「お~い、ブー太郎。外のオークを店の中に運んでくれる?カウンター脇の通路から一頭ずつね、いっぺんに運ぶと危ないから」
“ブゴブゴ”
ケビンお兄ちゃんの指示の下、真面目な態度で作業するブー太郎。
“ブゴ、ゴフゴフ”
「すみません、どの辺に降ろしたらいいのか聞いてますんで、指示してくれますか?普通に指示すれば通じますんで」
「あ、あぁ。じゃあその奥にお願い出来るかな?そこの空いている場所に頼む。後二頭も同じ所で」
”フゴフゴフゴ、フゴ”
「大丈夫、それであってるから。残り二頭もよろしくね」
”フゴ、フゴフゴ”
お肉屋さんで働くオーク、凄いシュール。前世でコックの服装をした豚の看板を掲げるお肉屋さんを見てこれって自虐的だよなって思っていたけど、実際にそんな姿を目にする日が来るなんて。
オークってどちらかと言うと猪よりも豚に似てるんだよね、何でそんな進化をしたのか分からないけど、本当に謎。ゲームキャラって言われれば納得出来たけどこの世界ゲームじゃないし、神様のデザイン?
神様、何か居そう。俺みたいな異世界転生者がいるくらいだし、神様かそれに類する超常がいてもおかしくないって言うか、巻き込まれたら死んじゃうって言うか。
うん、頑張って力を付けよう、そして長生きするんだ。目指せ老衰!
この世界の不思議に触れ、生きる事に明確な目標を見つけたジェイク少年なのでありました。
「ご主人、どうもありがとうございました。お陰でいい取引が出来ました。それと宿屋の紹介、本当に助かります。ブー太郎の事どうしようかと思っていたんですよ」
「いや、こちらの方こそいい取引だったよ。それにブー太郎君は中々頭のいい従魔だからね、あそこのオヤジさんは従魔が大好きでね、街門の肉屋から聞いたと言えば
そうだ、これから冒険者ギルドに行って従魔登録をするって話しだったね、それなら私から推薦状を書いてあげよう。こう見えても冒険者ギルドとは長い付き合いだ、それなりの効果があると思うよ」
「本当ですか、何から何までありがとうございます。ブー太郎、推薦状を貰えるってさ、よかったな」
“フゴフゴ、ゴフー”
お肉屋さんに推薦状を貰って喜ぶオーク。お肉屋さんの推薦状、A5ランクのお肉って事なんだろうか?なんか頭の中が混乱してきた。ボビー師匠とボイルさんも苦笑いしてるし、ジミーとエミリーは良く分かってないって顔だけど。
「お待たせ、それじゃこれが推薦状。またこの街に来る機会があったらぜひ寄ってくれ、君たちの持ち込みなら喜んで買い取らせてもらうよ」
「「「「どうもありがとうございます、その際はよろしくお願いします」」」」
俺たちは店の前まで出て手を振ってくれたお肉屋さんのご主人に礼をし、街門の衛兵さんに貰った街の見取り図を頼りに冒険者ギルドに向かうのでした。
周囲にだんだんと増えて来る腰に剣を差した人たち、中には大きなメイスを担いだ人や盾を持った人も。次第に通りに見える酒場の数も増え、そのあちこちから騒がしくも楽し気な喧騒が聞こえて来る。そして目の前にある建物に掲げられた剣と盾が重なった看板、これが、この場所こそがファンタジーの聖地、冒険者ギルド!俺は遂にやって来たんだ、憧れのこの場所へ!
拳を高く突き上げ感動に浸る少年ジェイク、そんな彼の様子を優し気な目で見守るエミリーとジミー。
「ジェイクや、感動に浸っているところ悪いがさっさと要件を済ませるぞ、この後も予定が詰まっておるでな。それと先程からのお主の様子、まるで勇者病<仮性>を発症して暴走した際のケビンそっくりじゃったぞ?」
「えっ、あ、はい。すみませんでしたボビー師匠。そっか~、ケビンお兄ちゃんと一緒か~、しかも勇者病<仮性>を発症した際の・・・。うん、自重しよう」
掛けられた言葉に我に返り反省の色を見せるジェイク少年。これまではケビンと同じと言われても“尊敬するケビンお兄ちゃんと同じなんだ”と喜んでいたジェイクが、“流石にそれでは不味い”と自覚し始めた様子に、子供の成長は早いものだと感慨に浸るボビー老人なのでありました。
数段の階段を上った先にある大きく開かれた扉、ボビー師匠曰く冒険者達が乱暴に開け閉めしてすぐに壊されるので昼間の営業時間帯は開け放たれているとの事、営業時間外は締められているらしい。営業終了後の緊急時や夜間の受付は建物脇の夜間業務窓口に行くことになっているとの事、そう言えば街門も夜になれば閉まるとか言ってたし、基本業務は昼間だけと言うのも頷ける。
それでも魔物跋扈するこの世界では何が起きるのか分からない、過去にはスタンピードと呼ばれる魔物暴走が起きて都市が壊滅した事も何度かあったとか。その為緊急連絡用に昼夜誰かしらが常駐する仕組みが出来上がっているらしい。冒険者ギルドには都市を守る防衛予備軍的役割もあるのだ。
“カツン、カツン、カツン”
階段を上り切った先に見えるのはだだっ広い空間、多くの冒険者が
それで魔物買取カウンターは何処なんだろう?
「冒険者ギルドへようこそ、ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
俺たちがさてこれからどうしようと立ち止まっていると、冒険者ギルドの制服を着た年配のお姉さんが声を掛けて来てくれた。なんか銀行の窓口か役所の受付みたいな対応。
まぁ冒険者たちは自分たちの目的がはっきりしているから立ち止まる事もないだろうし、入り口付近でウロウロしているのなんて冒険者になろうとする新人か依頼人ぐらい。新人は大体授けの儀か旅立ちの儀の後に来るだろうし、それは年に四回と日程が決まっている。初めてこの街を訪れる冒険者だったとしても、冒険者ギルド自体の構造は何処も大体一緒だから迷う事もない。つまりそれ以外って事は冒険者依頼のお客様、御声掛けも当然となる。
うん、よく考えられている。それにいかにもな新人に任せるんじゃなく年配のベテランに任せるあたりこの街の冒険者ギルドはしっかりしているみたい、折角のお客様相手にトラブルでも起こした日には悪い評判に繋がりかねないからね。
「おぉ、御声掛けありがたい。儂は辺境のマルセル村で子供らに剣術を教えておるボビーと言うものじゃが、此度村の所用でミルガルの街を訪れる事になっての。旅の護衛がてら子供たちに魔物の恐ろしさと魔物との戦い方を見せておったんじゃ。
その時倒した魔物を買い取ってもらおうと思ってお持ちしたんじゃが、買取カウンターの場所が分からんで難儀しておったんじゃ。それと村の子供の一人が今年授けの儀を迎えるのじゃがどうもその前に使役系のスキルに目覚めたようでの、道中で使役した魔物の従魔登録をお願いしたくて来たのじゃが、どうすればいいのかの?」
・・・なんかボビー師匠が村の隠居老人のロープレを始めちゃいました。これって絡まれたくないからなんだろうな~。
「はい、買取業務は正面受付の四番でも行っていますが、魔物ですと建物脇の解体所受付で状態証明書を貰ってからの査定となります。それと従魔登録審査も解体所受付の方となります。そちらがお済み次第、書類を四番の窓口へお出しください」
「おお、そうであったか、これは世話になったの。早速行って見るとしよう。ほらお前達も礼を言いなさい」
「「「はい、ありがとうございました」」」
受付ロビーを出て階段を降りると建物脇の解体所受付に向かいます。途中ケビンお兄ちゃんが階段下で荷物番をしていたブー太郎を呼び、一頭のオークを担いで持って来させました。
「失礼、解体所受付はこちらでよいのかの。上で聞いて来たんじゃが、魔物の買い取りを頼みたい」
「ん?客かい、それで獲物はどこだいってオーク丸々かよ。一人で担ぐって、あんた力持ちだな。」
解体所の男性職員がオークを担ぐブー太郎に驚きの声を上げました。そりゃ驚くよね、オークって大きいもん、どんだけ重いんだか。
「それで何処に置いたらよいのかの?」
「ちょっと待ってくれ、今荷車を持って来させる。おーい、オーク丸々一頭だ、荷車を持って来てくれ」
男性の呼び掛けに“おー”と言う返事と共に荷車が運ばれて来ます。
「おいおい、傷無しかよ、しかも頭部に一撃って爺さんやるな。それに状態もいい、これ程のオークは滅多に入って来ないからな、大銀貨八枚って所かな。他に獲物があれば一緒に状態査定するから出してくれるかい?」
「イヤイヤ、残念ながら今回はこのオーク一頭だけでな。それと従魔の登録を頼みたい。登録主はこのケビンじゃ」
そう言い隣に立つケビンお兄ちゃんを紹介するボビー師匠。
「へ~、授けの儀で使役系の職業でも授かったのかい?それで肝心の従魔は何処にいるのかな?」
「えっと、それなら先ほどから後ろに控えていますが」
「へ?一体何処に・・・」
「あ、ブー太郎、フードを取って~」
“パサッ”
ケビンお兄ちゃんの呼び掛けに右手で頭のフードを外すブー太郎、そこから現れたオーク特有の豚顔に動きの固まる解体所職員。
「あの~、従魔登録の手続きをお願いしたいのですが」
「あ、あぁ、悪かったね。力持ちだなとは思ったけどまさか従魔だったとは。坊主、よくオークなんか従魔に出来たな、しかもかなり頭が良くないか?オークを従魔にするテイマーもいると聞いた事はあるが、あまり言う事を聞かないって話だったぞ?それに結構なお馬鹿らしいし。
実は坊主って凄腕テイマーだとか?でもそれにしては若いよな」
「どうもありがとうございます。巡り合わせと言いますか、幸運にも良い従魔と出会う事が出来ました。村の暮らしは力仕事が多いですから、凄く助かるんです。
今回もこんなに大きなオーク、僕たちだけでは持ち込めませんでしたから」
「まぁそうだよな、大概は部位ごとに切り分けて持ち込まれる事がほとんどだ。しかも割と雑に切り取られた状態でな。森の中での解体なんて無謀を通り越して自殺行為だから雑になるのは分らなくもないけど、そんなものにどうやって値段を付けろと言うんだかって言いたくなるよ。
オークを丸ごと運んで来れる様なマジックバッグってのもあるが、そんな高級品を持ってるのは銀級冒険者上位か金級冒険者くらいだ。彼らはオークなんかじゃなくオーガやミノタウロス、ブラックウルフなんかを狩って来る。そっちの方が金になるからな。オーク肉は需要の割りには安いからな、それでもそこそこいい金になるんだが。
さっき小耳に挟んだんだが、通り沿いに荷車にオークを乗せてる奴がいるって聞いたけどそれって坊主たちの事だろう?そうやって荷車を持ってオーク討伐に行けばいいのに、やれ“俺たちは冒険者だ、荷物運びじゃ無い”だの“荷車を引いて歩くのは格好悪い”だの訳の分からん事をいう連中が多くってな。だったらせめて解体の技術でも学んでから討伐に行ってくれと言いたい。査定が低いって文句ばかり並べて、査定を付けてやるだけ上等だと思って欲しいよ全く」
なんか解体所の職員さんもストレスが溜まっているご様子です。これって仕事の帰りに酒場で飲んだくれたりしてるんだろうな。(涙)
「それとこれ、街門脇のお肉屋さんからの推薦状です。ブー太郎の従魔登録に行くって言ったら書いてくれました」
「へ~、あのオヤジさんがね~。そこの従魔、よっぽど気に入られたらしいな。でも肉屋に寄ったって事は、もしかしてオークってもっとたくさん獲って来てたとか?」
「ハハハハ、お兄さん鋭いですね。そこは小物がいたのか?とか言って流してくださいよ~。
まぁよそ者が大量のオークを持ち込んだりしたらね~、しかも丸々で状態のいい物、厄介事しか寄って来ませんから~。お肉屋さんには本当にお世話になりました」
「ハハハハ、まぁ実際その通りだわな。立場上これ以上は言えんが、お前さん方は良い冒険者になりそうだよ」
「嫌だな~、僕はただの田舎者の村人ですよ~」
「「ハハハハハハ」」
なんか二人して乾いた笑いを浮かべる解体所の職員さんとケビンお兄ちゃん、冒険者ギルドって結構闇が深いのかもしれない。
自分たちの憧れ“冒険者”の影の部分を垣間見て、戦慄を覚えるチビッ子軍団。そんな彼らに“これも試練じゃ”と優しい目を向けるボビー老人なのでありました。
本日一話目です。