転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第787話 辺境男爵、中間報告を聞く

王都武術大会に於いてオーランド王国の新戦力ワイバーン部隊が大々的に披露されたという知らせは、瞬く間にオーランド王国中に広がっていった。

“オーランド王国は戦力としてワイバーンを手に入れた”、ワイバーンは冒険者でも一握りの存在しか対処することの出来ない厄災、そのような恐ろしい力を国の防衛戦力として手中に収めることに成功した。

バルカン帝国の脅威が具体的な形で迫りつつあるオーランド王国国民にとって、対抗手段となり得るワイバーン部隊の創設は勇気と希望を与える明るい知らせ以外の何物でもなかったのである。

 

「「「「「オーランド王国万歳、ワイバーン部隊万歳!!」」」」」

その知らせは自治領として中央と距離を置くグロリア辺境伯領領都グルセリアにおいても、吉報として受け入れられていった。人々は歓楽街に繰り出してはジョッキを打ち合わせ、オーランド王国の明るい未来について語り合うのだった。

 

“カチャッ”

そこはそんな歓楽街の外れ、裏路地の行き止まりにひっそりと佇む一軒の酒場。遠くから聞こえる明るい喧騒を背に扉を開けた者は、漆黒のコートのフードもそのままに店内ホールを突き抜けるとマスターの立つカウンター席に腰を下ろす。

 

「やぁマスター、ただでさえ景気のいいグロリア辺境伯領が例のワイバーン部隊の話題で大盛り上がりじゃない」

 

“コトッ、コトッ”

マスターはグラスに赤ワインを注ぎ入れると、小皿に盛った摘みの果実と共にカウンターテーブルに差し出す。漆黒のコートの客は小皿の果実に手を伸ばすと、楽しげな雰囲気のままマスターに話を促す。

 

「アンタに頼まれたバルカン帝国の帝都に関する情報はこの報告書にまとめておいた。それと例の噂に関する追加情報だがスロバニア王国の暗殺者ギルドに詳しい調査を頼んで人の流れと物の動きを調べてもらった。どうやら帝国の連中、一年近く前から本格的にちょっかいを掛けていたようだ。

これは想像になるが、ワイバーン計画と例のちょっかいは元々一つの計画だったんだろうな。ワイバーン計画で実績を残し、ベイル伯爵を信用させてその裏で・・・。外の騒ぎを見れば分かるように旧軍閥貴族の連中は今や自分たちがオーランド王国の中心に立ってると思い込んでるんだろうさ、そこに更なる一手を加えることで一気に実権を握るといったところなんじゃないのか?

国民の人気はワイバーン部隊を率いるベイル伯爵とブライアント第二王子に傾きつつある、多少の無茶は逆に力を示す求心力に変わるとでも思ってるんじゃないのか?」

 

“コトッ、トクトクトクトク”

マスターは壁際の棚からグラスとボトルを取り出し、琥珀色の液体を注ぎ入れる。グラスを口元に運びその香りを楽しんでから唇を濡らす。

 

「でもさ、流石にあそこは厳しいんじゃない? 正直例のモノがあるのって間違いなく最奥よ? 常人がそんな場所に入り込めるとは思えないんだけど」

「それに関してだがアンタが前に気にしていたホーネット・ソルティア卿、バルカン帝国北西部地域タスカーナ地方の特別行政官として赴任させられた際に多くの技術者を引き連れて行ったんだが、その中に奇才と呼ばれる人物がいてな。魔導技術の基礎と応用を確立し、魔導列車や魔導車の発展に大いに寄与した。

例の精霊砲を作り出した人物でもある女性研究者ケトル。東部方面軍がそのケトルに接触し仕事を依頼したようだ。

気になってより詳しい情報を求めた結果、ワイバーンの巣から卵を回収した作戦もケトルの作り出した気配遮断と魔力遮断の魔道具の力が大きかったという事が分かった。

そのケトル自身は自他ともに認めるメイドスキーで、理想のメイドを作り出すために日々研究を行い、すべての技術はその資金稼ぎのための派生技術と言ってるらしいがな。天才って奴は俺のような凡人には理解が出来んよ」

 

“ガタンッ”

カウンターテーブルに突然現れたもの、それは季節外れの氷が入った手桶。漆黒のナニカは「よかったら使って、それと僕にも火酒をくれるかな?」と言葉を掛け、空のワイングラスをカウンターテーブルに差し出す。

マスターは棚からグラスを取ると手桶の氷を一つ移し入れ、琥珀色の液体を注ぎ入れる。

 

“コトンッ”

自身のグラスにも氷を入れたマスターは、火酒に似合いの摘みの皿を用意するとグラスと共にカウンターテーブルに並べる。ナニカは「ビッグワーム干し肉ピリ辛味、マスター分かってるね~」と言いながら小皿に手を伸ばすと、楽しげに摘まみを口に運ぶ。

 

「それでマスターは動くとしたらいつになると思う?」

「そうだな、帝国側の動きが完全に分からなくなったことを考えると早ければこの夏、遅くとも秋には大きな動きを見せるだろう。帝国の暗殺者ギルドは帝国諜報部の傀儡だからな、末端は知らんだろうが上層部は全て帝国諜報部の連中だ。

それでも普段はちゃんと暗殺者ギルドとして機能しているところが連中の怖いところでな、裏から情報操作を行う場合暗殺者ギルドがいい隠れ蓑になっているようだ。

だがスロバニア王国や王都からの情報をすり合わせると違和感は見えてくる、この二週間帝国側からまともな情報は入ってきていないとみていいだろう」

 

マスターの言葉にナニカはガックリと肩を落とし、「ですよね~、本当に帝国軍人は仕事熱心だから」と諦めにも似た呟きを漏らす。

 

“ドサッ、ドサッ”

カウンターテーブルに置かれた皮袋、重みを感じさせるその音にピクリと眉を上げるマスター。

 

「悪いんだけどこれらの情報をすべてベルツシュタイン卿のところに届けてくれる? “鑑賞者からの贈り物”で話は通ると思うから。それと事が起きたら王都内の帝国の連中を捕まえちゃってくれる? 生死不問でベルツシュタイン卿のところに届けてくれればいいから。

軍閥貴族旗下の阿呆どもは放置でいいよ、それくらいは自分たちでどうにかさせないとね。“影”とは協力してもらえる? ちょっと今回は人手が足りないからね」

ナニカの言葉に最悪の想定を浮かべたマスターは顔を顰める。

 

「アンタは本当にアレが起きると思うか?」

低く深刻な声音、それはこれから起こるであろう事態がそれほど重大な状況であることを示すもの。

 

「バルカン帝国の軍人さんは優秀だからね~、必ず成功させると思うよ。それに帝国側からの情報が遮断されたってことは、その目途が立ったってことだしね」

ナニカはグラスの氷をカラカラ鳴らしながら「本当に人間って凄いよね~、怖いもの知らずというかなんというか」と独り言ちる。

 

「なぁ、一ついいか?ここまで分かっていてなんでアンタは直接手を出さないんだ? この事態はアンタの望むものじゃないんだろう?」

マスターはこれまで思っていても聞けなかった疑問を口にする。それは目の前のナニカに対する違和感、行動の矛盾とも取れる行為。

 

「あぁ、そうだよね~、マスターから見ればそう思うのも当然だよね~」

ナニカは摘みのビッグワーム干し肉ピリ辛味を口に放り込み、グラスの火酒を口にしてから言葉を続ける。

 

「確かに僕が手を出せば何事もなく事態は収束できると思うよ? 帝国の戦略も軍閥貴族の計画も何もかもなかった事にすることはさほど難しくないかな?

でも、それじゃ駄目なんだよね、誰も何も学ばない。これまで勇者に助けられ、勇者にすべてを押し付けた普人族国家が何も学ばなかったようにね。

僕はね、勇者物語が大好きなんだよ。人々のため己を顧みず困難に立ち向かう勇者の姿は、多くの者に感動と勇気を与えてくれるよね。でもね、同時にこうも思うんだよ、助けられた者たちは勇者のために何をしたの? って。

国はね、一人じゃ成り立たないんだよ。食料を作り、武器を作り、魔物と戦う国民。環境を整え、人々の生活を支える貴族、国を束ね人々を導く国王。

それぞれがそれぞれの役割を果たして初めて国は成り立つ。困難も外敵も本来その国の者たちが力を合わせ対処しなければいけないもの。ここ数年でオーランド王国の者たちはその事を学び、国王や宰相は確実に変わった。

でもね~、変わらない者たちもいるんだよね~。

だから選択、手助けはするけどそれはあくまで影、最終的な決断は彼らに任せないとね。口を開けて餌を求めるだけの雛じゃ長生きできないしね。

僕としてはより大きな力が降り掛かるのを防がないといけないんだよね~、だってそうしないとオーランド王国どころかバルカン帝国も完全に地図から消えちゃうし。そのことを恩着せがましく言うつもりはないんだけど、今回ばかりは本気でヤバいんだよね~、だからしっかりその報いを受けて二度とこういったことが起こらないようにしないといけないんだよ」

ナニカはグラスの火酒をクイッと飲み干すと席を立つ。

 

“ゴトッ”

カウンターテーブルには蓋の付いた陶器製の壺が現れ、「これ、よかったらみんなで楽しんで。ヨークシャー森林国の特産品の甘木汁だね、ちょっと特別な奴だから体力回復効果や魔力回復効果があるけど、変な物じゃないから」とナニカが言葉を添える。

 

「いつも悪いな、大事に使わせて・・・帰っちまったか。って言うかお前らいつの間に並んでるんだ? ナニカは特別な甘木汁って言ってたからな、取り合えずお湯割りで試してみるか」

マスターがお湯を用意し陶器のカップに注ぎ入れ、甘木汁を加え軽くかき混ぜてから一人一人に渡していく。

 

「「「「「グスンッ、美味しい、美味しいですマスター。一生ついて行きます!!」」」」」

「お、おう。まぁ今日は早く帰って休め、明日からはキリキリ働いてもらうからな」

 

「「「「「はい、ありがとうございます、マスター!!」」」」」

キラキラした瞳を向け少年のように元気のいい返事をする配下たちにドン引きするマスター。

 

“やっぱりナニカの土産は油断できんな”

マスターは素直に宿舎に戻っていく配下たちの後ろ姿に目を向けながら、“これ、どうしたらいいんだ?”と壺に入った甘木汁の扱いに頭を悩ませるのであった。

 

――――――――――――――

 

“カチャッ”

「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」

立派な一本材で作られたカウンターテーブル、店内は木のぬくもりが感じられる落ち着いた内装。扉を開けて入ってきた常連客が定位置であるとばかりにいつもと同じ席に腰を下ろす。

 

「で、今度は一体どんな悪さを働くつもりなのかな? 全部話せ」

開口一番とんでもないことを言う常連客に、俺は大きなため息を吐く。

 

“コトッ、コトッ”

カウンターテーブルに並べた皿には空の実の肉詰めとトメートのスープ、季節の野菜は料理の基本です。

 

「え~っとですね~、因みにあなた様はどこまで状況を掴んでます?」

「ケビンがこそこそ悪さしてるってところだけよ、ケビンの監視係の??%&も流石にあなたの頭の中までは覗けないわ、だからキリキリ吐け。

それとご飯はまだなの? このおかずにはビールとご飯でしょう」

そう言いお箸をカチャカチャ鳴らすあなた様、行儀が悪いからやめてください。

 

「ちょっと説明する前にもう一人関係者を呼びますね。どのみち説明しないといけないんで、どうせならお二人揃った席でお話ししたほうが良いかと。あっ、直ぐこちらに来られるそうです」

 

“ガチャッ”

先程よりも大きな扉が開かれる、その音に若干顔を引き攣らせるあなた様。あなた様、初めて会う訳じゃないんだしいい加減慣れません? 俺は諦めましたよ。

 

「ケビン、口で話せ、口で。なんで私が音声会話してるのにあなたが思考だけで済まそうとしてるのよ。それと慣れるのは無理、これは本能だから!!」

あなた様に怒られてしまった。まぁ当然ですよね、でもあなた様相手だと“どうせ思考を読んでるんだし”ってどうしても思っちゃうんですよね~。

それとあなた様でも慣れないんですね、納得です。

 

「いらっしゃいませ、どうぞこちらにお座りください」

俺は新たに訪れたお客様をカウンターテーブルの席にお誘いすると、お越しいただいた用件をお話しし現状の説明をする。

高い山の中腹にひっそりと佇む隠れ家的居酒屋、その店内ではオーランド王国の未来に係わる相談事が秘かに行われる。しかしオーランド王国で平和を享受する者たちがその事実を知る時は、決して訪れないのでした。




本日一話目です。
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