転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第793話 辺境男爵、魔都総合武術大会へ向かう

「クルン、予選通過おめでとう」

魔都の冒険者ギルド前で白雲たちを見送った後クルーガル爺さんの武勇者登録手続きのため建物内に戻った俺たちは、ウインダム副ギルド長から中央大陸の冒険者ギルドとの違いや武勇者制度について詳しい話を聞きながらクルンの帰りを待つことになりました。

クルーガル爺さんは「要するに武勇者とは厄介者の掃除屋って事じゃな」と理解しているのかいないのかよく分からないことを言っていましたが、副ギルド長からは「大体そんなもんだ」とありがたい言葉をいただいておりました。

それでいいのか魔国の冒険者ギルド、ジト目を向ける俺に対して「しっかり仕事さえしてくれたらそれでいいんだよ」と掌をひらひらさせる副ギルド長の態度に、暗黒大陸の懐の大きさを感じる俺なのでした。

 

「ありがとうございます。第一予備審査、第二予備審査、予選会共に例年同様でしたのでクルーガルさんであれば本戦出場は問題ないかと」

クルンに詳しい話を聞くと、魔都総合コロシアムで六日間に渡って行われる予選会は参加者の多さから初めに大まかな篩掛けが行われるんだとか。第一予備審査は魔力による圧迫面接、第二予備審査は覇気による圧迫面接。この予備審査を通過して初めてコロシアムの闘技舞台に上がる事が出来、その後通過者によるバトルロイヤルが行われ最後の四名になるまで潰し合いが続くとのこと。

なにその脳筋思考、分かり易いと言えば分かり易いけれども。

 

「予選会は六日間の日程で行われるのですが、今日は予選会三日目だったようです。一日四回予選会が行われ、それぞれ四名の通過者が選ばれます。本戦初日は予選会の頭から三ブロックずつ、十二名を一ブロックとして対戦が行われ一名が二日目の準々決勝に駒を進めます。私は一日目の第四ブロックとなりますのでクルーガルさんと戦うには二人が決勝戦に勝ち上がる必要がありますね」

クルンの話では参加申し込みの順番で決勝までの対戦表が決まってしまうんだとか、そのため有力選手が参加する予選会を避け狙い目を見つけるのも作戦の内らしい。

 

「大会参加者の話を聞くにバンドリアが帰ってきているらしく、最終日に予選会に参加すると宣言したことで今日までの予選申し込みが混雑していたとか、明日からは混雑も減るだろうと噂しておりました。それでも明日と明後日の午前中は多少混雑するかもしれません、バンドリアに当たらなければ準決勝まで進めると考える者も多いでしょうから」

「アハハハ、まぁそうなるよね。龍人族のバンドリア選手、二年前のジミーとの戦いは壮絶だったらしいもんね~」

ドラゴンモードになって巨大化したバンドリア選手とジミーとの闘い、俺見れなかったんだよな~、今思い出しても涙が。あの時人に寄生する粘菌生物がジミーの事を狙わなければゆっくり観戦できたのに、あの粘菌野郎マジ許せん!!

 

そんな風に俺がクルンの報告を聞いている傍でクルーガル爺さんが何やらぶつぶつ呟いていますが、あの顔はすでに戦闘モードに入っている? クルーガル爺さんは龍人族の事については知らないはずだと思っていたんだけど、クルンかラビアンヌから聞いていたんだろうか?

 

「まぁクルンが予選通過するのは順当だが、まずはおめでとう。それじゃみんな揃ったってことで俺の家に向かうぞ、お前らは下手に放置しておいたら何をするのか分からないからな。

でもあの獣狼族一の暴れ者といわれたクルンが本物のメイドのような言葉遣いや態度を取れるようになるとはな、この姿を獣狼族の族長が見たら驚きすぎて顎の骨を外すんじゃないのか? 間近で見ている俺ですらいまだに信じられん。

ケビン、その辺も家に着いたら詳しく聞かせてもらうからな」

俺たちの後ろから声を掛けてきたのはウインダム副ギルド長、ギルドの業務はいいのかと言葉を返したら「最優先事項はケビンへの対処だろうが、お前は少しは自分がしたことを自覚しろ」と怒られてしまいました。

副ギルド長、例の騒ぎの中心が俺だってことが分かっていながら全く変わらぬその態度、やっぱり暗黒大陸の冒険者ギルドで副ギルド長の地位に就くような御仁は肝の据わり方が半端ないっす。

その後俺たちは副ギルド長に連れられ、魔都総合武術大会の話題で盛り上がる魔都の喧騒の中を副ギルド長の自宅へ向け歩いていくのでした。

 

――――――――――

 

「結構立派なお屋敷ですね」

そこは街の中心部から少し外れた住宅街、副ギルド長の自宅と聞いて街中の広めのアパートを想像していた俺、目の前のお屋敷に軽く引いております。

 

「あのな、さっきも言ったけど俺所帯持ちだからな? これでも冒険者ギルドの副ギルド長だから、それなりに給料もらってるから、それにうちは嫁さんも働いているからそこそこ稼ぎはあるんだよ。

まぁ先々の事を考えて奮発したってのもあるが部屋は空いている、大したもてなしも出来んが魔都滞在中はゆっくりしていってくれ」

イヤイヤイヤ、ウインダム副ギルド長、これ奮発し過ぎだから、ちょっとしたお貴族様のお屋敷だから。手入れのいき届いた広いお庭、立派な建物、こんな家買っちゃってどうするのさ、休みの日には庭いじりに没頭するんですか?

 

「今帰った、客人を連れてきたんだが」

副ギルド長が大きな玄関扉を開けるとパタパタと駆け寄ってくる足音が。頭には大きな獣耳、尻尾をパタパタと振り走り寄ってきた小柄な女性。

 

「お帰りなしゃい、御夕飯の支度は出来てましゅ。わっ、大勢のお客様、直ぐにお料理を御作りしないと」

そう言い慌てて家の中に戻っていく女性。そうか~、ウインダム副ギルド長はそういった趣味が・・・。

 

「ケビン、ちょっとまて、何だその目は。違うからな、いや、家の事をやってもらってるってのは本当だが、違うからな?」

何故か慌てるウインダム副ギルド長に俺は頷きで応え、肩にポンと手を添えます。大丈夫、ここは暗黒大陸、様々な理由でエイジアン大陸から逃げ延びた人々が住み暮らす土地。副ギルド長の事を理解してくれる人もきっと。

 

「あら、お帰りなさいウインダム、今日は早かったのね。ってお客様? そういう事は前もって言って頂戴っていつも言ってるでしょう?

本当に男の人はこれだから、はじめまして、ウインダムの妻です。いつも主人がお世話になって・・・」

階段を降り玄関先に現れたのは凛とした雰囲気を纏った女性。その人はウインダム副ギルド長の妻と名乗り俺たちに一礼をした後顔を上げ、俺たちの方を向いた途端その場で固まってしまうのでした。

 

「メルルーシェ団長~、お客しゃまにお出しするお料理はどうしましょうか~」

先ほど屋敷奥に引っ込んだ小柄な女性が再びやって来て、副ギルド長の奥様に声を掛ける。その声にハッとした奥様が漸く我に返る。

 

「ウ、ウインダム、これってどういう事!? あっ、ケビンさんお久しぶりでございます、いつぞやは大変ご迷惑をお掛けいたしまして申し訳ありませんでした。

その、その後クルンとラビアンヌはご迷惑をおかけしていませんでしょうか?」

きれいに一礼をした後こちらを伺うように言葉を向ける奥様。

 

「ウインダム副ギルド長の奥様って、メルルーシェさんだったんですね。切っ掛けはやはり二年前の」

「まぁな。俺たちは昔からの仲だったから特に互いを意識し合うなんてこともなかったんだが、お互いいい歳だってのとあの騒ぎの中で互いに見えなかった一面を垣間見たのが切っ掛けっていうかよ。

なんやかんやあってこういう事になっちまった」

 

「なによ、私の事を一生幸せにするって言ってきたのはウインダムじゃない。すみません、こんな事玄関先で話す事じゃありませんよね。

ポルン、こちらは大切なお客様です、お茶のご用意を。調理場のリザには私から話をします」

「はい、了解でしゅ」

ビシッと敬礼をしてから尻尾を揺らし戻っていく小柄な女性、メイド服を着ているのはてっきり副ギルド長の趣味かと思ったら本当にメイドさんだったんですね。というかフォックス種ですか、中々に趣深い。

 

「お久しぶりです、メルルーシェさん。先程団長と呼ばれていましたがもしかして四天王のお一人に?」

「えぇ、ゼノビア様が四天王を返上される際に魔王軍騎士兵団の団長に推薦していただきまして。智将“遠謀のメルルーシェ”という大層な呼び名をいただいております。

未だ分からない事だらけで必死になっているだけなんですが、ゼノビア様が王妃として頑張られている以上、私が泣き言を言う訳にもいきませんので」

そう言いニコリと微笑まれるメルルーシェさん。フムフム、あのホーンラビット族のゼノビアさんはアブソリュート様と一緒になられたと、なんかこの二年で色々あったようですな。

 

「それでこの時期に魔国にお越しになられたという事は魔都総合武術大会をご覧に?」

「えぇ、クルンとこちらのクルーガル爺さんを出場させることになりまして。まずは軍資金をと冒険者ギルドに素材の換金とクルーガル爺さんの武勇者登録に伺った際に副ギルド長にお声掛けいただきまして、“ケビンは放置しておいた方が心配だ”と言われてお伺いする事に」

俺からの言葉に副ギルド長に目を向けたメルルーシェさん、“何を勝手に決めちゃってるの!!”って怒るのかと思いきや「ウインダム、ありがとう!!」と思いっきり感謝されておりました。

・・・俺、どう反応したらいいんでしょうか?

その後応接室に案内されお茶をいただいている際にクルンを紹介してあまりの態度と言葉遣いの違いに驚愕されたり、クルーガル爺さんがオーランド王国の大剣聖だと言ったら「なんでそんな大物を連れ込んでるんだ!!」と二人から怒られたりと色々ありましたが、無事に宿泊先を確保。大会期間中は大人しくしているようにと約束させられてしまいました。

 

まぁ俺は自分用に用意された客室についてから扉を出して家に帰ったんですけどね。どうせ大会チケットも手に入らないし大会が終わったら迎えに来ればいいかなくらいに思ってたんですけど、そうもいきそうにないんでその辺の説明をしないと嫁さんズにですね。

明日はクルーガル爺さんの受付をして二日おいてから本戦、様子は覗けませんが会場傍で観光でもしながら二人の頑張りを応援する事といたしましょう。

 

で翌日、急いでも仕方がないというクルーガル爺さんの言葉を受け、三回目の予選会に合わせ受付を行い魔都総合コロシアムの周辺で待機。屋台飯を摘まみながら体感で三時間ほどのんびりしていると、コロシアムからクルーガル爺さんが帰ってまいりました。

 

「どうでした予選会の方は、それなりに楽しめましたか?」

俺からの問い掛けに何やら難しそうな顔をするクルーガル爺さん。

 

「ケビンよ、ちと面倒な事になってな。私は見た目がジジイであろう? それで保護者がどうとか。すまんが一緒に受付に来て貰えんかの?」

何か神妙な面持ちでそんな事を言ってくるクルーガル爺さん。まぁ俺も魔都総合武術大会について詳しい訳じゃないんで、年寄りの場合付き添いが必要だったなんて初めて知ったんですけどね。

 

俺がクルーガル爺さんに連れられて受付に向かうと受付の職員さんがクルーガル爺さんに手を振り、「お孫さんに会えましたか?」なんて言葉を掛けてきます。

うん、誰がどう見ても孫と祖父ですね。俺が受付職員さんに声を掛けようとしたところ、「お話はお爺様から伺っていますので、こちらの番号札をお持ちになって奥にお進みください。お爺様の付き添い頑張ってくださいね」と送り出されてしまいました。

 

で、よく分からないまま多くのごっつい体格の方々が集まる部屋に連れて来られたんですがこれって?

 

「皆静かに。これより第一予備審査を始める。

なに、難しい事はない、いまより皆に魔力による圧を掛ける。五分経過したのち次の会場に向かう出口を開けるので進んで欲しい。

締め切りの合図が鳴ってもこの場に(とど)まった者は失格となる。

では開始する」

前の方ではおそらく大会職員さんらしき方が何やら仰っています。えっと、付き添いも大会の審査を受けないといけないの? 周りで結構な数の方々が唸ってるんだけど?

しばらくすると部屋の扉がガチャリと開き、ごつい体格の方々が移動を開始します。俺もあの後について行けばいいのかな? 付き添いだけど。

 

「では時間となりましたので第二予備審査を開始いたします。

内容は先程と全く変わりません。ただこれから皆さんが受けていただくのは覇気となります。そうですね、大体レッサードラゴンの群れを単騎制圧するときぐらいの覇気と同等でしょうか。では開始いたします」

幾分人数が少なくなった部屋の中では相変わらず苦悶の表情を浮かべる男性が複数名。何か大会職員の方が覇気を部屋中に充満させていますが、それがどうしたといった表情の方もちらほら。

まぁこんな感じで予備審査を行ってるくらいだし、高齢者に付き添いが必要なのも当然の措置なのかな? あのボケ老人に必要だとは思えないけど。

 

“ガチャリッ”

暫く待つと再び部屋の扉が開き平然としていたごつい体格の方々が部屋を出て行かれます。俺はその後に従い先に進みます。

到着した先はコロシアムの会場、闘技舞台の上。なんか部外者なのにこんな場所に立っていいのかと恐縮していると、あちこちで何か相談事を始めている方々が。

これ、おじゃましちゃまずいですよね、俺は付き添いな訳だし。

なるべく気配を消して待つこと暫し、後からも続々と人が集まってきて大体四十人くらいが闘技舞台に上ったところで大会職員さんが説明を始めました。

 

要約すれば予選通過者は四人、首を切られたり致命傷のケガを負えば死ぬから注意しろ、アンデッドでも首が落ちたら失格というもの。

・・・マジかよアンデッド、そりゃ種族的に死なないだろうけども、区別なんかつかないっての。まぁ場外負けもあるみたいだし基本場外狙いなら問題ないのかな?

大会役員さんの開始の合図と共に一斉に剣を抜く選手たち、そんな彼らを直ぐ傍で見守る俺氏。うん、役得役得。

でもなんで付き添いが出場選手たちと一緒に闘技舞台にいないといけないんだか、これも暗黒大陸の流儀なんでしょうか?

 

まぁ俺がそんな事を考えながら見守り続けること暫し、バタバタと出場選手たちが倒れ残ったのは息も絶え絶えな選手が四人。漸く終わったかと気配を元に戻し先に進もうとするも大会役員さんから終了の合図がありません。すると勝ち残った選手の一人が大会役員さんに抗議の声を上げました。

 

「おい、終了の合図を出せよ、もう残りは俺たち四人だけだろうが」

「いえ、闘技舞台の上に立っておられる方は全部で五人になります。あとお一人倒されない限り予選通過者は決定いたしません」

そう言い俺の方を指差す大会職員さん。・・・はぁ?

イヤイヤイヤ、俺爺さんの付き添い、選手ちゃう。俺が説明しようと口を開こうとした瞬間、生き残りの選手たちが一斉にこちらを睨み。

 

「「「「どこに隠れてやがったこの卑怯者のアサシンやろうがー!!」」」」

「いやいや、違うから、話せば分かるからって危ないわボケ~~~!!」

血走った眼で全力疾走しながら襲い掛かって来る四人、俺はそんな彼らを躱して躱して躱して躱して。

“ドサドサドサドサ”

そのまま場外に落ちていく大会選手たち、これってどうしたらいいの?

 

「そこまで。予選通過者、D44034番」

・・・はぁ?

俺がよく分からんと言った表情で呆然とする中、大会職員さんは「予選通過者の説明がある」と言って俺を舞台下に連れて行くのでした。

・・・はぁ?




本日一話目です。
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