転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第803話 動き出した悪意、王都の動乱 (2)

季節は巡る、時は晩夏、暑さも峠を越え、人々が当たる風に爽やかさを感じ始めたそんな頃であった。

 

“ザッザッザッザッザッザッザッザッ”

甲冑を着込み武装した騎士の一団が大通りを走る。王都民たちは一体何事かと不安げに視線を送る。

 

“ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ”

隊列を作った騎士の団体が王都南街門・北街門・東街門・西街門より入街し、そのまま一部が門前に残り固く街門を閉ざす。

 

「これより、各王都街門は一時的に閉鎖される!! これは王家よりの通達である、各自自宅に戻り待機されたし。

尚、不要の外出は控えること。王都は我ら憂国騎士団の管理下に置かれるものとする!!」

大きな声を上げざわめく人々、騎士たちは皆右腕に赤と黄色の布を巻き付け、抵抗は許さぬとばかりに王都街門前に立ちはだかる。

 

騎士たちはその後既に決められていたとばかりに各部隊に別れ、オーランド王国の重要施設を目指し進んでいく。王都商業ギルド本部、王都冒険者ギルド本部、王都学園、王城前広場。

憂国騎士団を名乗る王宮騎士団、オーランド王国軍による内乱は、何の前触れもなく突然として始まったのであった。

 

そこは王都学園第二校舎203教室、光の日二限目の授業時間。“便利な生活魔法活用術講座”を担当する講師ビーン・ネイチャーマンは教壇に立ち、学園生徒達に向け生活魔法についての講義を行っていた。

 

「つまり各種生活魔法はそれぞれの魔法属性、火・土・風・水・光・闇を理解し、それらの属性魔力を操る手掛かりとなる訳です。

それは皆さんが使われている各属性魔法における理解にも繋がり、魔力制御・魔力操作の効率的な鍛錬にもなるのです。

ではここで・・・」

話の途中で動きを止めるネイチャーマン講師、その視線の先には窓の外で羽ばたく数体のビッグクローの姿。

 

「大変申し訳ありません、途中ではありますが、本日の講義はここまでとさせていただきたいと思います。それと次週のこの時間の講義は休講とさせていただきます。

何度も休講してしまい申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

そう言い道具をカバンに仕舞うと、愛用のステッキを持ち教室を後にするネイチャーマン講師。その様子に呆気にとられる生徒たち、だが女生徒の一人であるミルキー・バルデンは不意に何かに気が付いたといった表情で友人のエイコー・ペングラフと共に教室を飛び出していく。

 

「なぁジミー、ネイチャーマン先生と言いミルキー嬢と言い一体何なんだ?」

教室に残されたロナウドは、隣の席に座る友人のジミーに声を掛ける。ジミーは暫く窓の外に目を向けていたと思うや、ロナウドと共に教室に残っていたアルジミール、ライオネスに向かい口を開く。

 

「どうやら始まったようだ。お前たちも王都の状況については調べていただろう? 軍閥貴族と中央貴族、それと国王派の者たちとの対立。

俺はジェイクから聞く程度で詳しくは知らないんだが、恐らく軍閥貴族が大規模な軍事行動に出た。街の気配が騒がしい、中央貴族共の動きではこういった事にはならんだろうからな。

それよりももっとヤバいことが起こりそうだ、アルジミールとライオネスはフレアリーズ第五王女殿下の下に向かい合流、出来れば学園ダンジョンの中に避難してくれ。何事も無ければいいが、少なくとも今日一日はダンジョンから出ない方がいい。

ロナウドは二人と共にフレアリーズ第五王女殿下の護衛に付いてやってくれないか? アルジミールとフレアリーズ第五王女殿下の身に何かがあるとオーランド王国として不味いからな」

「・・・分かった。詳しくは聞かんが、ジミーがそこまで言うって事はそれ程の事態が迫っているという事なんだろう。それでジミーはどうするんだ?」

 

ロナウドは真剣な顔でジミーに問い掛ける。ジミーはそんな親友にニヤリと笑みを浮かべ答える。

 

「俺はジェイクと合流し事に備えるさ。おそらく、いや、まず間違いなくとんでもない事態が起きる。俺の予測が合っているのなら、勇者物語に新たなる一節が書き記されるかもな。

まぁジェイクの奴は面倒がって誤魔化すとは思うけどな、アイツのそういうところはケビンお兄ちゃんと一緒だから」

そう言い苦笑してから席を立つジミー。ロナウドはそんなジミーに「死ぬなよ」と声を掛ける。

ジミーはロナウドたちに振り向く事なく、軽く右手を振りながら教室を出ていくのであった。

 

―――――――――――

 

「ネイチャーマン先生、お急ぎですか?」

教室を離れ第二校舎から出たネイチャーマン講師に声を掛けたのは、清掃員の制服を着た女性。

 

「これはオータムさん、お仕事の方はいかがですか?」

「そうですね、生徒の中に十数名怪しい動きがありましたので空き教室の方で特別授業を。そちらの対処は“影”の方々にお任せしてまいりました。

門番の中にも問題のある方がいますのでご一緒しようかと」

清掃員オータム・ロックケイプはそう言うと、丸眼鏡を両手で押さえ位置を直す仕草をする。

 

「そうですか、では共にまいりましょう。お客様方がすぐにでもやってきそうですので」

そう言いネイチャーマン講師が見上げた空、そこには青空の中に小さな黒い点が五つ。

 

「ところでネイチャーマン先生、アレって貰っちゃってもいいんですよね?」

「はい、総帥とは話を付けてありますので。総帥に二体、私たちで三体。うち一体は今回ご協力いただいている暗殺者ギルドに届ける事になりますが、仕事が落ち着いたら焼き肉食べ放題が楽しめると思いますよ?」

ネイチャーマン講師の言葉に拳に力が入るオータム清掃員。ネイチャーマン講師は「早く行きますよ、お客様をお出迎えする準備をしなければいけません」と言ってオータム清掃員の意識を焼肉から引き戻すと、足早に王都学園正門へと向かうのであった。

 

「我々は憂国騎士団の者である。現在王都は我々憂国騎士団の管理下に置かれている。通用門を開け、我々の訪れを受け入れられたし」

王都学園正門前、そこには優に二百名はいるであろう騎士の一団が学園前を取り囲むように集結していた。

騎士たちの要求はいたって簡単であり、王都学園を引き渡し管理下に入れというもの。王都学園は高位貴族令嬢令息が通う特別な学園である、その学園を押さえる事は高位貴族たちに対し人質を取ることに等しい。

現行の国王ゾルバ政権に異を唱える憂国騎士団にとって、王都学園は外す事の出来ない制圧すべき施設であった。

 

“カチャッ”

騎士の呼び掛けに門番詰め所の扉が開かれる。そこから現れた者はやや疲れた風のジャケットを羽織った壮年の男性。騎士は予期せぬ人物の登場に訝しみの視線を送る。

 

「王都学園正門前にお集まりの皆様方に申し上げます。当学園は王家により運営される若者たちの学び舎です、許可のない者の来訪はたとえ高位貴族の御当主様であってもお断りさせていただいております。

先程王都を管理下に置かれたと申しておりましたが、であればこそ王家よりの許可を得たうえで再度お越しいただきたく存じます」

そう言い柔和な笑みを浮かべ礼をする男性に、騎士は言葉を向ける。

 

「貴様は我々を見ても尚状況の判断ができぬとみえる。先程も告げたが現在王都は我々憂国騎士団の管理下にある、貴様如きが何を言おうとその事実は変わらない。即刻その場を退き、我々に従え、さもなくば命の保証はない。

我々は憂国騎士団、オーランド王国の正しき未来のために命を懸ける者。オーランド王国の未来のためであれば非道と呼ばれようとも使命を貫くのみ」

“シュッ”

引き抜かれたロングソード、その重厚な輝きは手に持つ武器が人の命を奪う凶器である事を知らしめる。

 

「何を言われようと私からの返事は変わりません。ここは王都学園、未来ある若者たちが己を磨く神聖なる学び舎。許可のない者の侵入は決して許しません、お帰りを」

“バッ”

手に握るスティックで王都南街門方向を指し拒絶を示す男性に、騎士は最後の決断を下す。

 

「その言や見事。これだけの騎士を前に己の信念を貫き通す事はそうそうできる事ではない。名を聞こう」

「ビーン・ネイチャーマン、“便利な生活魔法活用術講座”を担当する一介の講師です」

互いの間に流れる静寂、騎士は小さく呟く。

 

「大義を果たす為には犠牲を伴うという事か。ビーン・ネイチャーマン、その名を我が心に刻もう、さらばだ」

“ブンッ、ブシャー”

振るわれた凶刃、噴き出す鮮血。

 

「攻撃行動を確認、敵性対象を無力化。止血のためにポーションを飲まれることを推奨します」

「貴様、一体何を・・・」

路上に落ちるロングソード、その柄にはしっかりと握られた騎士の両腕。肘から先を失った騎士は、流れ出る血もそのままにビーン・ネイチャーマンに問い掛ける。

 

「硬糸術、先程スティックを横に向けた際に糸を飛ばさせていただきました。敵性対象は全力で排除させていただきます」

睨み合う両者、騎士は額から落ちる脂汗もそのままに声を上げる。

 

「総員抜剣、敵は糸を操る奇術師、剣を斜め前方に構え突撃!!」

「「「「「ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!」」」」」

雄たけびを上げ一斉に走り出す騎士たち、両手を失った騎士は自分たちの勝利を確信し力強く笑みを作る。だが次の瞬間。

 

“バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ”

「「「「「ギャ~~~~~~~!! 足が~~~!!」」」」」

膝から下を失いその場に倒れる騎士たち、ビーン・ネイチャーマンはそんな騎士たちの様子を冷ややかに見つめる。

 

「攻撃行動を確認、敵性対象を無力化。止血のためにポーションを飲まれることを推奨します」

まるで感情の籠っていないその言葉に、騎士たちは目の前の者が決して手を出してはいけない存在であったのだと戦慄するのであった。

 

―――――――――――

 

「状況はどうなっている」

「ご報告申し上げます、王都の全ての街門が憂国騎士団を名乗る者たちにより占拠され固く閉ざされている模様、出入りを行おうとした者たちは剣を向けられ引き返すようにと警告されています」

 

「王都内に侵入した憂国騎士団の様子は」

「ハッ、憂国騎士団の数はおよそ五千、それぞれに別れ商業ギルド本部、冒険者ギルド本部、王都教会といった王都の各重要施設を取り囲んでおります。王城前広場には二千弱の兵力が集結しているものと思われます」

 

オーランド王国王城内大会議室は緊張に包まれていた。王都で発生した大規模な軍事クーデターの知らせは瞬く間に王城内を駆け巡り、その対策のため国王ゾルバ・グラン・オーランド、王太子レブル・ウル・オーランド、宰相ヘルザー・ハンセンをはじめとしたオーランド王国の中枢が大会議室に集まっていた。

 

“ザッザッザッザッザッザッザッザッ、バンッ”

そんな重要な話し合いを行っている大会議室の扉を無遠慮に開く者たち。人々の視線が一斉に扉に向けられる中、その者たちは勝ち誇ったかのような顔でその場の者たちを見下す。

 

「ブライアント、今は重要な会議中である。扉を閉め下がるがよい」

「突然申し訳ございません陛下、ですが陛下に至急お伝えしなければいけない事態が発生いたしましたのでご無礼ながら参りました」

扉を開けた者の一人、第二王子ブライアント・ウル・オーランドが引き連れる者たちを代表して口を開く。

 

「その方はマホガニー・ベイル伯爵、ほか元王宮騎士団長であった者や王国軍幹部の者たち。ブライアントの話とは国防に関する事だとでも申すか」

「流石は賢王と名高きゾルバ国王陛下、ご理解が早く助かります。単刀直入に申し上げます、王位を退いていただきたい、後の事はこのブライアントにお任せを」

その場の者たちを見渡し眼光鋭く王位継承を求めるブライアント第二王子。ゾルバ国王はそんな息子を静かに見つめ、言葉を返す。

 

「話は分かった。ブライアント、今王都で起きている憂国騎士団を名乗る騎士団と軍部の兵による各施設の占拠はその方の指示により行なわれているものとの理解で間違いないか?

王太子であるレブルを差し置き王である我を排し王位につく、ブライアントはその意思の下軍部と騎士団の者たちを動かしている、その全てはブライアントの考えであると判断するが構わないか?」

静かなる言葉、それは叱責や激昂ではなく冷静な言葉による意思の確認。

 

「はい。私はずっと考えていました、オーランド王国王家の者として自身は何をすべきなのかと。バルカン帝国の脅威に晒され国内に反王家勢力を抱える現状、このような状態を許す訳にはいかないと。

オーランド王国王家は今一度立ち上がらなければならない、国内を一つに纏め上げ、強い王家として民を導かねばならない。

力は示された、ワイバーン部隊はオーランド王国の新たな力として民に希望を示した。そして我々は更なる力を手に入れる」

ブライアント第二王子が言葉を切り、隣に立つマホガニー・ベイル伯爵に目配せをする。ベイル伯爵はブライアント第二王子に恭しく礼をすると、配下に指示を出し一つの木箱を大会議室に運び込む。

 

「これこそが我がオーランド王国の新たな力、方法は猛竜隊により確立された」

“バッ”

取り除かれた布地、姿を現した物、それは巨大な卵。

 

「我々はドラゴンを支配する。ドラゴン国家オーランド王国として新たな一歩を踏み出すのです」

静まり返る大会議室、示された超ド級の厄災の種に一切の言葉を失う人々。

 

“GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA”

突如轟く大気を引き裂くかのような咆哮、国王ゾルバ・グラン・オーランドは天より届く国家滅亡の知らせに、静かに瞑目する事しか出来ないのであった。




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