“ドゴーーーーン”
“グギャーーーーーー!!”
“キャーーーーーーー!!”
ワイバーンにより破壊された王都南街門、飛び散る木片、逃げ惑う人々の悲鳴、阿鼻叫喚の地獄絵図にその者は颯爽と現れた。
“シュピンッ、ドシャ~~~ン”
「フゥ~~、危ないところだったね、ケガはないかい?」
恐怖に震え目を瞑っていた女性は、掛けられた優しい声に恐る恐る目を開ける。サラリと流れる金色の髪、こちらを心配そうに見つめる優しげな瞳、口元をマスクで覆った偉丈夫が女性を抱き抱えながら声を掛ける。
「は、はい」
「そう、なら良かった。念の為後でお医者さんに行くといいよ。ここは危ない、早く家に戻った方がいい」(ニコッ)
その男性は女性をそっと立たせると、未だ状況が分からず混乱する南街門前の騎士たちに声を上げる。
「状況は変わった、憂国騎士団の者はその腕章を捨て即刻各部隊に戻られたし。このまま王都商業ギルド本部前に向かい、以降将軍閣下の指揮下に入るように。
状況は変わった、この場は王都守備隊に任せ、将軍閣下の下へ向かえ。
諸君らの守るべきものは何か、仕えるべき者は誰か、今一度思い起こされよ」
突然現れワイバーンを一瞬にして倒した剣士、その者からの言葉に戸惑いを見せる騎士たち。
「貴様、一体何者だ!! 我ら憂国騎士団を愚弄するつもりか!! 我らはオーランド王国の未来のために立ち上がった“ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”ヒーーーーーッ」
突如王都上空を覆い尽くす炎、ある者は悲鳴を上げ、ある者は腰を抜かし、あるものはこの世の終わりと泣き叫ぶ。
「も、門を閉めるのだ、今すぐ門を閉めろ!!」
「無理だ、南街門はワイバーンにより完全に破壊されている。大体お前はドラゴン相手に街門が機能すると本気で思っているのか? 相手は空を飛ぶ大厄災、ドラゴンがその気であれば王都の街壁など何の意味もなさない。
それよりも閉鎖された街門前に取り残されている人々の救出が優先だろう、いつまでも英雄ごっこなどせず、己の本分を遂行しろ!!」
混乱する南街門前、地面に座り込み放心する多くの騎士たち、そんな中数名の騎士が立ち上がり腕の布地を破り捨てる。
「立てる者は近くの者に手を貸し門前を開けよ!! 入街審査など要らん、外の者を街壁の中へ!! この場の者は急ぎ避難せよ、西街門、東街門、北街門、いずれにしろここよりはましだ、少しでも生き残るため死力を尽くせ!!」
「なっ、貴様、何を勝手にこの場を仕切っている、上官は私だ、私の指示が絶対「喧しい、俺は既に憂国騎士団を抜けた身だ、貴様の部下でもなんでもない。俺はオーランド王国の騎士としてすべきことをしている、文句なら後にしてもらおう」クッ、貴様ーーー!!」
詰め寄る憂国騎士団の者の言葉を無視し救助活動の指揮をとる騎士、その者の言葉に激昂し憂国騎士団の者が腰の剣に手を掛けようとした時であった。
“カチャッ”
「この者たちの邪魔をするな、それともこの場で切り捨てられたいのか?」
ピタリと首筋に添えられた大剣、その美しい輝きに自身の命が首の皮一枚で繋がっている事を悟る憂国騎士団の者。
「機会は与えた、聞くも無視するも貴様らの自由だ。だがこの場の者を、ドラゴンが迫ると知りながらも逃げ出さずに人々のために動くと決めた真の騎士道に殉ずる者たちを汚す事は、俺が許さん。
ここは貴様らがいていい場所ではない、好きなところへ向かうがいい。但し、このまま留まり邪魔をするというのなら・・・切る!!」
“ブワッ”
膨れ上がる覇気、それはワイバーンを一撃のもと討伐するにふさわしい強者の威圧。
「ヒーーーー!! ひ、引け、この場は退き本隊と合流する。王宮前広場に向かうのだ!!」
バタバタと足早に去っていく憂国騎士団の者たち、その場に残ったのは右腕に巻いた赤と黄色の布を破り捨てた戦士たち。
“バタバタバタバタバタバタ”
騒動の続く南街門に向け走り寄ってくる一団、その姿に剣士は安堵のため息を漏らす。
「このワイバーンは貰っていく、背中の操縦者は残念だが既に事切れているようだ、亡骸は丁重に扱って欲しい」
“スバスパスパッ、ドサッ”
剣士は収納の魔道具でワイバーンを仕舞うと、その背に乗っていた操縦士の亡骸を騎士に預け踵を返す。
「あの、お名前を・・・」
剣士に助けられた女性が呼び掛ける、剣士は女性に笑顔を向けると駆け付けてきた王都守備隊の者に声を掛ける。
「話は“影”の者より聞いていると思う、この場を任せたい。あの者たちは己の役割を取り戻した者たち、協力し人々を街壁の中へ、集まって来る者たちには危険を知らせなるべく南街門から遠ざかるように伝えて欲しい」
「ハッ、ご協力感謝します。総員直ちに救助に向かえ」
走り出す兵士たち、剣士はその姿を確認するや自身も王都の街中へと走り出す。
「すみません、あの御方は一体」
王都守備隊の兵士に縋るように声を掛ける女性、兵士は足を止め女性に振り向くと、立ち去った剣士に目を向けてから口を開く。
「聖者の行進、辺境の蛮族、我々はまたあの者たちに救われた。これはくれぐれも内密に、彼らは地位や名声よりも平和と安寧を求める者たちらしいからな」
兵士は口元に人差し指を立てると再び走り出す、崩れた南街門の先では天をも焦がす炎が空を朱に染め、ドラゴンの咆哮が大気を揺さぶる。
女性は走り去った剣士を思いながら「どうか女神様のご加護を」と天に祈るのであった。
―――――――――――
“グラグラグラ、ガタガタガタ”
“GUGAAAAAAAA!!”
“ドドドドドドドドドドド”
城内に響くドラゴンの咆哮と大地が抉れる音。城は揺れ、女性の叫び声と男性の怒号が入り混じる。
「これは何だ、一体何が起きている!! ベイル伯爵、至急ワイバーン部隊を向かわせろ、ドラゴンの気を逸らし王都より遠ざけるのだ。
王都防衛用に揃えた武器弾薬を全て放出、これよりドラゴン討伐に向かう。全部隊の指揮はベイル伯爵に任せる、我に続け!!」
混乱する配下を一喝するかのように、大会議室にブライアント第二王子の檄が飛ぶ。
「国王陛下にご報告申し上げます、王都上空にて待機しておりましたワイバーン五体が王都商業ギルド本部、王都冒険者ギルド本部、王都教会、王都学園、王都南街門に向かい急降下、攻撃を行ったものとみられます」
大会議室に飛び込んできた兵士による報告、それは新たにオーランド王国の力の象徴となったワイバーン部隊による凶行の知らせ。
「何だと!! 私はそのような指示は出していないぞ。ベイル伯爵、これはどういう事だ!!」
「いえ、私もそのような指示は。おい、貴様、虚偽を申してブライアント次期国王陛下の御心を惑わせるつもりか、即刻その首を差し出すがいい!!」
鋭い視線を向けベイル伯爵に真意を問うブライアント第二王子、ベイル伯爵は声を荒らげ報告者を叱責する。
「国王陛下に物見よりご報告申し上げます。現在ドラゴンは王都南南東方向、草原地帯の高台に降下、何者かと交戦中であります。
複数回のドラゴンブレスの放射を確認、王都方向へのドラゴンブレスはその何者かが上空へ反らせている模様。今も尚戦闘は継続されています」
「なんと、それは誠か? ベイル伯爵、直ぐに兵を向かわせるぞ。その者たちと協力しドラゴンを討ち取るのだ!!」
「ハッ、直ちに。皆の者、オーランド王国の大事である。ブライアント新国王陛下と共にこの危機を乗り切るのだ!!」
「「「「「オォーーーーー!!」」」」」
大会議室の中から向けられる冷めた視線、だがブライアント第二王子たち一派はそのような事は見えていないとばかりに気勢を上げる。
「国王陛下にご報告いたします。王都商業ギルド本部、王都冒険者ギルド本部、王都教会、王都学園、王都南街門に向かい急降下したワイバーンの討伐が確認されました。しかしながら王都南街門の被害は大きく街門は大破、現在門外に取り残された民を王都内に運び入れる避難誘導が行われております」
「国王陛下に物見よりご報告申し上げます。王都商業ギルド本部、王都冒険者ギルド本部、王都教会、王都学園より鎮圧終了の合図が上がりました」
「「「「「なっ、それはどういう事だ!!」」」」」
大きな声を上げ動揺するベイル伯爵をはじめとした軍閥貴族たち、そんな彼らに国王ゾルバはため息と共に声を掛ける。
「静まれ馬鹿ども、何を不思議がっているのだ。貴様らの動きを我らが気付かぬはずがなかろう、貴様らが我に反旗を翻す事など一年前より予測しておったわ。
ブライアント、その方には今は国の大事ゆえ軍部を掌握し統制を取るように申し付けていたはずであるが? その軍部に踊らされ王都に兵を敷き次期国王になると宣言するとは。
我は再三申していたはずだが? その方はこの国の一体何を見ていたのだ」
冷たく静かでありながら圧の籠った声音に、一歩後退るブライアント第二王子。
「ブライアント、我らが何故この場に集まり会議を行っていたのか分かるか?」
「それは・・・我ら憂国騎士団の動きに慌てて対策を取ろうと」
ブライアントの回答に首を横に振るゾルバ国王。
「その程度の事であれば端から蜂起自体を潰してしまえばそれでいい、その対策も十分行ってきた。我らが話し合っていたのはバルカン帝国軍の侵攻に対する対策よ」
「えっ、それは一体・・・」
ゾルバ国王の言葉に何が何だか分からないといった表情になるブライアント第二王子。
「昨日、バルカン帝国がダイソン公国に対し侵攻を開始した。この事はダイソン公国宰相マケドニアル・グロリアより齎された公式情報だ。ダイソン公国とは対バルカン帝国対策の一環で秘かに情報提供協定を結んでおる、国家運営に於いて表向き対立していても水面下で様々な交渉を行うことなど常識である故な。
バルカン帝国がダイソン公国に侵攻しようとしていたことはおよそ一月ほど前には分かっていた事だ、既にスロバニア王国と協議の上、彼の国は国境沿いに軍を派遣している。我が国はその方らの反乱の兆しがあった故動くに動けなかったという事が実情ではあったがな」
国王ゾルバ・グラン・オーランドより語られる信じられない言葉、だがその全てが事実であることは王都を占拠してすぐだというのにすでに多くの同胞が鎮圧されたという報告が証明している。
「それでも我がその方らを放置していたのはなにもブライアントが思い止まってくれることを期待してのものではない。下手にその方らに手を出すことでバルカン帝国の工作員の動きが読めなくなることを危惧してのものであった。
王都前広場の地面の下、城壁の高見台の周辺、商業ギルドのワイン倉庫、王都教会傍の商店街の貸倉庫の中。他にも王都内で多くの人の出入りが見られる場所は軒並み爆薬が仕掛けられていたとのことだ。無論その方らの屋敷地下に保管されている爆薬にも遠隔起動の爆破装置付き爆薬樽が仕込まれておったよ。
ベルツシュタイン卿が帝国工作員は勤勉過ぎると嘆くほどには巧妙かつ執拗な仕掛けの数々であったそうだ。
更に言えばワイバーン部隊、猛竜隊であったか。操作呪具によりワイバーンを意のままに操るオーランド王国の希望。その素晴らしい魔道具の出所をその方らはしかと考えたことがあったのか?
大体ワイバーンの卵をどう手に入れた。支援者の商人より手に入れた? その者たちは一体何のためにそれ程の危険を冒したのか、そしてその厄災を引き寄せるドラゴンの卵は?
ここまで言って分からぬほどその方らの目は曇っておるわけではあるまい?」
ゾルバ国王からのまるで幼子に言い聞かせるような問い掛けの数々、ここにきてようやく事態を飲み込めたブライアント第二王子が恐る恐る口を開く。
「まさか父上は我々がバルカン帝国に与していると仰りたいのですか。そのような侮辱、いくら父上であろうとも「そのようなことは言わん、それにバルカン帝国はその方らと手を組むつもりなど端からない。いいようにおだて国を亡ぼす一助にでもするつもりであったのだろう。内乱にでもなれば国力低下は免れんからな、全ての企てを指揮したバルカン帝国東部方面作戦参謀長イワノフ・ユーリビッチにとってはお主たちは扱い易い駒であった事であろうよ」・・・」
言葉を失い膝から崩れ落ちるブライアント第二王子、時代の変革と状況の移り変わり、その事実を受け入れられず寄るべき相手を間違えた息子の姿に、悲しみと憐みの気持ちに包まれるゾルバ国王。
「嘗て剣の勇者は三日三晩の激闘の末ドラゴンに認められ矛を収めてもらえたという。だが今回は状況が違う、卵を奪われた親は決して我々を許す事がないだろう。
それこそ今ドラゴンを抑えてくれている者たちが勝利すれば話は別だが、過去人類がドラゴンに勝利したことは一度しかない。“愚者の夢”を望むほど夢見がちにはなれそうもないのでな。
ではブライアントよ、謁見の間に参ろうか。我はオーランド王国最後の王としてこの事態を最後まで見守らねばならんからな。レブルはこの場で陣頭指揮を取れ、状況に合わせ人々の避難誘導を、ヘルザーはレブルの補佐を頼む。
一人でも多くの民を救うのだ、あとは任せるぞ?
ブライアント、卵は忘れるなよ? 我らは事の最後を見守る責任があるのだからな」
そう言い席を立つオーランド王国ゾルバ・グラン・オーランド国王、会議室に残された者たちは王の思いを胸に、一礼の後自分たちの職務に戻る。ブライアント第二王子はそんな父の言葉に従い、後を追い掛ける事しかできないのであった。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora