「「「お帰りなさいませ、ご主人様♡」」」
「ただいま~♪ メルルンちゃん、ジーナちゃん、シンディーちゃん、今日も可愛いね~。その柔らかな愛情で僕ちんを包み込んでおくれ~」
「「「キャ~、ご主人様のエッチ~♡ お席にご案内しま~す」」」
・・・えっと、俺は一体何を見せられてるの?
三年前、ホーネット・ソルティア卿が特別行政官として赴任したタスカーナ地方、その行政手腕により目まぐるしい変化と発展を遂げたとされるそこにやってきた俺氏。あわよくば件の天才魔導研究者ケトル氏に面会し情報収集がてら色々と話を聞いてみたいと思っていたところ、着いて早々相手方から接触してきて今ここ。
「ちょ~っと聞きたい事があるんだけど、お話しいいかな? 何なら美味しいパンケーキを御馳走するよん」とのお誘いにヒョイヒョイついて来たのは俺なんですけどね? でもここって一体何なの? ミニスカメイドって夜のお店なの? レースの付いたニーハイにガーターベルト、絶対領域の眩しさよ。
でも店内は明り取り用の窓も確り付いてるし、とっても明るく清楚な感じ。
「どうよどうよ、ここは僕ちんが同好の士を募って造り出した理想の楽園、“メイド喫茶”。カワイ子ちゃんたちは厳選された一流揃い、メイド教育も完璧よ?
無論ご主人様になるには会員登録と会員審査がございます、一見さんお断りの上会員同伴じゃないと入れないんだからね?」
俺の目の前では小柄美人がドヤ顔で結構なお胸を張っておられます。何だこの残念な生物は、これはアレか? 女子スキー女子って奴か? まぁ趣味趣向は個人の自由だしそういうものとしておこう、うん。
「とりあえず席に座ってよ、お兄さんと執事さん方? クハッ、その双子山、女性執事・・・だと!? この僕ちんがなぜこんな重要な事に今の今まで気が付かなかった?
あり得ない、あり得ない。お姉さ~ん、僕ちんをその豊満な愛情で包んでおくれ~!!」
“ガバッ”
店内で突如残月にしがみ付こうとするケトル、だが残月がそのような愚行を許すはずもなく。
“ガシッ”
「申し訳ございません。私は既に身も心もお仕えする主を定めております。ケトル様のご要望にはお答えしかねます」
憐れ残念美人は額の辺りを残月に鷲掴みにされ、強制的に席へと着かされたのでありました。
「ウ~~、痛かったよ~。セシリアちゃん、何で庇ってくれなかったのさ~、君の御主人様が脅威に晒されていたんだよ~」
「いえマスター、あれは人道に則ったただの返答です。叩き伏せるのではなく誠実に対応して下さったのですから、感謝申し上げるべきかと。
それとそちらの女性執事から生活支援機構の稼働反応を検知、先程の魔導式周辺感知を含め何らかの関係があるものかと考えられます」
セシリアと呼ばれるメイドの言葉に「えっ、どういう事?魔力結晶が使われたのって魔導式周辺感知の時だけじゃないって事?」と慌てだすケトル。
「えっと、ちょっといいかな? さっきそのメイドが“生活支援機構N903・個体名セシリア”と名乗っていたけど、それって魔力結晶体に組み込まれた生活支援機構を主軸とした人型魔導装置、人造人間の製造に成功したと考えていいんだよね?」
「フェッ!? 何でそれを? って言うかどこから生活支援機構の情報を? アレは僕ちんとスポンサーのホーネット卿しか知らないはずだけど?」
俺の言葉に心底驚いたといった顔をするケトル、ここはある程度情報のすり合わせをしといた方が話が早いかな? コイツアレだし、“料理長”の情報でメイドスキーとは聞いていたけど、方向性が何と言うかかんと言うか。
村の村長宅をいかにもな建物にしたり学園の女子の制服を膝上の可愛いものにしちゃった剣の勇者(グランド)もあれだけど、剣と魔法の世界でミニスカメイド喫茶作ってんじゃねーよ!! 在りし日の記憶でもテレビでしか見た事ないわゴラ、ごちそうさまでした!!
「精霊砲、使用者の魔力を増幅し周囲一帯を焼き払う戦略級兵器。その中枢とも言える制御部品が精密な魔術式の刻み込まれた魔力結晶。
でもその魔力結晶に刻まれた魔術式のほとんどが精霊砲の機能とは全く関係のないあらゆるものの制御を目的としたものであった。解析に当たった賢者はその魔力結晶を見て「人工精霊でも作り出したかったのではないか」と言っていたかな?
でも作りたかったのは精霊じゃなくてメイドさんだったんですね」
そう言いケトルの背後に控えるメイドに目を向ける。表情は流石に作れなかったみたいだけど、まるで生きているかのようなその佇まいに天才魔導研究員ケトルの情熱が窺えます。
俺の言葉に店内のメイドさんの幾人かの気配が変わります。でも今は騒がれると面倒なのでちょっとご遠慮くださいね?
“バタバタバタバタ”
突如打倒れる複数名のメイド、その様子に「えっ、なに? どうしたの?」と慌てるケトルとすまし顔のセシリア、それと静かにこちらに近付いてくる執事。
「失礼いたします、ご主人様、騒がしくいたしまして大変申し訳ございません」
「いや、別に構わない。仕事熱心なのはいい事だしこれも忠誠心の現れ、それだけ研究者ケトルが大切にされている証拠だろう。
俺としては少しホーネット卿とも話をしたいと思っていてね、すまないが面会の申し込みをしてもらえないだろうか? それまではこちらのケトル嬢と色々と話をしているよ」
俺の言葉に一礼をして下がっていく執事。って言うかあの人本格的な執事さんじゃん、ミニスカメイド喫茶にいていい人材じゃないじゃん、コイツマジ何やってるし!?
倒れたメイドさんたちは執事さんの指示でバックヤードへ、店内のお客様方には執事さんから事情説明が行われ、騒ぎは沈静化の方向へ。
「えっと、これって不味い感じ? 僕ちん実は危険がデンジャーだとか? 君ってもしかしなくてもオーランド王国から来た刺客って奴だよね?」
おや、流石は天才、その辺には気が回るご様子。まぁ足の引っ張り合いが日常のバルカン帝国じゃ出る杭は叩いたうえでひん曲げられちゃうから、常日頃から危機意識を持ってないと生き残れなかったんでしょう。
「しませんよ、そんなこと。大体少数でバルカン帝国の内陸部に入り込んでいるのに騒ぎを起こしてどうするんですか。俺に自殺願望はありませんっての。それよりも飲み物まだですか? のど乾いたんですけど」
「あぁ、メンゴメンゴ。お茶に誘ったのは僕ちんだったね、アンリちゃん、パンケーキと紅茶を人数分お願い」
ケトルの声に「は~い、少々お待ちくださいね、ご主人様♡」と言ってくるりとミニスカートをひらめかせてから奥へ向かうメイドさん。
・・・護衛のメイドさんたちもこれやらされてたんだろうか、何か涙が。
「えっと、それで生活支援機構の話でしたっけ? それは稼働した魔力結晶、生活支援機構N401から聞いたから知ってるってところですね。
まぁ偶然だったんですけどね、とあるスキル実験に精霊砲から取り出した魔力結晶を使ったら偶々。あの時は本当に驚いたよな~、まさに奇跡が起こったからね」
俺の言葉に暫く固まりながら何やらブツブツ呟くケトル、暫くした後急に残月の方を向き「えっ、うそ!? え~~~!!」と言って飛びつこうとして“ガシッ”・・・またもや額を掴まれて強制的に席へ戻されるのでした。
「・・・えっと今更になるんだけど名前を聞いても? 僕ちんは自己紹介してたよね?」
「そう言えば名乗っていませんでしたね、俺はケビン、オーランド王国で雇われ男爵をしています。元は農家の小倅だったんですけど、ここ数年の内乱で成り上がった口ですね。それでカスターナにはちょっとした情報収集にね。
単刀直入に言えば、ケトルさんが東部方面軍から頼まれていた品は既に納品したのかどうかの確認かな?」
“ガタッ”
慌てるケトル、背後のセシリアに顔を向けて「これ本当に大丈夫なの?」と助けを求めるも、「体温・心拍数・筋肉の動き・魔力の動きに攻撃の意思は見られません」と冷静なお返事が。
って言うかセシリアってスゲー、マジスゲー。こんなん在りし日の世界でも作れなかったんじゃね? サーモグラフィーとか振動検知器とかセンサーマシマシにすればいける? 筋電計は観測対象にセンサー取り付けないと計れないよね? 目視でいけるの? どんなカメラ使ってるの?
「えっ、え~っとね~、顧客情報は流石にね~」
「あぁ、答えなくってもいいですから、既に納品済みって事なんでしょう? 街でブラブラしてたんだしそれくらい察しましたんで。
でもそうか~、納品しちゃったのか~。ってことは行っちゃったんだろうな~、ケトルさん的にどう思います? 成功しそうですかね?」
俺からの問い掛けに途端自信満々と言った顔で「僕ちんが作った製品よ? バッチリに決まってるっしょ」と言って胸を張るケトル。これだから天才って嫌。
“コトッ、コトッ、コトッ”
俺たちがそんな会話を続けていると、甘い香りと共に出来立てホヤホヤのパンケーキがそれぞれの席の前に運ばれてきます。
“ジョロジョロジョロ、カチャッ”
次いで淹れ立ての紅茶がティーカップから上品な香りを漂わせます。
「残月、新月に持続解毒魔法を掛けておいてくれ。残月とトライデントは大丈夫だろうけど新月は危ないから」
「はい、畏まりました。<サスティナブルキュア>」
残月により魔法を掛けられた新月は全身を淡く光らせると、残月に礼をする。目の前では「はぁ? いや、へ?」と理解出来ないといった顔をするケトル。
「イヤイヤイヤ、これくらい基本でしょう? このパンケーキと紅茶、ケトルさんのもの以外全部毒入りですよ? 怪しい者は排除する、隙あらば潰すってのは帝国じゃ当たり前の事なんじゃないんですか?」
「イヤイヤイヤ、それってどこの修羅の国よ、僕ちんの周りって実は戦国魔境だったりしたん? 松永久秀が大活躍しちゃうとか?」
お~い、転生者~、そのネタ日本人にしか分からんぞ~。って言うかコイツ全く隠す気ないじゃん、言動怪し過ぎじゃん、これでよく今まで周囲に怪しまれ・・・メイドスキーでした。自分で人造人間作っちゃうくらいのメイドスキーでした。
おそらく怪しい言動をしても“ケトルだから”で済まされてたんだろうな~、ご両親相当苦労したんだろうな~。
「オホンッ、それでちょっと聞きたいんだけど、もしかしなくてもそのバインバイン執事様って・・・」
何故か残月をチラチラ見ながらも上目使いで俺に問い掛ける残念美人。残月のアイアンクローが相当効いたんでしょう、大変良い事です。
俺がチラッと残月に目配せをすると、残月はコクリと頷いてから口を開くのでした。
「はじめまして、製作者。生活支援機構N401・個体名残月です、こうしてお会いでき光栄に存じます」
残月の挨拶に瞳をキラキラさせながら身体をブルブル震わせるケトル。俺はケトルの背後に控えるセシリアに目を向け、顎をクイッと動かします。
「残月ちゅわ~ん」
“ガシッ”
行き成り椅子の上に立ち、残月に向かいルパンダイブしようとした
セシリアさん、学習能力が素晴らしい。流石は最新機、天才魔導研究員ケトルの最高傑作です。
「マスター、この行動は倫理規定に抵触します。ホーネット・ソルティア卿に報告の上、性格矯正プログラムを「すみませんでした、僕ちんが間違っておりました!! 大人しくしますのでそれだけはご勘弁ください!!」・・・了承。その反省の心を忘れないでください」
美しいまでの土下座、これまでどれ程方々で披露してきたのか。ご両親は本当に苦労したんだろうな~。(涙)
「えっと、ケビン君だったかな? それでどこをどうやったらそれ程精巧な機体を作り上げることが出来るのかな? その辺じっくり話し合おうじゃないか」
えっ、コイツさっきまで土下座してなかった? 動きがめっちゃ早かったんだけど? しかも切り替え早!!
興味を持ったことには貪欲に、思いに向かって一直線。俺はこのドン引きするほどの変態に打ちのめされつつ、“早くホーネット卿から連絡来ないかな~”と考えながらパンケーキ(毒入り)にフォークを伸ばすのでした。
本日一話目です。