転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第797話 辺境男爵、魔都総合武術大会本戦に臨む (二日目)

魔都総合武術大会初日はクルン、クルーガル爺さん、俺と、皆が無事準々決勝に駒を進めることが出来た。俺的には対戦相手の勇者病<仮性>野郎に確りと教育的指導が出来たので結構満足です。

でも暗黒大陸の勇者病<仮性>患者は下手に魔法も使えちゃうから質が悪いよね、趣味は趣味として自覚しているからこそ楽しいんであって、現実との区別がつかなくなってしまうのはちょっといただけません。

確かデメトリウス君といったかな? 役に入るんだったらより本格的に入らないと、無敵キャラを演じるには最低エミリーちゃんの拳を受けて「中々良いパンチだよ、よく頑張ったね」(ニッコリ)くらい言ってのけないと駄目だよね。魔都総合武術大会に出場しようって気概は認めるけど、勇者病<仮性>の道を嘗めてはいかんのです。

 

「しかしバンドリア選手の戦いは相変わらず豪快だったな~、ただ両手を大きく広げて闘技舞台を走り回るだけ、それだけで勝負を決めちゃうんだもん、流石は最強種族の龍人族」

「うむ、それもそうだがその前の第七ブロック、巨人族のドーバンといったか。あの巨体にして確かな理を理解した棒術、あのようなものただの厄災であろうが。並大抵の修練ではあの領域には登れまい、ほんに暗黒大陸は私を驚かせてくれよるわい」

 

大会初日が終わりウインダム副ギルド長の屋敷に戻った俺たちは、今日の各選手の戦いを振り返りながら盛り上がる。それぞれが確かな実力で勝ち上がってきた者たちによる誇りを懸けた戦いは(デメトリウスの馬鹿は除く)、どれも皆心踊らせる素晴らしいものであった。

 

「クルンの明日の対戦相手は武勇者シルフィードだったっけ? 二年前にバンドリア選手と準決勝で戦っていた」

「はい、彼もバンドリア同様昨年度の大会は出場せず己を鍛え直していたとか、今大会ではバンドリアに雪辱を果たし必ずや優勝の栄光を手にすると宣言しております。

私も前年度優勝者として全力で応えるつもりです」

そういい獰猛に口元を歪めるクルン。クルンさ~ん、マルセル村の修羅の顔になっちゃってますよ~、スマイルの方向性がメイドじゃないですよ~。

 

「私は久方ぶりにケビンと戦えると思うとワクワクが止まらんぞ。お主はなんやかんやと理由を付けては戦いを避けるのでな。

偏屈屋や鬼神も少しは自分たちに付き合えと不満を漏らしておったぞ?」

まるで漫画肉みたいな骨付き肉を豪快に頬張りながらクルーガル爺さんが無茶な要求を突き付けて来ます。

 

「あのね、俺は何度も言うけどマルセル村でのんびり気ままに暮らしたいの、偶にお出掛けしたりするのも楽しいけど、基本引き籠りなの。

戦闘の相手だったら大福や緑や黄色がしてくれるでしょうが、そっちで満足しなさい」

俺は深皿によそわれたトメートの煮込みスープにパンを浸してから口に運びます。本当に暗黒大陸の食事はバラエティー豊かでおいしいわ~。

各地から逃げ延びた人々が自分たちの知識を惜しげもなく提供した結果、このような新しい食文化が花開いたのでしょう。まるで移民国家、暗黒大陸を切り開いた偉大な先人たちに乾杯です。

 

「何を言うか、あれらとの戦いも確かに心踊るものがあるが、そんな者たちを従えマルセル村最強の座に君臨し続けるのはケビン、お主であろう。年に二回の祭りの時にしか挑戦出来んのは殺生であろうが、せめて年に三回、いや四回はだな」

「だ~か~ら~、俺はのんびりしたいだけの村人なの、趣味で修羅をするのは構わないけど俺まで引き摺り込もうとするな~!! クルンもその目で俺を見ない、完全に据わってるから、決まっちゃってる修羅の目だから!!」

 

魔都総合武術大会、それは己の中に眠る獣を呼び起こすある種の儀式なのかもしれない。

俺は夜中に身体が疼いて眠れない(戦闘欲求)などと言って襲い掛かってくる野獣に備え部屋にガチガチの結界を施しつつ、自己領域への扉を抜けマルセル村の屋敷で子供たちに癒されてからぐっすりと眠るのでした。

因みに最近アルバ君が「バ~バ~、ぎゃんぎゃってね」と言ってくれるようになりました。子供たちの成長が仕事の励みになる今日この頃です。

 

――――――――――――

 

“ドーーンッ、ドーーンッ、ドーーンッ、ドーーンッ”

晴れ渡る空の下、打ち鳴らされる空砲の音が木霊する。魔都総合武術大会会場の魔都総合コロシアムには前日に引き続き多くの観客が詰め掛け、開場前の時間にもかかわらず大いに盛り上がりを見せている。

 

「ほんに魔国の者たちはこの祭りが好きなのじゃな、オーランド王国の王都武術大会もそうじゃが、やはりこの手の力比べは皆心踊るものがあるという事なのじゃろうて」

「そうですね。特にここ暗黒大陸はちょっとした油断が命取りになる危険地帯、そんなどこか心休まる事の出来ない人々にとって、魔都総合武術大会という娯楽は俺たちが思っている以上に重要なものなのかもしれません」

 

在りし日の記憶にあるリオのカーニバルや青森のねぶた祭、祭りに人生を懸けるという人々は存外世界を超えて存在しているのではないかとつくづく実感させられる。

 

「まぁどう言いつくろっても剣が凶器である事は変わらん、じゃが私らはその道から逃れることが出来ん愚か者よ。そんな私らの姿が喜びへと変わるのであるのならそれに越したことはあるまいて。

ケビン、そしてクルンよ、今日は存分に楽しもうぞ」

そう言い満面の笑みを浮かべるクルーガル爺さん。

 

「そうですね、難しい事は考えず一戦一戦を全力で楽しませていただきます」

その声に応えるように柔らかい笑みを浮かべるクルン。

 

「クルーガル爺さん・・・、なんかいい事を言ってるみたいに纏めてるけど、俺、今回の事全然許してないからね? クルーガル爺さんをギタンギタンのズッタンズッタンにするのは決定事項だから、絶対に逃がさないから」

「ワッハッハッハッ、それでこそマルセル村の最凶、“理不尽ケビン”よ。ここから先は剣で語り合おうぞ。カ~~~、試合の始まるのが待ち遠しいわい」

そう言い高笑いをしながらコロシアムの選手入場口に向かうクルーガル爺さん。俺は“クッ、何か負けた気がする、悔しい~~!!”と思いながらも、こんな何物にも縛られない自由な生き方もなんか格好いいなと、クルーガル爺さんが人々に好かれ尊敬される事にどこか納得するのでした。

 

「“いよいよ始まります準々決勝、注目のカードが出揃いましたが、メルルーシェ様は今回の準々決勝の対戦表をご覧になられて如何思われましたか?”」

コロシアム内の選手控室、観客の入場が始まったのか放送の魔道具からは大会を盛り上げるべく実況のアナウンスが聞こえ始める。

 

「“そうですね、今大会は初出場でありながら準々決勝に勝ち上がった者やすでにその実力を広く知られた者など、本当に楽しみな対戦が多くみられます。

中でも注目は第四試合、巨人族のドーバン選手と龍人族のバンドリア選手の戦いではないでしょうか。巨人族と龍人族は暗黒大陸屈指の最強種族と呼ばれる者たちです、その両種族から代表として名乗りを上げたこの両名がどういった試合を繰り広げるのか、見逃す訳にはいきません。

それと忘れてはならないのが昨年度優勝者であるクルン選手と大会の常連でもあります武勇者シルフィード選手との対戦でしょう。

双方とも速さを武器にした戦闘を得意とする者同士、この対戦も楽しみでなりません”」

 

解説のメルルーシェさんの巧みな話術、俺も出来れば観客席で屋台飯を摘まみながらゆっくり観戦したかった。まぁどのみちチケットがないから無理だったんですけど!!

闘技舞台下の選手控え席は飲食禁止なんだもん、大会役員さんから「お食事でしたら選手控室でお願いします」って言われちゃったんだもん。

確かにケータリングのお菓子や摘みは美味しいけどもさ、そうじゃないんだよ、試合を見ながら摘まむのがいいんだよ!!

 

「ケビン選手、入場をお願いします」

俺がそんなくだらない事を考えていると大会役員さんからのお呼びの声が。俺は控室の席を立つと、大会二日目の開会式を行うため闘技舞台へと向かうのでした。

 

「“準々決勝第一試合はサキュバス族のカトリーヌ選手と、獣人三大氏族の一角、黄虎族のブルーノ選手です。ブルーノ選手は前々大会に於いて初出場ながら準々決勝に駒を進めた実力者、惜しくもジミー選手に敗れはしたものの獣人族の伝説として語り継がれる“獣化”を果たした事は鮮烈な記憶として皆様の心にも残っている事でしょう。

果たして初出場で準々決勝に駒を進めたカトリーヌ選手はこの強敵にどう立ち向かうのか、審判の合図が上がります!!”」

 

大会二日目の開会式で準々決勝進出者の紹介が行われてすぐの第一試合、俺たちは闘技舞台下の選手控え席で試合の様子を見る事に。

 

「フゥ~~~~、あの敗北から二年、俺は自分自身と向き合う事で自らの力を理解し操ることが出来るようになった。ジミーの奴に言われちまったからな、“いくら強大な力であろうとそれを使いこなせなければ格下に負ける事もある”ってよ。

結果俺はアイツに負け、ジミーは大会優勝を果たした。悔しさよりも己の不甲斐なさに腹が立ったよ。

カトリーヌっていったか、悪いが最初から全力で向かわせてもらう。黄虎族の意地と誇りに掛けて、俺は魔都総合武術大会を制する!!」

 

“ブォッ”

ブルーノ選手の身体から吹き上がる金色の魔力、それは己の力と向き合いブルーノ選手が手に入れた正真正銘の自身の力。

 

“グォーーーーーーーー!!”

その場に姿を現した金色の虎、ブルーノ選手の上げた咆哮が魔都総合コロシアムをビリビリと揺さぶる。

 

「切っ掛けは魔道具による強制的な能力の引き上げ。“万魔の指輪”、成り立ての新兵を将軍クラスの戦士に引き上げる魔導アクセサリー。

次期魔王軍の主力装備になるはずであったそれの単なるお披露目要員であったあなたが、今や本物の力を手に入れた。その努力と研鑽は素直に称賛いたしましょう。

ですがあなたはまだ若い、これからのあなたに必要なのは経験です。

世界は広い、あなたの知らない強者がこの世界にはゴロゴロ存在します。私もまたその強者に惹かれてしまったものの一人、あなたがより高みを目指す事を心より応援しますよ。“妖艶妖魔、乾坤一擲”」

 

“ブォッ”

腰鞘のショートソードの柄に手を掛け、左足を後方に引き腰を落とす。全身から濃いピンク色の力を噴きあがらせ目の前の黄虎を見据えるカトリーヌ選手。

 

“シュタンッ”

“スタンッ”

勝負は一瞬、瞬きの間に飛び出した両者の攻撃がすれ違いざまに火花を散らす。

 

“ガクッ”

石畳に膝を突いたのはカトリーヌ選手であった。その背中には肩口からバッサリと爪に切り裂かれたような傷口が残り、勢いよく鮮血が噴き出す。

 

“グルルル”

そんなカトリーヌ選手をゆっくりと振り返るブルーノ選手、だが。

 

“フラッ、ドサッ”

「勝者、カトリーヌ!!」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~!!”””””

 

審判から上げられた勝利者宣言、闘技舞台下に控えていた救護班が急ぎ舞台に上がりブルーノ選手の治療を始める。

カトリーヌ選手はゆっくり立ち上がると救護班の者と一緒に闘技舞台を降りていく。

 

「熱い戦いであったな。両者ともあの一瞬に己の全てを賭けたのであろう。

勝負は紙一重といったものであった。あのブルーノという若者、まだまだ強くなるぞ。ほんに暗黒大陸は何処まで私を楽しませてくれるのか、この身体の疼きを早くどうにかしたいわい」

「落ち着けクソ爺、気持ちは分かるけどな。クルン、今の戦いに当てられて高ぶり過ぎるなよ? 相手はバンドリア選手ともいい勝負をした強敵だ、いつも通りにな」

 

「はい、いつも通りですね。いつも通り・・・大福ヒドラが、緑と黄色が、霊亀の尻尾が・・・。

アァァァァァァ、早く戦わせろ~~~~、敵は倒さないと、倒さないとこの地獄は終わらないんだ~~~~~!!」

・・・ヤベッ、クルンの変なスイッチ押しちゃった。って言うか完全にトラウマ抱えちゃってるんですけど、今度残月のカウンセリングを受けさせないとまずくね?

俺は先程の名勝負の余韻も吹き飛ぶクルンの変貌ぶりに申し訳なさを感じつつ、一人の人間をここまで追い込む月影のメイド教育に、戦慄を覚えざるを得ないのでした。

 




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