王都武術大会は昨年同様優勝者なしという異例の形で幕を閉じた。
準優勝者のブラックハニーと白銀は崩壊した闘技舞台の脇に土属性魔導士たちにより急遽作られた表彰台に上り、今大会の功績を称え表彰されることとなった。
決勝戦の戦いを見た観客たちからは“大会の賞金で武器を買え”といったヤジは上がらず、“むしろ素手でもいいんじゃないんだろうか?”といった言葉すら漏れ聞こえるほどであった。
大会終了後、王宮で行われた晩餐会には本戦第二戦にまで勝ち上がった出場者たちが呼ばれ、多くの貴族や有力商会の者たちなどから称賛の声を掛けられることとなった。
「なぁブラックハニー、俺ってこういう席の作法なんかまったく分からないんだがどうしたらいいんだ? お前、二回目なんだろう? 少し教えてくれよ」
「ハハハハ、嫌だな~、何を言ってるのか分からないよブロンコ君。俺はブラックハニー、昨年準優勝した黒蜜選手に憧れる新人だよ? こんな晴れの席でどうしたらいいのかなんてわかる訳ないじゃないか。
そういう事は王都武術大会の常連、“剛腕のテリー”さんにでも聞いた方がいいんじゃないのか? 何なら俺が呼んできてやるよ、お~い、“剛腕のテリー”様~。ブロンコが少し聞きたいことがあるって・・・」
「や~め~ろ~~~!! “剛腕のテリー”様は俺たちにとっちゃ憧れなの、雲の上の御方なの、そんな御方に馴れ馴れしく「ん、どうした黒蜜。って今回はブラックハニーだったか」ひゃい!?」
晩餐会会場に集まる錚々たる顔ぶれに初参加のブロンコは緊張し、自称初参加のブラックハニーは飄々とした態度を崩さずに。皆がそれぞれにグラスを持ち会場が盛り上がる中、その声は齎された。
「ゾルバ・グラン・オーランド国王陛下御入場、皆様、礼を以ってお迎えください」
“ガチャッ”
会場奥の脇の扉が開き入室してきたゾルバ国王をはじめとした王家の者たち、それに合わせ頭を下げる人々。ゾルバ国王は会場奥の中央で立ち止まると周囲を軽く見まわした後口を開く。
「皆の者、頭を上げよ。本年も無事に王都武術大会を終える事が出来たこと、大変嬉しく思う。これも皆が日頃からオーランド王国を支えオーランド王国発展のために寄与してくれた結果であると、感謝するものである。今宵は存分に楽しんでいってもらいたい。
今大会では新たなオーランド王国の防衛戦力として、ワイバーン部隊の創設を大々的に公表する事が出来た。スロバニア王国との軍事同盟然り、ワイバーン部隊の創設然り、我が国は一歩ずつだが着実にバルカン帝国へのカードを揃えつつある。
皆には我らオーランド王家と共にオーランド王国を支える礎となってもらいたい。今後千年続くオーランド王国の繁栄のために、共に戦っていこうではないか。
王都武術大会において素晴らしい戦いを繰り広げてくれた八名の戦士たちよ、其方らの勇姿はこの目で見、心にしっかりと刻ませてもらった。今後とも精進を重ね、オーランド王国の誇る戦士として活躍してくれることを望む。
皆の者、グラスを掲げよ。素晴らしい戦いを繰り広げてくれた戦士たちの勇姿を称えて、乾杯」
「「「「「オーランド王国に栄光あれ!!」」」」」
掲げられたグラス、それはオーランド王国の平和を望むゾルバ国王の祈りの込められたものであった。
「いや~、シルバリアン殿、残念でしたな~。私はシルバリアン殿でしたら昨年の決着を果たしてくださると思っていたのですが、黒蜜殿は本戦初日で敗退、王都武術大会の魔物に魅入られてしまったようですな」
「いやはや面目ない、我も引き分けに終わってしまった昨年の雪辱を果たさんと己を鍛えてきたのですが、残念ながら。オーランド王国にはまだまだ我の知らぬ強者が牙を磨いていたという事なのでしょう」
晩餐会に参加する貴族から声を掛けられ受け答えをするシルバリアン、そんな彼らの様子に生暖かい視線を送る高位貴族たち。別の場所では貴族や商人たちが“爆炎のリリー”や“剛腕のテリー”と縁を結ぼうと周りを囲む。
「アパガード会長も水臭い、このような強者を抱えておられたとは、一言教えてくださっても良いではありませんか」
「ハッハッハッハッ、いや~申し訳ない。本人が行商人の修行に集中したいと申しておりましてな、特別扱いをしては本人も周りにもよくないと判断したのですよ。
今大会は修業の一環として戦う力があることを証明したいとのたっての願いで出場を許したのですよ。行商は命懸け、戦う力があるに越したことはありませんからな」
多くの者たちに囲まれるも“自分はアパガード商会で修業中の身である”として商会長ベルナール・アパガードの後ろに控える織絹。その様子に周囲からは“流石は王都商業ギルド会長、よい手駒をお持ちだ”との声が飛ぶ。
ベルナール・アパガードは“ちょっと待って、この娘うちの従業員なの? アレン・ロナウドの従者兼メイド? そう言えばそんな話も聞いたことがあった気はするけど、王都武術大会の本戦第三戦に勝ち上れるほどの強者だなんて聞いてないんだけど?”という混乱する気持ちを隠し、織絹はあくまでアパガード商会の行商人見習いであるとして笑顔で応対するのであった。
「太田玄才殿は仕官はお考えでしょうか? 良ければ我が伯爵家に」
「いやいや、我が家であれば騎士長の座をお約束いたしますぞ、仕官先としても申し分ないかと」
鬼人族という他種族ではあるものの、太田玄才の剣に対する生き様は多くの貴族たちに強い印象を刻み付けた。あの者が欲しい、自家の配下に、そう考えるのは戦力拡大を狙う貴族家として当然の考えであった。
「お声掛けいただき痛み入る。せっかくのお誘いではあるが俺はすでに世話になっている家があるのでな、雇い主をよそに勝手する訳にはいかんのだ。大変申し訳ないが、この話はお断りさせていただこう」
だが玄才から告げられた言葉にその場の者たちから落胆と驚きの声が漏れる、そして何よりこれほどの人物を手中に納めている貴族家に関心が移る。
「太田玄才殿、差し支えなければ仕官されている御家柄を教えていただいても」
「あぁ、地方貴族家に仕える男爵家と言っていたか、ひょんな出会いから誘われてな、今に至るという訳だ」
“ザワザワザワザワザワ”
太田玄才の口から洩れた男爵家という言葉に、途端騒がしくなる会場。たかが男爵家がこれほどの武人を配下に加える、ならばその男爵家ごと手に入れてしまえば何の問題があるものか。色めき立つ貴族たちに太田玄才はなおも言葉を続ける。
「ケビン・ワイルドウッド男爵、ホーンラビット伯爵家に仕える騎士の家柄と言っていたか。田舎騎士故農兵だと笑っていたよ、話があるようなら紹介するが」
“・・・ケビン・ワイルドウッド男爵だと!?”
「・・・ハッハッハッ、そうですか、既にお仕えしている家があるのでしたら仕方がない。今後の太田玄才殿の活躍を期待しておりますぞ」
「そ、そうですな。来年は優勝を目指して頑張っていただきたいものですな、ハッハッハッハッ」
引き攣る笑顔を浮かべまるで蜘蛛の子を散らすかのように離れていく人々。
“惨劇の夜会”の二の舞は勘弁だ。貴族たちは君子危うきに近寄らずとばかりに、当たらず障らずの距離を以って太田玄才に接すると心に刻むのであった。
「国王陛下にご報告申し上げます」
ゾルバ国王は冷静な瞳で会場を眺めていた。今回の王都武術大会において話題の中心はやはりワイバーン部隊の登場、その雄姿は王都闘技場に訪れた数多くの国民に深く印象付けられることとなった。そしてそれは来賓席で観戦していた高位貴族も同様であり、ワイバーン部隊創設の中心となっていたマホガニー・ベイル伯爵とブライアント第二王子を取り囲み談笑に花を咲かせていた。
「うむ、何があった。申してみよ」
「ハッ、本年度王都武術大会準優勝者ブラックハニー殿、白銀殿の両名の姿が消えました。晩餐会会場並びに王宮内も捜索いたしましたが、まったく姿が見当たりません。直前までブラックハニー殿と話をされていたブロンコ殿に確認を取ったところ、気が付いたらいつの間にか姿が見えなくなっていたそうで、来賓の誰かと話をしているのかと思っていたと仰っておりました」
王宮という厳重な警備が行われている晩餐会会場から忽然と姿を消したブラックハニーと白銀。それはあたかも自分たちの力はこんなものではないと見せつけるかのように、誰にも気付かれることなく行われたのであった。
「ハァ~、相分かった。昨年に続き二度目の事であるからな、彼らにとっては名誉や賞金よりも王都武術大会という舞台で強者と渡り合うこと自体が目的という事なのであろう。
皆の者に伝えよ、“ブラックハニー殿と白銀殿は己の矜持のために帰路に就かれた。彼らは名誉や賞金よりも常に挑戦者であることを選んだのだ”と。中には昨年同様騒ぎ出す者がいるかもしれんが、我が彼らの意思を尊重していると伝え場を収めよ」
「ハッ、国王陛下の思し召しのままに」
急ぎその場を離れる騎士の姿に、大きなため息を吐きたくなるゾルバ国王。
「国王陛下、またですかな」
「あぁ、してやられたようだ」
そんなゾルバ国王にヘルザー宰相が声を掛ける。ゾルバ国王はどこか疲れた顔で話を続ける。
「しかし王都武術大会第三戦に残った者が全て辺境に関係した者であったとはな。ブラックハニーと白銀は言うに及ばず太田玄才と織絹まで、報告を聞いたときはどうしたものかと頭を抱えそうになったぞ」
「ハハハ、なんせあの辺境は蛮族が治める地ですからな、強者たらんとする者が訪れるのは当然の事でありましょう。ベルツシュタイン卿も最初ワイルドウッド男爵から話を聞いたときは驚いたと申しておりました。
ワイルドウッド男爵は対戦表さえ調整してもらえれば本戦第三戦は間違いなくこの組み合わせになると申していたとか、それだけ太田玄才と織絹の強さに自信があったとのことなのでしょう。
その上でブラックハニーと白銀の両名に本気で挑んだ上でギリギリの戦いを経験させたかったとのこと。たとえ負けたとしてもこの敗北は更なる躍進の力になる、それほどに素晴らしい戦いが行われると確信していたのでしょう」
ヘルザー宰相はそう答えるや、視線をベイル伯爵とブライアント第二王子へと向ける。
「して騎士団の動きはどうであったか」
「はい、警戒はしておりましたが特にこれといった動きはありませんでした。ベルツシュタイン卿の報告にあるように、大きな動きがあるとすれば帝国側の仕込みが整ってからではないかと。
ただそれがワイバーン以上のものとなると一体どういったことを考えているのか。現在は“影”の総力を挙げ全体像の把握に努めているといった状態であります」
ヘルザー宰相の言葉に表情を険しくするゾルバ国王、それは事態の深刻さと現状の危うさを如実に表すものであった。
「我は父親である前に国王という役割を、オーランド王国の存続を選んでしまった。ヘルザーよ、お前は我を責めるか?」
ゾルバ国王の弱気ともとれる発言に首を横に振るヘルザー宰相。
「前にベルツシュタイン卿がワイルドウッド男爵の言葉として申しておりました。“人の一生とは女神様の御下に至るための旅である”、死して女神様のお傍に向かった時、自らの行いを隠すことなく晒せるように生きる、それこそがこの世界に生きる者としての最善の生き方であると。
国王陛下は自らの使命を全うなさろうとされている、ならばその行いを誰が責められましょう。責めを受けるとするのならば私も同罪、ともに女神様のお叱りを受けることといたしましょう」
「フッ、ならばこれからも頼むぞ、ヘルザー。全てはオーランド王国のために」
たがいに視線を合わせ口元をニヤリとさせる二人。
「それはそうとすべての事態が終息した際の王妃殿下へのご説明はよろしくお願いいたします。おそらく私は事後処理に奔走することとなりますので」
「なっ、そこは共に話し合いにだな。いや、本当に、ヘルザー?」
オーランド王国を襲う激動の波、祖国を支え予想しうる最悪の事態を回避するために人生を捧げる決意をしたものの、王妃の件に関しては切実に手を貸してほしいと願うゾルバ国王なのであった。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora