それは快晴の空の下執り行われる盛大なセレモニー。
“パッパラー、パッパラー、パパラパパラパパパパ~~パパパパァ~~~”
「“皆様、長らくお待たせいたしました。これより、本年度王都武術大会本戦を開始いたします。
本戦出場者入場、皆様、拍手を以ってお迎え下さい”」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
上がる歓声、鳴り響く拍手、オーランド王国中から今日この日のために集まってきた観客が、戦士たちの入場に心からの声援を送る。
「“オーランド王国国王ゾルバ・グラン・オーランド陛下、御入場。
皆様、礼を以ってお迎え下さい”」
魔道具からの声に、観客席の視線が来賓席に向けられる。そこには最上段の席に現われた国王ゾルバ・グラン・オーランド、第一王妃メルビア・リア・オーランド、王太子レブル・ウル・オーランド、第二王子ブライアント・ウル・オーランド、第三王子クロッカス・ウル・オーランドの姿が。
観客席の者たちは王家の主要な者たちの訪れに驚くと共に、深々と頭を下げ敬意を表す。
「“皆の者、面を上げよ。この素晴らしき王都武術大会に際し、皆に嬉しい知らせがある。近年我が国が隣国バルカン帝国の脅威に晒されている事は皆も承知していると思う。これまで我が国はスロバニア王国との関係強化を行い軍事同盟を結ぶといった、国際協定による対抗戦略を実現して来た。
だがそれだけで果たしてあのバルカン帝国を押し返すことが出来るだろうか? そこで我が国独自の新たなる戦力の導入に踏み切った”」
国王ゾルバはそこで言葉を切ると、横に並ぶブライアント第二王子に目配せをする。ブライアント第二王子は軽く礼をし一歩前に歩み出ると、バッと右手を前に伸ばし合図を送る。
王都闘技場の舞台上では二人の王宮魔導士が立ちブライアント第二王子からの合図を待っていた。彼らはブラックウッドで作られた長杖を構えると、天高く掲げ<ファイヤーボール>を撃ち出すのだった。
同時刻王都周辺上空千五百メート付近、その集団は飛行速度を調整しながら送られる合図を今か今かと待ち構えていた。
“ドンッドンッ、ドンッドンッ”
「班長、王都闘技場からの合図、入りました」
「よし、全隊員手筈通りに、手信号を出せ」
“バッ、バババッ、ババッ”(全隊員、予定行動に入れ)
““““バッ、ババババッ””””(了解、予定行動に入ります)
“““““シューーーーーッ、バサッ、バサッ、バサッ”””””
それは、青空に舞う力の象徴、オーランド王国の新たなる未来。一団は静かに滑空しながら王都上空に侵入、そのまま王都闘技場の真上を矢じりのように隊列を組みながら通過する。
「なっ、なんでこんなところに」
「キャーーー!! ワイバーンの群れよ!!」
舞台上から打ち上げられた通常の倍はあろうかという大きなファイヤーボール、その突然の魔法に思わず空を見上げた観客は、直ぐ後に現われたワイバーンの群れに驚愕の悲鳴を上げる。
ワイバーン、それは恐怖の象徴。冒険者でもごく一部の者しか対抗できない恐るべき魔物であり、ワイバーンを倒した者は白金級冒険者として人々から尊敬を向けられる、それ程の脅威であった。
だが次の瞬間、恐怖のざわめきは驚愕に変わる。
“““““バサバサバサバサバサバサ”””””
一度は王都闘技場上空を通過したワイバーンであったが、旋回しながら一直線に列をなし再び闘技場の上に現われた。だがその両足に掴まれている物はオーランド王国の国旗、ワイバーンたちはオーランド王国の国旗を靡かせながら闘技場上空を旋回し始めたのである。
「えっ、これってどういう事? あのワイバーン、オーランド王国の国旗を掲げてない?」
「よく見ろ、ワイバーンの背中に誰か乗ってるぞ。あれは王国の兵士じゃないのか? オーランド王国はワイバーンを飼いならしたんだ!!」
恐怖は歓喜へ、ざわめきは歓声へ。観客席は爆発したかのような大歓声を上げ、人々は口々に国王ゾルバ・グラン・オーランドを称えた。
だが、このお披露目はまだ終わってはいなかった。
“バッ”
ブライアント第二王子の右手が再び振るわれる。舞台上の王宮魔導士の一人がブラックウッドの長杖を掲げ、通常の倍の大きさのライトボールを天高く打ち上げる。
“シューーーーーッ、バサッ”
それは上空から落下する矢じり、旋回するワイバーンたちの間を抜け、一体のワイバーンが天より舞い降りた。
“シューーーーーッ、バサッ、バサッ、バサッ、バサッ”
それに続く様に急降下を行い闘技舞台に降り立つワイバーンたち。
「“敬愛すべきオーランド王国の国民よ、この国を支え愛する全ての者たちよ。我々は大いなる力を手に入れた、バルカン帝国の脅威に怯え、震える時代は終わったのだ!!
我らは新たに創設されたワイバーン部隊である。上空を舞うのは情報収集や輸送を主な任務とした飛竜部隊、そして攻撃強襲を主とした我ら猛竜隊により編成されるこのワイバーン部隊は、未来のオーランド王国を照らす希望の光である。
ゾルバ国王陛下、メルビア第一王妃殿下、レブル王太子殿下、ブライアント第二王子殿下、クロッカス第三王子殿下、そして来賓の皆々様方に申し上げます。
我らワイバーン部隊はオーランド王国の新たな力の象徴として、オーランド王国の栄光を取り戻すべく邁進する事を誓います。本日この素晴らしき日がオーランド王国の新たな歴史の始まりと呼ばれるように、誠心誠意努力する事をお約束いたします”」
会場に設置された魔道具より響く、ワイバーン部隊の者による誓い。来賓席のゾルバ国王はその様子に満足げに頷くと、ゆっくりと口を開く。
「“皆の者よ、彼らこそが我がオーランド王国の新たなる力、ワイバーン部隊である。我が国は空の戦力を手に入れた、そしてこれは始まりに過ぎない。我らはこの新たなる力を以ってバルカン帝国の野望を打ち砕く!!
我らがオーランド王国を守り抜くのだ!!」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
それは熱狂、それは歓喜。力強いオーランド王国が帰ってきた、人々は口々にオーランド王国とゾルバ国王の名を叫び、心の奥に燻っていた誇りへの渇望を爆発させるのだった。
「“猛竜隊、出発!!”」
“クルァ~~~、バサッ、バサッ、バサッ、バサッ、バサッ”
激しい風を巻き上げ浮き上がるワイバーンたち。
「「「「「猛竜隊、猛竜隊、猛竜隊、猛竜隊」」」」」
観客席からの声援を受けながらゆっくりと飛び立つワイバーンたち。王都闘技場に詰め掛けた観客たちはオーランド王国の新たな光を見送りながら、いつまでも歓声を上げ続けるのであった。
―――――――――――
「・・・なぁ白銀、なんかあのワイバーン、小さくね? 俺が知ってるワイバーンの半分以下の大きさしかないんだけど」
「まぁ、確かに小さいが、そこまで酷いものではないのではないか? おそらくは二歳前後の若い個体、これからまだまだ大きくなるのであろう。
以前暗黒大陸でワイバーンに乗った事があるが、あの時のワイバーンはあの個体の倍は大きかったか。だがブラックハニーが言う程の個体は見たことがないな」
「イヤイヤイヤ、ワイバーンと言えば厄災の魔物だよ?都市が滅んでもおかしくないほど強いのよ? あんなに小さい訳ないじゃん。
そう言えば白銀はガーディンさんを見たことがなかったんだっけ? ケビンお兄ちゃんの知り合いで霊亀と変わらないくらい大きいワイバーン、白雲さんがまだ勝てないって言うくらい強いらしいんだけど」
「・・・その話、後で詳しく教えてくれ。そうか、そんなワイバーンがいるのか。これは胸が躍るな」
「白銀、口調が元に戻ってるぞ~、これから試合だぞ~、帰ってこ~い」
王都武術大会の開会式で突然始まったワイバーンによる航空ショー、俺、オーランド王国を嘗めてました。
これってアレだね、オリンピックとかの開会式の時に自衛隊の航空部隊がやる奴だね。ブルーインパルスだったっけ? あんまりよく覚えてないんだけど。
流石にそれに匹敵するものをこの世界で見ることが出来るなんて思ってもみなかった、これからはワイバーン飛行の時代なんですね。
今後は将来の夢はワイバーン操縦士とか言い出す子供たちが増えるんだろうか? 今からでも遅くないかも、頑張れば何とか。
まぁ俺は世界を旅する冒険者になる事が夢なんで目指しませんけど。
でもな~、ジミーは乗った事があるんだよな、スゲー羨ましい。空飛ぶ魔物に跨って風を感じながら大空を舞う、ロマンだよな~。
暗黒大陸に向かえばワンチャン行ける? ジミーの婚約者候補のクルンさんの関係で一度は暗黒大陸に行かないといけないし、扶桑国行きは後にして先ずは暗黒大陸を目指す?
俺は飛び去っていくワイバーンたちを眺めながら“いつか絶対ワイバーンに乗ってやる!!”と固く決心するのでした。
「“皆様、ご静粛にお願いします。それではこれより本戦第一戦を開始します。第一戦は各試合四名による勝ち抜き戦です。舞台に上がった四名の戦士の内明日の第二戦に上がれるのはたった一人、意地と誇りを懸けた戦いをどうぞご覧ください。
それでは第一戦第一試合、出場者は舞台に上がってください”」
未だワイバーンの興奮冷めやらぬ会場、こんな中試合を行わなければならない第一試合の出場者たちは、悲惨以外の何物でもない。
彼らは皆黒い全身甲冑に身を包み、巨大な大剣を背負って舞台へと上る。その光景はまるで前世のモニター越しに眺めていた“ひと狩り行こうぜ♪”を合言葉にした戦士たちのよう。ただ違うのは背中に一番とか二番と書かれたゼッケンを背負っている事。
そんな中ただ一人短剣を二本腰に差した戦士がですね。そう、俺です。
って言うかクジ運~~~~!!
黒蜜隊の中に放り込まれた事は百歩譲って諦めるとして、ワイバーンセレモニーのすぐ後って~~!!
黒蜜隊の皆さん、目茶苦茶ヤサグレてるんですけど? 誰も見ちゃいねーじゃねえかって不満たらたらなんですけど!?
そんでもってさっきから、な~んかいや~な雰囲気にですね~。
「なぁ、あそこの丸腰、何でこの舞台に上がって来てるんだ? まさか本戦出場者とか言わないよな?」
「あぁ、アイツか? 何でも余りに弱っちいもんだから相手にされなくて、最後の二人が共倒れになったって事で勝ち上がりになった運だけの野郎だな」
「はぁ? なんだそれ、嘗めてんのか? こちとらただでさえムカついてるってのによ、何でそんな奴と剣を合わせないといけねえんだ? ふざけんなよ!」
・・・うわ~、目茶苦茶荒ぶっておられるじゃないですか、不満大爆発寸前じゃないですか。
「・・・潰すか?」
「・・・そうだな、チョロチョロされるのも目障りだしな」
「だったらあのカスを始末したら仕切り直しな、さっさとやるぞ」
嘘~ん、全員でこっち見てるんですけど、殺気倍増しなんですけど~!!
「“第一試合、はじめ!!”」
審判の掛け声にゆっくりと引き抜かれる三本の大き過ぎる大剣、あんなものを振り回すなんて、全員<剛腕>とか<身体強化>のスキル持ちって事? エミリーのお友達? 勘弁して~。
俺は両脇の短剣を引き抜き、油断なく構えます。って言うか待ちの体勢に入ったらじり貧なのは目に見えてるので向かって右の相手に向かいダッシュ。
「ハッ、生意気に抵抗しようってか、甘いんだよ!!」
“ブォン、ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ”
巨剣を小枝のように振るう黒蜜(四番)、俺はその巨剣に短剣を合わせ身を滑らすように肉薄していきます。
「はい、どうも。記念に握手をお願いしますねっと」
俺は柄元まで滑り込むと握りの上から両手で掴み、勢いをそのままに黒蜜(四番)を引き倒します。
“グォッ、グシャン”
顔から石畳に突っ込む黒蜜(四番)、そんな俺たちに透かさず巨剣を振り下ろす黒蜜(二番)。
“ドンッ”
俺は短剣を持ったまま咄嗟に回避するも、黒蜜(四番)は直撃を喰らった模様。見れば巨剣を振り下ろした黒蜜(二番)を黒蜜(一番)が横薙ぎに吹き飛ばしています。
油断大敵、開始前の口約束なんか律儀に守るのは馬鹿のやる事って奴ですね。俺は透かさず走り出し、吹き飛ばされた黒蜜(二番)の頭部にサッカーボールキック。完全に沈黙したところで黒蜜(一番)に対して構えを取ります。
「中々どうして、いい動きをするじゃないか。本戦に上がってこれたのは運だけじゃなかったって事か?」
「ハハハハ、いや〜、必死だっただけですよ〜。だってジッとしてたら黒蜜さん方に袋叩きにされちゃうじゃないですか〜。
俺、痛いの嫌いなんで」
「そうか、奇遇だな、俺も痛いのは嫌いだ。だから全力で吹き飛ばさせてもらおう」
そう言うや巨剣を右肩に担ぎ膝を曲げる黒蜜(一番)。っていうかこの人巨剣の扱い慣れてるじゃん、全然つけ焼き刃なんかじゃないじゃん!!
「あの、一つだけ聞いてもいいっすか? それだけ強いのに何で黒蜜に? 普通に大剣使いとして一流だと思うんですけど」
「あぁ、この格好の方が割のいい仕事にありつけるんでな。正直これ程の大きさの剣を使う者は他所では嫌われる、パーティーを組むと危ないだろう?」
・・・凄い納得、確かにそんな大きな武器を振り回されたら邪魔でしかない。パーティーを組めたとしても、よくて二人から三人の小規模パーティーが精々だろう。
俺は大きく息を吐いてから改めて黒蜜(一番)に向き直る。黒蜜(一番)と俺との間に静かな緊張が広がる。
「一つだけ言っておきますね、黒蜜の最大の武器はあの馬鹿みたいにデカイ大剣なんかじゃないんですよ」
“バッ”
俺は正面から突っ込み、勝負に出る。黒蜜はその動きに合わせ巨剣を袈裟懸けに振り下ろす。
“ガギーン”
大質量の鉄塊がスキルの力によって振り下ろされる、その破壊力は絶大、そのようなものを正面から馬鹿正直に受け止めれば叩き潰されるは必定、だが。
“キキキキキキキキキキキキィン”
「クッ、何だと!?」
打ち下ろされた巨剣を短剣で受け止めつつ、押し込むように刃先を滑らせ肉薄する俺に驚きの声を上げる黒蜜(一番)。
「黒蜜の一番の武器はですね、何度も何度も地獄を生き延びた末に身に付けたあり得ない程の打たれ強さなんすよ。つー訳で、頑張ってください。<無限連突き>」
“ズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴズゴ”
ブラックハニーによる超近距離からの高速の突きが黒蜜(一番)を襲う。大剣使いゆえの弱点である密接した距離からの攻撃に為す術なく打たれ続ける黒蜜(一番)。
“ドサッ、バタン”
「そこまで。勝者、ブラックハニー」
審判から告げられた勝利者宣言、俺は大きく息を吐くと観客に手を振り舞台を。
「あれ? なんか第一試合終わっちゃってない? 結局誰が勝ったの?」
「誰でも良くないか? 誰が勝ったって黒鎧だろ? しかしさっきのワイバーンは凄かったよな~、猛竜隊、最強だよな、オーランド王国万歳!!」
・・・ぐすん。
俺はまばらな拍手を受けながら、がっくりと肩を落としつつ闘技舞台を降りていくのでした。
本日一話目です。