王都武術大会本戦初日は無事に終了した。オープニングセレモニーに於いてワイバーン部隊のお披露目というとんでもないサプライズを見せ付けられた観客たちは、あまりの興奮に試合そっちのけでワイバーンの話題で盛り上がるも、時間が経つに従い落ち着きを取り戻し本戦初日を楽しむのであった。
「よう、黒鎧三番、二日目進出おめでとう。って言うか観客から認識されない可哀想な出場者って言った方がいいか?」
「喧しいブロンコ、それはお前だって一緒だろうが。前半組の俺たちの試合なんか誰も見てなかったんだから。
というか遂に本戦二日目への進出、おめでとうございます。長年の夢がかなったって感じ? 今どんな気持ち、ねぇどんな気持ち?」
本戦二日目、選手控室には初日の勝ち抜け戦を制した八名の戦士が集い、試合開始を待っていた。
「そんなもん最高に決まってるだろうがよ、なんていっても俺は昨年度準優勝者の黒蜜を制しての本戦二日目進出だからな、今大会最大の注目株って奴よ」
そう言い腰に手を当てドヤ顔を決めるブロンコに、“コイツ分かって言ってやがるな”と肩を竦めるブラックハニー。
「へいへい、ブロンコ先生は流石でございますとも、えぇ。って言うかそんなブロンコ相手に短剣は厳しくね? 昨日だって結構ヤバかったんよ?」
「イヤイヤイヤ、確り戦えてただろうが、つーかなんでそんなちゃちな短剣であの馬鹿みたいにデカイ大剣の振り下ろしを受け止めきれるんだよ、意味が分かんねーよ。やっぱりお前はそれくらいの制約が必要なんだって、この短期間に確り短剣術まで身に付けてきやがって、この化け物が!!」
「酷い、俺必死に頑張っただけなのに。それに化け物は俺じゃなくって白銀の方じゃん、ブロンコだって昨日の白銀の試合を見たっしょ?」
そう言い一人椅子に座り十手を手にこれからの試合に向けイメージトレーニングをする白銀を指差すブラックハニー、そんなブラックハニーに反論の言葉を失うブロンコ。
「まぁ、うん、確かにあの試合は酷かったわな、王都武術大会本戦出場者を一方的にボコボコにしてたもんな。あの鉄棒でロングソードを叩き折るわ、全身鎧を使いものにならなくするわ、白銀ってば日頃の鬱憤でも溜まってたのか?」
「どうだろう? 本人は“シルバリアン殿ならもっと強いはずだ!!”とか言ってたし、今日の対戦も一切容赦はしないつもりらしいけど。
どうやら理想のシルバリアン像があって、それに挑んでるとかなんとか」
「ゲッ、って事は白銀の中のシルバリアンに届かない相手は容赦なくボコボコにされるって事じゃねぇか。白銀の対戦相手は六名のシルバリアンの生き残りだろう? って事は白銀の期待を一身に背負ってるって奴なのかよ、うわ~」
白銀の方を向きドン引きと言った表情になるブロンコ、昨日の惨劇が再び繰り返されることに対戦相手であるシルバリアン(偽)への同情を募らせる。
「おう、流石ブロンコ先生、シルバリアン様に同情なさるとは余裕ですな~。本日の第一試合の相手が誰だかお忘れで?
つーか短剣の制約を課した恨み、忘れてねえからな!! 宣言通りボコボコのギッタンギッタンにしてやるから覚悟しておけよ」(ビシッ)
「ハッ、上等だ。ポッと出の新人にこの俺様が世の中の厳しさを叩き込んでやろうじゃねーか。という訳でブラックハニーは短剣一本ね、流石に双剣で<無限連突き>とやらを喰らったら俺死んじゃうから」
「阿呆か~~~!! 制約が重すぎだわ、本戦二日目出場者の誇りはどこいった~~~!!」
「皆様、お待たせいたしました。これより本戦二日目を開始いたします、皆様に於かれましては闘技舞台へのお越しをお願いいたします」
本戦二日目の開始を前に、前哨戦とばかりに高まる気持ちをぶつけ合う出場者たちに掛けられた大会役員の声。出場者たちは一人また一人と席を立ち会場へと向かう。
「なぁ白銀、さっき控室で白銀の事を鋭い瞳で見つめてた人ってたしか」
「うむ、間違いないであろうな。あの特徴、オーランド王国ではまず見る事はないであろう」
「ですよね~。でももう一人いたよね、一体どうなってるの?」
「さぁ、だがどちらにしろ強者である事には違いなかろう、我は全力で挑むのみ。ブラックハニーよ、途中で負ける事は許さぬぞ?」
「ウグッ、だったらこの制約をどうにかしてくんない? お前ら酷いわ~、マジで酷いわ~」
戦いが始まる。出場者たちはそれぞれの胸に秘める思いを糧に、闘技舞台へと歩を進めるのであった。
「“オーランド王国を覆う暗い影、その闇を晴らすべく天より舞い降りた新たなる力、ワイバーン部隊。そして今、そんな彼らにも比肩するオーランド王国最強の戦士が決まろうとしている。
王都武術大会本戦第二戦、選ばれし八名の精鋭が入場だ~~!!”」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
興奮し歓声を上げる観客席、上空に広がる青い空には雲一つなくワイバーンの影も見えない。第二戦第一試合での対戦を控えるブラックハニーは、予期せぬ事態の発生に警戒しつつもやたらなサプライズが用意されていない事にホッと胸を撫で下ろす。
「“オーランド王国国王ゾルバ・グラン・オーランド陛下、御入場。
皆様、礼を以ってお迎え下さい”」
“““““ザッ”””””
前日に引き続き来賓席最上段に姿を見せたゾルバ国王、だが姿を見せた者はゾルバ国王とメルビア第一王妃の二名であり、王家の主要な人物が揃って顔を見せた前日のワイバーン部隊のお披露目がオーランド王国にとっていかに重要なものであったのかが窺える光景であった。
「“皆の者、面を上げよ。王都武術大会第二戦に勝ち上がった者たちよ、未来のオーランド王国を担う強者たちよ。その力を存分に振るい己が最強である事を証明してみせよ、皆の奮闘を期待する”」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
時代は変わる、オーランド王国を覆っていた影はワイバーン部隊と新たな戦士たちが打ち払う。王都闘技場の観客席に集まった王都民たちは本戦二日目に勝ち上がった者たちに期待の眼差しを向け、その活躍に力の限りの声援を送るのだった。
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うへ~、ゾルバ国王陛下煽る煽る、昨日のワイバーン部隊による航空ショーの後の試合ってのもどうかと思ったけど、これはこれで何ともって感じ。
「第二戦第一試合、ブラックハニー、ブロンコ、舞台の上へ!!」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
大歓声の中舞台に上る俺とブロンコ、ブロンコは「く~、これだよこれ、この大歓声こそが王都武術大会本戦二日目の出場者に与えられる最大の賛辞だよな」と言いながら観客席に手を振って声援に応えている。
「なぁ、もしかしてブロンコの対戦相手のブラックハニーって、名前を変えた黒蜜なんじゃないのか? この対戦表からすると昨日の本戦初日は黒蜜選考会からの勝ち上がりだろう?」
「そうだな、ワイバーン部隊の事で昨日の第一試合はあまり気にしてなかったが、順番からするとそうなるよな。って言うかアイツ短剣で出場って、王都武術大会を嘗めてるのか? そりゃ偶に双剣使いってのもいるけど精々ショートソードだろう、何でアイツ大剣使い揃いの黒蜜選考会から勝ち上がれたんだ?」
歓声は何故かざわつきへ、舞台に上がった俺の姿を見るや困惑と侮蔑の視線を向け始める観客たち。
うん、そりゃそうだよね~、でもこれって全部ブロンコと白銀のせいだから、俺が悪いんじゃないからね。って言うかブロンコ、ニヤニヤした笑みをこっちに向けるんじゃない!!
「それでは両者開始位置に。第二戦第一試合、はじめ!!」
“カチャリ”
俺は腰の両脇から二本の短剣を引き抜くと、軽く腰を下ろしブロンコの攻撃に備える。俺が身に付けた短剣術は短剣による防御のみ、ならば己の持つ手札を最大限に生かし、ブロンコの隙を突く!!
「オホンッ、ブラックハニー君、一本多いぞ~。どっちでもいいから仕舞いなさい」
「はぁ!? それマジで言ってるん? って言うか念願かなって本戦二日目に駒を進めたのに、ブロンコにその誇りは無いんかい!!」
俺からのツッコミに油断なく構えながらため息を吐くブロンコ。
「お前ね~、少しは自分の強さを自覚しろ。と言うか昨年度の準優勝って優勝と一緒だろうが、少しは夢を見させやがれ!!」
うわ~、ブロンコの奴開き直りやがったよ、お前控室で黒蜜を倒したって言ってたじゃん、少しは男気を見せやがれ!!
「分かったわい、その望み、叶えてやろうじゃないか!! でもその代わり、戦い方を変えるからな」
「お~、流石ブラックハニー、話が分かる。いや~、言ってみるものだわ、第三戦に進んだらお前の分も確り戦ってくるからよ♪」
なにか上機嫌になりながらも俺が左手の短剣を仕舞うやサッと位置取りを変えるブロンコ、こいつマジで戦い慣れしてやがる。
“ス~~~~ッ、ハァ~~~~~~~”
俺は大きく深呼吸をし、姿勢を正して真っ直ぐにブロンコを見据える。短剣を握った右手は軽く下げ、瞼を半眼に開き全身で気配と魔力を感じ取る。
俺はこういった無茶振りを知っている。マルセル村の村祭り、元金級冒険者のヘンリー師匠と元白金級冒険者のボビー師匠の猛攻を受けながらも、マルセル村最強の座を決して譲らなかった男の事を。<覇魔混合>というとんでも技術を前に、覇気なし魔力なしで戦わされ勝利した理不尽のことを。
「“我は剣、一切の不条理を切り裂く刃にして決して折れる事のない盾。我に打ち破れぬ障害なし”」
「ぬかせ、俺の生涯を懸けた剣を受けやがれ!! <剛腕><乱れ打ち>」
“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ”
それは止まる事のない銃撃、機関銃による一斉掃射の如き剣撃が俺の全身を襲う。
“ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”
だが俺はその悉くを短剣を当てる事でいなし、躱し、受け流す。それはまるで川の上を流れる木の葉のように、風にそよぐ草原のように。
「<浮身・霞>」
“スッ”
それはまるで幻のように、止まる事のない斬撃の中に生まれる僅かな隙間に入り込み音もなくブロンコの背後に回り込む。この様子を見ていた観客からはまるで俺がブロンコの身体を突き抜けたように見えた事だろう。
そして当のブロンコと言えば。
「なに? 消えた!?」
瞬間的に姿を消した俺の事を完全に見失い焦るブロンコ。
“ピタッ”
「はい、俺の勝ち~」
首筋に当たる冷たい感触に動きの止まるブロンコ、俺は分かり易く覇気をぶつけながら“まだやる?”と言外に問い掛ける。
「そこまで、勝者、ブラックハニー」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””
審判からの勝利者宣言に観客席から歓声が上がる。「スゲー、黒蜜の奴、あの猛攻を防ぎきりやがった!!」との声が聞こえるのは正体バレバレって事ですね。
俺はブロンコの首筋から短剣を離すと、観客席に向かい右手を上げて勝利をアピール。ブロンコの無茶振りが結果的に観客に受けたようで、俺に対するヘイトも無くなり一安心。
「やっぱり黒蜜は昨年度の準優勝者なだけあって短剣だけでも強いんだな、女にはだらしないみたいだけど」
「夜の店のツケの担保にあの大剣を取り上げられて大会の賞金狙いで出場してるって噂は本当だったのね。女にはだらしないけど実力は本物だって事ね、頑張って黒蜜~、ちゃんとツケを払いなさいよ~!!」
「・・・おい、ブロンコ、お前と白銀のせいで凄い誤解を生んでるんだけど? しかも勝ったのにさらに誤解が深まってるんだけど? これどうするのよ」
「ハハハハ、いや、何でこんな事になってるんだろうな、なんかすまん。詫びと言ったら何だが夜の街の目茶苦茶いい店を紹介してやろうか? 店のキレイどころがお前の事を気に入ってるみたいでな、なんかだらしないところが庇護欲を誘うとか言ってたぞ」
「いえ、俺まだ死にたくないんで結構です。俺、こう見えてちゃんと彼女がいますんで、って言うか俺より強いんで、絶対に逃げられませんので」
「・・・お前、苦労してるんだな。辛かったら話くらい聞くぞ? 解決はしてやれんが」
観客席から掛けられる温かい声援、その内容に“エミリーさん、全部誤解ですからね、真に受けないでくださいね!!”と心の中で祈りつつ、俺はブロンコと共に闘技舞台を後にするのでした。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora