転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第792話 辺境男爵、暗黒大陸に向かう

「ワッハッハッハッ、ここが暗黒大陸にあると噂される幻の国であるか。偏屈屋から魔国の話を聞いた時は何を馬鹿な事をと思ったものだが、クルンやラビアンヌという生き証人もおったからの。

しかしどうしてどうして、中央大陸の国々にも負けぬ立派な都市ではないか」

暗黒大陸に存在する大陸国家魔国、その中心地であり魔国王アブソリュートが治める王都魔都、その大通りに立ち周囲を見回しながら大きな声で高笑いをするボケ老人大剣聖クルーガル・ウォーレン。

 

「それでケビン、魔都総合武術大会の会場とやらは何処になるのだ? 早く受付を済まさねばなるまい」

「はしゃぐなジジイ、ちゃんと連れて行ってやるから大人しくしておけ!! 先ずは冒険者ギルドに行って魔物素材を売ってこないといけないの、クルーガル爺さんは魔国の通貨を持ってないでしょうが、参加費と宿泊代金を確保しないでどうするのさ。

それにこの国は他国と交易を行っているような所じゃないからオーランド王国硬貨は使えないの、爺さんの手持ちも大して役に立たないの」

 

俺の言葉にしぶしぶ後に従うクソジジイ、マジでどうしてこうなったし。

俺は大きなため息を一つ吐いてからマルセル村でのことを思い出す。

あれはダイソン公国に親父殿とソード一家をお連れした二日後、王都から舞い戻ったクルーガルの爺さんが修羅仲間の父ヘンリーとボビー師匠がいないと騒ぎ始めたのが切っ掛けでした。

 

「ケビン、あ奴らだけズルいではないか、私もダイソン公国に連れていけ。戦場など久方ぶりの事、腕が疼くわい」

「出来るかボケ爺ー!! あんたは少しは自分の立場を考えろ大剣聖!!

今回の戦いはまだオーランド王国とバルカン帝国のものにはなっていないの、オーランド王国から援軍を送る名目が皆無なの!!

俺たちホーンラビット伯爵家からなら血縁者という事や三勢力同盟って名目が立つから問題ないけど、オーランド王国の顔である大剣聖クルーガル・ウォーレンが参戦したらバルカン帝国に大義名分を与える事になっちゃうでしょうが。爺さんは大人しく闘技場で冒険者相手に遊んでろ!!」

タイミング的にそろそろクルンとラビアンヌを魔国に連れて行かないといけないってのに、とんでもない我が儘を宣うボケ老人。国際関係が面倒臭いって事はあんたの方が知ってるだろうが!!

 

「仕方がない、ではここは義勇兵として、一人の人間として」

「だからやめろ~~!! その辺の有象無象ならともかく大剣聖クルーガル・ウォーレンの名前は大き過ぎるんだよ、いい訳が立たないんだよ、頼むから大人しくしておいて!!」

お付きの方と一緒になって何とかボケ老人の暴走を治めたのはいいんですけど、ふてくされて昼間から食事処でエールを煽っている時にクルンとラビアンヌが暗黒大陸に帰って魔都総合武術大会に出場する話を聞きつけちゃいましてね。

 

「ケビン、ラビアンヌ嬢は白雲と共にお茶農家として働いておったじゃろう? 確かにお主のところで修行を付けてもらっていたのは分かるが、すでにお茶農家になろうとしているものを武術大会に出場させるというのはどうかの?

ここはラビアンヌ嬢の実家に白雲と共に挨拶に向かわせる方がこれからの彼らのためになるのではないかの? なに、代わりが必要とあらば私がその魔都総合武術大会とやらに出場しようではないか。これでも大剣聖と呼ばれた身、そう易々と負けはせんからな」

そう言い高笑いをしながら提案してくるクルーガル爺さん。

これからオーランド王国に騒動が起きる事は確実、クルーガル爺さんが仲間に混ぜろと言ってくる事は目に見えている。でも正直言って大剣聖という立場が方々に与える影響が大き過ぎるんだよな~。

 

「分かりました、連れて行きますよ。その代わり幾つか条件がありますけど、いいですか?」

こうして俺は大剣聖クルーガル・ウォーレンを伴って暗黒大陸に渡ることになったのでありました。因みにお付きの方はマルセル村でお留守番、流石に今の実力じゃ暗黒大陸には連れて行けないかな。最低でもエミリーちゃんチャレンジをクリアしてもらわない事には暗黒大陸の魔獣に対抗できませんからね。

それに暗黒大陸の冒険者ってその辺の連中ですら金級冒険者並みに強いんですよね~、脳筋万歳、難しい事はぶっ倒してから考えろが基本だからな~。

 

「それじゃ俺の後について来て下さいね。クルン、悪いけどクルーガル爺さんがその辺をフラフラしてどこかに行かないように見張っといて」

先ずは換金、それから宿探し、大会申し込みは明日でも間に合うんだからそれでよし。俺は引率の先生か観光旅行の添乗員さんよろしく、やんちゃな爺さんを伴って魔都の冒険者ギルドへと向かうのでした。

 

「こんにちは、冒険者ギルド本部へようこそ。本日はどういったご用件でしょうか」

冒険者ギルドに到着した俺は早速魔物素材を適当に換金、結構な金額で売れたことにほくほく顔になりながらも、受付カウンターでとある相談事をする事に。

 

「あぁ、すみません。ちょっとこのお爺さんに武勇者の認定試験を受けさせてもらいたいんですけど、手続きはどうしたらいいんですかね? 紹介状とか必要だったりしますか?」

俺の言葉に背後にいるクルーガル爺さんを見て眉をしかめる受付嬢、まぁガタイがよくても爺さんだし、見ため的にアウトって奴でしょうけどね。

 

「あの、大変申し訳ありませんが当冒険者ギルドでは実力に見合わない方の武勇者登録は「あん? もしかしてお前ケビンか? やっぱりそうだ、二年ぶりだな、元気にやってたか?」・・・副ギルド長、お知り合いの方ですか?」

別に身分保障のためだし一般的なギルド登録だけでもいいかなと思っていたところ、不意に横から掛けられた声に顔を向ければ、そこにはいつだか見た顔が。

 

「あれ、副ギルド長、お久し振り。なんか太った? 前はもう少し苦労人って顔してたと思うんだけど」

「そうなんだよ、ギルド長が面倒な書類仕事を俺に丸投げしやがるもんだからって違うわ! まぁ健康的になったってのは認めるけどな、これでも家庭持ちになったから毎日の食事には気を付けてるんだよ。

それよりもどうしたんだ、魔都総合武術大会の観戦に来たのか? うちにチケットはないぞ、もう売り切れたからな。どうしても観戦したかったら大会本戦に出場して選手控え席から見るんだな」

 

「イヤイヤ、違いますってば。闘技場にはいきますがこっちの二人の付き添いですっての。それよりもこの爺さんに武勇者の認定審査を受けさせてもらってもいいですかね、ちょっと暗黒大陸を楽しませてやりたいと思いまして。なに、付き添いにクルンを付けますから特に問題はないと思いますよ」

「はぁ!? 付き添いにクルンって、本当だよ。なんで昨年の魔都総合武術大会の優勝者がメイド服を着てケビンに付き従ってるんだよ、意味解らんわ」

 

俺の後ろに控えていたクルンが軽く礼をする。副ギルド長が大きな声を上げたもんだから、受付ホール中の冒険者の目が俺たちに集まります。

因みに準優勝者のラビアンヌ嬢もメイド服を着て立っておられますよ?

 

「まぁ色々ね。それでサクッと認定試験をしてくれる? 推薦者が必要ならクルンが推薦者になってくれるから」

「おう、そういう事ならやってもいいがよ、相変わらずケビンは無茶苦茶だな、嫁さんの言ってた通りだわ。

おい、暇人ども、武勇者試験をやるぞ!! 挑みたい奴は地下闘技場に集合だ!」

 

「えっ、ウインダム副ギルド長、よろしいんですか? 武勇者試験に挑まれる方はそちらのご老人なんですよ!?」

受付のお姉さんが声を上げる、その顔は“何馬鹿な事言ってんだこのおっさんは”といったもの。

 

「あぁ、お前はケビンの事を知らないんだったな。問題ない、この男が推薦する奴に弱者はいねえよ。それよりもお前たち、今日の宿屋は決まってるのか? 魔都総合武術大会を見に集まった観光客でどこの宿もいっぱいだぞ」

「げっ、そうだったんじゃん、どうしよう。副ギルド長、何処か空いてそうな宿なんか知りませんかね?」

 

「だったら俺の家に泊めてやるから大人しくしとけ。その前にチャチャッと認定試験をしちまうか、爺さん、準備はいいか?」

「うむ、よく分からんが戦う準備はいつでも出来ておるぞ?」

常在戦場、流石大剣聖クルーガル・ウォーレン、心構えが違います。俺たちは副ギルド長に促されるまま、クルーガル爺さんの武勇者認定試験を見届ける為に地下闘技場へと向かうのでした。

 

――――――――――――

 

「ケビンよ、暗黒大陸は良いところであるな。冒険者ギルドにたまたま居合わせた者たちですらこれ程に楽しめるとは、素晴らしい歓迎であったわ」

地下闘技場から階段を上るクルーガル爺さん、超ご機嫌。やっぱ修羅には定期的に戦闘させておかないといけないんですね。

 

俺がクルーガル爺さんを暗黒大陸に連れてくるために提示した条件は二つ。一つは魔都総合武術大会に出場する事、これはクルーガル爺さんの望みでもあるから大した条件でもないんですけどね。

もう一つはクルンと共にしばらく冒険者として暗黒大陸に滞在する事。期間は半年から一年、正直この先の状況次第なんですよね。

状況その一、軍閥貴族の反乱。これは既に確定事項な上にバルカン帝国の同時侵攻作戦が行われるっていうね。これには軍閥貴族も大慌てになるんだろうな~、頼みの綱のワイバーン部隊は呪具の操作権を握られちゃってるみたいだし、負け確なんですよね~。

状況その二、ボルグ教国の動き。料理長がおまけのように教えてくれた情報に、ボルグ教国が各国に使者を派遣しているとかなんとか。何を考えているのか分かりませんが、あまりいい感じはしないんですよね~。

まぁそういう訳で政治的に微妙な立場のクルーガル爺さんには暗黒大陸で遊んでいてもらおうって訳です。クルンには申し訳ないんだけど介護をお願いしました。

でもクルンってばとってもいい子、「お義兄様の頼み事でしたら、喜んでお引き受けいたします」とか言って即決してくれたんですよね。・・・ジミーのご威光って凄いっす。

 

「それじゃクルンとクルーガル爺さんの受付をしに行きますか」

「あの、ケビンさん、同時に申し込むと予選会を通過しても本戦初日に同じブロックになってしまいます。どうせなら日付をずらして申し込んだ方が良いと思うのですが」

早速魔都総合武術大会の行われる魔都総合コロシアムに向かおうとした俺に、ストップを掛けるクルン。詳しく話を聞いたところ本戦に進む組み合わせはランダムではなく日付別のブロックで決まるとのこと。そう言えば二年前に副ギルド長がそんなことを言っていたような? 私《わたくし》、すっかり忘れておりました。王都武術大会みたいに忖度が働くもんだとばっかり、汚れた自分がお恥ずかしい。

 

「そう、それじゃクルーガルの爺さんは明日の予選会に向かわせるとして、今日はクルンが先に予選を済ませちゃってくれ。これ参加費と食事代、終わったら冒険者ギルドに帰ってきてくれる?」

「畏まりました、では私はこれで」

クルンはそう言うや気配を消しその場から姿を消す、その様子に目を見開いて驚く副ギルド長。「なっ、ケビン、お前クルンに一体何を仕込んだ!!」とか言っていますが、我が家のメイドとして必要な事しか仕込んでいませんよ?

 

「白雲、ルイン、ラビアンヌ、待たせたね。三人はラビアンヌの実家に挨拶に向かうんだろう? 四狼、六狼」

“ニュイン、ニュイン”

俺の声に影の中から二体のウルフ種が姿を現す。俺は二体の首をワシャワシャ撫でてから、白雲たちと共にギルド建物の外に出る。

 

「兄弟子、何か急にこんな話になっちまったが俺も男だ、ラビアンヌの親父さんにはしっかり話をつけてくるよ」

「ケビンさん、何から何までお世話になってしまって申し訳ありません。これからは主人共々よろしくお願いします」

どこか吹っ切れたような顔の白雲とその隣で深々と頭を下げるラビアンヌ、そんな二人に満足そうな笑みを向けるルイン。なんやかんや言ってこの関係ってルインが全体を仕切ってるんだよな~、あの笑顔がちょっと怖いっす。

 

「四狼、六狼、本来の大きさに戻っていいぞ。三人とも何かあったら四狼か六狼に言ってくれ、業務連絡で俺に伝わるからすぐに駆け付ける。気を付けて行ってこいよ、魔都総合武術大会の最終日には戻って来いよ」

「あぁ、それじゃまた。ラビアンヌ、先行してくれ、俺とルインは後を追い掛ける。四狼、六狼」

白雲の声に膝を曲げ地面にしゃがむ二体、三人は元の大きさに戻ったフェンリルに跨ると「行くぞ」と声を掛ける。

 

“バッ、スタンッ、スタンッ、スタンッ、スタンッ”

白雲たちを背に乗せ宙を駆け飛び去っていく四狼と六郎、そんな彼らを呆然と眺めながら口を開く副ギルド長。

 

「なぁケビン、あれってフェンリルだよな? なんでフェンリルが人を背中に乗せて空中を走ってるんだ?」

「なんかワイバーン狩りをするために覚えたらしいっすよ。それよりもクルーガル爺さんの武勇者の手続きをお願いします、それと詳しい説明も。

クルーガル爺さん、年の割に暴れん坊というか元気というか、要はジミーみたいな人物ですんで」

俺の言葉に額に手を当てる副ギルド長、クルーガル爺さんは宙を走っていった四狼と六狼を見ながら「大したもんだの」とか呟いています。

俺はそんな二人に目を向けながら、“これからしばらく、このぼけ老人の事をよろしくお願いします”と副ギルド長に小さく礼をするのでした。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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