転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第804話 動き出した悪意、王都の動乱 (3)

「では次に無手による奇襲に対する訓練を行う。これまでも繰り返し述べたが襲われた場合は基本的に逃走を選択する事、世の中には貴族たるもの戦うべしなどという頭お花畑な事をほざく者もいるが、そんなもの塵ほどの価値もない。

戦いとは戦力、戦術、装備等事前準備が必須であり、どのような状況においても生き残る者たちとは、常に戦闘に対する心構えを怠らない者たちの事を言う。

それは彼の大剣聖クルーガル・ウォーレン卿のような剣に生きる事を常とする様な方々にいえる事である。確かにクルーガル・ウォーレン卿は尊敬すべき偉人ではあるがその生き方を我々の日常に落とし込む事は非常に難しい。

現にクルーガル・ウォーレン卿自身、“戦いにおいて退路を用意せぬ事は即ち敗北を意味する”と述べている。諸君はまずその事を念頭に置き、訓練に臨んでもらいたい。

では二人一組になって分かれてくれ」

 

武術担当教諭の声にそれぞれの組に分かれる生徒たち、そんな中一人の生徒がその場で立ち止まり闘技訓練場の外に目を向ける。

 

「どうしたジェイク・クロー、早く他の者と組みなさい」

「あっ、すみません。ちょっと急に差し込みが。どうも朝食を食べ過ぎたのが悪かったみたいで、すみませんが少し授業を抜けさせてください」

お腹を押さえ弱々しい笑みを浮かべるジェイクに、ため息をこぼす武術担当教諭。

 

「分かった分かった、早く行ってこい。あぶれた者は私と組んでもらう事とする」

「本当にすみません、それじゃ失礼します」

そう言いそそくさとその場を下がるジェイク、背後から「早く行けよ~、焦り過ぎて漏らすなよ~」といったからかいの声と共に笑い声が起きる。ジェイクは、「今は刺激しないで、マジでヤバいんだって」と言いながら闘技訓練場を後にするのだった。

 

「ジェイク、丁度良かった。今お前を呼びに行くところだったんだ」

「ジミーも気が付いたんだ。流石修羅、戦いに関する嗅覚が半端ない。

でもこれって不味くね、この感じって大福チャレンジドラゴンモードの時の奴だよね」

そう言い王都南街門の方向を向くジェイクに厳しい表情で頷くジミー。

 

「まさかとは思いたいが、こうした場合大抵最悪の結果が待っているからな。暗黒大陸では大体そうだった」

「うわ~、止めてよ実体験、説得力が半端ないじゃん。でもケビンお兄ちゃんの用意した大福チャレンジドラゴンモードってこの事を予見してたなんてことないよね、だったらその事の方が怖いんだけど?」

 

「う~ん、どうだろう。ケビンお兄ちゃんのやることは正直読めないからな。それと王都全体も何やらきな臭くなっているようだ、街の気配がおかしくなっている」

そう言い空を指差すジミー、その先には黒い小さな点が五つ。

 

「ジェイクく~ん、ジミー、お待たせ~」

手を振り駆け寄ってくる二人の女子生徒とメイド。ジミーは「エミリーにフィリーとディアを呼びに行って貰っていたんだ」と言葉を漏らす。

 

「エミリー、ありがとう。それで他の教室は騒ぎになっていなかったか?」

「うん、まだ気づいてないみたい。ただ一部勘のいい生徒はちょっと騒ぎだしていたかな? ラビアナさんはジミーの姿を見て何かを察したみたいで、アリスさんを連れて教室を出たみたいだけど」

 

「おそらく生徒会執務室にでも向かったんだろう、一年のミルキー嬢も急いで教室を離れていったからな、この事態は想定済みだったんだろう。

学園内の事はアルデンティア殿下にお任せすればいいだろうが、問題は正門前に集まっている集団だ。気配だけだが百は越えるんじゃないのか?」

ジミーは厳しい表情で正門の方を睨む。いくらアルデンティア第四王子殿下が学園生徒に対し根回しをしていたとしても、外から侵入してくる暴力に対抗できるとは限らない。

 

「それは大丈夫だと思います。エミリーお嬢様が私のところに来る前に清掃員のオータムさんがいらしまして、学園内で騒ぎが起きるのでエミリーお嬢様とフィリーのところに向かい合流するように忠告してくださいました。

その際、この後ネイチャーマン先生と正門前の清掃に向かうと仰っておられましたので」

 

ディアの口から語られるネイチャーマン先生という名前に何とも言えない空気になる一同。“ネイチャーマン先生が向かったのなら問題ないか”という妙な安心感が心に広がる。

 

“GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA”

「「「「「!?」」」」」

それは突如王都全域に轟いた。大地を切り裂き大気を震わせる絶対者の咆哮、最悪の悪夢が現実に牙を剥く。

 

“バッ”

「黒蜜、武装変化!!」

“シュルシュルシュルシュル”

制服の下から伸びる黒い影、全身を漆黒に包まれたジェイクは一瞬にして黒騎士黒蜜へと姿を変える。

“バッ”

「出ろ、魔剣ドラゴンキラー」

天に掲げた右腕、瞬間巨大な大剣が姿を現す。

 

“バッ”

「<オープン:シルバリアン>」

突き出した左手、ジミーの左手の指に嵌められた従魔の指輪から光が伸び、一体の魔物が姿を現す。

 

「いくぞ、シルバリアン。装着!!」

現れたのはリビングアーマー、その胸に手を触れた時、それは瞬時にジミーに装着される。

 

「俺とジミーで対象の気を引きつつ攻撃、エミリーは遊撃と俺たちの回復を頼む。ディアは対象のドラゴンブレスが王都に直撃しないように方向を逸らしてくれ、致命的な攻撃を逸らしてくれればそれでいい、無理はするな。

フィリーは全体の指揮、魔法で対象の気を逸らしてくれ。

全員、生きて帰るぞ、“命大事に!!”」

「「「「“命大事に!!”」」」」

 

“シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ”

若者たちはその場から跳び上がるや、空を駆け走り出す。

 

「うわ~、マジかよ。剣の勇者様はよくあんな化け物相手に一人で立ち向かったよな、絶対頭おかしいと思う」

「言ってやるな、剣の勇者様にも引くに引けない守るべきものがあったんだろうさ、今の俺たちみたいにな。それじゃ逝こうかジェイク、伝説の始まりだ!!」(ニチャ~)

 

若者たちは宙を駆ける、王都に向かい空を舞う大厄災を目指して。守るべき王都を背に己の全てを賭けて。

 

――――――――――――――

 

王都上空千五百メート、その者たちはある使命を帯びその場に待機していた。

“バッ、バババッ、バッ”(ターレル子爵閣下、王城より合図が上がりました)

“ババッ、バババババッ、バッ、バババッ”(総員、変革の時はきた。これより我々はオーランド王国の未来を切り開く!!)

““““ザッ””””(オーランド王国に栄光あれ!!)

 

準備は整った、ワイバーン部隊猛竜隊を率いるターレル子爵は、オーランド王国の新たな英雄となるべく上げた手を今まさに振り下ろそうとしていた。

 

“GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA”

「「「「「!?」」」」」

大気が揺れる、突然の事態に手綱を握り周囲を見回す。

 

「何だアレは・・・まさかドラゴンだとでもいうのか!?」

空を舞い王都に向け迫る巨大な何か、遠目でも分かるその威容は、まさしく伝説に謳われるドラゴンそのもの。

 

“バッ、ババッバッ”(ターレル子爵、いかがいたしますか?)

“バッ、ババッバッ、ババババッ”(状況が変わった、我々は予定通り王城に降り立ち上の指示に従う)

““““ザッ””””(了解しました)

ターレル子爵率いる猛竜隊の面々が腕に嵌めた魔道具に思念を送り、ワイバーンを王城に向け降下させようとした時であった。

 

“““““グワッ、グルルルル、グギャーーーーーー!!”””””

突如咆哮を上げ暴れ出すワイバーンたち、一切の制御も利かず好き勝手に飛び始めるワイバーンに、慌てふためく猛竜隊の隊員たち。

 

「クッ、なんだ、言う事を聞かんか!! 私は猛竜隊隊長ターレル子爵であるぞ!! 飛びトカゲ風情が勝手に暴れるんじゃない、指示に従うのだ!!」

 

“““““グルルルル”””””

暫くすると、急に大人しくなるワイバーンたち、その様子に大きく安堵の息を吐くターレル子爵。

 

“ヒューーーン、ヒューーーン、ヒューーーン、ヒューーーン、ヒューーーン”

すると今度は急降下を始めるワイバーン、それぞれがバラバラな方向に散らばっていく様子に何が起きているのか理解出来ないターレル子爵。

「うわーーーーー!!」

思わず漏れる叫び声、だが次の瞬間。

 

“ビカーーーーーーッ”

目も眩むような光に包まれ視界を失うターレル子爵、それはワイバーンも同様で錐もみ状態で落下していく。

 

“ズドーーーーン”

強烈な衝撃が全身を襲う、真っ白であった視界が暗転し暗闇に包まれる。

 

「落下によってあれだけの衝撃を受けながらまだ息がありますか、流石は空飛ぶ厄災と呼ばれるだけの事はありますね。それでこの首に嵌っている物が支配の呪具と、操られ自らの意思に関係なく飛び回る日々はどういったものであったのか、私には想像する事すら出来ません。

ですがもういいのですよ? あなたの旅は終わりました、来世では自由に空を飛べることをお祈りいたします。生活魔法<ウォータージェット>」

“バシュンッ”

どこか遠くで音が聞こえる。ターレル子爵は徐々に消えゆく意識の中、誰かが側にいることを感じるのであった。

 

――――――――――――――

 

「亡くなってしまいましたか。首がボッキリ逝っていますから、即死でなかった事自体が奇跡のようなものですが」

ネイチャーマンは王都学園の運動場に落下したワイバーンにとどめを刺すと、飛行装具に固定された操縦者の亡骸を取り外してから収納の腕輪に仕舞い込む。

 

「ドラゴンの咆哮の後、突然コントロールを失ったと思ったら急降下、恐らくあの時点で操作権を奪われたのでしょう。それぞれ散らばったところを見ると狙いは商業ギルド本部と冒険者ギルド本部、王都教会と王都学園、それと王都南街門。

商業ギルドは新月と満月、それと織絹さんに協力をお願いしているから大丈夫でしょう。冒険者ギルドには月影がいますし、王都教会は更とブー太郎がいます。

でも南街門はどうしましょうか? グランドさんには王城周辺の警備をお願いしていましたし、ここはブー太郎にお願いしてみましょう」

 

“ドゴーーーン”

遠くから何かが壊れる音が聞こえる。ネイチャーマンは急ぎ運動場に駆け付ける教職員の姿を確認すると、静かにその場を後にする。

 

「ネイチャーマン先生、正門前のお客様の止血が終わりました」

「ありがとうございます、オータムさん。それでは私は次の演目の準備がありますのでこの場を下がらせていただきます。後の事はよろしくお願いします」

ネイチャーマンは正門前で声を掛けてきた清掃員のオータムと言葉を交わすと、倒れ唸りを上げる騎士たちには目もくれずに、喧騒漂う王都の街に向かい歩を進めるのだった。

 

―――――――――――

 

“スパンッ”

“ギュワーーーー、ドサッ”

商業ギルド本部建物前、一刀両断にされたワイバーンに周囲の者たちから歓声が上がる。

 

「お見事、流石は王都武術大会準決勝進出者の腕前ですな、是非我が軍にきていただきたい」

「大変申し訳ありません。将軍閣下のお申し出は大変ありがたいのですが、私は主様と共に世界を旅し交易を行うという夢がありますので、お誘いにお応えする事は出来ません」

そう言い深く礼をする女性剣士。切り倒されたワイバーンには執事服姿の者が近寄りマジックバッグに仕舞っていく。

 

「しかし将軍も大変なお役目で、いくら国王陛下のご命令であったとしても一時的にも反乱軍に加わったとあってはお名前に傷がつくのではありませんか?」

女性剣士織絹は誇りを第一とする鬼人族である、であれえばこそ任務のためとはいえ名誉を傷付けられる将軍を心配し言葉を向けるのであった。

 

「なんの、私の事などどうでも良いのですよ。重要なのはオーランド王国を守る事、手段と目的を違えない事が私の軍人としての誇り。決して爵位が高いとは言えない私を将軍に取り立てて下さったゾルバ国王陛下に報いる事こそ私の使命。

それに部下の命を無駄に散らさぬためには、私が全てを背負う事が一番なのです。

ではいましばらくの茶番にお付き合い願いますよう、ベルナール・アパガード会長によろしくお伝えください」

そう言いその場を下がっていく将軍。織絹は扶桑国とは違う軍人の生き方に、深々と頭を下げ敬意を示すのだった。

 

―――――――――

 

“スパンッ、ズドーン”

「はいお終い、更さん、このワイバーン収納しちゃってください」

多くの兵士が見守る中、突然空から舞い降りたワイバーンを一撃で仕留めた謎の人物に驚愕の声が広がる。

 

「おい、今のって猛竜隊のワイバーンじゃ」

「ワイバーンからメイドに引き剝がされているのって猛竜隊の隊員なんじゃないのか? アイツ生きてるのか?」

状況が理解出来ず、混乱を続ける兵士たち。

 

“ドゴーーーン”

遠くから聞こえる何かが壊れる音、その音に一斉に顔を向ける兵士たち。

 

「えっ、俺が行くんですか? はい、分かりました。更さん、俺ちょっと南街門を襲ってるワイバーンを狩ってきますんで、後をお願いします。

グランゾート、もう一狩り行くぞ、小物過ぎてつまらないとか言わない、仕事なんだから割り切りなさい!!」

そう言い中空を駆けその場から姿を消す偉丈夫。いつの間にか姿を消すメイド。王都教会前に集まった兵士たちは、突然の事態に唯々呆然とする事しか出来ないのであった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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