転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第778話 転生勇者、学園交流会へ向かう (魔法学園) (4)

魔法というものは不思議なものである。作られた炎、出現した大岩、その全ては魔力により構成された質量を伴った幻。

現象は起きる、火は物を燃やし、土は敵を穿ち、風は木々を揺らし、水は周囲を濡らす。だがそれらは時間と共に、魔力が現象を維持できなくなるとともに消え失せ、そこにはただ魔力現象の痕跡だけが残される。

 

「“静粛に、ただいま会場を整えます、暫く席に座ったままお待ちください”」

魔法訓練場に流れるアナウンス、崩壊した三基の的、忙しなく動く教職員。俺はロナウドにより爆上げされたハードルの高さに頭を抱えつつ、自身の演舞に気持ちを切り替える。

 

「あれ、シルビーナ先生とネイチャーマン先生? あの二人、一体何してるんだ?」

声を上げたのはナバル先輩、俺は顔を上げ訓練場中央に目を向けるのだった。

 

「ネイチャーマン、早速始めるわよ。先ずは内側の的からね、本当にあの子達は容赦がないんだから」

「ハハハ、まぁそう言わないであげてください。皆さん自身の成果を披露しようと張り切ってくれたようですし、王都学園の代表としての責務を果たしただけですので。

では私は形を整えますので、術式の書き込みをお願いします」

 

「そうね、うちの生徒のやらかしには違いないし、流石にこのまま放置って言うのも気が引けるしね」

「そうは言われますが、その内の一基はシルビーナ先生が破壊したはずでは?」

 

どうやらシルビーナ先生とネイチャーマン先生は的を修復しようとしているみたい、六基中三基を王都学園の生徒が破壊したとあっては気まずいのでしょう。それにとりあえず体裁を整えておかないと演舞に差し支えますしね、本格的な改修は後で業者に頼むとして、まずはこの場を取り繕う応急措置が必要って判断なんでしょう。

そんな風に眺めていると、ネイチャーマン先生がナバル先輩にボロボロにされた上にロナウドの魔法の余波で崩れた的の残骸の下に向かいます。

 

「あぁ、魔法学園の皆さん、本当に王都学園の生徒がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。それと残骸を集めていただきありがとうございます。

直ぐに応急処置をいたしますので少々お待ちください。<範囲指定:半径三メート:破砕>」

“ボスッ”

ネイチャーマン先生が何かを唱えた途端崩れ去り砂山へと変わる的の残骸、その様子に唖然とし口を開いたまま固まる魔法学園の関係者たち。

 

「<範囲指定:上空五百メート圏内:闇属性魔力・土属性魔力付加:樽一杯・ウォーター>」

“ザバ~~”

中空から現れる大量の水、だがそれは水属性の攻撃魔法のように消える事無く砂山に染み込んでいく。

 

“ガバッ、コネコネ、バサッ、コネコネ”

「う~ん、少し水が足りませんね。<範囲指定:上空五百メート圏内:闇属性魔力・土属性魔力付加:樽一杯・ウォーター>」

“ザバ~~”

再び大量の水を出現させ、魔力の触腕を使い砂地を捏ねていくネイチャーマン先生、その光景に静まり返る観客席。

 

「それでは後は形成ですか、<魔力障壁結界>。シルビーナ先生、こんな形でどうですか?」

「そうね、いいんじゃないかしら。土台から一体化してるし、すぐに壊れる事もないでしょう。それじゃ的の周りの結界だけ外してくれる? 術式を書き込んじゃうから」

シルビーナ先生はそう言い的に近付くと、何やら詠唱を唱えながら的に短杖で魔法術式を書き込んでいくのでした。

 

「よし、こんなものね。それじゃ固めちゃって」

「分かりました。<ブロック> それでは残り二基も修復してしまいましょう」

シルビーナ先生とネイチャーマン先生はまるで何事もないかのようにさらりと的の修復を行うと、次の的の修復作業に取り掛かります。

 

「なぁロナウド、何か観客席が静まり返ってるんだけど、問題でもあったのか? 単にシルビーナ先生とネイチャーマン先生が応急措置をしてるだけだよな?」

「あぁ、多分だが、ネイチャーマン先生が残骸を一瞬で砂に変えたことに驚いたんじゃないのか? 俺もあんな魔法初めて見た。

それと大量の水を生み出しているだろう? あれ、普通は出来ないからな? ジェイクもやってみれば分かるが、一般的に生活魔法<ウォーター>で作り出せる水は“盥一杯”が精々だからな?」

 

「「「あぁ、なるほど」」」

俺からの質問にロナウドが腕組みをして考え込んでいると横合いからナバル先輩が代わりに答えてくれました。俺とフィリー、ロナウドの三人は凄く納得してスッキリ。カーベルとアリスさんは「「あの魔法を覚えれば畑の開墾に役立つかも」」ととても現実的な事を呟いています。

確かあの二人、冬季休暇中はアリスさんの実家であるブレイク男爵領に行ってたんだよな。それでビッグワーム農法の普及に励んでいたとか、領民思いというか領地の事をよく考えているというか、なんか凄く立派だよな~。

 

待つこと暫し、あれよあれよという間に的の修復を終えたシルビーナ先生とネイチャーマン先生は、司会進行役の魔法学園の教諭に合図を送ると、何事もない様子でその場を下がっていくのでした。

 

「第五演舞、魔法学園ミザリー・ベルベット、王都学園ジェイク・クロー」

時は過ぎる、無情にも出番はやってくる。

 

「ジェイク、期待してますよ。交流会でのジェイクの活躍は寮でエミリーに報告しておきますので」

「ジェイク、確り滑ってこい。お前もこっちに来るんだ!!」

「ジェイク、当たって砕けろだ。滑ったっていい、“平時の勇者”の実力を見せつけてこい」

「ジェイク、お前が総大将だ。王都学園の力を見せ付けろ!!」

 

グッ、こいつら人の気も知らないで好き放題言いやがって。

フィリー、それ目茶苦茶プレッシャーになるから勘弁して、報告は当たり障りないようにお願いします。

カーベル、マジですまんかった。いや、本当、心から反省しています。

ナバル先輩、声援が微妙です。“平時の勇者”は一応侮蔑の称号ですから。

それとロナウド、ここぞとばかりに責任を押し付けるな!! お前絶対楽しんでるだろう、さっきから口元がにやけまくってるぞ!!

 

「あぁ、行ってくる。骨は拾ってくれ」

これが対人戦とかならともかく魔法の披露会で俺にどうしろと? これって格闘技の選手に対してダンスコンテストに出場しろって言ってるのと変わらなくね? 芸術点とか表現力とか言われても、俺、さっぱりなんだけど?

訓練場の中央には対戦相手の魔法学園の代表生徒、口元を扇で隠し鋭い視線を向けてきています。

 

「あなたが今代の<勇者>、ジェイク・クローですのね。あの“獄炎の後継者”セシル・ロマーリオ先輩を打ち倒し王都の空を業火で燃やし尽くした人物と聞いていたからどのような豪傑かと思っていましたけど、まるで覇気のない。

“凡庸な勇者”、“平時の勇者”という噂の方が正しかったようですわね」

“バッ”

扇を半分ほど開き“オッホッホッ”と高笑いしそうな雰囲気を作り出すミザリーさん。魔法学園に通っているという事はお貴族様であっても子爵家か男爵家、職業は魔法使いか特化型魔導士か。

でも職業だけで何とも言えないのがこの世界、件の元白金級冒険者“獄炎のルビアナ”も魔法学園出身だって話だし、シルビーナ先生やネイチャーマン先生みたいな人もいる。

ミザリーさんの実力がどれ程のものか皆目見当が付かないから、何とも言えないんだよな~。

 

「いや、なんか期待外れのようで申し訳ない。精一杯務めさせてもらうとするよ」

俺からの返事に“フンッ”と鼻を鳴らして的を見据えるミザリーさん。なんか対抗意識というか敵意というか、もしかしたら去年俺がセシルさんを倒したって事が気に食わないとか? 「あの“獄炎の後継者”セシル・ロマーリオ先輩を打ち倒し王都の空を業火で燃やし尽くした人物」ってめっちゃ気にしてるみたいだし、セシルさんの事を慕ってたとか?

あり得る、めっちゃあり得る。私が先輩の仇をとります的なノリだとしたら、今までのミザリーさんの態度も納得です。

 

“バッ”

ミザリーさんは突然しゃがみ込むと両手を床に付け、詠唱を始めます。

 

「“大いなる女神の奇跡を我が手に、大地よ、我が声に応え我に従え、ゴーレム生成”」

“ゴゴゴゴゴゴゴゴッ”

 

大地が揺れ、床が盛り上がり、巨大な戦士が立ち上がる。身の丈は四メートから五メートといった程か、立ち上がったそれはまるで意思があるかのようにズシンズシンと足音を鳴らしながら正面の標的に近付くと、大きく身を引き。

“グォンッ、ズドーーーン”

轟音とともに打ち込まれたゴーレムの拳、大質量の一撃を受け表面に亀裂の入る的。

 

“ズドーーーン、ズドーーーン、ズドーーーン”

打ち込まれ続けるゴーレムの拳、的の亀裂は次第に広がっていき。

 

“ズドーーーン、バラバラバラバラ”

遂には半ばから吹き飛ぶのだった。

 

「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ、どうかしら? 私たち魔法学園の生徒でも標的の破壊くらい出来ましてよ?」

額から玉のような汗を搔きやや青褪めた顔でドヤ顔を向けるミザリーさん、めっちゃ無理しておられません?

俺が引き攣った顔を見せたのが動揺の現れとでも思ったのか、ミザリーさんは再びゴーレムに集中し今度は標的をシルビーナ先生とネイチャーマン先生が修復した的に定めるのでした。

 

「フフフフ、的を二基壊された後に<勇者>様はどんな演舞を見せてくれるのかしら? とっても楽しみですわ」

その言葉と共に振り上げられたゴーレムの拳、そして。

 

“ズドーーーン”

激しい衝突音と共にバラバラに砕け散るゴーレム・・・。

 

「「「「「・・・はぁ?」」」」」

呆気にとられる観客席、目を点にして放心するミザリーさん。

イヤイヤイヤ、百歩譲ってゴーレムが壊れるのはいいとして、バラバラに砕け散るって何? 意味解らないんですけど?

 

「ふむ、どうやら衝撃反射術式は上手く機能しているようね。これで本格的な魔法訓練を行ってもそうそう壊れる事もないんじゃないかしら」

「そうですね、それに魔力分散術式も刻まれていますから、最上級魔法の使用にもある程度は耐えられるかと。後は私が形成した土台がどれ程耐えられるのかといった問題ですが、こればかりは実際の使用を行っていただけなければ何とも。ですが応急措置としては十分であると証明されましたし、王都学園側の誠意は伝わるのではないでしょうか?」

 

何故か無駄にいい俺の耳が捉えてしまったシルビーナ先生とネイチャーマン先生の会話。あれが応急措置ですか、そうですか。

よし、予定変更、俺は魔法学園側の的を狙おう。

 

何をすればいいのかは魔法学園の代表選手ミザリー・ベルベットさんが教えてくれた。要は派手に見栄えのいい魔法を披露し、尚且つ破壊力を示せばいい。

魔法とはすなわち魔力現象、この世に漂う魔力というエネルギーに方向性を与え法則をあてはめ現象を引き起こす。詠唱はその手助けに過ぎず、その本質は現象に対する明確な理解。

 

見栄えが良く、破壊力がある。俺はそんな存在を知っている、この身体が、魂が、その存在を明確に記憶している。

 

“パンッ”

俺は胸の前で勢いよく両手を合わせ、息を大きく吐いてからゆっくりと大気を吸い込み精神を統一する。

 

「“大いなる女神よ、我を見守りし神々よ”」

俺は全身に流れる魔力に呼び掛ける。それは祈り、この世界を御創りになった女神様への、俺の事を見守って下さる神々への感謝の思い。

 

「‟火と土と風と光の魔力よ、我が思いに応え形を成さん”」

それは魔力属性の指定と目的の指示。

 

「‟今ここに顕現せよ、四神降臨”」

想像は現実に、魔法名を与えられ明確な意思を示された魔力は、その方向性を具現化し形を成す。

火属性、土属性、風属性、光属性の魔力がそれぞれ収束し、最強の戦士が姿を現す。

 

‟バサッ”

広げられた翼、それは教会で語られる天使の翼。美しくも可愛らしい、王都学園の制服を纏った四人の天使たち。

 

‟スッ”

向けられた指先、示された標的は魔法学園側の二基の的。

 

“シュンッ、ズゴーーーン”

瞬きの間に飛び去った光の天使が的を破壊、続くように炎と風の天使が残りの土台を粉々に砕いていく。

 

‟ダンッ、ズドーーーン”

土の天使が高速で移動、そのまま的に体当たりし、一瞬で的を粉々に破壊する。

俺からの指示を完遂した天使たちは、こちらを向き‟どう?私頑張ったよ?”と言わんばかりに手を振りながら成果をアピールする。

うん、やっぱりエミリーは最強だわ、俺の中のイメージ通り、絶対に勝てないって。

って言うかエミリーズ、消えないんだけど? 魔力で作り出したんだから直ぐに消えるはずだよね? 俺のエミリーに対する想い(畏怖)が無駄に魔力を込めさせたとか?

俺がそんな事を思いながらエミリーたちを見ていると、何やら相談を始めるエミリーズ。

すると風属性のエミリーが粉々に吹き飛んだ的を回収しはじめ、光属性と火属性のエミリーが的の跡の残骸で台座を作り始め、土属性のエミリーが風属性エミリーの集めた的の残骸を身体に取り込み二体のエミリーに分裂するやそれぞれの台座の上に移動。

一体は油断なく棍棒を構えるエミリー、もう一体は聖拳突きをするエミリー。その表情は真に迫った芸術品、エミリーそのもの。

火と風と光のエミリーは土のエミリーが作った石像を眺め嬉しそうにはしゃぐや、俺に手を振ってから消えていくのでした。

 

これ、俺にどうしろと?

静まり返った魔法学園の魔法訓練場、俺はその場の何とも言えない空気に身を震わせながら一礼をし王都学園の代表生徒の元に戻ると、長椅子に座り一人頭を抱えるのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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