転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第805話 動き出した悪意、王都の動乱 (4)

“GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA”

王都に轟く獣の咆哮、それは大厄災の訪れを告げる天からの知らせ。

 

「班長、操魔獣装置の主導権奪いました」

「よし、予定通り王都商業ギルド本部、王都冒険者ギルド本部、王都教会、王都学園、王都南街門の襲撃と破壊を命令しろ」

そしてその知らせを予め予見していた者たちが、最後の行動に移る。

<遠見>のスキルを持つ者が上空の小さな点を見ながら叫ぶ。

 

「ワイバーン、分散し降下を開始しました」

「ご苦労、親は餌に喰らい付いた、我々も急ぎ撤退する。時間はない、この場はすぐに火の海と化すぞ、急げ!!」

「「「了解しました、班長」」」

 

その場の者たちは荷物をマジックバッグに仕舞い込むと、足早に建物の地下室へと向かう。班長が魔道具による操作を行うと地下室の床が跳ね上がり、更に地下へと進む階段が現れる。<ライト>の明かりを灯し階段を降りた先は突き当りの壁、魔道具を押し当ててから壁を横にスライドさせガガガと開いたその先は、暗闇に沈む地下下水道。

 

“カツンッカツンッカツンッカツンッカツンッカツンッ”

<ライト>の明かりを頼りに下水道を走ること暫し、もう少し進めば王都を抜けることが出来る。

“バッ”

横に伸ばされた班長の左手、行き成りの停止の合図に、部隊員たちの間に緊張が走る。

 

「ほう、流石は帝国の工作員、中々良い勘をしてるじゃねえか。そのまま勢い良く進んでくれれば話が早かったんだけどな」

暗闇の下水道に響く声、よく目を凝らせば通路の先には黒く塗られた幾本もの糸が張り巡らされている。

 

“コツンッ、コツンッ、コツンッ、コツンッ”

その声の主は下水道の通路を靴音を響かせながら近づいてくる。班長は部下に手信号で合図を送りいつでも攻撃できるよう準備を行う。

 

「あぁ、俺を倒して切り抜けようとか思っているようなら無駄だぞ? この先は俺の部下が通路を塞いでいる、俺に何かあれば一斉に攻撃を行うように指示を出してあるからお前らに逃げ道はない。

嘘だと思うのなら試してみるか?」

“コツンッ、コツンッ、コツン”

現れた者ははちきれんばかりの筋肉の鎧を纏った偉丈夫、<ライト>の魔法に照らされたその顔は獰猛に口元を歪める。

 

「“暴虐”、暗殺者ギルド幹部のお前が何でこんな場所に・・・」

「あん? そんなの仕事だからに決まってるだろうがよ。ビッグラットの捕獲、下水道じゃよくあるガキの仕事さ。まぁ届け先が王都諜報組織“影”のところっていうちょっと変わった仕事だが、お前らネズミが気にする事じゃねえよ。

依頼内容は生死問わずなんだが・・・どうする?」

からかうように、弄ぶように、男は愉悦の籠った声音で班長に問い掛ける。

 

“スッ”

すると班長は懐から紙束のようなものを取り出し男に見せ付ける。

 

「これは呪符といって遠隔で爆破を行う魔道具のようなものだ。既に我々は王都各地に大量の爆薬を設置済みだ、ここでそれらを一気に起動したらどうなるのか、暗殺者ギルド幹部のお前なら分かるだろう。

大人しく我々を通して貰おうか」

重く威圧の籠った声音、だが暴虐と呼ばれた男は地下下水道に響くほどの高笑いを上げ、愉快そうに班長に目を向ける。

 

「ワイン倉庫、高見台の根元、広場の地面の下。本当にお前らは勤勉だよな、“影”の連中がヒーヒー言ってたぜ。流石に王城の地下に大量設置するなんて真似は出来なかったみたいだけど、軍閥貴族の屋敷には武器弾薬として結構持ち込まれていたみたいだな。昨晩の内にすべて撤去させてもらったぜ。

とは言っても俺たちがやったことはどの辺が怪しいのかといった情報収集だけなんだけどよ。最終的には依頼主のところの連中が徹底的に調べたみたいだけどな。

で、どうする? 俺は別にどっちでもいいんだぜ?」

“グォッ”

膨れ上がる魔力、目の前の男は“暴虐”の名にふさわしい実力の持ち主。 “暴虐”に睨まれた者たちが腰の石火矢に手を伸ばし攻勢に出ようとした、その時であった。

 

「太郎、全て捕らえなさい」

“ブォッ”

背後から聞こえた声、一瞬にして闇に閉ざされる視界、そして地下下水道に静寂が訪れる。

 

「足止めご苦労様でした、捕縛対象者は今の者たちで最後となります。報酬は後程お届けいたします、マスターよりの伝言で“小振りだが若いワイバーンが手に入ったので一体届ける、楽しみにしておいて欲しい”との事でした。

では私はこれで」

<ライト>の明かりが消え暗闇が支配する地下下水道、スキル<暗視>の目に映るのは自身に対し一礼をしてから踵を返す若い執事と闇に沈んでいく獣の姿。暗殺者ギルド幹部“暴虐”は背中に流れる冷たい汗を感じながら、“アイツがまた来るのかよ、勘弁してくれ”と太い腕で自身を抱き締め、ブルリと身を震わせるのであった。

 

――――――――――――――

 

そこは王都南街門から真っ直ぐ進んだ草原地帯、やや高台になるそんな場所。

 

“バサッ、バサッ、バサッ、ズシーーーーン”

宙より舞い降りたソレは、目の前に広がる都市を憎悪の籠った瞳で見つめながら大きく息を吸い込むのだった。

 

“スーーーーーーーッ、「<七重傾斜キャッスルウォール>」ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”

噴き出されたもの、それは<ドラゴンブレス>。多くの文献に残されるそれは、都市を破壊し国を滅ぼしたドラゴンの絶対的な攻撃手段。

獄炎とも呼べるすべてを焼き尽くさんばかりの炎はしかして前面に展開された緩やかな傾斜を持つ魔力の障壁により軌道を逸らされ、王都の空に消えていくのだった。

 

“GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA”

再び怒りの咆哮を上げるドラゴンが大きく翼を広げ、上空へと飛び立とうとした、その時であった。

 

「ゼイヤーーーーーーーー!!」

“ズドーーーーン”

頭部に叩きつけられた巨大な剣、その衝撃に一瞬何が起きたのか分からないといった表情になるドラゴン。

 

「龍牙一閃<鬼切り>」

“ズバーーーーーン”

続いて左足に衝撃が走る。一瞬だけ大きな力を感じるもそれは刹那の間、だが痛みという久しく感じた事の無い感覚に驚き目を見開く巨大生物。

 

「理由は分からん、恐らく誰かが碌でもない事をした、そんなところだろう。だがそれで王都すべてを燃やし尽くされる訳にはいかない、ここには俺の守るべき人々がいるんでね。

お前は正しく俺は間違っている、恨むというのなら甘んじて受けよう。俺は俺の信念を貫くのみ、いくぞドラゴン!!」

“ズドンッバゴンッズドンッバゴンッ”

振るわれる大剣、それは剣と呼ぶにはあまりにも重く大きな物。嘗てドラゴン退治のために作られた鍛冶職人の思いの結晶、魔剣ドラゴンキラー。

自らの存在意義を十分に発揮された魔剣は、これまでにない輝きを放ちながらドラゴンの身体に叩き付けられる。

 

「<横一線・縦一線>、アッハッハッハッハッ、堅い、堅いぞ!! 全く刃が立たん、その身の丈夫さは霊亀以上じゃないのか? 一応衝撃は入ってるし痛みも感じているようだが、これはもう一段階引き上げた方がいいかもな。

“我が心、ここにあらず。我が身体すでに無。故に空。

我は剣、我が目指す頂は理不尽の彼方”」

“ズバンッ、ズバンッ、ズドーーーーン”

 

“GUGAAAAAAAA!!”

“ビユン”

周囲を飛ぶ虫を払うかのように勢いよく振るわれた尻尾、だが攻撃者たちは予見したかのようにその場を飛びのき、新たなる者がドラゴンに接近する。

 

「ごめんねドラゴンさん、お腹ががら空きだよ? <聖拳術・覇王撃>」

“ドッ、グゴーーーーーーン”

それは聖女エミリーの全力の一撃、叩きつけられた拳から直接体内に打ち込まれた光属性魔力が、ドラゴンの肉体の中を暴れまくる。

 

“AGYAAAAAAAAAA”

“ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”

堪らず叫び声を上げたドラゴンは、目標など定めず周囲一帯にドラゴンブレスを噴きまくる。

 

「全員、ディアの後ろへ。<五重結界障壁>」

「<七重傾斜キャッスルウォール>」

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドゴーーーーン”

大地は抉れ、森は燃え、空は灼熱に染まる。

その激しい戦いは大地を揺らし、大気を震わせ、王都の人々を恐怖のどん底に陥れる。

 

若者たちは戦う、己がこれまで積み上げてきた全てを賭して。大厄災との終わりの見えない攻防は、まだ始まったばかりなのであった。

 

―――――――――――――――

“GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA”

“ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドゴーーーーン”

“ガタガタガタガタガタガタ”

大きな揺れにより室内の調度品が倒れる。あちこちの教室から悲鳴が上がっているのが聞こえる。

 

「くそ、ドラゴンだと!? 何だって王都が大変な時にドラゴンなんかが現れたんだ!!」

生徒会執務室で今後の対策を話し合っていたラグラは、突然の事態に苛立たしげに声を荒らげる。

 

「落ち着けラグラ、今は取り乱している場合ではない。先ずは学園生徒の安全確保が重要だ。

学園は各種結界により守られているとはいえ、あくまで人為的な攻撃に対する備えしかない、ドラゴンのような厄災に対しては無力と言ってもいいだろう。

この学園には多くの高位貴族子弟が在籍している、先ずは彼ら彼女らの安全確保が重要だ」

生徒会長アルデンティア第四王子がラグラを諫め、今現在最も重要な事案について意見を求める。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。アルデンティア第四王子殿下、ケビン・ワイルドウッド男爵よりの伝言をお預かりした者でございます、入室のご許可をいただけますでしょうか」

叩かれた扉、ケビン・ワイルドウッド男爵という名前にギョッとするその場の面々。ケビン・ワイルドウッド男爵、それは王都に於いて触れてはいけない王家ですら恐れる人物の名前。

 

「どうぞ、入って下さい」

「失礼いたします」

入室の許可に入ってきた者は一人のメイド、メイドは一礼の後ゆっくりと口を開く。

 

「状況が変化いたしました。これより王家は憂国騎士団を名乗る不逞の輩の排除に乗り出します。もっとも憂国騎士団の半数は国王陛下の命により彼らの下で動いていた潜入者たち、ドラゴンの出現で浮足立っている今、明確な信念もない彼らが鎮圧されるのは時間の問題でしょう。

次にドラゴンですが、こちらは既に勇者パーティーが鎮圧に向かっています。先程から聞こえる戦闘音は勇者パーティーとドラゴンとの衝突によるもの、皆さまには生徒の方々を学園ダンジョン第二階層へ避難誘導していただけるようお願い申し上げます」

 

メイドの言葉に驚きに目を見開くアルデンティア第四王子、ラビアナ・バルーセンは勇者パーティーと聞き顔色を青くする。

 

「十六夜さん、それではジミーは、彼はドラゴンと戦っているんですか!?」

「おそらくは。彼らは世界に羽ばたく冒険者になるため日々命懸けで訓練をしてきました。ラビアナ様もご存じの通りそれらは訓練と呼べる範疇を逸したもの、彼らの訓練にはドラゴンとの戦いすら想定されていましたので。

ですが実際のドラゴンは強力、必ずしも勝利する保証はありません。我々にできる事は彼らが勝つと信じ自身に出来る最大限の行動をとる事。

再び彼らが戻ってきた際に笑顔で学園生活を送れるよう、皆様のご協力をお願いいたします」

そう言い深く礼をするメイドに押し黙るラビアナ。

 

「分かった、学園の事、生徒の事はこのアルデンティアが確かにお引き受けしたと伝えて欲しい。

カーベルとアリスは学園長にこの事を伝え急ぎ生徒誘導の手配を、ラグラとミルキー嬢は教職員に協力を仰いでくれ。

今は勇者が時間を稼いでくれている、我々がぐずぐずしていて彼らの足を引っ張る訳にはいかない。彼らが戻ってきたとき温かく出迎える事が出来るよう、我々の出来る最善を尽くそう」

そう言い身を震わせるラビアナの肩をポンと叩くアルデンティア第四王子、ラビアナは唇をギュッと噛み締めるとコクリと頷きラグラと共に生徒会執務室を飛び出していく。

メイドは生徒会室に残るアルデンティア第四王子に一礼をしたのち生徒会執務室を下がっていく。

 

“王都のため、自分たち学園生徒のため、命を懸けて戦う男。ラビアナお嬢様は思う、“ジミー、どうか無事に帰ってきて”と。燻り続けていた想いが熱い炎を燃え上がらせる。

く~、盛り上がってきました!! これは早く原稿に落とさねば、取り敢えず空き教室でメモに記しておきましょう”

勇者ジェイクの“卒業まで静かに過ごしたい”という思いは、一人のメイドの“お嬢様のジレジレの恋を盛り上がらせたい”という欲望により瓦解させられた。

暴れるドラゴン相手に魔剣ドラゴンキラーを振るい戦う勇者ジェイクが自身の思惑とは違った学園の様子を知るのは、もう少し先の話なのであった。




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