転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

783 / 861
第783話 王都武術大会本戦、二日目 (2)

「第二戦第二試合、テリー・・・」

試合は進む、観客たちは続く熱戦に声を張り上げ声援を送る。

「勝者・・・」

 

昨年度準優勝者の黒蜜が全身鎧にとんでもない大きさの大剣を振るって活躍したように、王都武術大会には様々なスタイルの見たことのないような戦闘を行う者が現れることがある。

だが今大会に限ってはそれとはまた違った身体的特徴を持った者が出場し、勝ち上がってきていた。

 

「第二戦第三試合、リリー、織絹、舞台の上へ!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

名前を呼ばれ舞台に上る二人の女性、彼女たちは互いに鋭い眼光をぶつけ合いながら闘気を立ち昇らせる。

 

「ねぇ、一つだけ聞いてもいいかしら?」

「はい、なんでしょうか? お答え出来る事でしたら」

口を開いた者は王都武術大会の常連、昨年度の大会で第三戦にコマを進めた強者“爆炎のリリー”。

 

「なんでこんなところにメイドがいるのかっていう疑問ももちろんあるんだけど、それよりも気になっていたのはその額。なんでホーンラビットの角をそんなところに張り付けてるの? もしかして願掛けかなにか? 実はオーガの角でオーガの強さにあやかるとかなんとか」

それは純粋な疑問、魔法を使う冒険者の中には補助装備として装飾品を付ける者もいるし、占いを生業にする者などは奇抜な衣装を身に着けたりもする。

強敵であった魔物の一部を身に着けることで、自身の力とする者もいるだろう。

 

「あぁ、この角ですか、これは生まれつきです。私はエイジアン大陸東方のさらに先の島国、扶桑国という場所から流れ着きました鬼人族の織絹と申します。

エルフ族は耳が大きく長寿、ドワーフ族は背が小さく筋肉質で手先が器用、鬼人族は額に角があり身体が丈夫。普人族にはない身体的特徴というものですね」

鬼人族という聞きなれない種族名に一瞬目を見開くリリー、エイジアン大陸の東の果てというとんでもない場所から大陸の西にあるオーランド王国になぜこの人物がやって来たのかは分からないが、そうしたこともあるのだろうととりあえずの疑問を棚上げする。

 

「つまり気を引き締めないといけない相手って事には変わらないって事ね。何が出てくるのか分からないダンジョンの宝箱、ゾクゾクするじゃない」

「業火の使い手“爆炎のリリー”様にそう言っていただけるとは光栄です、私も全力で挑ませていただきます」

盛り上がる観客席、“爆炎のリリー”対他種族のメイドという異色のカードに、観客たちの間では様々な予想が交わされる。

 

「はじめ!!」

““シュッ、カチャッ””

引き抜かれたロングソードと細身の剣、リリーは織絹の得物にいぶかしみの視線を送る。

 

「変わった形のサーベルね。曲刀の一種なのかしら?それにしては細身というか、すぐに折れてしまいそうなんだけど」

「あぁ、こちらですか。これは刀と呼ばれる扶桑国では一般的な剣の形状となります。“切る”という一点に特化した片刃の剣と考えていただければよろしいかと。

“爆炎のリリー”様の代名詞ともいえる“魔剣サラマンドラ”には遠く及びませんが、長年慣れ親しんだ形状の剣は、自らの剣技を生かすのには最適ですので」

そう言い妖しく光る刀身をゆらりと動かしながらスッと身体を沈める織絹。

 

「甘い、<爆炎連撃>」

「そうこなくては、<濁流流し>」

“ボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボン”

炎燃え盛る魔剣サラマンドラによる連撃が織絹を襲う。それは単に燃え盛る魔剣による力のごり押しなどではない、リリーの身に付けた確かな剣技による炎の舞。

 

“ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”

だが織絹はその悉くを剣先に刀身を合わせることで最小限の動きで受け流す。それはまるで茶会の席で優雅な所作を見せるメイドそのもの。

 

「くっ、やるわね。<火炎神風(かえんじんぷう)>」

“ゴウンッ”

闘技舞台に突如出現する炎の竜巻、織絹はとっさに後方へ下がると刀を上段に構え“コホォーーー”と深く息を吐く。

 

「やはり戦いとはいいものです。御刀之守織絹、全力でお相手いたします。<一刀両断>」

“ズバンッ”

振り下ろされた刀、一刀のもとに切断された火炎旋風はまるで宙に溶けるように霧散する。

 

「なっ、これでも私、白金級冒険者の申請資格持ってるんだけど!? こんなの去年の黒蜜戦と一緒じゃない、もう出し惜しみはしてられないわね。

本当は決勝戦でブラックハニーとか名乗って遊んでる黒蜜をボコボコにするために取っておきたかったけど、あなたに使ってあげるわ。“魔纏い”<飛竜一体化>」

“ブワッ”

リリーの身体から吹き上がる炎、それは一体のワイバーンを形作り天空高く飛び上がる。

「<飛炎竜一突>」

“ゴオオオオオオオオオオ”

それは天より落ちる神の一撃、炎のワイバーンが織絹めざし襲い掛かる。

 

「その技、その覚悟、我が敵として不足なし。ならば我も全ての枷を外し応えるのみ。封印の腕輪よ、全開放、“悪鬼降臨”!!」

“ゴウンッ”

それは鬼、全身から覇気を立ち昇らせたそれは、かつて数千という鬼人族の侍集団をたった二名で壊滅させた真の鬼の生き残り。扶桑国に於いて知らぬ者のいない最強最悪の鬼、悪鬼織絹。

 

「坂東武者にも今なら勝てよう。我が一太刀に身命を懸けん」

“ザッ”

後方に引かれた右足、担ぎ上げるように上段に構えられた刀、揺らめく覇気が一匹の鬼の姿を作り上げる。

 

“ドゴーーーーーーン”

真正面からぶつかり合う力と力、技と技。激しい爆発にも似た炎の広がり、その後に残った者は。

 

「勝者、織絹!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

刀を振り下ろした姿勢で油断なく正面を睨み続ける織絹と闘技舞台の石畳に転がるリリー、審判の判定の後急ぎ大会役員たちにより医務室へと連れていかれるリリーの姿をいつまでも見つめ続ける織絹。

 

「フゥ~~~~、強敵でした、いくら実践から離れていたとはいえここまで苦戦するとは。世界は広い、驕り高ぶりは私だけでなく御主人様の身をも危険に晒すという事を改めて気付かせていただきました。本当にありがとうございます」

織絹は担架に運ばれ会場を去っていくリリーに深々と頭を下げると、闘技舞台を降りていくのであった。

 

「良い試合を見せていただいた、礼を言う」

舞台を降りた織絹に声を掛けた者は白銀の全身鎧を着こみ、鉄棒を手に持つ出場者。織絹は視線を鋭くすると、その出場者、白銀に言葉を返す。

 

「そのようないで立ち、扶桑国の者という事を隠すためですか? しかし町役人である岡っ引きのあなたがなぜこのような遠方まで? わざわざ王都武術大会に出場などしなくても、私を捕える機会などいくらでもあったでしょう。何が目的なんです?」

じっと目を凝らし白銀の真意を問い質す織絹、その言葉に何を言っているのかが分からず首を傾げる白銀。

 

「すまんが何を言われているのかが分からない。それは織絹殿が鬼人族であることと何か関わり合いのある事だろうか?」

「何をいまさら。その十手、町役人の証である十手を振るい自分が扶桑国の岡っ引きであるという事を喧伝しておいて分からないもないでしょう。分かる者たちだけに伝わる無言の警告としてはこれ以上ないやり方でしょうに」

そう言い白銀の握る鉄棒を指差す織絹、白銀は自身の愛用武器に目をやり、この鉄棒には何か謂れがあるのかと不思議そうに目を凝らす。

 

「これは王都の古道具屋で見つけた鉄棒だな。鑑定してもらったところ“捕縛の十手”という名前と<不殺>のスキル効果があることが分かった。丈夫で壊れにくい、非常に使い勝手のいい打撃武器だ」

そう言い十手を掲げる白銀に、呆気にとられる織絹。

 

「すまんが町役人だの岡っ引きだのと言われても何のことだかさっぱり分からん。まぁ我が次のシルバリアン戦に勝利した際は第三戦の対戦相手、その際は武器を手に存分に語らおうではないか」

「第二戦第四試合、白銀、シルバリアン、舞台の上へ!!」

審判の呼び掛けに「呼ばれているのでな、失礼する」と言って舞台に上がる白銀。織絹はそんな白銀の背中をただ呆然と眺める事しかできないのであった。

 

―――――――――――

 

「クルーガルよ、次の試合は白銀とシルバリアンであるが、其方はどう見る?」

来賓席の最上段、オーランド王国において最も権威を持つ人物からの問い掛けに、大剣聖クルーガル・ウォーレンは身を正し言葉を返す。

 

「そうですな、白銀は本戦初日の第七試合に於いて三人のシルバリアンを相手にショートソードほどの打撃武器を駆使し勝ち上がった猛者、故にこの試合の予行練習が終わっているものかと。

片やシルバリアンは昨年度王都武術大会において準優勝を果たした実力者、そう易々と負けることはないかと」

クルーガルの返答に、悪戯そうな笑みを浮かべるゾルバ国王。ゾルバ国王は再び闘技舞台に目を向け質問を続ける。

 

「ふむ、そうであるか。だがクルーガルの物言いだと昨年度の準優勝者であるシルバリアンの敗色が濃厚であるように聞こえるが? ロングソードを持つシルバリアンに対し白銀は打撃武器の鉄棒のみ、冷静に見ればシルバリアンに分があるように見えると思うのだが」

「そうですな、シルバリアンが昨年同様の力を発揮出来れば面白い展開になるやもしれませんが、いかんせんあのシルバリアンでは少々力不足であるかと。

というか今大会は黒蜜とシルバリアンが大勢出場していましたからな~、本人たちにとっては堪ったものではなかったことでしょう。なんせ黒蜜とシルバリアンは大会賞金すら手にすることなく姿をくらますような者たち、王都武術大会の準優勝者という名誉など気にも留めていないのですからな。自らの名乗りをあっさりと変更してしまうのがその証拠、そんな本人相手にシルバリアンと名乗る者がどれほどの力を発揮できるのか、違った意味で楽しみではありますかな」

 

大剣聖クルーガルの言葉に周囲の者たちが笑いを漏らす。シルバリアン対偽シルバリアン、偽物がどこまで健闘するのか見ものであると言われれば俄然興味も湧いてくる。

 

「はじめ!!」

審判より掛けられる試合開始の合図、闘技舞台の上では白銀の全身甲冑を着込んだ二名の騎士が、互いの維持と誇りを懸け対峙する。

 

“ウォォォォォォォォ、ブォン、ブォン、ブォン、ブォン”

先に仕掛けたのはシルバリアン、ロングソードを巧みに操り目の前の白銀に切り掛かる。だが白銀はその剣を受けることなく、足捌きと体捌きにより華麗に躱していく。

 

「<スラッシュ><横一線>」

飛ぶ斬撃により横に身を躱したところを横薙ぎ、逃げ場のない白銀がどう動くのかと注目が集まる。

“バキンッ”

それはただの払い落とし、右腕に持った十手を袈裟切りに振るい落としただけの動作。

 

「<ダブルスラッシュ><十文字切り><聖心連突き>」

“バシュバシュ、ズバズバッ、ズパパパパパパパパパパパパパパパパッ”

繰り出される多彩な武技、だがその悉くを十手の叩き落としで無効化する白銀。観客たちはその激しい攻防に大きな声援を送る。

 

「ふむ、シルバリアン殿はどうやら教会関係者といったところか。これは知らぬこととはいえ失礼した」

「なっ、何を言っている。私はシルバリアン、それ以上でもそれ以下でもない」

白銀からの声掛けに動揺を見せるシルバリアン。そんなシルバリアンに白銀はなおも言葉を続ける。

 

「聖心剣術、ボルグ教国発祥の流派であったか。己を捨て女神様の剣となる、中々に攻撃的な剣術流派であったはず。<聖心連突き>は代表的な武技の一つであったな。

まぁよい、シルバリアン殿がどの国出身であるかなど関係ない、今は存分に語り合おうではないか」

「貴様、余計なことを知っているようだな。黙っておればよかったものを。<天羽乱舞>」

“ズカズカズカズカズカズカズカズカズカズカズカズカズカズカッ、スタンスタンッ、ズカズカズカズカズカズカズカズカズカズカ”

それは目にも止まらぬ速さの連続突き、点の攻撃が面の圧力で白銀に襲い掛かる。

 

“ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン、バッバッ、ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”

だがその全てを十手で受けきる白銀、次の瞬間白銀が反撃に出る。

 

「<天羽乱舞>」

“ズボズボズボズボズボズボズボズボズボズボズボズボ”

“ガキンガキンガキンガキンガキン、ドガドガドガドガドガドガドガッ、グホッ”

白銀の猛攻を受け流すも、途中からその圧力に負け攻撃を喰らうシルバリアン。

 

「なぜ、貴様がその技を・・・」

「なぜであろうな? 異端審問官のお留技であったか、堪能させていただいた、礼を言う。さらばだ、<龍牙一閃>」

“シュタン”

風が抜ける、白銀が姿を消す。

“グホッ、ドサッ”

前のめりに崩れ落ちるシルバリアン、その背後には十手を打ち抜いた姿勢からサッと身を翻す白銀の姿。

 

「勝者、白銀!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

審判から上げられた勝利者宣言、白銀はゆっくりと警戒の姿勢を解くと、深々と礼をしてから闘技舞台を下がっていくのであった。




本日一話目です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。