転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第785話 王都武術大会本戦、二日目 (4)

鳴り響く拍手、第三戦第一試合ブラックハニー対太田玄才の戦いは、ブラックハニーの勝利で幕を下ろした。自らの足で闘技舞台から降りるも力尽き担架に乗せられた太田玄才は、大会役員により会場から運び出される際に「ちょっと待ってくれ」と一言声を掛け、次の試合を控える織絹に言葉を向ける。

 

「“悪鬼織絹”、いや、御刀之守織絹殿。貴殿の話は秋津海月殿より聞き及んでいる。こうしてお会いでき光栄だ」

「秋津・・・海月? 秋津家の幼子が私の事を。このような大陸西方で懐かしい名を聞くとは、これは妙な縁ですね」

織絹は同じ鬼人族であるとはいえ、不意に懐かしの名が出たことに驚きの表情を浮かべる。

 

「然り、縁はどこでどう繋がっているのか分からんものだ。まさか俺もこのような異国の地で伝説の鬼人に出会えるとは思わなかったからな。本来であれば武人として一太刀手合わせを願いたかったのだが、ブラックハニー殿に負けてしまったのでな。

これも己の未熟ゆえの事、大人しく引き下がるとしよう。

それとこれは俺の雇い主からの伝言だ、“冬前には扶桑国に米の買い付けに行くからその時に刀も買ってくる。壊れることは気にせず全力で振るってほしい”とのことだ。悪鬼織絹の全力、この目で見れないのは残念だが、勝利を願っている」

太田玄才の言葉にすべてを察した織絹は、口元を獰猛に歪ませ言葉を返す。

 

「太田玄才殿、雇い主様にお伝えください。“お心遣い感謝します、御刀之守織絹の全力、とくとご覧ください”と」

「太田玄才さん、そろそろ」

大会役員により会場から運び出されていく太田玄才、その姿を見送った織絹は一礼の後気持ちを入れ替える。

それは修羅、かつて扶桑国において闘鬼と呼ばれた武人の姿。

 

「父上、母上、長生きはしてみるものですよ。戦場で剣を振るうのも心震えるものがありましたが、このような大舞台で強者と相まみえる事が出来ようなど思いもしませんでした。

世界は広い、まだまだ知らぬ剣技、知らぬ強者と出会う事も叶いましょう。これも全ては生きてこそ、当面そちらに向かうこと叶いませぬが、いずれ多くの土産話を持ってお会いしたいと存じます。

まずはこの一戦、とくとご覧あれ」(ニチャ~)

鬼が笑う、これから始まる戦いに歓喜し、身を震わせて。

 

「第三戦第二試合、織絹、白銀、舞台の上へ!!」

審判からの呼び声、織絹はまるで舞踏会へ向かう少女のように全身で喜びを表しながら、足取りも軽く闘技舞台へと上がっていくのであった。

 

闘技舞台の上、そこにはすでに次の対戦相手である白銀が打撃武器である十手を手に静かに佇んでいた。

 

「お待たせいたしました、白銀様。それと先程はあらぬ疑いを掛け一方的に敵視してしまい大変申し訳ありませんでした」

織絹はスカートを軽く掴むと、カーテシーを行い礼をする。カーテシーは扶桑国にはない作法ではあったものの、アレンという主人と行動を共にする以上必要な事であると、周囲の者に頼み込んで教わったメイドとして最低限の作法であった。

 

「いや、構わぬ。誤解というものは誰にでもある事、ましてや自国の限られた者しか持たぬような打撃武器であれば勘違いを起こすのも当然であろう。さらに言えば我は素性を隠すため全身鎧を身に纏っている、織絹殿にやたらな精神負担を与えていたというのであれば謝罪しよう。知らぬこととはいえすまなかった」

そう言い腰を折る白銀に、頭を上げるように促す織絹。

 

「謝罪は不要です、謝るべきはこちらなのですから。お互いこの件は終わりにしましょう、重要なのは白銀様が東方の島国の打撃武器を使いこなし王都武術大会の準決勝にまで勝ち進んだという事実だけなのですから。

お詫びと言っては何ですが、私の全力を以って挑ませていただきます」

そう言い大きく息を吐く織絹、対する白銀は軽く膝を曲げ十手をヘソ前あたりに構えながら「それはありがたい、こちらも持てる力を出し切るつもりで挑ませていただこう」と応えるのであった。

 

「はじめ!!」

審判の声に腰鞘に左手を掛け柄に右手を添える織絹、膝を軽く曲げやや前傾になった姿勢はいつでも刀身を引き抜く準備の出来た居合剣士のもの。

“ジリッ、ジリッ”

互いの距離を少しづつ詰めていくその姿は一見様子見をしているようにすら見える。だが王都闘技場を包み込む静かでありながら重圧を伴ったような緊張が、既に激しい戦いが繰り広げられていることを物語る。

 

“フゥ~~~、フゥ~~~”

ゆっくりと息を吐く織絹、その額には汗がにじみ、集まった粒がこめかみを伝い流れ落ちる。

 

「剣技<岩崩し>」

“タンッ、シュピンッ”

それは時が停まったかのような静寂、周囲の音を置き去りにしながらゆっくりと白銀に肉薄し腰から刀を引き抜く織絹。観客たちは息を吐くことも忘れ、唯々色の抜け落ちた世界で刀を抜き打つ織絹を見つめ続ける。

 

“ガキーーーンッ”

金属同士のぶつかり合う衝撃音、瞬間世界に色が戻り、目にも止まらぬ速さで斬撃を放ち続ける織絹とその悉くを十手で受け止め続ける白銀の姿が目に入る。

金属音と共に火花が飛び、苛烈を究める戦いに色どりを与える。

 

「剣技<乱れ突き>」

「片手剣<万華連突き>」

“ガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキ”

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

織絹と白銀の間に起こる激しい火花、まるで光属性魔法の<フラッシュ>でも起こしたかのようなその光景に、観客たちの口から興奮の雄たけびが上がる。

 

「“我、一振りの刀にして絶対の刃なり。この一太刀に己が全てを懸けん、悪鬼降臨”」

“ゴウンッ”

突如爆発する強大な覇気、それは形を作り姿を重ね、鬼人族の戦士を鬼神へと引き上げる。

 

「“我が命ここにあり、我は我が肉体の主にして真理。今存在の全てを解放せん。我は神々の教えを受けし者、神越えを目指す一介の修羅なり”」

“ズンッ”

空気が変わる、それは大いなる存在の顕現、神々に愛された修羅の降臨。

 

「<絶剣>」

「<業剣>」

“ドゴーーーーーーーーーーーン”

ぶつかり合う刀と十手、その衝撃が王都闘技場を揺らし観客たちを震え上がらせる。

 

“ドガンッドガンッドガンッドガンッドガンッドガンッドガンッドガンッドガンッドガンッ”

大気は揺れ、舞台は裂け、人は恐怖する。それは鬼神と修羅とのぶつかり合い、己の全てを懸けた武人同士の魂の語らい。

 

「アッハッハッハッハッ、楽しい、楽しいですね。でもこれで仕舞いにしましょう。御刀之守家闘剣術奥義<闘鬼一刀>」

“バシュッ”

それは上段からの打ち込み、瞬間の踏み込みは音と色を置き去りにする。

 

「そうだな、これほど楽しい戦いは久しぶりであった、礼を言う。<龍牙一閃・鬼切り>」

“シュタンッ”

対する白銀は風の如く駆け抜け、胴を打ち抜きにいく。

”ガキーーーンッ”

交錯するのは一瞬、勝負は瞬間。

 

“グラッ、ガクッ”

グシャリと崩れ片膝を突く白銀。

 

“スーーーーッ、カチャンッ”

織絹は振り下ろした刀を腰鞘に戻すと、姿勢を戻しゆっくりと振り返る。

 

「白銀様、お見事でした。この勝負、私の負けのようです。

世界の広さ、堪能させていただきました。いずれどこかで再び相まみえたいと思います、それまでご壮健で。グホッ」

“グラッ、ドサッ”

吐血しその場に崩れ落ちる織絹、ヘルムに大きな切り傷を付けながらも、ゆっくりと立ち上がる白銀。

 

「勝負あり、勝者、白銀!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

王都闘技場が大歓声に包まれる。観客たちは目の前で繰り広げられた歴史に残る名勝負に心奪われ、ありったけの声を上げ両者の戦いを称える。勝敗など関係ない、この戦いにおいてはどちらもが勝者であることを観客は知っているのだ。

 

白銀は観客たちに軽く手を上げるとゆっくりと舞台を降りていく。そして控えの長椅子に戻るやその場で崩れるように倒れるのだった。

急ぎ担架で駆けつける大会役員たち、白銀は舞台上で倒れる織絹と共に、大会役員により医務室へと運び込まれるのであった。

 

――――――――――――

 

「ウッ、ウゥ~ン、ここは・・・」

目の前に見えるのはどこかの部屋の天井、自身がベッドの上で横になっていた事に気が付くのにしばしの時間を有してしまう。

 

「ウイッス、白銀、ご機嫌はいかが?」

掛けられた声に横を向く、そこには漆黒の全身鎧を身に着け片手を軽く上げ指先をヒラヒラさせる軽薄そうな人物。

 

「ブラックハニー、俺は一体。ここは医務室か? という事は俺は負けたのか」

周りに目をやり状況を確認する。医務室にいるという事は闘技舞台で意識を失い倒れたという事、俺は織絹さんに・・・。

 

「あぁ、安心していいぞ~。白銀選手は見事織絹さんを打ち破りました、でもその代償がね~。審判から勝利者宣言を受けて闘技舞台を降りたのはいいんだけど、長椅子に戻ったところで気を失っちゃってね。

原因は頭部に受けた一撃、シルバリアンのヘルムにガッツリ跡が残ってたからね。

って言うか切れてたし、あとちょっと傷が深かったら死んでたかもしれないし、マジでギリギリの戦いだったって感じ? いや~、織絹さんヤバイわ~、ガチで強かったわ~。

そんで織絹さんは闘技舞台で倒れて医務室送り、でも十手の効果で瀕死の重傷だけど死んでないって感じ? ハイポーションを与えられて休んでおられます。

因みに白銀も同様にハイポーション投与とハイヒールによる治療を受けたってとこ、治療師の先生は危ないところだったって仰っておられました。まぁなんにしても決勝進出おめでとうございます」

そう言いおどけるブラックハニーに、俺は慌てて声を掛ける。

 

「そうだ、決勝はどうなったんだ? 俺は今の今まで気を失っていたんだろう? 不戦敗で俺の負けって事なのか?」

「あ~、そうだったら楽だったんだけどね~、でもそんなこと大会役員さんが許しても観客が許さないでしょう。ここまで盛り上げておいて決勝不戦敗じゃ俺っち何を言われるか分かったもんじゃないのよ?

もうね、会場にいると周りの視線が痛い痛い、俺何も悪いことしてないのに何故か睨まれるんだもん。“インチキ優勝者”って俺にどうしろと? 一人で会場にいると何を言われるのか分からないんで、こっちに避難させてもらったって感じ?

まぁ予選会に引き続き二度目だし? アイツどうなってるんだって言われても仕方がないしね、ツイてるんだかツイてないんだか訳わからないって奴ですよ」

肩を竦めお手上げといった仕草をするブラックハニー、確かに決勝戦で不戦敗などといったことになれば大騒ぎになることは当然だろう。

 

「それでは試合の方は・・・」

「現在織絹さんと白銀が壊した闘技舞台の修復中、作業が終わり次第俺っちに連絡がくることになっています。そんで決勝は治療師の先生が大丈夫と許可を出したらって感じですかね、流石にぶっ倒れた者を目が覚めたからってすぐには試合に出せないでしょう」

当然でしょうといった態度のブラックハニーに、それもそうかと納得を示す。

最悪決勝戦は不戦敗になるがそれは俺が弱かっただけの事、ブラックハニーには悪いが諦めてもらうしかない。

 

”ガチャッ”

「白銀さん、お目覚めのようですね」

扉を開け医務室に入ってきたのは治療師らしき人物。治療師は俺に状態鑑定のスキル<アナライズ>を掛け健康状態を診断すると、いくつかの問診を行い問題なしとの判断を下すのであった。

 

「決勝戦、ブラックハニー、白銀、舞台の上へ」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~~”””””

 

ブラックハニーとの闘いは苛烈を究めた。俺は全力を尽くし(覇魔混合禁止)ブラックハニーを攻め立てるもブラックハニーの耐久値を上回る事が出来ず、ブラックハニーは俺を攻めきれずといった状態で互いに大技を繰り出すも決定打にはなりえなかった。

 

「そこまで、両者引き分けとする!!」

結局前年と同じ引き分けになったのは闘技舞台が瓦礫と化し、大会役員がこれ以上は(観客たちが)危険であると判断したことによるものであった。

 

「そういえばブラックハニー、お前太田玄才殿との戦いで<覇魔混合>を使わなかったか?」

「いや、あれは仕方がないっての。ああでもしないと俺死んじゃうところだったし。って言うか鬼人族の修羅は駄目でしょう、ガチで殺しに来てるんだもん、試合じゃなくて死合いなんだもん」

そういい首を横に振るブラックハニー、まぁ互いに<覇魔混合>を使わないのは俺たちの戦いのときだけの決まりだから別に構わないのだが、それだけ今大会の対戦相手が強敵揃いだったという事なのだろう。

 

「ブラックハニー、我らもまだまだという事であったな」

「だね~、あのまま調子に乗ってたら卒業後とんでもない目に遭うところだったよね~。慢心、駄目、絶対って奴だよね~」

ブラックハニーの言葉に本当にその通りだと、己の心を引き締める。

 

「ケビンお兄ちゃんがなぜ未だにマルセル村最強なのか、それは己の弱さと世界には自身よりも遥かに強いモノがいるという事を知っているから。俺たちはどこか甘えていたのかもしれないな」

「だね~、本当に世界は広いよ。白銀、これからもよろしく頼むね、世界を股に掛ける冒険者になるために」

 

「あぁ、我らの夢を叶えるために」

弱きを知り、己を見つめ直す。俺たちはこの大会を経てまた強くなれる。

俺はブラックハニーと拳を突き合わせると、更なる高みを目指し前に進む決意をより一層強くするのだった。

 




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