転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第807話 動き出した悪意、王都の動乱 (6)

“GUGAAAAAAAA!!”

王都に響くドラゴンの咆哮、激しい地鳴りと心臓を鷲摑みにされるような轟音に、王都中の人々が恐れ、怯え、身を震わせ縮こまる。

 

そこは商人街と呼ばれる王都の高級住宅街の一角、周囲の者たちからは“商人街の悪夢”と呼ばれ、持ち主がとある地方貴族に移り庭や建物が整備されても尚、忌み嫌われる恐怖の館。

その庭先に数名の男女が集まり屋敷主の言葉を聞いていた。

 

「皆さん、本日まで本当にお疲れさまでした。ブライアント第二王子率いる憂国騎士団の反乱もベルツシュタイン卿の仕込んでいた内通者の働きで無事終息に向かっています、ここから先は王都諜報組織“影”と王都守備隊の皆さんとで抑え込む事が出来るでしょう。

月影、ワイバーンとバルカン帝国の間者の方はどうなってる?」

主の言葉に一歩前に出たメイドが口を開く。

 

「はい、ワイバーンは御主人様の指示通りにベルツシュタイン卿の下に二体、帝国の間者を運び込むついでに届けてまいりました。暗殺者ギルドの方ですが、途中で出会った“伯爵”が「御主人様が届けるのだけは勘弁してほしい」と言うのでその場で引き渡しを行っておきました」

そういい慇懃に礼をするメイド、屋敷主人は残念そうな顔をしながらも「まぁいいか、どうせ報酬は“料理長”経由で渡すことになってるし」と、了承の意を示す。

 

「更、協力いただいた織絹さんにケガはなかった?」

「はい、ワイバーンも一瞬にして倒されていましたし、商業ギルド本部前に集まっていた将軍率いる部隊は国王派の潜入部隊でしたので特にこれといった問題はありませんでした。それと御主人様が報酬としてお渡しくださった剣の切れ味に大変驚かれ、これほどの品をもらってしまっても良いのかと恐縮なさっておられました」

 

「あぁ、アレはゾイル工房でホーンラビット伯爵家騎士団用の魔物鉄製の剣を発注した際の試作品だからね。物は一級品に仕上がっているはずだから喜んでもらえたならよかったよ。それとは別に扶桑国製の刀も探してくるつもりだけどね。

グランドさんとブー太郎もご協力ありがとうございました、この後ワイバーンを使った料理を出してもらうんで楽しんでいってください。ご家族のお土産もちゃんと用意させますんで」

屋敷の主人は協力者に労いの言葉を掛けると、傍に控えていた腰の高さほどもある大きなホーンラビットに語り掛ける。

 

「それでは団子先生、お願いします。俺は配置に着くので派手にやっちゃってください」

“キュキュイ!!”

まるで人のように上体を上げ二本足で立つホーンラビットは、手に持つ杖を天に掲げ言葉を紡ぐ。

 

“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ”

突如空に現れた黒雲、それは渦を巻きながら徐々に大きくなり、王都を暗闇に閉じ込める。

 

“ビカーーーー、ゴロゴロゴロゴロ”

轟く雷鳴、走る稲光、激しい気候の変動に王都の人々の恐怖は頂点に達する。

 

「では舞台第一幕の終演、とくとお楽しみください」

“シュンッ”

一瞬にして姿を消す主人に、その場の者たちは一礼をし舞台の成功を祈るのであった。

 

―――――――――――――――

 

それは突然の事であった。自身の塒で身体を丸め卵を見守りながら過ごす穏やかな日々、そんな日常がある日行き成り終わりを告げた。

奪われた我が子、ドラゴンは大声を上げ卵に呼び掛けた。だが返事はなく、焦燥感に駆られたドラゴンは塒の洞窟を飛び出し周囲を飛び卵の行方を捜した。

それは(我が子)の捜索を始めて幾日かが経った時であった。微かに感じた我が子の叫び、自身を探し求める我が子の声に、ドラゴンは焦る心を押し殺し慎重に捜索を行った。

そしてついに見つけた、そこは人の群れが住み着く都市という場所、かつて自身に戦いを挑んだ愚かなる生き物の巣。

 

“GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA”

ドラゴンは怒りの咆哮を上げた、矮小で脆弱でありながら尊大なる生き物、己が欲のためにすべてを喰らい尽くす学ばぬ存在。

全てを焼き尽くす、我が子は人がいなくなってから探せばよい。

ドラゴンの卵は強力である、たとえ潰されようが焼かれようが割れることがない。ドラゴンは当然そのことを知っていた、自身の卵がドラゴンブレス程度でどうにかなる存在ではないという事を。

 

“バサッ、バサッ、バサッ、ズシーーーーン”

そこは周囲よりも盛り上がった高台、人の住む都市という名の巣が見渡せる場所。ドラゴンは大きく息を吸うと、都市に向かい怒りの炎を吹き掛ける。

 

“スーーーーーーーッ、「<七重傾斜キャッスルウォール>」ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”

だがその試みは、こざかしい小動物により阻害された。

 

“GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA”

“何だこいつらは、邪魔をするな!!”

再び怒りの咆哮を上げたドラゴンは大きく翼を広げ、上空へと飛び立とうとした。空はドラゴンの領域、人に天空より落ちる断罪の炎を止める術などあろうはずもない。

 

「ゼイヤーーーーーーーー!!」

“ズドーーーーン”

頭部に走る強烈な衝撃、何だ、一体何が起きている!?

 

「龍牙一閃<鬼切り>」

“ズバーーーーーン”

左足に走る痛み、自身はこの矮小なる小動物に攻撃されているとでもいうのか!?

“ズドンッバゴンッズドンッバゴンッ、ズバンッ、ズバンッ、ズドーーーーン”

止まることなく襲い来る痛み、尻尾を振り追い払おうにも素早く動き回りなかなか捉える事が出来ない。

 

「ごめんねドラゴンさん、お腹ががら空きだよ? <聖拳術・覇王撃>」

“ドッ、グゴーーーーーーン”

恐るべき衝撃が体内を駆け巡る。自身は一体何と戦っている、この生き物は何なのだ!?

困惑と動揺、怒りと焦燥、激しく波打つ心にドラゴンブレスを放ちまくる。

 

“AGYAAAAAAAAAA”

“ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”

空を朱に染める灼熱の炎、勢いよく振り回される龍の尾、だが奴らはその手を緩めることなく攻撃を続ける。

 

あれからどれ程時が経ったであろう。ドラゴンの周りの地面は大きく抉れ、大地はむき出しの土に覆われ。

人は、ドラゴンを攻撃する敵は、ついにドラゴンの膝を挫き背中の片翼を半ばまで切り裂いていた。

 

「ジミー、決して焦るな。相手はドラゴン、一瞬にして攻勢に転じる化け物、俺たちの優位性はないも同然だと思え!!」

「了解、エミリー、ここから先はドラゴンの注意を引くことに専念しろ、手負いの獣は自爆覚悟で手傷を負わせにくる。“命大事に!!”、ここから先はドラゴンと俺たちの我慢比べだ!!」

 

「分かったよジミー、フィリー、指示をお願い!! ディアはフィリーを守って」

「下がって、ドラゴンブレスきます!! ディア、右斜め後方に反らして!!」

「<七重傾斜キャッスルウォール>!!」

“ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”

 

尻尾も、炎も、人に防がれる。我が子の声が響く、自身を呼び求め続ける。

怒りが、悲しみが、焦りが、ドラゴンの心を焼き尽くす。

 

『そこまでだ、双方、戦いを止めろ』

“ズーーーーーン”

天が落ちる。まるで深海の底に叩き落されたかのような圧倒的な気配が、周囲一帯を支配する。

 

“ビカーーーー、ゴロゴロゴロゴロ、ビカビカーーー、ドーーーン”

垂れこめた暗雲、落雷の閃光に中空に浮かぶ何者かの影が映る。

 

「アッ、アッ、アッ、アッ」

その者の放つ絶対者の気配、ある者は地面にへたり込み、ある者は奥歯をガタガタと鳴らし、またある者は気丈にも仲間の前に立ち膝を震わせる。

 

““グギャ~~~~~~ウォ、グワッグワッ””

“ズォォォォォォォォォォォォォ”

黒雲から巨大な何かが姿を見せる。それは龍、太く長大な身体を持つ龍が蠢きながら姿を晒す。

 

““ブワーーーーッ、グギャーーーーーーー””

地面に佇むドラゴンよりも巨大な二体のブラックドラゴンが、雷光に照らされながら宙を舞う。

 

『そこのドラゴンよ、貴様に問う。貴様は何故フィヨルドの御大の支配域で暴れた。貴様は我らが盟主に牙を剥くつもりか?』

“ビカーーーー、ゴロゴロゴロゴロ”

 

ドラゴンは痛む体にムチ打ち宙を見上げる、そこには自身よりも圧倒的格上のドラゴンたちの存在。

 

“我は我が子を取り返しに来た。我が子はあの都市の中に囚われた。我はすべてを賭して人を滅ぼし我が子を救う”

ドラゴンの言葉がその場の者たちに響く、上空を飛ぶ複数のドラゴンたち、目の前に現れた圧倒的な存在、ドラゴンと戦っていた者たちは絶体絶命の状況に絶望の淵に立たされる。

 

“スーーーーーーーッ”

その存在は静かに降下しドラゴンの顔の前に立ち止まる。その姿はドラゴンを模った鎧を着込んだような、人の大きさに姿を変えたドラゴンといったようなもの。

 

『口を開けよ』

右手を伸ばしドラゴンに告げる龍騎士、ドラゴンはその指示に従い口を開く。

 

『<ポーション生成>』

延ばされた右手から七色の輝きを放つ液体がドラゴンの口に注がれる。途端ドラゴンの身体が輝き、半ばまで切り裂かれた翼や砕かれた膝が見る見る間に回復していく。

 

『ドラゴンよ、子を想いこの地に訪れし者よ。フィヨルドの御大には我からとりなそう、我が後に従いついてまいれ』

そう言い再び浮かび上がる龍騎士、ドラゴンは身を起こすと翼を広げる。

 

「待ってください、どうか、王都を、王都の人々を殺さないでください!!」

その場を覆う途轍もない重圧の中、黒鎧の者が声を上げる。

 

「俺からも頼む、どうか、どうか王都の人々の命だけは見逃していただきたい!!」

次いで白銀の鎧を纏った者が頭を下げる。

 

『我はフィヨルドの御大に従いし者。盟主たる御大の支配域で暴れるこのドラゴンを諫めにきたまでの事。

だが御大は黒衣の者との盟約を忘れてはいない、人の事は黒衣の者に任せるものとする。

ドラゴンよ、その方の子は我が取り戻す、それで牙を収めよ。御大にはその方は穏便に戻ったと伝えおく、それで構わぬか?』

“我が子を無事に取り戻せれば否やはない。だが二度はない、再び同じことがあればたとえこの身が滅びようともこの地を荒野へと変えようぞ”

ドラゴンは怒気を含んだ声音で宣言する、最早人を許すつもりはないのだと。

 

『それは当然の事、同胞の子を奪いし罪、この地を消し去るに十分な物。だが此度は堪えて欲しい、この通りだ』

龍騎士はドラゴンに対し深く頭を下げ謝意を示す。ドラゴンは“その方の顔を立て今回に限り牙を収めよう”と言葉を返すのだった。

 

――――――――――――――

 

“ビカーーーー、ゴロゴロゴロゴロ”

轟く雷鳴、つい先ほどまで晴れ間が広がっていた王都の空は厚く暗い黒雲に覆われ、激しい雷が閃光を走らせる。

人々は不安に駆られながら空に目を向けこの厄災がどうか過ぎ去ってくれますようにと女神様に祈りを捧げる。

 

“ビカーーーーーーーーーーーー”

一段と激しい稲光が天を白色に染め上げた時であった。

 

「アッ、アッ、アッ、アッ・・・」

空を見上げていた者がまるでこの世の終わりでも見たかのように息を詰まらせ放心する。

地上の嘆きは沈黙に代わり、王都の人々は絶望に打ちのめされる。

 

““グギャ~~~~~~、グワッグワッ””

““グガァ~~~~~~~~~””

稲光に写し出された五体の巨大な魔物、ドラゴンの襲来、オーランド王国の終焉。

ドラゴンたちはゆっくりと王都を舐るように進んでいく。

 

「物見より国王陛下にご報告申し上げます!!ドラゴンです、ドラゴンが王城を目指し向かってまいります!!」

王城謁見の間、玉座に座る国王ゾルバ・グラン・オーランドは、遂に戦士たちも力尽きたのかと、その勇敢な行いに心からの敬意を贈ると共に、戦士たちが無事女神様の下に向かう事が出来るようにと冥福を祈る。

 

「へ、陛下、急ぎ王城を離れましょう、ドラゴンの狙いはこの卵、今ならまだ間に合います」

声を上げた者はこの騒ぎの首謀者マホガニー・ベイル伯爵、彼と共に王政に反旗を翻した軍閥貴族たちも一斉に声を上げる。

 

「どこへ向かうというのだ。お前たちは間違えてしまった、いくらバルカン帝国の間者に唆されたとはいえ、決して手を出してはいけない存在に手を出してしまった。

“愚者の夢”、これまでドラゴンに手出しした者たちがどの様な末路を追ったのか知らぬわけではあるまい? 我が国も一度はその洗礼を受けたはずだ。百六十年前、剣の勇者様がドラゴンの怒りを鎮めてくださらなければオーランド王国はその時点で終わっていた。

あの時は剣の勇者様の戦いぶりに怒りの矛を収めてくださったが、此度はそうはいくまい。

王都は沈む、我は愚王として歴史に名を残す事になる。

違えたのは貴様らだけではない、我もまたバルカン帝国の策略の深さと貴様らの愚かさ加減を見誤ったのであるからな」

そう言い大きなため息を吐くゾルバ国王、ベイル伯爵は「付き合いきれん、死にたがりは勝手にするがいい」と捨て台詞を吐きその場を後にしようとする。

 

「何処に行かれようというのですか、父上、いや、マホガニー・ベイル伯爵」

だがそんな軍閥貴族たちを近衛騎士の一団が取り囲む。

 

「ジョシュア、道を開けよ。この様な茶番に付き合っていられるか、急ぎこの場を離れ「離れて如何するのです? よしんば生き残れたとして既に父上たちはブライアント第二王子を唆しゾルバ国王陛下に弓引いた反逆者、生き残る術はないんですよ。

何とか母上と妹だけでもと思い奔走してきましたが、どうやらそれも叶わぬようです。分かったら大人しく事の顛末を見守れこの愚か者どもが!!」・・・」

謁見の間に轟く怒声、激しい覇気に当てられその場にへたり込むマホガニー・ベイル伯爵。

審判の時、ブライアント第二王子とマホガニー・ベイル伯爵の夢の終わりは、雷鳴と共に刻一刻と迫っているのであった。




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