転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第799話 辺境男爵、魔都総合武術大会本戦に臨む (二日目) (3)

悪は敗れた。その飄々とした態度で人々を翻弄し、他人を勝手に魔都総合武術大会という修羅の祭りに引き摺り込んだ大罪人は公衆の面前で粛清された。

だが戦いの代償は大きく、魔都総合コロシアムは阿鼻叫喚の地獄と化してしまったのである。

 

「「「「「グワァ、鼻が~~~、何だこの強烈な臭いは!! ウェ~~~」」」」」

観客席のあちらこちらから聞こえる苦悶の叫び、クソ爺の粛清を行った後すぐにブツは回収したにもかかわらずコロシアム内は上を下への大騒ぎ。闘技舞台に上がった医療スタッフは治療よりも先に周囲に光属性魔法<クリーン>を掛け捲り、臭いの大元になっているクルーガル爺さんの洗浄は特に入念に行われる始末。

このクソ爺、あれでもかなり重症なんですけどね、<ヒール>は掛けなくてもいいんでしょうか?

 

俺はといえば大会役員さんからのお説教がですね、獣人さん方激おこ、あんな大量殺人兵器を二度と取り出すなと詰め寄られてしまいました。

因みにクルンは俺が“ハイパー腰巻DX”を取り出した瞬間会場から姿を消したようです。今頃何処にいるんでしょうか? 準決勝の開始までには戻ってきてくれるといいんですが。

 

「“ゴホンッ、先程は見苦しい発言をしてしまい大変失礼いたしました。ウッ、まだ少々臭いが漂ってはいるようですが、準備が整ったとの事で試合再開です。

続いては準々決勝第四試合、巨人族のドーバン選手と龍人族のバンドリア選手との対戦です。メルルーシェ様から見てこの二人の対戦はどのような形になると予想されますか?”」

「“あっ、はい、すみません、まだ気分が・・・ウェッ。しかしケビンさんは恐ろしい、あのような形で私たち獣人を無力化するとは。

特に鼻の良いウルフ種の獣人には覿面です、あのようなモノは二度と持ち込まないよう強く抗議しなければなりませんね。

えっと、ドーバン選手とバンドリア選手との対戦ですが、種族的な力は互角とも言って良いでしょう。両者とも一見力押しの戦いをするように思われがちですが、確かな技量と戦闘センスを持ち合わせた完成された戦士、その力は直ぐにでも魔王軍幹部として活躍できるほどのものと言われています。

この戦いに関しては一人の魔都総合武術大会ファンとして見守りたいと思います”」

 

会場に流れる実況アナウンスと闘技舞台に上る二人の巨漢の姿に、観客席の動揺も選手たちを応援するものへと戻っていく。

 

「久し振りだな、バンドリア。こうして正面からぶつかり合うのって何年ぶりだ?」

「そうだな、アレはまだ俺が調子に乗っていた頃だから十年以上前の事じゃないのか? よくどっちが暗黒大陸一の強者かって事で殴り合ってたっけか。あの時はいつまでやり合っても決着がつかなくて、いつの間にかうやむやになっちまってたけどな」

 

舞台上で掛けられた言葉に、バンドリア選手はどこか懐かしそうに苦笑する。自分こそが暗黒大陸一の強者である、そう信じて疑わなかった自分たち。だが二年前の魔都総合武術大会では両者とも勝負に負け、優勝は普人族のジミーに持っていかれてしまっていた。

 

「俺は武勇者ダレリアンに負けてからこれまでの自分を見つめ直して必死に努力を重ねた。周りの巨人族の者たちからは相当に馬鹿にされたけどな、これまで自身が馬鹿にしていた武勇者たちに頭を下げ教えを乞うた、お陰で何とかここまでこれたよ」

そう言い手に持つ丸太を棒術の要領でブンブンと振るうドーバン選手、その姿は美しくとても洗練されたもの。

 

「そうだな、俺もジミーに負けてから打倒ジミーを掲げて暗黒大陸中を旅して回ったよ。そこで分かった事はなんやかんや言っても俺は俺でしかないって事だったんだけどな」

そう言い握りしめた拳を見つめるバンドリア選手。

 

「双方、心の準備はいいか? これより準々決勝第四試合を開始する、はじめ!!」

審判の開始の合図が上がる。ドーバン選手は丸太をやや下方に落とすように構えを取り、バンドリア選手は膝を軽く曲げまるでレスリングの選手のように両脇を広げる。

 

“ブォン、ブォンブォンブォンブォンブォン”

先に動いたのはドーバン選手、攻城戦で城壁の門に叩きつけられる丸太の如き突きが、風を切りバンドリア選手に襲い掛かる。だがバンドリア選手はその全てを見切り、華麗なステップで躱していく。

 

「<霞落とし>」

“タンッ”

瞬間の踏み込み、ドーバン選手が突きを放った刹那バンドリア選手がまるで地面を這うように身を沈め、そのまま前に出されたドーバン選手の左足に絡みつく。

まるでその場から立ち消えるように姿を消したバンドリア選手に、一瞬驚きの表情を見せたドーバン選手。だがすぐに手首を返すや丸太の後の部分を下方に落としバンドリア選手を叩きにいく。

 

‟ドゴーーン”

強烈な打ち込みで側頭部を叩かれたバンドリア選手、だが。

 

「残念だなドーバン、最強種族龍人族はその程度の打ち込み屁でもねえのよ。<餓龍回崩撃>」

“グルングルングルングルングルングルングルングルングルングルン”

両腕でドーバン選手の太い脚にしがみ付いたまま全身を使って横回転運動を行うバンドリア選手、堪らず体勢を崩し叫び声を上げるドーバン選手。

それはまるで獲物に嚙みつきその身を引きちぎろうとしているワニのように、終わる事の無い回転はベキベキと鈍い音を立てドーバン選手の左足を破壊する。

 

だが最強種族巨人族のドーバン選手はそこで終わらない、自らの足もろとも叩き潰すような勢いで丸太を突き落とす。

“ズドーーン”

叩きつけられた丸太、その先端は石畳を砕き、ドーバン選手の左足を闘技舞台に縫い付ける。

 

「ドーバン、やっぱりお前は怖い奴だよ、そして強かった。またいつかやり合おう」

“ミシミシミシ”

攻撃の瞬間咄嗟に手を離しその場を離れたバンドリア選手は、動きを止める事なくドーバン選手の背後に回り込み首筋をロック、太い腕で頸動脈を締め付け落としに掛かったのである。

 

“バタバタバタバタバタバタ・・・ガクッ”

「そこまで、勝者、バンドリア!!」

“““““ウォ~~~~~~~~!!”””””

沸き起こる歓声、バンドリア選手はゆっくりと締め付けていた腕を離すと、立ち上がり観客席に手を振ってから闘技舞台を降りていくのだった。

 

―――――――――――――

 

クゥ~~~~~~~~、バンドリア選手カッコイイ~~~~!! どこかのクソ爺とは雲泥の差、巨体同士の最強種族頂上決戦、魅せていただきました!!

俺は闘技舞台下の選手控え席から立ち上がり一人スタンディングオベーション、いや~いいもの見たわ~。ローリングワニさんなんか在りし日のテレビ映像で野生の王国だかなんかで見たきりよ? それをまさかこの目で見れるとは、バンドリア選手の野生の本能大爆発じゃないですか!!

でも何と言っても注目はあの華麗な足取り、ドーバン選手完全に姿を見失ってたもんな~、直後に丸太を打ち付けたドーバン選手もさすがの一言、本当に見ごたえのある試合だったわ~。

 

闘技舞台の上では数名の医療スタッフがドーバン選手を、ドーバン選手を・・・重くて持ち上がらないの? まぁデカいもんね、医療スタッフは肉体派じゃないし、そりゃ持ち上がらないよね。

俺は闘技舞台に飛び上がると、頑張ってる医療スタッフさん方に声を掛けます。

 

「そっちしっかり持て、次の試合が控えてるんだ、気合い入れろ「あの~」何だこの忙しいのにってヒ~~~~ッ!! ケビン選手、待ってください、アレは出さないでくださ!!」

俺の顔を見た途端恐慌状態に陥る医療スタッフの皆さん、そんなに“ハイパー腰巻DX”が臭かったの? 何か申し訳ない。

 

「いえ、アレは出しませんよ、確り怒られましたんで。それより運び出しが大変そうでしたんで、それだったらご自分で起きてもらえばいいんじゃないかと思ってこれを。

手持ちの霊薬です、切れた足でも生えてきちゃいますから、直ぐに起き上がらせることが出来ますよ?」

俺はそう言うと収納の腕輪から前に緑が作った謎ポーションを取り出しドーバン選手の左足にササッと振りかけます。

すると何という事でしょう、ドーバン選手の左足の傷口から七色の光が広がりあっという間に全身を包み込むや、見る見る間に傷が治っていくではありませんか。

 

「ウッ、ウ~~~ン、俺は一体・・・」

そう言いながらムクリと起き上がるドーバン選手、その様子を呆然と見守る医療スタッフの皆さん。

 

「・・・そうか、俺はバンドリアに負けたのか。あっ、悪かったな、邪魔しちまっていたようだ。いますぐ闘技舞台を降りるから許してくれ」

そう言いグッと立ち上がるや舞台下に向かい歩いていくドーバン選手、そんな彼に観客席からは温かい拍手が送られます。俺はドーバン選手の後ろ姿を見送りながら“暗黒大陸の戦士は格好いいな~”と口元を緩めるのでした。

 

――――――――――――

 

「“ついに準決勝進出の四名が出揃いました。準決勝第一試合はサキュバス族のカトリーヌ選手対獣狼族のクルン選手、技巧派の両選手、一体どんな試合を繰り広げてくれるのでしょうか。

続いての第二試合は素晴らしい棒術を見せてくれましたケビン選手対最強種族対決を制したキングofキング、龍人族のバンドリア選手です。

正直この試合に関しては先が全く読めません、と言うかケビン選手が劇物を出した段階で失格負けにしていただきたい!!

魔都総合武術大会も残り三戦、最後まで気が抜けません!!」

実況アナウンスに観客から賛同の叫びが響く。って言うかマジすんませんでした、ですので獣人族の方々、そんな目で俺を睨まんといて下さい!!

 

闘技舞台の上にはいつのまに会場に戻ってきたのか、クルンの姿が。そして絶対零度の眼差しを俺に向けてくるって、君の対戦相手はこっちじゃないぞ~、サキュバス族のカトリーヌ選手だぞ~。

 

“パクパクパクパク”

クルンが口パクで何かを伝えてきます。“絶対決勝に勝ち残れ、直接ボコる!!”・・・。

クルンさん、目茶苦茶怒っていらっしゃるじゃないですか、目がマジじゃないですか、本当にごめんて!!

獣人族の前で臭い兵器は絶対に使ってはいけない、ケビン、学習しました。

 

「これより準決勝第一試合を開始する、はじめ!!」

審判の開始の声が響く、観客席から歓声が上がる。クルンは両腰からダガーを引き抜くと両手持ちで構え、カトリーヌ選手はショートソードを右手に持ち、左足を引いて半身の構えを取る。

 

“バッ、タッタンッ”

最初に動いたのはクルン、一瞬左前方に駆け出すフェイントを入れてから右前方へ、カトリーヌ選手の左側懐に飛び込む形で身体ごと突進していく。

対してカトリーヌ選手は左足を右後方に引く事で身体の向きを変え、右手に持つショートソードを寝かせるようにして横薙ぎに切り上げる。

 

“ガキンッ、カキンカキンカキンカキンカキンカキンカキンカキン”

クルンの両手持ちのダガーに器用にショートソードを合わせ最小限の動きで受け流すカトリーヌ選手、クルンの手数の多さを小回りの利くショートソードの扱いにより凌ぐカトリーヌ選手の技量の高さに、観客席から大きな声援が飛ぶ。

 

“ガキンガキンガキン、バッ”

互いに距離を取り睨み合う両者、すると巻き付けた黒い布紐で顔を隠したカトリーヌが口を開く。

 

「クルン、一つ聞いてもいいかしら? 昨年大会優勝を果たした貴女と準優勝のラビアンヌが向かった中央大陸の武勇者ジミーの故郷、そこにボア族の男性がいなかったかしら?」

「ボア族の方ですか? それはもしかしてブー太郎さんの事でしょうか? ですがあの方はボア族ではなくオークの進化種との事でしたが」

クルンの返事に一瞬動きを止め、身体からピンク色の何かを漏れ出すカトリーヌ選手。

 

「そう、やはりそこにいたのね。私の予測は間違っていなかったようね、この勝負、ますます負ける訳にはいかなくなったわ」

吹き出した力、それは形を作り一柱の女神を顕現させる。

 

“ガコンガコンガコンガコンガコンガコン”

手数の有利は覆された、背後に女神を従えたカトリーヌの攻撃は、重くクルンの身体に刻み付けられていく。

 

「ゴハッ、これは少々不味いかもしれません。二番煎じのようであまり使いたくなかったのですが仕方がありません。<獣身憑依>」

“ブワッ”

緑色の魔力がクルンの全身を包み込む。

 

“グルルルルルルル”

魔力は形を変え、そこには一体の巨大な狼が姿を現す。

 

“ガァァァァァァァァァァァ、バシュン”

一瞬にして姿を消す狼、次の瞬間ピンクの女神に喰らい付く狼とダガーを振り抜いた姿勢で残身の構えを取るクルン。

 

「私は・・・負ける訳には・・・ブー太郎・・さま」

“ドサッ”

倒れ込むカトリーヌ、それと共に姿を消す女神と狼。

 

「そこまで、勝者、クルン!!」

“““““ウワァ~~~~~~~~!!”””””

女と女の意地と劣情のぶつかり合いはクルンの勝利で幕を閉じた。って言うか愛欲をあそこまで昇華させる暗黒大陸の女性って。

これ、俺が魔国王様に一言申し上げたくらいでマルセル村詣でがなくなるんだろうか? 凄い心配なんだけど。

あとブー太郎先生、御愁傷さまです。先生は既にロックオンされているようです。

俺はこの先の事態に不安を覚えつつ、遥か故郷の友人の事を想い、静かに手を合わせるのでした。(南無南無)




本日一話目です。
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