澄み渡る青空の下、魔都総合コロシアムに設置された闘技舞台の上では、各予選会を通過した参加選手たちがこれから始まる祭りを前に気分を高揚させていた。
“ドーンッ、ドーンッ、ドーンッ、ドーンッ”
空に向け打ち鳴らされる空砲、上空ではワイバーンやグリフォン、ビッグバードといった飛行系魔物が、獣操士と呼ばれる者たちに操られ見事な空中ショーを繰り広げている。
アッ、魔導士が光属性魔法と火属性魔法で花火を打ち上げた。流石魔都総合武術大会、オープニングショーにめっちゃ気合入ってるし。
って言うかこの光景をオーランド王国の人間が見たら腰を抜かすんだろうな~、“ワイバーン部隊、何それ、美味しいの?”状態だもんな~。
二年前の堕天使による魔国乗っ取り作戦、アレが成功してたらマジで世界がヤバかったかも知れない。今の様子を見るに魔国の軍事力に対抗できそうなのってバルカン帝国くらいなんだよね、料理長の報告書によればバルカン帝国の軍事力って“策略のホーネット”が国中からかき集めた不遇の天才たちによって底上げされたものだったって事だし、彼が表舞台から退いた今対抗手段も限られるんじゃないかな。
“転生者による最悪の未来に対する予言”、そんな曖昧なものに真剣に耳を傾け人生を賭して対策を行ったホーネット・ソルティア卿。
決して相いれない立場ではあったけど、その生き様は尊敬に値するよね。クルーガルのクソ爺に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
で、そのクソ爺と言えば「ふむ、中々に愉快な催し物だな。私も色々な国の武術大会に赴いたが、ここまでの盛り上がりを見せる大会はそうそうないわ、しいて上げればドルメキアン商業国、セルベア冒険王国の武術大会あたりかの~」とか宣ってるし。
おいクソ爺、「見知らぬ土地の武術大会に一人で参加するのは心細かったからの」って台詞は何処から出てきたんだ、アンタめっちゃ慣れっこじゃねえか!!
まぁ俺も今更とやかく言いません、大会二日目準々決勝第四試合、直接ボコる、これ決定事項。クルーガル爺さんには“今日の試合は絶対に負けるな”と念を押して言い含めておきました。
クルーガル爺さんは常に勝つ気満々なんで余計な言葉かもしれませんけどね。
「“魔都総合武術大会の会場にお越しの皆様、大変お待たせいたしました。これより本年度魔都総合武術大会を開催いたします。
魔国王アブソリュート陛下のご来場です、皆様礼を以ってお迎えください”」
魔道具より聞こえるアナウンス、観客席の来賓席に姿を現した魔国の最高権力者にその場の者たちは頭を垂れ敬意を示す。
「“皆の者、頭を上げよ。今年もまた我々の祭りがやって来た。
力ある者よ、知恵ある者よ、そのどちらをも兼ね備えた者よ。お前たちの夢は何だ、金か、地位か、権力か。己の力を示し自らの手で夢を掴み取れ!!
魔都総合武術大会の開催をここに宣言する!!”」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~!!”””””
轟く歓声、魔国の絶対的カリスマは、力こそ全ての暗黒大陸の国民を一つに束ね、魔国を牽引し続ける。
「ふむ、分かり易いの。この暗黒大陸魔国の在り方を示すよい演説だわい」
「ですね。暗黒大陸は良くも悪くも脳筋国家ですから、クルーガル爺さんには相性がいいと思いますよ?」
俺はここぞとばかりにさり気なく思考誘導、クルーガル爺さんが大人しく暗黒大陸に残るように持っていきます。まぁそこまでしなくても結構乗り気になっているみたいなんで大丈夫だとは思うんですけどね、お守りのクルンには本当に申し訳ない。
その後俺たちは大会役員の誘導で控室に移動(希望者は闘技舞台の下で見学可)、自分たちの順番が来るまで各々時間を潰す事になるのでした。
――――――――――――
「“さぁ、始まりました魔都総合武術大会。
実況はおなじみ魔狼族のグレイシー、解説は魔王軍騎士兵団団長メルルーシェ様にお越しいただいております。
メルルーシェ様、よろしくお願いします”」
「“よろしくお願いします”」
控室でケータリングのお茶菓子を摘まんでいると、放送の魔道具から実況のアナウンスが聞こえてきます。大会役員さんに聞いたところ大会のチケットを手に入れることが出来ず魔都総合コロシアムに入る事の出来なかった者のために、コロシアム周辺や街の商店街などにもこの実況放送が流されているんだとか。
街頭放送? 文化レベルが在りし日の記憶にある第二次世界大戦前くらいなんですけど? そりゃホーネット卿が必死になる訳だわ、こんな国に侵略戦争仕掛けられた日にゃ敗戦まっしぐらじゃん、ファンタジーな魔獣と近代兵器の融合ってどんな悪夢なのさ、魔国超恐い。
それによくよく観察してみればあちらこちらに転生者の残した知識の欠片のようなものがですね、そりゃ迫害されし者たちの最後の楽園暗黒大陸、転生者が逃げ込んでも何ら不思議はないですわな。
魔国王アブソリュート様には是非このまま魔国を平和統治し続けていただきたいものです、マルセル村に大会優勝者と準優勝者を送り込んで来るのは勘弁ですが。
「“さて、第一ブロックの対戦ですが、メルルーシェ様はどうご覧になられますか?”」
「“はい、昨年同様本年度も女性の予選通過者が非常に多くみられますし、彼女達がどう立ち回っていくのかが勝負の行方を左右するかと。
昨年は大会優勝者が獣狼族のクルン選手、準優勝者がパルム一族のラビアンヌ選手と女性の台頭を象徴するような結果を齎しました。魔国全体が落ち着きを取り戻した本年度は果たしてどうなっていくのか、個々の選手の話題とは離れてしまいますが注目したい点ではありますね”」
控室は四部屋、割り振りは二ブロックずつで分かれており、第四ブロックのクルンとは別の部屋。今大会の優勝候補であるバンドリア選手が隣の部屋なので握手して貰いにいこうとしたら、大会役員さんに「試合前で集中されていますのでお控えください」と笑顔で注意されてしまいました。
笑ってるのに笑っていないって超恐い、俺あの手のタイプ苦手なんですよね、逆らえる気がしません。
「ケビンよ、ここにいても暇だ、会場に見学しに行かんかの?」
「そうですね、お茶菓子を食べててもいいんですけど、俺もさっきから観客の歓声が気になって仕方なかったんですよ」
控室では剣を手に静かに集中する者や顔見知りと談笑する者、やたらと周囲に声を掛ける者など。俺はそんな彼らを横目にクルーガル爺さんに誘われるまま、闘技舞台下の選手控え席へと向かうのでした。
「あれ、ケビンさんとクルーガルさんもいらしたんですか?」
そこには既に幾人かの選手が、闘技舞台上の戦いに目を向けながら歓声を送ったり腕組みをしたり。その中には第四ブロックのクルンが、各選手の動きを観察しながら自分だったらどう立ち回るのかといった表情を向けているのでした。
「まぁね、それでどう、第一ブロックは気になる選手とかいた?」
「そうですね、昨年の大会と比べても遜色ない程には精強な選手が揃っていますが、正直マルセル村を経験してしまいますと。改めてマルセル村の異常性を実感したと言いますか、世界の広さを感じたと言いますか」
何故か遠い目をして乾いた笑いを浮かべるクルンさん。小声で「大福ヒドラが、緑と黄色が、霊亀が・・・」と呟いていらっしゃいますが、月影メイド長はクルンに一体どんな試練を課したんでしょうか? 何かトラウマを抱えちゃってるように見えるのは俺の気のせいじゃないですよね?
“ドガッ、ドサッ”
「そこまで、勝者、カトリーヌ!!」
“““““ウワァ~~~~~~~~~~!!”””””
「“審判の手が上がった~、第一ブロックを制したのはサキュバス族のカトリーヌ選手だ~~!!”」
闘技舞台の上では口元を黒い布地で覆った女性が手を振りながら観客に応えています。
「クルン、あのカトリーヌ選手、気を付けた方がいいぞ。かなり繊細な魔力操作をしている、勝負の後だってのに全く魔力に揺らぎが見られないところを見るに、実力が分からないように隠しているって感じだな」
「ほう、やはりケビンには分かるか。あの手の手合いはほんに注意が必要だ。あの者が纏う雰囲気、搦め手と実力の双方を極めている者によく見られる感じだな。私も苦労させられたからよく覚えておる」
流石大剣聖、経験から来るその言葉には説得力と重みを感じます。それにあのカトリーヌ選手の魔力って前に見た事あるんだよね~。
俺の勘違いじゃなかったら普通に無茶苦茶強いはずなんだよな~。
「まぁ注意するに越したことはないし、気に止めといてくれればいいから」
「分かりました、御忠告ありがとうございます」
その後第二ブロック、第三ブロックとそれなりの盛り上がりを見せながら順調に試合は進み。
「“続いての第四ブロックですが、何とここにきて前大会優勝者クルン選手の登場です。クルン選手といえば昨年の魔都総合武術大会で優勝を決めた後、準優勝者のラビアンヌ選手と共に中央大陸に向かったと聞いていましたが”」
「“はい、今回再び魔都総合武術大会に出場するため暗黒大陸に戻ってきたとの事です”」
「“えっと、それはその、前々大会優勝者のジミー選手とは・・・”」
「“申し訳ありませんがそうした個人的な情報は伺っていないので何とも、ですが確かな実力を兼ね備えた上で今大会に臨んでいる事は確かなようです”」
実況のアナウンスにざわつく会場、中には「フフフッ、やっぱり筋肉馬鹿のクルンじゃ駄目だったのよ、まだ私にもチャンスが」とかいった声がですね。
ジミー、お前の追っかけは二年経った今でも健在みたいだよ。
「はじめ!!」
闘技舞台に審判の掛け声が響く、舞台上の十二名が剣を引き抜き一斉に動き始める。その時一陣の風が闘技舞台を吹き抜け、次の瞬間。
“ドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサ”
行き成り倒れだす選手たち、その場に残る者は剣を縦に構え腰を落とす女性と両手にダガーを持ち闘技舞台の端に立つメイド。
「あの剣をよく凌ぎましたね、瞬間の判断、お見事です」
「クッ、受け止めるだけで精一杯だったわよ。獣狼族のクルンが何でそんなふざけた格好をしているのかは知らないけど、とんでもない実力じゃない。全力で挑ませていただくわ」
“カチャッ”
女性はロングソードを正眼に構え、油断なくクルンを睨みつける。クルンはそんな彼女に微笑み掛けながら、両手のダガーを腰の鞘に戻すと「この場は少々散らかっておりますので」と言って不意に気配を消す。
“バッバッバッバッバっバッバッバッバッバッ”
それは黒い疾風、闘技舞台上を駆け抜ける風に翻弄される女性選手。
「クソッ、私を混乱させて隙を突こうとしたって、そうはいかないわよ」
首を左右に振りながら小刻みに油断なく姿勢を変える女性選手と高速で移動するクルンの心理戦に観客席から大きな歓声が送られる。
「さて、これで存分に戦えますね」
その声は女性選手の背後から掛けられた。咄嗟に飛びのき向きを変えた彼女は、次の瞬間驚きの光景を目にする事となる。
それは両手にダガーを持ち佇むクルンの背後に整然と並べられた倒れた選手たちの姿。クルンは自分の周りを移動して動揺を誘い隙を突こうとしていたんじゃない、足下に転がる倒れた選手たちをどけて場を整えていたという事実に唯々驚愕する。
「さぁ、参りますよ?」
“シュパンッ、カキンッカキンッカキンッカキンッ、ドスドスッ”
“グホッ、ドサッ”
「受け止められましたか、やはりあなたは中々にお強い。これからも精進を重ねられますよう」
「そこまで、勝者、クルン!!」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~!!”””””
上がる歓声、向きを変え闘技舞台を下がっていくクルン。女性選手は薄れゆく意識の中、その後ろ姿をただジッと見詰め続けるのであった。
ってかクルンツエー、俺は立ち去っていくクルンの後ろ姿に、“月影、これやり過ぎじゃね?”と思わずにはいられないのでした。
本日一話目です。