転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第780話 王都武術大会本戦、初日

白み始めた空、爽やかな朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 

“ザバザバザバザバ、パンパンッ”

井戸から水桶に汲み上げた水で顔を洗い、拭き布で拭った後頬を叩き気合いを入れる。これから始まるのは一世一代の晴れ舞台、今後のオーランド王国の在り方をがらりと変える切っ掛けになるかもしれない大役を務める事に、背筋にゾクゾクとした震えが走る。

 

「班長、飛竜部隊、出発準備整いました。ワイバーン全五体、体調に異常はありません」

「よし、出発にはまだ時間がある、各自ワイバーンとの交流を持ち下手に緊張や興奮を起こさせないように努めよ。本日のお披露目は我ら飛竜部隊だけでなく、未来のワイバーン運用にかかわる重要案件だ。

ワイバーンは国民にとって脅威であると共に恐怖の象徴、それは事実だ。だがそのワイバーンを操り制御している事を知らしめることは、オーランド王国国民に強い自信と安心感を与える事となる。

我が国は未だバルカン帝国の脅威に晒されている、我々の存在は帝国の恐怖に怯える国民の希望となるはずだ。

なに、難しい事はない、我々はいつものように任務を熟す、それだけだ。変に気負わず時間までゆっくり休んでおけ、我々の緊張はワイバーンにもすぐに悟られてしまうからな」

 

「「「「ハッ、畏まりました。班長もしっかり休んでください、一番緊張しているのが丸わかりですよ?」」」」

「お~ま~え~ら~!!」

 

「「「「ワイバーンが待っていますので、失礼いたします!!」」」」

各自持ち場に走り去る部隊員たち、班長は調子のいい彼らの態度に大きなため息を吐きつつ、自身の気持ちを見透かされていたことに、気恥ずかしげに頭を掻く。

 

王都から離れた王国の軍事施設、王国兵が詰めるそこには今日の晴れ舞台に向かう彼らを見送ろうと多くの兵士が詰め掛ける。

 

“シューーーッ、バサッ、バサッ、バサッ”

離発着場となっている兵士の訓練場に降り立ったのは、本日のもう一人の主役、いや、一番の見せどころを担う猛竜隊の者たち。

 

「アイツらのワイバーンたちは落ち着いたものだな。最新の操作呪具だったか、凄いものが発明されたものだ。

でもまぁ、出始めの魔道具はどんな不具合が発生するのか分からない、バルザック伯爵閣下の懸念が現実のものとならない事を祈るばかりだな。

猛竜隊と飛竜部隊とでは運用方法が違う、戦闘と運搬、攻撃と情報収集。奴らが前衛とすれば俺たちは後方支援、役割の違いは在り様の違いでもある。

ターレル子爵たちは何かと俺たちに突っかかってくるが、それも今の内だけの話だろう。何と言っても彼らは“オーランド王国の天の槍”となる精鋭部隊だからな」

 

班長は今も見送りの兵士たちに自分たちがいかに素晴らしい存在であるのかを演説するターレル子爵から目を逸らし、自身の操るワイバーンの下に向かうと、その首筋をポンポンと叩き「バーニアン、今日はよろしく頼むぞ?」と声を掛けるのだった。

 

――――――――――

 

“ガヤガヤガヤガヤ”

抜けるような青い空、眩しい日の光が天から注ぎ、王都闘技場に集まる人々を照り付ける。

オーランド王国王都バルセンで行われる王都武術大会は、年に一度の武の祭典。王国中から腕自慢の戦士が集まり、己の技量を競い合う国を挙げてのお祭り。

多くの参加者が集まる予備選考会、予備選考会を通過した者たちが力を尽くし本戦出場の切符を奪い合った予選会。

そして今日、自らの力で勝ち上がってきた三十二名の精鋭が、本戦二日目の進出を賭け戦いを繰り広げる。

 

「ねぇ白銀、予選の組み合わせ、どう思う?」

「うむ、あれは何とも言えない組み合わせであったな。しかし皆それでいいのかと言いたい。少なくとも本戦に勝ちあがるだけの実力があるのであれば、自らの名で出場すればよいものを。

我らのように素性を知られたくないのであれば別の偽名を使えばよいと思うのだが、なぜシルバリアンと(たばか)るのか」

 

昨年の王都武術大会において彗星のように現れた期待の新人シルバリアンと黒蜜、初出場ながら揃って決勝に駒を進め、長時間の戦いの末国王陛下の裁定により両者準優勝となった実力者たち。

だが全身鎧に身を包んだ彼らの正体を知る術はなく、大会の後の記念パーティー会場から忽然と姿を消した彼らの行方は分からずじまいであった。

その後各地に出没するようになったシルバリアンと黒蜜、ある者は武器屋でロングソードを作り支払いを滞納、その後ロングソードを取り上げられ、ある者は夜の店のツケが払えず支払いのため自慢の大剣を差し押さえられたとか。

悪評に武勇伝、様々な噂飛び交うシルバリアンと黒蜜が、今年の王都武術大会に帰ってきた。

 

「さっき大会の役員さんに聞いたんだけど、今年の王都武術大会参加者のうち黒蜜と名乗る者が十六名、シルバリアンと名乗る者が二十四名いたんだってさ。シルバリアンさん大人気。

そんでもって予備選考会を通過し予選会を突破したのが黒蜜さん五名、シルバリアンさん六名本戦参加者の三分の一が黒蜜とシルバリアンっていうね、いや~、凄い凄い。

でも何故か俺たちもその中に含まれてるってどういう事? 俺、ちゃんとブラックハニーって名乗ってるよね? そっちは白銀だし」

「仕方があるまい、見た目が見た目だ、全身鎧で似たような恰好をしていれば皆その括りに入れられてしまうという事なのだろう。要するに黒鎧と白鎧という事だ、大した問題ではあるまい」

 

そう言い仕方がないとばかりに腰に手を置く白銀。そんな白銀の態度に、ブラックハニーは両肩をガックリと落とし話を続ける。

 

「いや、いいよ? 一括りにしたくなる気持ちも分からなくないよ? でもこれってないんじゃないの? 背中に番号って、大きく三番って書かれた布を括りつけるって、俺ってば店前に陳列される商品じゃないのよ?」

「似たようなものなんだろう。王都武術大会は正式に賭け事も行われている、つまり我々は競い合う駒という事になる。

同じような格好で区別がつきにくい以上、大会の運営側としてはこうした対処をせざるを得まい」

 

そう言い自らの背中に括りつけられた二番と書かれた布地を見せる白銀。

 

「でもさ、それならせめて対戦はばらけさせようよ。何で本戦一日目の対戦相手が全員黒蜜なのさ、誰が誰だか分かんねえよ」

「そう言うな、我は楽しみだぞ? なんと言っても上手く勝ち上がれば明日の対戦もシルバリアン殿だ、これは胸が躍るというもの」

自らの好奇心を押さえられないといった雰囲気を漂わせる白銀、シルバリアンと名乗り大会に臨む者たちは果たしてどれ程のものであるのか、早く舞台の上で戦いたいと子供のようにはしゃぐ。

 

「間もなく本年度王都武術大会の開会式が始まります。出場者の皆様は会場への移動をお願いします」

 

控室で大会の始まりを待っていた出場者の下に大会役員が声を掛ける、椅子から腰を上げ次々と会場に向かう出場者たち。

 

「おい、そこのお前、三番の布を付けた黒鎧。話は聞いたぞ、とんだ幸運で本戦に進んだんだってな。全くなんだってこんなカスとこの俺様が戦わないといけねえんだ?

お前、試合が始まったらさっさと舞台を出て行けよ? ぐずぐずしやがったらどうなるのか分かってるんだろうな?」

そんな彼らの中からブラックハニーに声を掛けてきたのは、二番と書かれた布を括りつけられた黒鎧。

 

「あっ、黒蜜さんですか!? 昨年の大会、見させていただきました!! 凄かったですよね、大剣を駆使しての激闘、俺感動しちゃって。

それで俺、黒蜜さんみたいな凄い男になりたくて頑張って貯めた金で装備を揃えたんですけど、全身鎧って高いんですね~。流石に大剣までは手が出なくってですね、アハハハハ。

でも運がいいのか悪いのか、本戦出場を果たすことが出来まして。あっ、申し遅れました、自分ブラックハニーって言います、黒蜜さんにあやからせていただきました。

二番という事は同じ組ですね、本日は勉強させていただきます!!」

そう言いビシッと音がするほどのきれいな礼を見せるブラックハニーに、「おう、分かってるじゃねえか。精々邪魔するなよ」と言って去っていく黒蜜(二番)。

 

王都武術大会本戦が始まる、本年度のオーランド王国で最も強い戦士を決める為に。王都闘技場に集まった観客たちは、試合が始まる時を今か今かと心待ちにしながら、今年の出場者たちの話題で盛り上がるのであった。

 

―――――――――――

 

昨日の酒は旨かった。マルセル村唯一の酒場である食堂でビッグワーム干し肉ピリ辛味を摘まみにエールを煽る、金がなくなれば大森林へ潜り浅層の魔獣を狩ってくる。

王家との取り決めで中層以降の獲物は王都で行われるオークションに出品しなければならないものの、浅層の魔獣はその制約に掛らない。

持ち帰った魔獣はホーンラビット伯爵家に買い取ってもらい、伯爵家では集まった獲物を領都のモルガン商会に卸すのだとか。売り上げの七割を回してくれるのは非常にありがたい。

 

「今の時期にある程度稼いでおかんと、冬場は浅層の獲物が冬眠期に入ってしまうからな。剣術一本の私が今更農業も出来んし、ホーンラビット伯爵殿には感謝の言葉しかないわ」

「“感謝の言葉しかないわ”ではないわい、お主は一体何をやっておるんじゃ!! お主は今年も来賓として王都武術大会に呼ばれておると、愛弟子のラグラ・ベイルに言われておったであろうが!!

大体お主は大剣聖という立場に対する責任感がなさすぎじゃろうが、少しはオーランド王国を代表する剣士としての自覚をだな」

 

「うむ、確かに私には大剣聖という名誉ある名は荷が勝ちすぎるのやもしれん。ここはひとつ国王陛下に申し上げ、剣鬼ボビー殿に代替わりする旨のお話を」

「阿呆か~~~、何でお主の次代が老い先短い儂なんじゃ、もっと若者に目を向けんか~~!! お主の世話人が頭を抱えておるじゃろうが~~!!」

 

偏屈屋ボビーをからかい旨い摘みに手を伸ばす、良きかな良きかな。マルセル村には心躍る強者がゴロゴロいる、絶望的な力の差を感じさせる厄災がいつでも手合わせの相手をしてくれる。

一年前、王都学園でジミー・ドラゴンロードに完膚なきまでの敗北を喫した、ジミーの剣の師がこのところ急に名を上げた偏屈屋ボビーであると知った時は驚きに声を上げたものだった。

 

「ハハハハハ、愉快愉快、ほんにマルセル村は楽しいの。王都武術大会は多くの来賓がこよう、私一人おらんでも何の問題もなかろうて。今宵は私の奢りだ、とことんまで飲むぞ!!」

マルコが中心となって作っているマルセル村産のエールは、非常に飲み口がよく幾らでも飲めるわい。如何せん生産量が限られる為マルセル村に来なければ呑む事は出来んが、マルセル村の魅力の一つと呼んでも差し支えないであろう。

偏屈屋はその後もなんやかんやと文句を言っておったが、その顔が面白くてまたまた笑わせてもらったのが昨夜の事。朝方近くまで飲んでいた記憶はあるのだが、今は二日酔いにもならず体調は良好、眠気が襲ってくる気配すらない。

 

「のう、一つ聞きたいのだが、私はついさっきまで宿の部屋で寝ておったよな? 何でこんな所で椅子に座っておるのだ?」

それは疑問、意味の分からぬ状況に後ろに立つ付き人に声を掛ける。

 

「はい、それはクルーガル様が王都武術大会の来賓として招かれたからでございます。皆様はクルーガル様の訪れを心から楽しみにされておりましたので」

「・・・うむ、ここが王都武術大会の行われる王都闘技場である事は分かった。私が聞きたいのは私がどのようにしてこの会場にやってきたのかという事だ。流石に私が行き成りこの席に現われたり、誰かが私を担いできたりすれば騒ぎになろう。だが私はこの場で目を覚ますまで一切気が付かなかったのだが」

 

周囲の反応もいたって自然、つまり私は何の脈絡もなく突然この場に現われたのではなく、誰もが疑問に思わぬ形でやってきたという事。

 

「流石はクルーガル様、目覚めてすぐにその点にお気付きとは、敬服致します。答えはケビン・ワイルドウッド男爵のスキルでございます。

<糸操術>といいましたか、要は操り人形、クルーガル様が意識がないにもかかわらず全く自然に歩かれている様子には唯々驚かされました。受け答えに関しては私が代行させていただきましたのでご安心を、来客の方々は大会前に集中されているクルーガル様の瞑想を邪魔してはいけないと、早々に引き上げてくださいました」

 

そう言い爽やかな笑顔を向ける付き人に、自身の顔が引き攣るのを感じる。

 

「おぉ、クルーガルよ、瞑想はもうよいのかな? 今回の大会は少々変わった趣向を用意しておる、楽しみにするがよい」

「これはこれはヘルザー宰相閣下、お声掛け頂き恐縮の至り。今年はどのような強者が大会を盛り上げてくれるのか、今から楽しみでなりませんな」

 

私は心の中で“ケビンめ、やってくれおって!!”と悪態を吐くも、そのような事はおくびにも出さず、周囲の人々の対応に追われるのであった。

あの理不尽め、いつか泣かす!!

私は気持ちも新たに、王都武術大会が終わり次第マルセル村に急ぎ戻る決心をするのであった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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