“カツンッ、カツンッ、カツンッ”
凄まじい準々決勝第一試合の後、大会役員さん方により清掃が行われた(血やらなんやら)闘技舞台に向かいゆっくりと石段を登っていくクルン。
第二試合の相手は魔都総合武術大会の常連にして武勇者のシルフィード、強敵を前にやや俯き気味なクルンの表情は、闘技舞台下の選手控え席から応援する俺たちには窺い知ることが出来ない。
「“さぁ準備が整ったようです。続いての第二試合は皆様おなじみの魔都総合武術大会本戦出場の常連、“山落としのシルフィード”。前々大会でのバンドリア選手との激闘は手に汗握るものがありました。前大会はバンドリア選手同様修行のため不参加ではありましたが、その分今大会での活躍が期待されます。
対するは前大会の覇者、獣狼族のクルン選手。前日の本戦第四ブロック戦では速さと技術を兼ね備えた危なげない戦いぶりで、私たちにその強さを強く印象付けてくれました。
メルルーシェ様、この戦いはどういった展開が予想されますでしょうか”」
「“そうですね、シルフィード選手といえば巨大アイアンタートルを単騎討伐した武勇の残るSランク討伐者ですが、その戦闘スタイルはスピードとテクニックを兼ね備えた技巧派です。同様に速さと技術で対抗するクルン選手ですが、ここでシルフィード選手のパワーがどう影響するのか。
破壊力の一点においてはシルフィード選手に分があるように思われます”」
実況アナウンスの解説が、的確に両者の違いを示す。Sランク討伐者のパワーにクルンがどう対抗するのか、観客の注目が集まる中、審判の試合開始の合図が告げられる。
““バッ””
走り出したのは両者同時であった。
“ガキガキガキガキガキガキガキガキ”
両手にダガーを握るクルンは、手数という点においてシルフィード選手に圧倒的な優位性を持つ。だがシルフィード選手はロングソードを巧みに操ることでクルンの接近を阻止、逆に力により押し返し始める。
「クッ、鬱陶しい程の手数だ。しかもダガーとは思えない重い打ち込み、一体どうなっている!!」
「アッハッハッハッ、敵だ、敵だ、敵だ。敵を倒せばこの地獄は終わるんだ。<双剣乱舞>」
瞬間まるで複数人に分裂したかのようにクルンの身体がぶれ。
“ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ”
集団に囲まれ集中攻撃を受けているかのようにダガーを打ち込まれるシルフィード選手。
「グワァ~~~!! くそ、<回転切り>」
力強い振り抜きでクルンを押し返したシルフィード選手は、そこに生まれた隙を利用し後方に下がり体勢を整える。
「この狂い狼め、一気に仕留める、<重撃・雪崩崩し>!!」
それはシルフィード選手による面の攻撃、狙った獲物を確実に仕留める逃げ場のない斬撃の嵐。
“ズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガ”
“““““ウワァ~~~~~~~~~~!!”””””
その激しい連撃に観客席から歓声が上がり、誰しもがシルフィード選手の勝利を確信した、その時であった。
「申し訳ありません、それは残像、気配と魔力により作り出した偽物です」
“ドガドガッ”
気配無く背後から浴びせられた打ち込み、呻き声を上げる事もなくその場に崩れるシルフィード選手。
闘技舞台に上る際の雰囲気も、戦闘中の狂いぶりも、全てはこの一瞬のためのブラフ。
「勝者、クルン!!」
“““““ウォ~~~~~~~~~~!!”””””
突然の逆転劇に興奮する観客席、クルンは観客席に向かいスカートの裾を掴んで優雅なカーテシーを決めると、静かに舞台下へと下がっていくのでした。
―――――――――――
「強かだの」
「策士ですね」
クルンさん、試合は既に始まっているとばかりに選手控え席にいるシルフィード選手に自身の狂いっぷりを見せ付け、試合開始後も狂人の演技を続けていた模様。でもあれ、多分咄嗟に思い付いたんだろうな~。
トラウマが蘇って態度に出ちゃったときにシルフィード選手からの視線に気が付いたとか、そんなところなんじゃないのかな?
まぁ結果はご覧の通り、不用意に繰り出した大技に待ってましたとばかりの“空蝉の術”、ワイルドウッド男爵家使用人の基本技術ですね。
「特殊使用人部隊“月光”の隊員でしたら、この程度当然です」って月影が言ってたし、魔力制御と魔力操作、それと覇気の操作を駆使すれば普通に出来るしね。
俺が前に「フッ、残像だ」ごっこをしてたのを見て取り入れたって言ってたし、楽しんでいるようなら何よりです。
「さて、私たちの番だな。久々に愛剣を・・・」
「あっ、やめておいた方がいいですよ? おれ、これ使うんで」
そう言って俺が収納の腕輪から取り出した物は、穂先の無い槍の柄のような真っ直ぐに伸びた紺色の棍棒。
「なっ、ケビン、その棍棒は」
「“棒”の申し子ケビン、全力で挑ませていただきますね」(ニヤリ)
俺は久方ぶりに取り出した“最強生物の牙から作り出した棍棒”を手に、ルンルン気分で闘技舞台に上がるのでした。
「“続きまして第三試合ですが、両者とも初出場にして準々決勝に駒を進めた期待の新人です。メルルーシェ様はこの二人について何か情報がお有りでしょうか?”」
「“はい、彼らは中央大陸の某国から魔都総合武術大会に参加するため足を運んだ者たちであると聞いています。前日の試合を見ていただけた方はお分かりになると思いますが、両者の実力は本物。これは未確認ではありますが、老齢のクルーガル選手は中央大陸において大剣聖と呼ばれる人物であるとの情報が入っています”」
解説のメルルーシェさんの言葉に、会場にどよめきが走る。大剣聖の称号、それは強さ第一主義の暗黒大陸においても大きな意味を持つのだろう。
「“そしてケビン選手の情報なんですが”」
「“おっと、ケビン選手にも何か凄い秘密があるのでしょうか!?”」
「“前々回の大会優勝者、ジミー選手のお兄さんです”」
「“・・・・・・”」
静まる実況アナウンス。って言うか観客席も静かになってるんですけど?
「「「「「そんな訳あるか~~!! 鏡見てからものを言え!!」」」」」
「「「「「騙るならもっと信憑性のある事言いなさい!! 喧嘩なら買うわよ!!」」」」」
会場中から浴びせられる罵声、イヤイヤイヤ、そりゃ似てないって自覚はあるけどもさ、そこまで怒らなくてもよくね?
「“なるほど、義理の兄弟という事ですね。養子や再婚、母親や父親が違えば似てない兄弟もいますし、兄弟の契りを交わした義兄弟何っていうのも・・・”」
「“いえ、実の兄弟だそうです。弟のジミー選手は母親譲りの容姿と父親譲りの逞しい身体を、対して兄のケビン選手は父親譲りの容姿と母親譲りの小柄な体形を。ご本人もよく似ていない兄弟と言われると仰っていました。
ですがこの場に立つという事はその強さにおいて似たもの兄弟であるかと、どのような対戦を繰り広げてくれるのか楽しみです”」
メルルーシェさんの補足説明にブーイングからざわつき程度に収まっていく観客席、選手控え席からクルンが“大丈夫です!!”と口パクで伝えてきますが、一体何がどう大丈夫なのでしょうか。
そしてクルーガル爺さん大爆笑、俺の事を指差しながら涙を流しておられます。“なんて攻撃を仕掛けるんだ!!”って俺のせいじゃないわい!!
あと観客席、“ある意味勇者”って言うの止めろ、泣きたくなるだろうが!!
「オホンッ、双方いいだろうか? これより準々決勝第三試合を開始する、はじめ!!」
審判さんの声に俺は久々の棍棒をビュンビュン振り回します。やっぱり棒はいい、子供の頃はその辺の枝を拾っては意味もなく振り回していたんだよな~。そう言えばこのところ御神木様の枝製マイスコップの出番がないよな、穴掘り職人ケビン君、何故か王都で生活魔法講座の講師をしちゃってるし。
こうして棒を振り回していると、いつの間にか色々と自身を縛り付けている
「思えば遠くに来たもんだな」
“魔物怖い、貴族恐い、冒険者怖い、商人怖い、王都、駄目、絶対!!”とか言っていた俺が別大陸の武術大会に出場している、何処をどう間違えればこんな事になるのか、いまだに意味がよく分からない。
「さて、私が何故大剣聖などと呼ばれているのか、ケビンには説明しておらんかったの。<聖衣武装>」
“パーーーッ”
クルーガル爺さんの全身を眩しい光が包む。その光が収まった時、そこには黄金の輝きを放つ武具を身に付けたクルーガル爺さんが姿を現す。
「この世界には多くの厄災が存在し、天は人々に勇者を送り出す事で助けとした。だが勇者がいない、勇者を呼ぶことが出来ないという事は当たり前のように起こる。
自ら厄災に立ち向かい戦い続けた者たち、剣士の頂点、それが大剣聖。
今こそ我が全力を以って“理不尽”に立ち向かわん!!<聖剣乱舞>」
“ブオンッ、ブオンッブオンッブオンッブオンッブオンッブオンッ”
光の剣を振り回し迫ってくる大剣聖、俺はその悉くを棍棒で受け流す。
止まる事の無い大剣聖クルーガル・ウォーレンの斬撃、周囲からの音が消え、静寂の世界でただ大剣聖の動きだけが意識に残る。
「えっ? ここはそう動いたらいいんだ、右に左に、棒をくるっと回して受け流して」
そんな中、俺は久々に棒と対話していた。幼い頃の俺はよく棒に語り掛けていた、ブンブンと空を切る風切り音が好きだった。
「そうか、お前は俺が生まれた時からずっと一緒にいてくれたんだよな。スキル<棒>、スキル<自然人>、俺の魂の在り方にして俺の相棒。
今までもこれからも、よろしく頼むよ、相棒。<天衣無縫>」
音が戻る、クルーガル爺さんが叫ぶ、無数の斬撃が俺に迫る。
「これで終りだ、<万遍縦断>!!」
それは天から落ちる黄金の雨、輝く光の斬撃が一切の逃げ場も許さぬとばかりに降り注ぐ。
「その思い、応えよう。棒術突きの型<那由多>」
“ズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガ”
“バリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリン”
宙に爆ぜる光の粒子、それは美しい夜空の星のようにキラキラと煌めいて中空に消えていく。
「クルーガル爺さん、ありがとう。幼い頃の全てが楽しかった心を取り戻せたよ。だからこれはほんのお礼、ちゃんと終わりにしよう。
くたばれくそ爺ーーー!!<千連突き>」
“ズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガズガ”
“バリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリンバリン、ドガドガドガドガドガドガドガドガドガ”
“ゴファ~~~”
その身を覆う聖衣は光の粒子として消え去り、ボロ雑巾のようになりながら闘技舞台の石畳に吹き飛ばされるクソ爺、あ~スッキリした。
「勝者、ケビン!!」
“““““ウワァ~~~~~~~~~~!!”””””
上がる歓声、治療班が急ぎクルーガル爺さんに駆け寄っていく。
「まずい、胸の鼓動が止まってるぞ、急ぎ蘇生に掛るんだ!!」
医療スタッフの叫び声が響く、俺はつくづく面倒な爺さんだと思いながら医療スタッフを押しのけ、収納の腕輪から取り出したある物をパサリとクルーガル爺さんの顔に載せる。
「やいクソ爺、いつまで死んだふりしてるつもりだ、さっさと起きろ、次の試合の邪魔だ」
「アンタ一体何を、今は一刻を争う「ゴヘッ、ブホッ、グハッ、ウゴ~~~~~、ウェ~~~~~」・・・はぁ!?」
突然激しくのたうち回るクルーガル爺さんの様子に、呆気にとられる医療スタッフの皆さん。
「ウェ~~~、ケビンよ、一体何をしたんだ。この全身を犯すような腐臭は、グェッ」
「あぁ、これ? ゴブリンの腰巻を煮詰めて作った漬け汁に何度も漬け込んで作り上げた最凶最悪の“ハイパー腰巻DX”。ワイバーンも卒倒、これさえあれば大森林も安全に移動できる優れ物。欠点は使用者が速攻で倒れちゃうことなんですよね、そういう訳で収納に仕舞われていた危険物です。
死に掛けの爺さんも一発蘇生、いや~、役に立ってよかった良かった」
そう言い危険物を急ぎ回収する俺と未だ転げ回りながらグエグエいって苦しむクルーガル爺さん。この爺、自分の意思で心臓を止めて死んだふりしてやがったんですよ、マジで質悪いわ~。
俺は悪魔でも見るような怯えの視線を向ける医療スタッフの皆さんに後をお願いすると、意気揚々と闘技舞台を下がっていくのでした。
クソ爺の討伐完了、超スッキリ♪
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora