「さて、次は私の番かの。クルンがあれ程魅せてくれたからには私も頑張らねばならんか」
大会役員たちが忙しなく駆け回り救護班の者たちと共に闘技舞台上に倒れる選手たちを運び下ろしていく。クルーガル爺さんは愛剣(木剣)を手にすると、意気揚々と闘技舞台の石段を上がっていく。
「おいおい、誰だよこんな所に墓場に片足突っ込んだような老いぼれを入れた奴は。そこの爺さん、悪い事は言わねえ、ケガしないうちに棄権しちまいな。
魔都総合武術大会の本戦の闘技舞台に上がったってだけで十分土産話は出来ただろう、この大会はマジで命の危険があるんだからよ」
獣人族だろう頭に大きな二本の角を持った巨漢が心配そうにクルーガル爺さんに話し掛ける。
「そうよお爺ちゃん、棄権する事は何も恥ずかしい事なんかじゃないの。毎年ひょんなことで予選通過しちゃう人がいるんだけど、そういう人って実力が伴わなくて大概大ケガをしたりするのよ。
お爺ちゃんは隅の方にいれば襲われる事もないから、なるべく早く舞台から降りた方がいいわよ?」
下半身が蛇の胴体を持つ女性が髪の毛をウネウネさせながら忠告の言葉を向ける。って言うかあの髪の毛、よく見たら蛇じゃん。もしかしなくても伝説の魔物メデューサだったりしちゃうのかな? 腰から上は甲冑姿のバルキュリアって感じだけど、身体の特徴がメデューサのそれだよね? 視線で相手を石化させちゃうってアレだよね?
「ふむ、御忠告感謝する。魔国の戦士は皆優しいの、この大会に出て正解だったわい。これでもこの歳まで様々な戦場に赴き生き残ってきた身、引き際は弁えておるよ。今はこの祭りを楽しませてもらおうかの」
そう言いニヤリと笑みを向けるクルーガル爺さんに肩を竦める二人。
「“さぁ、続いての第五ブロック、どういった戦いになるんでしょうか”」
「“そうですね、この第五ブロックには昨年準々決勝に勝ち上がったケチュア選手や予選会を単独通過したメデューサ族のアレクサンドラ選手がいますから、他の選手にとってはかなり厳しい戦いになるのではないのでしょうか”」
会場に流れる実況の声に改めて闘技舞台に目を向ければ、確かに人数が少ないのが分かる。そしてあの蛇の女性は本当にメデューサだった模様、クルーガル爺さん大ピンチ。
「はじめ!!」
闘技舞台に響く審判の掛け声、それと同時に剣を抜き駆け出す選手たち。
で、クルーガル爺さんは一人寂しくお留守番状態、誰がどう見ても安パイな爺さんよりより危険な強敵を倒しに向かう辺り、暗黒大陸の者たちの脳筋振りが窺えます。
「フフフ、みんなごめんね~、ちょっと早いけど本気出させてもらうわね~。<剛腕剛脚><天下布武>、“我が前に敵なし、我が後言うに及ばず。天下無双!!”」
“ムキムキムキムキ”
突如妖艶な美女からムキムキ筋肉ダルマに変貌したケチュア選手、そんな彼女に大剣を持った偉丈夫が切り掛かる。
“ガキンッ、ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン、ドガッ、ドゴーーン”
呻き声と共に吹き飛ぶ偉丈夫、戦いを終えたケチュア選手は「先ずは一人」と呟きながら次の獲物に剣を向ける。
“ハッ、カキンカキンカキンカキンカキン”
メデューサ族のアレクサンドラ選手は蛇の身体からは想像も付かないような軽いフットワークでサーベルを振るい、次々と相手を追い詰める。
「もらったー!!」
そんな彼女の後方から地面に這う胴体へ切り付けようとする人影、だがそんな事をメデューサ族の戦士であるアレクサンドラ選手が予測しない訳もなく。
“ブォンッ、ドガンッ、ブハラ~”
背後を見る事もなく振るわれた尻尾の一撃により吹き飛ばされた人影、アレクサンドラ選手はそんな事は気にも留めないとばかりに目の前の相手を倒しに行く。
試合開始から暫し、闘技舞台の上で立っているのは最初にクルーガル爺さんに声を掛けた獣人族の巨漢とメデューサ族のアレクサンドラ選手、筋肉ダルマ状態のケチュア選手と全く出番なしでただ突っ立っていただけのクルーガル爺さん。
「寂しいの~、誰も私と遊んでくれん。折角の祭りなんだから構ってくれても良いであろうに」
「あん? 爺さんまだいたんかよ、この筋肉姉ちゃんは本気でヤベーから早く舞台から降りちまいな。こいつの相手は俺がするからよ」
そう言いシッシッと左手の甲を振る巨漢。
「何よ失礼ね、私は老若男女分け隔てなく接してるだけよ? ちゃんと致命傷は避けているのよ? 愛情深いって思わない?」
「いえいえ、そのお身体で分け隔てなくされては挽き肉が量産されるだけなのでは? どの口が愛情深いと仰るのでしょうか?」
然も不満といった表情をするケチュア選手と、透かさずツッコミを入れるアレクサンドラ選手。
「ふむ、やはり見た目が老いぼれだと遊んでくれる者もおらんのか、歳は取りたくないものだ」
“ゴウンッ”
瞬間、強大な覇気が闘技舞台を支配する。その場にいる三人が咄嗟に飛びのき、剣先をクルーガル爺さんに向ける。
「おぉ、嬉しいの、漸く遊んでくれるのかの。それではまずメデューサ族の娘さんに手合わせを願おうかの」
“バッ、ズバーーン”
一瞬で姿を消したクルーガル爺さんは瞬きの間にアレクサンドラ選手に肉薄、そのまま木剣の一振りで両手のサーベルと丸盾を吹き飛ばす。
“ズドンッ、グホッ”
木剣の柄による胴打ちにより石畳に倒れ込むアレクサンドラ選手、だがこの隙を逃すまいと巨漢の横薙ぎがクルーガル爺さんを襲う。
“ブォン”
「ク~ッ、堪らんの~。その容赦のなさ、それでこそ暗黒大陸の戦士だわい」
クルーガル爺さんは咄嗟に巨漢の脇をすり抜け、背後から右膝裏を蹴りつける。堪らず態勢を崩す巨漢の首筋に容赦なく木剣を叩きつけるクルーガル爺さん。
“ドサリ”
倒れる巨漢、残るはクルーガル爺さんとケチュア選手のみ。剣を構え油断なくクルーガル爺さんを見据えるケチュア選手、その額からはいつのまにかじっとりとした汗が流れる。
「お爺さん、あなた、一体何者なのかしら?」
「うむ、私か? そうだな、中央大陸のとある国で大剣聖と呼ばれるただの年寄りよ。所詮は老いぼれ、若い者の相手は骨が折れるて。
じゃがまぁ、負けたくはないかの?」(ニチャ~)
クルーガル爺さんの言葉に口をパクパクさせるケチュア選手。
「阿呆~~~、そんな大物が大会に参加するな~~!! もういい歳なんだから来賓席でふんぞり返ってろ~~!!」
「いやじゃ~~~~、何処の国に行ってもお偉方の傍で退屈な時間を過ごさせられるだけなんじゃ。お主らばかりズルいであろう、私にも遊ばせろ~~~!!」
“ガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキ、ドガドガドガドガ、ガキガキガキガキ、バッ、バッ、バッ、ガキガキガキガキガキガキガキガキガキガキ”
ケチュア選手の振るう剛剣を絶妙なタイミングで受け流すクルーガルの爺さん、スキルではない技術による“パリー”は見ているものに感動を与え、大きな歓声が観客席から沸き起こる。
「ワッハッハッハッ、楽しいの、堪らんの、ほれほれ、お主も楽しまんか」
「何なの、何なのよこの爺さん。強いなんてもんじゃないじゃない、何でこの私が弄ばれてるのよ~~~!!」
ケチュア選手の絶叫が響く中、クルーガル爺さんがボツリと呟く。
「これは礼じゃ、確りと受け取るがよい。剛剣<ドラゴンブレイク>」
世界から色が抜ける、音が消え、水しぶきが丸い球になり、周囲の全てが酷く緩慢な動きを見せる。
“ズバンッ”
それは美しいまでの横薙ぎ、胴を切り裂き背後に走り抜けるクルーガル爺さんを、ケチュア選手の瞳が捉え続ける。
“ドサッ”
“““““ウワァ~~~~~~~~~~~!!”””””
途端世界に色が戻り音が帰ってくる、闘技舞台の上に仰向けに倒れるケチュア選手の姿に審判が勝敗を告げる。
「ふむ、中々に楽しい試合であった、またいつかやり合いたいものだの」
クルーガル爺さんは倒れるケチュア選手にそう声を掛けると、高笑いをしながら舞台を降りていくのであった。
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クルーガル爺さん、めっちゃ笑顔なんですけど。本当に人生謳歌してるよな~、前にボビー師匠が大剣聖クルーガルとナンパ師メルビンとの三人で組んで各地に赴いていた頃の話を聞かせてくれたけど、苦労の連続だったらしいからな~。自由人二人に挟まれた常識人のボビー師匠がどれ程大変だったか、気が付いたら白金級冒険者って意味が分からなかっただろうな、うん。
しかも変なところで頭が切れる上に剣術の腕は天下一品だから質が悪い、前にマルセル村の食堂で三人が揃った時も昔の苦労話で盛り上がってたもんな~。
「ほれ、次はケビンの番だぞ? 手を抜かずにちゃんと勝ってくるんだぞ?」
「分かっとるわい、明日の準々決勝ではズタンズタンのギッタンギッタンにしてやるから覚悟しておけ!!」
そう言い大会役員さん方による試合の片付けが終わった闘技舞台に向かう俺氏。集まってきた選手は総勢六名って少な!? どうやら俺の組以外も四名を下回っての予選通過だったようです。
「“続いての第六ブロックですが、なんと二組が単独での予選通過となっていますね”」
「“そうですね、ケビン選手とヴァンパイア族のデメトリウス選手ですが、どちらもなかなか興味深い勝ち上がり方をしています”」
「“ほう、それは一体どういったものなのでしょうか?”」
「“はい、両者ともほとんど戦闘らしい戦闘は行わず、最後は相手を場外に落としての勝利であったとか。そんな両者がこの後どういった戦いを見せてくれるのか興味が尽きません”」
実況アナウンスからの解説に“ワザとじゃないんだよ~!!”と叫び出したくなる俺氏、だって自分が出場者扱いされてるだなんて知らなかったんだもん、これってめっちゃ黒歴史なんですけど?
「はじめ!!」
審判からの開始の合図にバッと別れて警戒の構えを取る選手たち。そして何故か俺に二人、黒いマントを羽織った長身の男性に二人。これはもしかしなくても警戒されちゃってます?
「どんな手段を使ったのかは分からんが、危ない奴は最初に排除する。俺たちは後からじっくり勝敗を決めさせてもらうよ」
「こうした共闘も作戦の内だ、悪く思うなよ?」
同じ組で予選突破した者同士に生まれる連帯感って奴ですか、どうせなら自分たちの組から準々決勝進出者を送りたい、その気持ち何か分かります。
アレですよね、甲子園で出身県の代表校を応援したりオリンピックで母国の選手を応援したくなっちゃう奴ですよね。俺だって同じ組から予選通過者がいたら同じ事したかもしれませんし、文句は言いません。
「フゥ~~~~~、了解した、俺の全力を以って応えよう。ラビット格闘術奥伝ケビン・ワイルドウッド、推して参る!!」
“シュタンッ”
ラビット格闘術の基本は高速の突進、全ての技はこの突進に始まり突進に終わる。
「馬鹿が!!」
突っ込んでいく俺に対し突きで対抗しようとする剣士、だがその程度の事は想定済み。
「掌底、肘打ち」
“バンッ、ドガッ”
剣の側面を打ち剣筋を逸らしたところに勢いを殺さず肘を叩き込む。
「<横薙ぎ一閃>」
そんな重なり合うようになった俺と剣士に向かい、残った剣士が横薙ぎの武技を叩き込む。だがバトルロイヤルに於いて本当の意味での共闘が存在しないことなど基本中の基本、俺は前に転がるように身を躱すと一瞬だけ技後硬直を起こす剣士目掛け、下方からの蹴りを放つ。
「落ちろ、<地龍天昇脚>」
“グハッ”
顎にめり込むほどの蹴り上げに吹き飛ぶ剣士、俺が二対一の勝負に勝利した、その瞬間であった。
“ドガドガッ”
蹴り上げの姿勢で無防備に身体を晒していた俺に打ち込まれる二人の剣士の斬撃、吹き飛び闘技舞台に転がる俺の様子を眺めながら愉快そうに笑うヴァンパイア族のデメトリウス選手。
「さぁ戦いなさい、敵は目の前ですよ? 互いに剣士として全力で打ち合うのです」
デメトリウス選手の言葉に従うように咆哮を上げ打ち合う剣士たち、実力は互角、防御をかなぐり捨てた打ち合いは双方に大きな傷を負わせ、出血の末力尽きその場に跪く。
「う~ん、面白くありませんね。人同士の切り合いはもう少し盛り上がると思っていたのですが、まぁ良しとしましょう。
いずれ私が四天王の一人となった暁にはより大きな戦いの舞台をご用意いたしますから、それまで身体を労わって下さい。
大陸と大陸が憎しみ合い死力を尽くし戦う、何と甘美な響きなんでしょう。さぁ審判、私の勝利を宣言しなさい、私の伝説の始まりです」
まるで歌劇の舞台のように両手を広げ朗々と夢を語るデメトリウス選手、そんな彼の後ろでどうしたものかと頭を掻く俺氏。
「オホンッ、あ~、盛り上がってるところ悪いんだけど、まだ終わってないっす」
「なっ、貴様は一体!? 先ほど吹き飛ばされたのではなかったのか!!」
咄嗟に身を翻し警戒の構えを取るデメトリウス選手、俺には分かる、コイツは拗らせてしまっているのだと。
「あぁ、うん、まぁ、いくよ? <ヤクザキック>」
「ふん、そのような攻撃が私に効くと思っているのか? 人は本当に愚かで下等な生き物だ、身体を霧に変える事の出来る私にはあらゆる物理攻撃は無効なのだグホッ!?」
何か余裕をかましていたデメトリウス選手が、身体をくの字にして蹲ってしまわれました。見た目通り打たれ弱かった模様、だったら何故避けない。
「何故だ、何故貴様の攻撃が私に通るのだ!! そんな何の変哲もないただの蹴りが「ラビット格闘術<百連脚>」グワ~~~~~」
“ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ”
怒涛の連撃に為す術なく吹き飛ぶデメトリウス選手、さっきまでの大物感は一体・・・。
「グホッ、許さん、許さんぞ!! 我が傀儡として使ってやるような慈悲など与えぬわ、“剣を拾い自ら命を絶つがいい”」
フラフラと立ち上がり瞳を赤く光らせ、ビシッと俺を指差しながら怒りの形相で叫ぶデメトリウス選手。
俺は言われた通り闘技舞台に落ちている剣を拾い上げるとおもむろに上段に構え。
「少しはまともに戦え、この勇者病<仮性>野郎~~!!」
“バコバコバコバコバコバコバコバコ”
剣の側面を向け只管タコ殴りにする俺氏。“同病相憐れむ”と申しますが、同じ勇者病<仮性>重症患者としてちょっと許せなかったものでつい。
デメトリウス選手には確りと心を入れ替え、包帯を左手に巻いて“封印されし邪神の欠片が~~!!”あたりからやり直して欲しいと切に願うのでありました。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora