさんと婚約したからって浮かれてない? 絶対浮かれてるよね、なんかやらかす気満々だよね?
「三英雄様の前でこのような魔法をお見せするのはお恥ずかしいのですが、全力で務めさせていただきます」
エリザベートさんはそう言うと的に対し短杖を向けます。
「“大いなる神よ、<風と水の魔力よ>、我が手に集いて眼前の敵を貫き<極寒の冷気で包み込め>、アイスランス”」
エリザベートさんの詠唱と共に現れたもの、それは冷気振り撒く氷の槍。
“バシュ、ズドーーーン、ビシビシビシ”
撃ち出された<アイスランス>は激しく標的にぶつかるや、的ごと氷で包み込む。
観客席から巻き起こる拍手。<アイスランス>、それは宮廷魔導士でもごく一部の者にしか扱う事の出来ない特殊魔法、それを学園生徒でありながら自在に操るその技量に称賛の声が飛ぶ。
「いかがでしたでしょうか、ご満足いただけましたか?」
「あぁ、正直驚いた。複合魔法は非常に高度な技術だと言われている、俺は<水属性魔導士>だからな、正直羨ましい限りだ」
ロナウドはそう言うと顔を標的に向け左手を伸ばす。
「“大いなる神よ、我が手に集いて、<凝縮し、力を内に秘め>、眼前の敵を撃ち滅ぼせ”」
それは嘗て戦場でロナウドが作り出した凶器、数万のダイソン公国軍の進軍を阻んだ必殺の一撃。
「“ウォーターボール”」
ロナウドの左手から撃ち出された魔法、それは魔法学園に入り立ての新入生が最初に習う魔法、詠唱さえ唱えれば誰にでも撃てる初級ボール魔法。
「はぁ? 何だあれ、ただの<ウォーターボール>じゃねえか」
「いや、よく見ろよ、馬鹿みたいに小さいじゃねえか、何であんな滓みたいな魔法しか撃てない奴が代表なんだ? アレか? 家柄か? いいとこのボンボンが親の力で無理やり入り込んできたって奴か」
観客席から失笑とヤジが飛ぶ、誰もが呆れ、侮蔑の視線をロナウドに向ける。だが次の瞬間。
“チュッドーーーーーーーーーーーーーーーン”
爆発する的、上がる水柱、大爆発を起こしたかのように大量の水が訓練場全体に弾け飛ぶ。
“ザバ~~~ッ”
“キャーーー!!”
覆いかぶさるように全身に掛かる水に、思わず悲鳴を上げるエリザベートさん。俺たちはすぐに魔力障壁結界を展開したので全員セーフ、咄嗟の対処は日頃の訓練の賜物です。
「大丈夫か? まぁ魔法により作られた水は暫く経てば消える偽物だ、少しの間辛抱してくれ。いい演舞だった、感謝する」
ロナウドはエリザベートさんにそう言葉を掛けると、一礼をし下がっていく。その場に残されたものは破壊された三基の的と、濡れネズミになったエリザベートさんだけなのであった。
ロナウド鬼畜だわ~、容赦ね~。って言うか俺この後何すればいいの?
俺は昨年に引き続き“場は温めた!”といった笑顔を浮かべ肩ポンするロナウドに、「お~ま~え~!!」と言って掴み掛るのであった。
本日一話目です。