“コンコンコン”
「失礼いたします、ビーン・ネイチャーマンです。魔法学園との交流会を終え戻りましたので、ご報告に参りました」
年に一度、王都学園・武術学園・魔法学園の間で行われる各学園の代表生徒による交流試合、三大学園交流会は無事に幕を閉じました。
昨年は“<勇者>ジェイク・<聖女>エミリー・<聖女>アリスの姿が見たい”という各学園の生徒保護者の要望と横槍、この機会に魔法学園の有用性を知らしめたいという大人の事情に巻き込まれた<勇者>ジェイクのWA・KA・RA・SEにより王宮から調査員が来る大騒ぎになりましたが、本年度は昨年の反省を生かし例年通り王都学園の代表生徒が武術学園・魔法学園を訪問する形に変更、また魔法による対人戦も取りやめになったため大きな騒ぎを起こすことなく無事な終了を迎える事が出来ました。
「シルビーナ先生、ネイチャーマン先生、代表生徒たちの引率、ご苦労様でした。今回は魔法学園の魔法訓練場での演舞ですのでさほど問題は起きなかったと思いますが、生徒たちにケガ等はありませんでしたでしょうか?」
先ずは代表生徒たちの身の心配をされる学園長、教育者とはかくあるべしという見本のような態度に、私は自身の言動を振り返ります。
生徒に向き合い生徒の事を第一と考える。魔法第一主義で負けず嫌いで臨時教務棟をトラップハウスにしてしまったシルビーナ先生、そんなシルビーナ先生に対抗して同じくトラップを掛けまくり教務室をぬいぐるみ天国にする私。
生徒不在の行動、いくら趣味の講座の講師であるとはいえ、王都学園に所属する教職員の一人として赤面の至りと反省の気持ちが湧いてきます。
「はい、今回の交流会は誰一人ケガ人を出す事なく無事に終了いたしましたことをご報告申し上げます。昨年行われた魔法学園代表生徒との魔法による対人戦とは違い目に見える形での優劣とはいきませんが、両学園の代表生徒たちの素晴らしい演舞は魔法学園の在籍生徒たちにとっても良い刺激になったものかと。それほどに彼らの魔法披露は素晴らしい物でありました」
学園長はシルビーナ先生からの報告にホッと胸を撫で下ろされます。生徒の安全、そして交流会が無事に終了したことが何よりの慰めとなったのでしょう。
武術学園での交流会では最後の最後でジェイク君がやらかしてしまいましたからね。
武術学園での交流会、王都学園の代表生徒と武術学園の代表生徒による交流試合が行われたのですが、あれは本当に素晴らしいものでした。変に武技やスキルに頼ることなく、しっかりと己の出来ることを見極め道具として使いこなしている。
派手さよりも結果、いぶし銀の試合運びには陰ながら見守らせていただいていたにもかかわらず感嘆の声を漏らしてしまったほどです。
王都学園、武術学園、ともに切磋琢磨していることが窺える素晴らしい試合内容に、オーランド王国の未来の明るさを確信したものでした。
しかし十代の若者にはそうした深い試合内容は伝わり難かったようで、会場観客席からは敗者に対する不平の声が。期待の裏返しと言えばそれまでなのですが、その態度にジェイク君が切れちゃいまして、覇気で会場全体を包み込んで“文句があるなら掛かってこいや、全員まとめてぶちのめす!!”とケンカを売ってしまうという暴挙にですね。しかも圧倒的勝利が確実だと幻視させるほどの迫力に、武術学園の生徒教職員が揃って謝罪。あの事件は学園長の胃に多大なダメージを与えたことでしょう。それでも王都学園への引き抜き候補となる生徒が見つかったことは収穫だったようですが。
二年生のバネロハ君、昨年ジェイク君に心身ともに矯正されてしまった生徒さんでしたか、この一年で本当に立派になっていて私も驚いたものです。
その変化はまるで光属性魔力マシマシ聖茶を三杯飲んだエラブリタイン伯爵のよう、ジェイク君の拳は魂に訴えかける破壊力があったようです。
「ではネイチャーマン先生、詳しい演舞の様子や生徒たちがどうであったのかについての報告をお願いできますか?」
「はい、まず第一演舞を行ったのは魔法学園からシルク・ライド嬢、王都学園からはフィリー・ソード嬢。二人の魔法は魔法学園生徒たちの模範であり目標となる素晴らしいものでありました。先に演舞を始めたシルク嬢は標的に対し・・・」
私は学園長の質問に答え、各演舞の様子や使用された魔法に対する所感、彼らに対する評価について述べていくのでした。
「ロナウド君の魔法は一見ただの初級魔法である<ウォーターボール>に見えますが、詠唱の工夫と本人の明確な結果予測、魔法に込められた魔力量の最適化により最上級魔法にも匹敵する効果を生み出したものと考察されます。“魔力圧縮”、“魔法圧縮”とも呼ぶべきこの技術は、ロナウド君にとっての大きな武器となる事でしょう。
結果圧縮された<ウォーターボール>の直撃と膨張爆発を受けた標的は完全に破壊、その余波を受ける形でナバル君により穴だらけにされていた的も崩壊してしまいました」
私からの言葉に頭を抱える学園長、「修理費が、来年度の予算が」と何やらぶつぶつ呟いておられます。
「学園長、壊れた的でしたら私とネイチャーマンとで修復しておきましたのでご安心を。ただ直すだけでは芸がないので“衝撃反射術式”と“魔力分散術式”、それと“劣化防止術式”を刻み付けておいたのでそうそう壊れることはないかと」
「そうですね、私も一度的に使われている石材を<破砕>し土属性と闇属性を込めた魔力水で捏ねてから形成しなおしておきましたので、頑丈さであれば相当なものになっているかと」
私とシルビーナ先生の言葉に顔を上げぽかんとする学園長。壊れてしまったのなら修復してしまえばいい、これまでコツコツ様々な物作りに励んできた成果が活かされます。
「えっと、それは王都学園の代表生徒とシルビーナ先生が破壊してしまった魔法訓練場の的を直してきたという理解でよろしいのでしょうか? というか魔法学園との交流会に使われる魔法訓練場は最上級魔法の使用にも耐えられる特別なものであったはず、その修復を行ったとは一体・・・」
「はい、それは生活魔法の講義にも使っております「生活魔法と応用」に記載されている“誰にでもできる魔法レンガの作り方”の応用と、シルビーナ先生の罠技術の融合とでも言いましょうか、石材となる材料は現場に転がっていましたので何とか。
第五演舞で魔法学園代表生徒のミザリー・ベルベット嬢が土属性魔法の最上級魔法である<ゴーレム生成>でゴーレムを作り出し、通常の的を破壊した後修復した的を攻撃しましたが、ゴーレムによる一撃を受けた的は“衝撃反射術式”が機能したことで逆にゴーレムをバラバラに破壊していましたし、運用に問題はないかと。
あとは多くの生徒が使用してみないことには耐久性に関して明言することはできませんが、すぐに壊れることはないでしょう」
私からの言葉にホッと胸を撫で下ろし安心・・・おや? 何故でしょうか、学園長が額に手を当てておられるのですが。
「う~ん、シルビーナ先生がやらかすであろうことは予測していましたがネイチャーマン先生が手を貸してしまうとは・・・。でもまぁこれは考えようによっては王都学園の魔法講師の質の高さが喧伝できる? 壊してしまったものを直したのだから文句を言われることもない、同様のものを作って欲しいと言われることもそうそうないでしょうし、結果的に問題が解決したのならそれに越したことはないという事なのでしょう」
何やら一人で呟かれていましたが、どうやら学園長の中で解決が付いたようです。
「そうですか、分かりました。いずれ魔法学園側から正式に何か話があるかもしれませんが、その時は別途対応することといたしましょう。お二人とも、報告ありがとうございました」
「あの、学園長、まだジェイク・クロー君の演舞の報告が残っているのですが」
私の声にギギギギギと擬音が聞こえてきそうなほどぎこちなく顔を向ける学園長、口元が酷く引き攣っているのですが、大丈夫でしょうか?
「えっと、ジェイク・クロー君がまた何かやらかしたのでしょうか? 武術学園に引き続き魔法学園でも見学に来ていた生徒たちに威圧行為を行ったとか」
「いえ、そう言う事ではありません。ジェイク君は素晴らしい魔法演舞を披露してくださいました。ただその、何と申しましょうか、大変高度な魔法を披露してくれまして」
「そうですね、私も長く魔法研究に携わってきましたが、あのような魔法を目にしたのは初めてでした。似たような魔法と言えば幻影魔法が最も近しいものかと。
学園長は過去に召喚士と名乗る者たちがいたことをご存じでしょうか? 大図書館に残る文献によれば、彼らは虚空より魔獣を呼び出し使役していたとか。ですがその文献によれば彼らが呼び出していたものは魔獣そのものではなく魔獣の影、魔力により作られた幻であったとか。
すなわち彼らは幻影魔法により作り出した実体を持つ幻を召喚した魔獣と偽っていたのです。
ジェイク・クローは、これを幻影魔法などではなく各属性魔力で作り出しました。作られた存在は四体、火属性・土属性・風属性・光属性、<勇者>ジェイクのもつ魔法適性に沿った存在が出現したのです」
シルビーナ先生の言葉に一体何のこと? といった表情になる学園長。あれは現場で実際に見ていた者ですら理解に苦しんでいましたから、話だけを聞く学園長がはてなマークを浮かべるのは致し方のない事でしょう。
「学園長は精霊というものをご存じでしょうか? 有名なところではヨークシャー森林国の“精霊使い”が上げられると思いますが、実体を持たない魔力生命体、それが精霊となります。
ヨークシャー森林国の精霊は実体も作る事が出来るので純粋な意味で魔力生命体と言えるのか難しいところがありますが、そうしたものであるとご理解ください。
今回ジェイク君が行った魔法演舞は、その精霊を魔法術式により作り出すといったものでした。
造られたものは背中に翼を持つ天使、その容姿が王都学園の制服を着た<聖女>エミリー嬢であったことは、ジェイク君の中で如何にエミリー嬢が大きな存在であるのかを現していたものかと。
姿形、そして存在を明確な形で与えられた各属性魔力は使役者であるジェイク君の指示に従い標的を破壊、一瞬にして粉々に砕かれた標的は込められた魔力量と魔法の完成度の高さを物語るものでした。
ジェイク君の魔法はまさに“精霊召喚魔法”と呼んでも差し支えのないものであったことを、まずご報告申し上げます」
私の言葉に呆気にとられる学園長。それはそうでしょう、いくら<勇者>という特殊な職業を授かったとはいえ旅立ちの儀を迎える前の青年が新魔法を開発したと言われて驚かない者はいません。目の前で見せられた私とシルビーナ先生も、驚きのあまり固まってしまったくらいですから。
「ですがジェイク君の“精霊召喚魔法”はよく出来過ぎていたと言いますか、造られた存在であるエミリー嬢がまさにエミリー嬢でして。
的を破壊し終わった後に的の残骸を集めてその場にエミリー嬢の石像を生み出してしまいまして。しかもしっかり台座まで作る徹底ぶり、これには観客席にいた魔法学園関係者も言葉を失っておられました。
演舞披露の終わった魔法訓練場に残されたものは私とシルビーナ先生が修復した的が三基、魔法学園代表生徒ミザリー嬢のゴーレムにより破壊された的が一基、ジェイク君の魔法により作られたエミリー嬢の石像が二体。
ゴーレムにより壊された的は魔法学園側が修復するとしてこの石像をどうすべきかという事になりまして、その扱いに関して後程魔法学園側から学園長に話が来ると思います。
私もすぐ傍で見てきましたが、いまにも動き出しそうなほどよくできていました。コカトリスに石化させられたと言われてもだれも疑わないであろう程の完成度、まさに芸術といったところでしょうか。
魔法学園側も壊してしまう事にはかなり躊躇されていましたね、目の前で見せられた魔法の証拠の品でもありますし、<勇者>ジェイクが作り出した記念物ともなりますから。
将来的なことを考えれば王家に献上するといった話が上がっても不思議ではありませんので」
私の言葉に乾いた笑いを浮かべる学園長。
「ジェイク君、やってくれましたね」
どこか疲れた顔をした学園長の呟き、私は“それでも去年よりかはましなのでは?”と思いつつ、一礼の後学園長執務室を下がります。
シルビーナ先生はどうしたのか? カーベル君の演舞を解説した際に的破壊を行ったことに対してお説教を受けています。やはり責任のある大人ですから、行ったことに対してはご自分でどうにかしてください。
私はシルビーナ先生の恨めしそうな視線を受けながら、学園長執務室の扉を閉め臨時教務棟へ戻るのでした。
本日一話目です。