転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第784話 王都武術大会本戦、二日目 (3)

王都武術大会本戦二日目が行われる王都闘技場、その観客席では多くの観客が第三戦に進出した出場者の顔ぶれに騒然としていた。

 

「なぁ、今回の本戦の勝ち上がり、なんかいつもと感じが違わないか?」

「そうだよな、武器も変わった剣と短剣と鉄棒、こんな大会今まで見たことないよな。でも全体が弱くなったんじゃなくて、そんな武器でも強者を打ち倒しての勝ち上がりだから文句も言えねえけどな。

夜の店のツケが(かさ)んで自慢の大剣を差し押さえられた黒蜜、武器工房の支払いが出来なくてロングソードを取り上げられたシルバリアン。強者は武器を選ばないって言うけどまさか短剣と鉄棒でここまで勝ち残るとはな。

確か準決勝に残ったらいくらか賞金が出るんだろう? あいつらこれで借金と支払いは賄えるんじゃないのか?」

 

「そうだな、今大会では武器が武器だからか基本的に受けに回ろうとするし、割と戦いが地味だからな。今度こそ賞金をもらってちゃんと装備に金を使って欲しいもんだよな。それと気になるのは」

「あぁ、あのホーンラビットみたいな恰好だろう? あれは装備品か何かなのか? よく騎士のヘルムに付いてる装飾品みたいな奴、魔道具だったら問題なんじゃないのか?」

観客の話題は尽きない、それ程に今大会の準決勝進出者たちは異色の組み合わせなのであった。

 

「ウ~、皆何もわかってない!! ジェイク君が浮気する訳ないじゃない、夜のお店で借金を作るなんて、そんなことをしているようならエミリーが・・・」

「どうどうどう、エミリーちゃん落ち着いて、王都学園の敷地からジェイク君が誰にも知られずに抜け出せるほど学園の警備は甘くないから、それに華やかなお姉さま方がいるようなお店に通いながらそのことをエミリーちゃんに隠し通せるほどジェイク君が器用だと思う? トーマスおじさんとマリアおばさんの関係を見てれば分かると思うけど、ジェイク君は嘘を付けないというより嘘がすぐにばれちゃう方だから、エミリーちゃんに何か秘密を作るなんてことはしないから、だから安心して?」

王都武術大会の観客席の一角、今年もやってまいりました本戦二日目!!

プラチナシートと呼ばれるこの観客席も、大会二日目進出者特権でジェイク君とジミーがチケットを用意してくれました。なお初日のチケットはベルツシュタイン伯爵閣下経由でいただきました。昨年はバルカン帝国間者捕縛の手柄を全部王都諜報組織“影”に丸投げしましたんでね、そのお礼という事でしたが。

幸い今回は怪しい連中が入り込んでいないようで一安心、それでもグランドとリーフみたいな例もありますんでね、一応対策は打っておいたんですが・・・。

 

「ねぇケビンお兄ちゃん、もしかしてアレンさんのところのメイドの織絹さんが出場してるのって、ケビンお兄ちゃんが何かしたの? 大会出場者の中に織絹さんがいるのを見た時は凄くびっくりしたんだけど」

「あぁ、あれ? 織絹さんってアレン君のメイドだけじゃなくて仕事の手伝いもしてるから、二人して王都のアパガード商会に修業に入ってるんだよ。それで去年ちょっと顔を出してね、扶桑国に行ってきたって話をしたらえらく驚かれたんだけど、その時に扶桑国で手に入れた刀を何本かお土産にね。

で、その時に実践に近い形で腕試しをするんなら王都武術大会が丁度いいってお勧めしといたんだよ。王都武術大会で織絹さんが箔をつければアレン君の評価も上がるし、行商人としての信用も高くなる。もともと武人の織絹さんにとってもいい息抜きになると思ってね。

でも流石扶桑国で“悪鬼織絹”とまで呼ばれていただけの事はあるよね、あの“獄炎のリリー”を相手に圧勝って、やっぱり扶桑国の修羅は半端ないわ~」

 

俺の言葉に「やっぱりケビンお兄ちゃんが裏で糸を引いてたよ、ジミー君に試練を用意してたんだよ」と失礼なことを言うエミリーちゃん。

イヤイヤイヤ、俺は大したことしてないよ? ベルツシュタイン伯爵閣下に頼んで織絹さんとジミーが準決勝にならないと当たらないように手配してもらったり、ジェイク君ともう一人の仕込みがすぐに当たらないようにしてもらったりしただけですよ?

黒蜜選手権やシルバリアン選手権を組んだのは俺じゃないですからね?

 

「ケビンさん、もしかしてこれからジェイク君が対戦する相手ってまさか偽名を使った白雲さんじゃ・・・」

「イヤイヤイヤ、流石にそんな非道なことはしないから、それに白雲は今の時期茶畑の収穫で大忙しだから。今年は春からラビアンヌが作業に加わったから少しは楽になるって喜んでいたくらいだし、ここで無理させたらいくら白雲でも怒っちゃうからね? あいつ怒ると怖いのよ?」

俺の言葉にそれもそうですねと引き下がるディアさん、それじゃあの人は一体誰なんだろうと首を傾げるエミリーちゃんたち。因みに観客席に来ているのはエミリーちゃんとディアさん、ロナウド君にラビアナお嬢様。クルンは近々魔都総合武術大会があるので、最後の仕上げとばかりに月影と残月の修行を付けさせています。

今度暗黒大陸に送っていかないといけないから、俺も結構大忙しです。

 

「第三戦第一試合、ブラックハニー、太田玄才、舞台の上へ!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

観客たちの声援を受けながら闘技舞台に上がるのは、黒の全身鎧に身を包んだブラックハニーと袴姿で腰帯に太刀を差した太田玄才。常在戦場の心構えの太田玄才は大舞台であってもどこ吹く風と静かにブラックハニーに目を向けています。

 

「ケビンさん、一つお伺いしてもよろしいでしょうか? あちらの鬼人族の方はケビンさんのお知り合いの方でしょうか?」

「まぁ、知り合いって言うか、従業員? 扶桑国に行って種籾を購入してきたのはいいんだけど、よく考えたら俺ってお米の栽培方法を知らないんだよね。それで向こうで田んぼ作りの経験があるっていう玄才さんを雇ってみました。

今はジェイク君に頼まれたリットン侯爵家での稲作栽培の農業指導官をしてもらってる感じだね、俺も通い詰めて圃場整備と造成を行ったから結構大変だったんだよね。

でもお陰様で稲の生育も良くて何とか収穫までこぎつけそうって感じかな、いや~、本当によかったよ、玄才さん曰く気候風土が扶桑国に似ているのが良かったからじゃないかって話だったけどね。

リットン侯爵家王都屋敷代官のマリルドア・リットン様もこれには大変喜んでいてね、来年はさらに耕作面積を増やしていくって息巻いていたよ。籾摺りと精米の魔道具を譲ってほしいと言われてるからそのうちまた扶桑国に行かないといけないかもしれないんだけどね」

 

俺の言葉に瞳をギラリと光らせるラビアナ嬢。ラビアナ嬢、リットン侯爵家からお米を買い占める気満々ですね。でもそうはいかんのですよ、何故なら私が半分持ってっちゃいますから。残った分は売ってくれると思いますんで、上手い事交渉してみてください。

オーランド王国に花開く米文化、どんな奇想天外なメニューが誕生するのか、今から楽しみでなりません。

 

「はじめ!!」

鋭い審判の合図に観客席の声が静まります。

“カチャッ、ダッ”

一瞬身体を沈めた玄才さんが、<縮地>でも行ったかのようにブラックハニーに肉薄、居合切りのように高速で抜刀しながらその勢いのまま胴切りを仕掛けます。

 

“ガキンッ、ザザザザザッ”

双剣の短剣で受け止めたブラックハニーはその勢いを殺しきれず後方へ、そんなブラックハニーの隙を逃さず玄才さんの重い斬撃が繰り返されます。

 

「クハッ、キツイ。一太刀一太刀が殺気山盛りの上にめちゃくちゃ重いんですけど~!!」

「それは光栄だ。ブラックハニー殿の事は雇い主からよく聞いているからな、打たれ強さは扶桑国の誰よりも上との話、俺も全力を出せる相手は久しぶりだ。

“胴切りの玄才”、推してまいる!!」

“ガキンガキンガキンガキンガキン、ズバズバズバズバ、ガキンガキンガキンガキン”

 

激しい高速の打ち込みに全てを止めきれず何太刀か喰らってしまうブラックハニー、だがそんなことなど関係ないとばかりに動き続けるブラックハニーの姿に、太田玄才の口角が上がる。

 

「ハッハッハッハッ、いいぞいいぞ、期待以上だ。<鬼切り><飛竜天昇>」

強烈な切込みでブラックハニーの右手を後方に弾き飛ばす玄才、返す刀でブラックハニーをかちあげると漆黒の戦士が身体を浮かし吹き飛んでいく。

 

“ドサッ”

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

上がる歓声、吹き飛び仰向けに倒れるブラックハニー。玄才さんは“フゥ~~~”と大きく息を吐きながら、倒れるブラックハニーを油断なく睨みつけています。

 

「勝者、「イッタ~、って言うか太田さんてケビンお兄ちゃんの関係者なの、マジで勘弁して。相変わらずケビンお兄ちゃんってば試練マシマシ、マジモノの修羅を送り込むって、俺じゃなかったら死んでるからね?」・・・続行!!」

誰もが勝負あったと見られた玄才さんの猛攻、だがその攻撃を受け吹き飛ばされてもなお軽い調子で起き上がるブラックハニーの姿に言葉を失う観客たち。

 

「クックックックックックッ、アッハッハッハッハッハッ。最高だ、最高だぞブラックハニー。雇い主も酷い男だ、こんな楽しみを今まで隠しておくなんてな。

俺のこれまでの人生、全てぶつけさせてもらうぞ!!」

“ブォォォォォォォォォォォ”

玄才さんの身体から立ち上る強烈な覇気、全ての観客がその力の大きさに目を見開き、奥歯をガタガタと震わせる。

 

「そんなの死んじゃうから~!! <覇魔混合>」

“グゴォォォォォォォォォォ”

対抗するかのようにブラックハニーの身体からも強烈な力が膨れ上がり、会場を包み込む。

“ドゴーーーーーーン、ドゴンッドゴンッドゴンッドゴンッ”

その戦いは大地を砕き大気を切り裂く。ぶつかり合う刀と短剣の衝撃は、衝撃波となって会場全体に広がっていく。

 

「これで終わりだー!!<千変万化>」

それは無限、あらゆる可能性を詰め込んだ怒涛の斬撃。

 

「死にたくないですー!!<一滴一途>」

それは集束、全てを一点に集約した究極の一撃。

 

“ズドーーーーーーン”

““ドガンッ、グホッ””

ぶつかり合う両者、互いに吹き飛ばされ闘技舞台に叩き付けられる。

 

“ガサッ、ユラ~”

ゆっくりと、まるで幽鬼のごとく立ちあがった者、それは太田玄才。

 

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

割れんばかりの歓声、誰もが目の前で繰り広げられた名勝負に感動し惜しみない拍手を送る。

 

「勝者、太「グヘッ、ウェ~~~~、無理無理無理、あんなの死んじゃうっての、太田さん強過ぎ、意味わかんない」・・・続行」

むくりと起き上がり悪態を吐くブラックハニーに観客席の歓声がしぼむ。ブラックハニーは軽く身体を動かすと頑張りますとばかりに構えを取る。

 

「・・・審判、敗北を宣言する。この勝負、ブラックハニー殿の勝ちだ。それとすまないが救護係の者を舞台下に用意してもらえないだろうか? 正直な話、立っているだけでやっとでな」

そう言い踵を返す玄才さん、その表情は全てを出し切った男の表情であった。

 

“パチッ、パチッ、パチパチッ、パチパチパチッ、パチパチパチパチパチパチ”

ゆっくりと闘技舞台を下がっていく太田玄才に送られる賞賛の拍手。玄才さんは担架を用意した大会役員の下に辿り着くと、ぐらりと膝から崩れ落ち、大会役員に支えられ担架に乗せられる。

 

「勝者、ブラックハニー」

審判から告げられる勝利者宣言、だが観客席の拍手は力の限り戦い自ら敗北を認め去っていった太田玄才という鬼人族の戦士に向け、いつまでも惜しみなく送られ続けるのでした。

って言うかエミリーちゃん、君はブラックハニーに拍手を送ろうよ。「玄才さん、格好良かったよ~、来年も頑張って~!!」とか言って拍手してないで、ブラックハニーに声援を送ってあげて?

俺は一人その場に残され、“あっ、お邪魔ですね、すぐに引っ込みま~す”とばかりにこそこそと闘技舞台を下がっていくブラックハニーの姿に、“ジェイク君は頑張ったよ、立派だったよ”と小さく拍手を送るのでした。(涙)




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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