転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第794話 辺境男爵、魔都総合武術大会に出場する

「やい、クソ爺、これは一体どういう事だ」

「おぉ、ケビンよ。()()()()()()、感謝するわい。私も見知らぬ土地の武術大会に一人で参加するのは心細かったからの、無事に予選は通過したが一人で本戦会場に向かうのもの。

クルンは昨年の優勝者であるから頼りにする訳にもいかん、ケビンには世話になるの~」

 

魔都総合コロシアムで行われている魔都総合武術大会の予選会、クルーガル爺さんに

「ケビンよ、ちと面倒な事になってな。私は見た目がジジイであろう? それで保護者がどうとか。すまんが一緒に受付に来て貰えんかの?」と言われノコノコ大会受付に向かった俺氏、あれよあれよという間にコロシアム内に案内されてよく分からないうちに予選通過者になっておりました。

 

「お爺さんよかったですね、お孫さんが付いていてくれれば安心ですよ。それにしてもお二人は本当にお強いんですね、本戦での活躍を楽しみにしています」

「おぉ、受付さんも無理を言ってすまなんだ。孫は頼りになるのだが素直でなくての。これは少ないがほんの気持ちだ、大陸の硬貨で悪いが取っておいて欲しい」

 

「えぇ、こんなによろしいんですか? かえってすみません。それじゃお二人とも頑張ってください」

コロシアムから出て大会受付付近でぶらついていたクソ爺を捕まえて問い質そうとしたところにやってきた受付職員さんとクルーガル爺さんとの会話。どういうことか詳しい話を聞くと、予選会を通過してコロシアムを出たクルーガル爺さんは大会受付に向かい実力はあるが素直じゃない孫を大会に参加させたいのだが説得を手伝って欲しいと頼んだのだとか。

付き添うという形なら納得すると思うのだがと言ったところ、付き添い参加という者はよくいるとのことで協力してくれたのだとか。

魔都総合武術大会はある種のお祭りで記念参加をする者が多くいるとのこと、そうした者は大概予備審査で落ちるがたまに本戦にまで上がり活躍する者もいると話してくれたとのことでした。

魔都総合武術大会フリーダム過ぎだろうが~、俺は友人に強引に付き添わされてオーディションに合格しちゃったアイドルの卵か!!

 

「だがよく考えよ、これで大会チケットがなくとも間近で対戦が見れるぞ? ウインダムという冒険者ギルドの副ギルド長も言っておったであろう、「どうしても観戦したかったら大会本戦に出場して選手控え席から見るんだな」とな。

予選会ですらあれほどの殺気で襲い掛かってくる剛の者揃い、本戦が楽しみでならんわい」

そう言い高笑いをするクソ爺、クッ、否定しづらいところを突いてくる、これが大剣聖と呼ばれる男の老獪さか。俺めっちゃ忙しいんだよ、ジジイと違ってあちこち顔を出さないといけないんだよ!!

俺は振り上げた拳をどこに降ろせばいいのか分からないようなもやもやとした気持ちを抱えながら、クルーガル爺さんと共にウインダム副ギルド長の屋敷に戻るのでした。

 

――――――――――

 

「はぁ!? ケビンが魔都総合武術大会に出るだと!!」

俺は帰って早々広間でくつろいでいた副ギルド長に事の顛末を説明、クルーガルの爺さんに騙されて魔都総合武術大会に出場することになった話をするのでした。

 

「イヤイヤイヤ、普通気付くだろうが、予備審査に予選会もあって何で分かんねえんだよ」

「だってずっと付き添いのために必要なことだと思ってたし。流石にコロシアムの闘技舞台に上げられたときは変だなと思ったけど、周りの邪魔にならないように気配を消して闘技舞台の隅に避けてたし、最後の四人が決まったところでもう終わりかと思って気配を戻して待ってたら突然その四人が襲い掛かってきて、言い訳をする暇もなく。俺も痛いのは嫌だから全員の攻撃を避けたら四人そろって闘技舞台から落ちちゃって、予選通過者にされちゃったって感じ。

そんでコロシアムから出てクソ爺を問い質したら、けろっとした様子で“付き添い参加助かる”とかぬかしやがったんだよ、本当に勘弁してくれっての」

 

そう言いうなだれる俺に呆れた視線を送る副ギルド長、クルンは「それだったら本戦二日目の準々決勝でクルーガルさんと当たりますね」とか言っています。

よし、このまま乗せられるのは癪だけどまずは本戦二日目を目指そう、そこでボコる、徹底的にボコる。老人虐待? 知った事か!!

俺の中で魔都総合武術大会に出場する明確な目標が決定した瞬間なのでした。

 

でもこの後が大変、だって俺忙しいんだもん。クルーガル爺さんは放置しておくと危険とのことで冒険者ギルドの訓練場で冒険者相手に遊んでもらう事に、まぁクルンに見張ってもらえれば大丈夫でしょう。

で、俺はと言えば。

 

「本当に申し訳ありません、急に家の方からの呼び出しがありまして」

「いえいえ、ネイチャーマン先生はこれまでこうした急な休みを出されることはありませんでしたから大丈夫ですよ? 生徒には連絡用掲示板に休講の知らせを出しておきますのでご安心ください」

 

「ありがとうございます、では今日の講義に向かわせていただきます」

王都学園での生活魔法の講義と王都武術大会本戦二日目の日程が被ってしまうため事務所で急遽講義を休ませていただく手続きをとり、三年生の講義に向かう事に。

秘密基地経由のドア移動が出来るからこその荒業、大陸間移動も扉を潜ればあら不思議、これはよそには言えませんね。

業務連絡で残月からバルカン帝国の動きを聞いたり、王都学園では用務員に化けた十六夜から生徒たちの様子を聞いたり、リットン侯爵領では玄才さんに稲の様子を聞いたり。月影や嫁さんズから子供たちの様子やマルセル村の様子、農場の様子を聞いたりと、頭の中はフル稼働。

これ、俗にいうブラックな環境じゃね? 働き方改革したほうが良いよね?

そんな感じで本戦までの二日はあっという間に過ぎたのでございます。

 

「ケビン、くれぐれもやり過ぎないように。これ振りじゃないからな、マジで頼むぞ」

「ケビンさん、ゼノビア王妃殿下からの言伝です。「どうか魔都を滅ぼさないでください」、以上になります。本気でお願いします」

本戦一日目、ウインダム副ギルド長のお屋敷で朝食をいただいている時にウインダム夫妻から掛けられた言葉。あの、俺を一体なんだと?

なんか扱いが在りし日の記憶にあるノストラダムスに予言された恐怖の大王なんですけど? 七の月に天より舞い降りるの? 今八月よ?

何故にクルーガル爺さんとクルンがさもあらんって顔をしてるのさ、「「流石魔王カオス」」って言うのはやめなさい、魔国で魔王呼びは洒落じゃすまないから。

 

その後ウインダム副ギルド長と四天王のメルルーシェさんは式典やらなにやらの関係で先にお出かけ、俺たちはメイドさん方に見送られながら徒歩で魔都総合コロシアムへと向かうのでした。

 

会場の魔都総合コロシアム周辺はものすごい人だかりで、開場までまだまだ時間があるというのにかなりの盛り上がりを見せていました。

 

「やっぱり本命はバンドリアだろう、昨年は武勇者として暗黒大陸を回っていたから不参加だったが、その男が帰ってきたってことはよほどの修行を重ねてきたってことなんだからよ」

「いやいや、昨年優勝者のクルンを忘れちゃダメだろう。あの圧倒的な実力、速さと力を兼ね備えた獣狼族のクルンに死角はないって。

去年の大会の後中央大陸に渡ったって聞いたからどうなるものかと思ったが、今日も第四試合に出場するらしいじゃねえか、これは見逃せないだろうよ」

 

「でもよ、去年の大会の優勝者のクルンと準優勝者のラビアンヌは、一昨年の大会優勝者のジミーに会いに中央大陸に向かったんだよな? それでラビアンヌはいなくてクルンが再び大会に出てるってことは」

「馬鹿、それ以上言ってやるなよ。それだからお前はいつまでたっても嫁さんが出来ねえんだよ。女はその手の話になると怖いぞ~」

観客たちは思い思いに出場選手たちの事を語り合いながら、噂話に花を咲かせる。

 

「あの、クルンさん、ただの噂話ですから、観客には悪気はないんですよ、多分」

俺はお怒りを鎮めていただけるようにと、隣のクルンに話し掛ける。だが意外にもクルンは冷静で、ゆっくりとした口調で言葉を返すのだった。

 

「大丈夫です、こうした噂がされるだろうことはあらかじめ想定済みですので。ラビアンヌが一緒でしたらどうなっていたか分かりませんが、彼女はパルム族の実家に里帰りしていますから。

それにしても白雲さんが今頃どうしているのかは気になるところですね、白雲さんの事ですから上手い事問題を解決しているでしょうが」

クルンの白雲に対する信頼が厚い。まぁ白雲の事はラビアンヌから色々と聞いて詳しく知っているからなんだろうけど、実際白雲って頼りになるしね。

 

「まぁあ奴は問題ないだろう、しいて言えば気に入られ過ぎて引き止められてしまう事だろうが、その辺はルインが確りしておるからの。白雲にしてもマルセル村の生活が気に入っているからな、心配するだけ無駄だの」

そう言い高笑いをするクルーガル爺さん、その落ち着いた態度は“亀の甲より年の劫とはこの事か”と人生経験の厚みを感じさせます。

 

「でもクルン、本当にメイド服で出場するの? 普段着のままの俺も俺なんだけど」

メイド服に両手ダガーのクルン、普段着に木刀のクルーガル爺さん、普段着に手ぶらの俺氏。うん、大会を嘗めてると言われても反論できませんな。

 

「はい、ワイルドウッド男爵家のメイド見習いとして、お義兄様に恥ずかしい姿はお見せしないことを誓いましょう。月影メイド長の教えを存分に発揮させていただきます」

そう言いカーテシーを決めるクルン、月影さん、これはやり過ぎなんではないでしょうか?

多少の不安を覚えつつも、俺たちは人々の合間を抜け出場選手入場口へと向かうのでした。

 

――――――――――――

 

今年も魔都総合武術大会の季節がやってきた。二年前に発生した魔国を揺るがす三将軍の反乱騒動、実際には自身が強大な力を持つ何者かに身体を乗っ取られ魔国を破滅に導こうとしていた。

 

「あれから二年、魔国もだいぶ落ち着きを取り戻してきたか」

魔都を生贄にした大結界の構築、アンデッドによる魔都住民の蹂躙、魔国を守るべき魔王軍による殺戮は魔国の根幹を揺るがす大問題であった。

だがそんな絶対絶命の窮地を救った者たちがいた。己を押し付けず、四天王剣将“絶剣のゼノビア”と交わした約束を守るためだけに国を救い去っていった者たち。

 

「私は彼らとの約束を守れているのだろうか」

あの御方は言った、魔国を気に入ったと、旨い食べ物があり様々な人種が入り乱れる魔都はワクワクが止まらないと。そんな魔国のために頑張って欲しいと。

 

「陛下、城下をご覧になってどうなさったのですか?」

騒動の際崩壊した城は再建され、再び魔国の象徴としての姿を取り戻した。反乱に加わった三将軍とその部下たちには処罰が下され、表向きは処刑されたことになっている。

 

「あぁ、この二年で復興した魔都の様子をご覧になってあのお方はどう思われるのかと思ってな」

背後から掛けられた声に振り返り言葉を返す。これまで陰に日向に自身を支えてくれた女性、憑りつかれ全てを奪われた私のために必死に戦ってくれた最愛の人。

 

「そうですね、私もメルルーシェからの報告に驚きましたから。あの方が、ケビンさんが魔都の街並みを見てどう思われたのか。メルルーシェからはまったく平然としていてあの騒ぎすらなかったかのような態度だったとの話でしたが」

そう言い穏やかな笑みを浮かべる王妃ゼノビア、しかしその顔にはどこか不安そうな色を残す。

 

「あのお方が中央大陸に向かったクルンとオーランド王国の大剣聖クルーガル・ウォーレンを引き連れて魔都総合武術大会に出場した理由は一体なんであると思う?」

「そうですね、ご自身が出場することになった件は大剣聖クルーガルのいたずらだと思いますが、二人を出場させた件に関しては」

そう言い城下に視線を向けるゼノビア、その瞳はどこか遠くを見つめ。

 

「昨年の事であろうな」

「そうでしょうね」

 

「やっぱ怒ってるよね~、どうしよう。ねえゼノビアちゃん、この際謝りに行っちゃう? 土下座したら許してくれるかな? 確かケビンさんって勇者物語が大好きなんでしょ? 土下座って剣の勇者が広めた最上級の謝罪の作法だったっけ?」

もう無理、取り繕っていらんない。だってあの存在が乗り込んでくるって、クルンとラビアンヌを送り込んだことが原因以外の何物でもないじゃん、メルルーシェの報告でもマルセル村に連れて行ったとき結構切れてたって話だったじゃん!!

今日から始まる魔都総合武術大会、絶対にただじゃすまないっしょ。

頭を抱える私の背中をそっと支えるゼノビア。私はそんな彼女が差し出したコップを受け取ると、王城の調薬師が処方した胃薬を口に放り込むのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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