熱い戦いが続く魔都総合武術大会、熱狂と興奮が魔都総合コロシアムを包み込む中、準決勝第二試合の選手が闘技舞台に姿を現した。
「“暗黒大陸における最強種族巨人族と龍人族、その対決を制し暗黒大陸一の強者の称号を手に入れた男。その鋭い眼光は一体この戦いに何を見出すのか、龍人族最強の戦士、バンドリア!!”」
“““““ウォ~~~~~~~~~~!!”””””
「“中央大陸からやってきた最凶の刺客、その天然の行動で我々を一瞬にして地獄に叩き落した悪夢の申し子。“ハイパー腰巻DX”は禁止だ、次使いやがったらその命がないものと思え、ジミー選手の兄、ケビン!!”」
「「「「「殺せ~~~~!! バンドリア、その悪魔を殺してくれ~~~~~!!」」」」」
観客席のみならず会場中から膨れ上がる殺意、ケビンは思う“マジごめん、反省はしている!!”と。
“魔国では臭い兵器の製造および開発を禁止する”、これは後にMK兵器禁止法制定の切っ掛けとなった出来事として歴史に刻まれることとなるのだが、それはまた別の話であろう。
「両者とも心の準備はよいか? 準決勝「あっ、すみません。試合の前で何ですが、握手してもらっていいですか? 俺、バンドリア選手の大ファンなんす」・・・」
試合開始前に突然阿呆なことを言いだしたケビンに動きの固まる審判。瞳をキラキラ輝かせてバンドリア選手を見るそれはまさにファンの行動そのものであるものの、何故この場でといった呆れの思いが湧きおこる。
「すまんが試合前なんでな、俺は拳を合わせ自ら認めた相手としか握手はしない主義だ、今まで握手を交わした相手はジミーとドーバンくらいか」
だが意外にもバンドリアから帰ってきた言葉は冷静な断りの言葉、その声にケビンはますます瞳を輝かせ、「オォ~、流石孤高の戦士バンドリア選手、その生き様、勉強になります!!」と嬉しげに声を弾ませるのだった。
「準決勝第二試合、はじめ!!」
試合開始の合図が告げられる、軽く膝を曲げ警戒の姿勢を取る両者。そんな中、ケビンに向けバンドリアが口を開く。
「準々決勝の試合は見させてもらった、中々手に汗握るいい試合だったよ。だから聞きたい、なぜあの武器を持っていない。俺が無手なのはそれこそが俺の力を最も発揮できると確信したからだが、お前はあの棒を使った戦い方が本来の姿なのだろう?」
そう言いながらも油断なくケビンを見据えジリジリと距離を縮めるバンドリア。体格の差は明白、一気に攻め込めばケビンに打つ手はない。誰しもがそう思うほどの絶対的戦力差にもかかわらず、バンドリアは警戒を緩めはしない。
「そうですね、確かに“棒”は俺の魂の一部、根源的な物なのかもしれない。でも俺の基本戦闘姿勢は無手なんですよ、この時代、無茶無謀とはよく言われるんですが、ラビット格闘術こそが俺の武器なんです。
それに前にジミーから聞いてちょっと憧れていたんですよ、龍人族の集落で行われている拳祭り。意地と意地とのぶつかり合い、防御も戦略もかなぐり捨てて男と男が拳で語り合う。
馬鹿ですよね~、でもそこがいい!! 俺はどうせならそんな熱い試合がしたいなって思ったんですよ、俺はジミーやうちの親父みたいな修羅にはなれそうもないですけど、こういうのも嫌いじゃないんで」
そう言いニヤリと笑うケビン、その表情に先程までの警戒心を解き、盛大に笑いだすバンドリア。
「アッハッハッハッハッハッハッ、アンタ正気か? いや、正気じゃねえよな、やっぱりジミーの兄貴だよ、アンタは。
だが気に入った、やろうじゃねえか、拳祭り。だがアンタの背丈じゃ俺に拳が届かねえんじゃねえのか?」
「そうなんですよね、ですんで攻撃のために突っ込んでいくのはありにしてくれません? 要するにただの接近戦です」
ケビンの言葉にますます愉快そうに笑うバンドリア。その口元は愉悦を含み獰猛に笑う、これほど愉快な気分になったのは二年前のジミーとの対戦以来だと。
「了解だ、早速始めようじゃねえか、拳祭りの始まりだ!!」
“ブオンッ、ドゴーーーン”
バンドリアから振るわれた拳、それは崖上から落下する岩石の如く、落下エネルギーも加算されケビンの顔面目掛け振り下ろされる。
「クハ~、体重の乗った鋭い拳ですね。これがバンドリア選手の拳、想像以上の重さに感動しました。それじゃ俺からもお返しです」
“シュッ、ズゴーーーン”
瞬間身体がぶれたかと思うや、全身のバネを使いバンドリアの左膝を打ち抜くケビン。たまらず姿勢を崩したバンドリアの顔に苦悶と驚きが走る。
「やるじゃねえか、チビ助!!」
“ドゴーーーン”
「どういたしまして、木偶の坊!!」
“ズゴーーーン”
“ドゴーーーン、ズゴーーーン、ドゴーーーン、ズゴーーーン、ドゴーーーン、ズゴーーーン、ドゴーーーン、ズゴーーーン”
意地と意地、両者の一歩も引かぬ殴り合いに次第に引き込まれていく観客たち。
「いい加減くたばれや、打たれ強過ぎだろうがこのバケモンが!!」
“ドゴーーーン”
「イヤイヤイヤ、そりゃ無理ですよ、だってバンドリア選手の本気、まだ引き出せてませんもん。でもこれ以上意地を張り続けると、先に膝が限界を迎えますよ?」
“ズゴーーーン”
ケビンの言葉は的を射ていた。バンドリアは自身の膝がすでに限界を迎えようとしていることを悟っていた。
「・・・ジミーの兄貴、ケビンだったか。アンタは本当に強かったよ。だから死ぬなよ?
“我が名はバンドリア、龍人族の戦士にしてドラゴンの末裔。我は我が血に命令す、その真なる姿を我に齎せ。
我が名はバンドリア、ドラゴンの戦士なり”」
“ゴボッ、ゴボゴボゴボゴボ”
盛り上がる肉体、膨れ上がる気配、巨大化し目の前に姿を現した者、それは伝説の存在、ドラゴン。
「いや~、やはりこうしてみると壮観ですね。その姿はドラゴンの特徴を持ちながらも接近戦に特化した龍人としての肉弾戦にふさわしい身体つきを残している。
通常のドラゴンとは別系統の新しいドラゴン種とでもいったほうが良いでしょうか。まぁドラゴン種はその辺大らかというかまったく気にしてませんからね、そんなドラゴンもいるかといった程度の話にまとまるとは思いますが」
“ガァァァァァァァァァァァァァ”
闘技舞台の上に現れたドラゴンに観客席から声援が飛ぶ、「「「「「そのチビをぶちのめせーーー!!」」」」」と獣人たちが声を張り上げる。
「この姿にも一切怯まないとは、流石はジミーの兄貴。ジミーの奴も嬉しそうに笑っていたからな」(ニチャ~)
「そうですね、ジミーは根っからの戦闘狂ですから、好敵手に会うと気分が高揚しちゃうんですよ。それじゃ俺ももう一段階引き上げさせていただきますね。<覇魔融合>」
“ゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォ”
それはこれまでバンドリアが感じたこともないような恐るべき力、魔力とも覇気ともつかない、全く未知のエネルギー。バンドリアは思う、次の一撃に己の全てを懸けようと、これまでの人生のすべてを賭して目の前の敵を叩き潰すと。
“グォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”
轟く咆哮、全身のバネを最大限に生かし、遥かなる高みより打ち下ろされた拳はまさに神の一撃。
「<覇軍龍撃波>!!」
“ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”
広がる衝撃、闘技舞台は亀裂と共に弾け、バンドリアの拳とケビンの衝突の余波で魔都総合コロシアム全体に亀裂が入る。
「ガハッ、きっつ、まともに受けるんじゃなかったわ、まさかじゃれついた大福並みの衝撃が来るとは思わんかった。やっぱりバンドリア選手は最高ですよ、これからもずっと応援させていただきますね。
これは俺からのちょっとしたお礼です。エミリーちゃん直伝<聖拳突き>」
“ブンッ”
瞬間姿を消すケビン、現れたのは中空、バンドリアの腹の前。
「カタパルトセット、吹き飛べバンドリアーーーー!!」
“ズゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン、ドーーーーーンッ”
一瞬の出来事、中空で拳を振りぬいた格好で佇むケビンと吹き飛ばされコロシアムの壁に激突し半ばめり込むバンドリア、その光景に唯々呆気にとられる観客たち。
「そこまで、勝者、ケビン!!」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~~!!”””””
弾ける歓声、ケビンは右の手を高らかに掲げ勝利をアピールする。準決勝第二試合ケビン対バンドリアの戦いは、観客たちの魂に熱い炎を灯しながらケビンの勝利で幕を閉じたのであった。
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「これ、どうするんだろうね」
魔都総合武術大会の行われる魔都総合コロシアム、その会場では多くの魔法使いたちが急ピッチで闘技舞台の修復を行うも、その終わりは一向に見えそうにない。
まぁそうですよね~、バンドリア選手の一撃ってば強烈だったし、闘技舞台なんか完全に瓦礫の山と化してるし、コロシアム全体もボロボロ、どこの被災地って感じなんですよね。
これ、街中は大丈夫だったんだろうか? あの衝撃だもんな~、ちょっと心配です。
大会も残すところあと一試合、決勝戦を前にしてのこの大惨事、その光景を作りだした張本人は身体を元のサイズに戻して選手控え席でグデッとしてるんですが。
医療スタッフの皆さんめっちゃびっくり、それはそうですよね、吹き飛ばされて壁に叩き付けられたはずのバンドリア選手にこれといった傷らしい傷が何もないんですから。本人もしばらく気を失ってはいたものの、一切痛みのない事にとても驚いていました。
いや~、やっぱりエミリーちゃん直伝<聖拳突き>の威力は半端ないですわ。身体の中枢に直接叩き込まれる回復魔法、覇魔融合によって癒しの覇気も練り込んでおきました。おそらくだけどこれまでに蓄積していた疲労や身体の不調が全て回復してるんじゃないかな? 初めて人に使ったから確証はないけど。
ただ回復に身体中からエネルギーを使っちゃうんですよね~、バンドリア選手は全身筋肉質で余計な脂肪もないからだるさが半端ないんだろうな~。
その不調は飯食ってよく寝れば治りますから、今しばらくの辛抱という事で。
「ケビンさん、大会役員の方からのお話で、復旧の目途が立たないので決勝戦は中止するとの事ですがどういたしますか?」
何やら大会役員さんと話をしていたクルンがそう伝えてきます。まぁこの状況じゃ仕方がないかな? クルンはかなり不満そうだけど。
そういえばコイツ、俺の事をボコるとか言ってたもんな、そりゃ残念でしょう。
俺は「まぁしようがないか」と呟くと席を立ち、闘技舞台の修復作業を行っている大会役員たちの下に向かうのでした。
「ハァ~、やっぱり中止の判断が出たか。この状態じゃたとえ修繕できたとしても安全に決勝戦を行う事なんかできないからな、ここは上の判断に従って「すみません、ちょっといいですか」あん? あぁ、ケビン選手ですか、残念ですが闘技舞台がこの状態なんで決勝戦は中止に「それ、直しちゃっていいですか?」はぁ?」
俺の言葉に“こいつは一体何を言ってるのか”といった顔を向ける大会役員たち。その気持ちは分かりますが面倒なので勝手に始めさせていただきます。
「<範囲指定:闘技舞台全体:結界>」
“ブワン”
突然闘技舞台を取り囲むように現れた結界に、目を見開いて驚く大会役員たち。
「<範囲指定:闘技舞台全体:破砕><範囲指定:上空七百メート:土属性魔力付与:ウォーター>」
“ボフンッ、ザザザザザッ、ドバドバドバドバドバドバ”
音を立て砂となって崩れる瓦礫、突如空から流れ落ちる大量の水。
「<範囲指定:結界内:攪拌:形成:圧縮>」
結界内はまるで嵐の海のように荒れ狂い、激しく掻き回されたかと思うやガラスの湖面のように均一に均される。
「<範囲指定:結界内:ブロック><結界解除>。はい、終わりました。
一応状態を確認してください」
俺が言葉を掛けるも口を開けたままポカンとする大会役員たち。魔国っていうくらいなんだからこの程度の魔法見慣れてるでしょうに。
「あっ、あぁ、助かった。直ぐに確認しよう」
そう言い闘技舞台の確認作業を開始する大会役員、クルンは獰猛に笑い準備運動を始めています。
「各種補助魔法の術式は消えてしまっていますが、強度には問題ありません!!」
確認に向かった大会役員たちの言葉に、再び話し合いがおこなわれています。闘技舞台に上がる審判、どうやら決勝戦を行う事になったようです。
「これより魔都総合武術大会、決勝戦を行う。獣狼族クルン、普人族ケビン、闘技舞台の上へ」
“““““ウォ~~~~~~~~~~~!!”””””
祭りの終わり、魔都総合武術大会の終演に向け、俺は闘技舞台の上へと足を進めるのでした。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora