転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第801話 辺境男爵、魔都総合武術大会本戦に臨む (二日目) (5)

「“そこは暗黒大陸に住む者たちの憧れ、強くなければ生き残ることの出来ないこの大地に生きる者たちにとっての夢の舞台。

魔都総合武術大会の決勝戦に上がる事、それは生涯を懸けて追い求める価値のある強者たちの終着点。

 

その者には叶えるべき夢があった、諦めきれない野望があった、絶対に手に入れると心に決め、この大地を旅立っていった。

あれから一年、彼女は再び決勝の舞台に帰ってきた。

魔都総合武術大会前年度優勝者、獣人三大種族の一角“獣狼族”最強の愛戦士、クルン選手!!”」

“““““ウォ~~~~~~~~~~!!”””””

コロシアムを揺らす声援、立ち上がり腕を振り上げ応援する観客に、静かにカーテシーで応えるクルン。

 

「“奴は一体何者なのか、突如この世界に生まれ落ちた異端、世界の破壊者、再生者。

最強種族の頂点を下し、崩壊した闘技舞台を作り直し、魔都総合コロシアムにいる者たちに感動と興奮と混乱と腐臭をばら撒いた最凶最悪の遊び人。前々大会優勝者ジミーの兄、中央大陸からの刺客、ケビン選手!!」

「「「「「死ね~~~~!!クルン、ソイツをブッ殺せ~~~~!!」」」」」

轟く罵声、様々な物が飛び交う観客席に、ペコペコ頭を下げ謝罪するケビン。

 

「“最強の二人が出揃った、魔都総合武術大会決勝戦が、今ここに始まる!!”」

“““““ウォ~~~~~~~~~~~~~~~!!”””””

歓声が響く、人々が高らかに叫ぶ。皆が皆この大会に情熱を傾け、力の限り選手たちに声を掛ける。

 

「双方とも、心の準備はいいだろうか?」

審判が闘技舞台の上の戦士たちに声を掛ける。目の前のクルンは静かに瞳を瞑り、戦いの始まりを待っている。ケビンは大きく深呼吸をしてから審判に頷きで応える。

 

「魔都総合武術大会決勝戦、はじめ!!」

開始の合図が告げられる。クルンは両腰に差したダガーを引き抜き、だらりと手を下げた状態でゆっくりと左右に振れる。

それは脱力、ただ力を入れないのではない、瞬時にトップギアに入るためのスタート準備。

 

“フワッ、ブワッ”

ゆったりとした動作から一気に眼前に迫るクルン、ケビンはそんな彼女に合わせるように突きを放つ。

 

“シャキンッ、バッ、ブンブン”

瞬間肘から先を切り落とさんとダガーが跳ね上がる。ケビンは前腕を曲げダガーを回避しつつ肘打ちを叩き込むもクルンに躱され、動作を止めず手の甲で打ち抜きに行くもそれも回避されてしまう。

 

“ババッ、バッ、シャンシャンシャンッ、ババッ、ブンブンブンッ”

空間を切り裂くダガー、宙を打ち抜く拳、まるで示し合わせた殺陣を見るように互いの攻撃が空を切る。

そのあまりにも素早く激しい攻防に観客たちは息をのみ、その戦いに引きずり込まれる。

 

世界から色が抜け落ち、音が消える。周囲の動きが止まったかのように酷く緩慢になり、空気がねっとりと全身にへばりつく。

あたかも深い水底に沈んだかのように、呼吸を忘れ戦いに魅入られていく。

 

それは一瞬か、永遠か、クルンは自身の限界値を遥かに超えた動きでケビンに食らいつく。

 

“うん、大したものだよ。クルンはこの一年で十分以上に強くなった。その切っ掛けはマルセル村でジミーの帰りを待つことだったのかもしれないけど、今や彼ら若者軍団に並び立つ力を手に入れたと言ってもいいと思うよ。おめでとう”

それは心に直接響く言葉、音の失われたこの世界で唯一仕える交流手段。

 

“そんなクルンに一つ技をプレゼントするよ。これはいつかクルンが辿り着くかもしれない境地、速さの頂点”

クルンの両腕のダガーがケビンを捉えようとした、その刹那。

 

「<プチ天想顕現・百連脚>」

“ズバババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババッ”

時の止まったかのような世界、その中で尚更なる高みからの絶対的な連撃。クルンは激しい蹴りの豪雨に晒され薄れゆく意識の中、確かに武の境地を垣間見た気がしたのであった。

 

世界に色が戻る、音が蘇る、呼吸を思い出した肉体が酸素を求め激しい鼓動を打ち鳴らす。

 

“ドサッ”

まるで打ち捨てられたかのように舞台に叩き付けられるクルン、そんな彼女を構えを取りながら静かに見つめるケビン。

 

「そこまで、勝者、ケビン!!」

静まり返った観客席、時間にしてはあまりにも短い攻防、だがその濃密な戦いにまるで何時間も水の底に引きずり込まれていたかのような錯覚に陥る観客たち。自分たちは今一体何をしているのか、生きていることは激しく打ち鳴らされる鼓動と荒い呼吸だけが教えてくれる。

まるで白昼夢、勝負の行方も正しく理解できない。

 

「おい、なんでクルン選手が倒れているんだ? 終始押していたのはクルン選手だったじゃないか」

理解できないこと、想像すらつかない事態に出くわした時、人は二つの反応を起こす。

 

「これは何かの間違い、クルン選手が負けるはずがない」

一つは拒絶、目の前の事態から目を逸らし自分の殻に引き籠る。

 

「これはおかしい、あの普人族が何かインチキをやりやがったんだ。ふざけるな、あんな奴は失格にしちまえ!!」

一つは排斥、誰かを悪者に仕立て攻撃することで心の安定を図ろうとする。

人は易きに流される。事実に目を向け受け入れがたい現実に向き合うよりも、自分にとって都合の良い真実を作り出す。

声は次第に強くなる。困惑は混乱へ、そして暴走へ。引き起こされた数々の出来事は、積み重なり大きなうねりとなって弾け飛ぶ。

ケビンは思った、“フーリガンってこんな感じに生まれるのか、ヤベーな”と。そしてなおも思う、“マルセル村の感覚で戦うと周囲の人はついていけないのね。やっぱり徐々に慣れていかないとダメなんだね、ケビン、学習しました”と。

そして思い付く、思い付いてしまう、“混乱して暴動を起こしているのならそんなことを忘れるくらいの混乱を与えてしまえば収まるんじゃないのか”と。

 

“あぁ、ここまでかな”

その声は観客席はおろか魔都総合コロシアム周辺に集まったすべての者の心に響き渡った。

 

“ブワッ”

ケビンの身体を漆黒の濃厚な闇属性魔力が覆い尽くす。そのあまりにも強大で濃密な闇属性魔力に、観客は動きを止め、その場の者たちは息を飲む。

 

“バサッ”

闇が晴れる、だがその場にいたはずのケビンの姿はなく、そこには漆黒のコートにフードを被り、全身黒ずくめの服装をしたハーフマスクの人物が一人。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ”

闘技舞台の上、仰向けに倒れるクルンの下に向かったそのナニカは、ポケットから七色に光るポーション瓶を取り出すや、クルンの口に注ぎ入れる。

 

“ゲホッ、ゴホッゴホッ”

「やぁ、目を覚ましたみたいだね、気分はどうだい?」

むせながら意識を取り戻したクルン、ナニカはその様子に大仰に手を広げ、「心配したよ」と声を掛ける。

 

「さて、魔国王アブソリュート様、先ずはご結婚おめでとう。王妃様は元四天王剣将“絶剣のゼノビア”様だとか、良縁に恵まれたことお喜び申し上げます。

あれから二年、街並みもすっかり元に戻り、魔都はあの騒ぎなどまるでなかったかのように活気に満ち溢れている。本当にこの国の人々は逞しいというか、生き生きとしているよね」

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

 

「そしてこの魔都総合武術大会、魔国中の強者が集まる大会の名にふさわしい素晴らしい名勝負の数々、本当に感動させてもらったよ」

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

 

「クルン選手、準優勝おめでとう。肉体の限界、精神の限界のその先へ、これからのクルン選手の活躍を心から応援させてもらうよ。

バンドリア選手、龍人族の底力、堪能させてもらったよ。世界は広い、更なる頂を目指して頑張ってね。

この場にはいない他の選手たちも本当に魅せてくれたよね、魔国の人たちがこの大会に夢中になる気持ちも分かるよ、本当に楽しい二日間を過ごさせてもらったよ。

先ずはそのことに対する僕なりの謝礼を贈るね」

“ブワ~~~~~ッ”

それは強大な覇気、個人で作り出すことなど不可能な途轍もない量の覇気が、魔都全域を覆い尽くす。

 

「なっ、身体の疲れが癒えていく。傷口が見る見る間に塞がっていくぞ!?」

「嘘、膝が、魔獣に襲われて麻痺していた右足が」

奇跡を喜ぶ声は魔都総合コロシアムだけでなく、魔都全域で叫ばれる。

 

「それじゃ贈り物はこの辺にして、魔国王アブソリュート様に一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ”

「魔都総合武術大会の優勝者と準優勝者を許可なく僕の領域に連れてくるのはどういった了見なのかな? 魔国王アブソリュート様は、いや、魔国は、僕に喧嘩を売っているのかな?」

 

“ズンッ”

空が落ちる。先程までの優しく温かい力は霧散し、重く締め付けるような力が魔都の人々を地面に縫い付ける。

 

「事情は聞いたよ。魔都でジミーに対する人気、求愛熱が高まって苦肉の策として厳しい条件を付ける事になったとか。最悪大量の魔国女性が大森林を越えて僕の領域にやってこようとしていたらしいこともね。

そこで皆に聞きたいんだけどさ、君たち、僕の事嘗めてる?」

“ブワ~~~~~~~~~~ッ”

それは明確な殺気、コロシアムの観客たちは思う、自分たちはこのまま殺されてしまうのだと。何も抵抗することも出来ず、声すら上げられず、目の前のナニカの機嫌を損ねたがために。

 

「前にも言ったけど、僕は魔国の事は気に入っているんだよ、活気に溢れていて食べ物も美味しい、本当に素晴らしいところだよね。でも何でもかんでも好き勝手していいって訳じゃないんだよ? その辺は覚えておいてね」

“フワッ”

殺気が霧散し、身体を縛り付けていた重圧が解放される。だが人々は中々その場から動くことはできなかった、それは目の前の存在があまりに強大で恐れ多いがゆえに。

 

――――――――――――

 

「・・・いってしまったのか」

観客席の特別来賓席に腰掛けていた魔国王アブソリュートは、目の前からまるで幻のように消え去ったナニカに身を震わせる。

気まぐれに自身を救い、魔国を救った真の英雄にして神のごとき強大なる力を持ちし者。魔王軍全軍で挑んでも決して敵う事のない絶対者。

 

「宰相、魔国王アブソリュートの言葉として国民に告げよ、“魔都総合武術大会の決勝進出者を武勇者ジミーの故郷に連れていく特典は今大会を以って終了とする。以降武勇者ジミーを追い掛けて彼の者の故郷に押し掛けることを魔国として固く禁ずる”、以上を本日この時を以って魔国の決定事項として布告するのだ、よいな」

「ハッ、直ちに手配いたします。全ては魔国王陛下の思し召しのままに」

 

急ぎその場を下がる宰相の顔は蒼白に染まり、魔国王アブソリュートの言葉の重みを十分に理解し、魔国の命運がただ一人の存在に握られていることに恐怖するのだった。

 

「陛下、顔色が優れませんが・・・」

「あぁ、ゼノビア、心配を掛けたようだな。少し考えを巡らせたい、者どもを下げてくれぬか?」

魔国王アブソリュートの言葉に、すぐにその場の者たちを下がらせる王妃ゼノビア。アブソリュートは周囲から人がいなくなったことを確認すると、小さく「<消音結界>」と呟くのだった。

 

「・・・うわ~~~~~、どうするのよ、ケビンさんめっちゃ怒ってたじゃん、本気じゃん、魔国滅ぼされちゃうじゃん!!

あれよ? 片手間で魔都消失よ? 跡形も残さないで更地にして見せるって、実演付きで示されちゃったんですけど? これどうしたらいいのよ~~~~~、禅譲して魔国をお任せしたほうがいい? 命ばかりはご勘弁をって言って土下座すれば許してもらえる? ゼノビアちゃ~~~~ん!!」

取り繕った態度を崩し王妃ゼノビアに縋りつくアブソリュート、ゼノビアも顔色を青くし今後の対策を真剣に考える。

力は示された、いや、既に二年前に見せつけられていた。自分たちは選択を誤った、怒らせてはいけない者の逆鱗に触れてしまったのだと。

 

「イヤイヤイヤ、僕そこまで怒ってないから、ただ迷惑だから止めてねって言っても魔国の女性は聞かないでしょう? なんやかんや言って暗黒大陸は力こそすべてだし。だからちょっとした脅し? あれだけしっかり力を示せば抑止力くらいにはなるかなと思って。

でもあれだよね、魔国の女性は本当に強いよね。

そうそう、カトリーヌ選手だっけ? 元四天王の臭いがきつかった人、名前を変えて心機一転頑張ってたのかな?

彼女自力でウチに来そうだから、どうしてもブー太郎に会いたかったらしばらくクルンと一緒にクルーガル爺さんの面倒をみておいてって伝えてくれる?

こっちも結構ドタバタしててさ、ちょっと他所の事まで面倒見切れないんだよね、だから騒がしくしちゃったんだけど本当にごめんね?

あと僕の分の優勝賞金はクルンに渡しといてね、しばらく暗黒大陸にいるように言っておいたから、お金はあるに越したことないしね。

それじゃ落ち着いたらそのうち顔を出すね、バイバイ♪」

 

消える気配、誰にも気が付かれず結界内に侵入し、まるで何事もなかったかのようにその場から去っていった絶対者。

 

「・・・陛下、どうやら大丈夫だったようですね」

「そうだな、何やらお忙しいようだからこちらから余計なことはしないものとしよう。大会役員に連絡し閉会式の準備を、それと元四天王のエカテリーナにはゼノビアの口から直接先程の話を伝えて欲しい」

 

「畏まりました、全ては陛下のお心のままに」

嵐は過ぎ去った、結果だけ見れば悩みの種が一つ取り除かれたというものであった。消音結界を解除した魔国王アブソリュートはいまだ混乱を続ける観客席に目を移すと、ポケットからそっと胃薬の瓶を取り出すのだった。




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