転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第808話 動き出した悪意、王都の動乱 (7)

それは、ある日突然始まった。

 

「これより、各王都街門は一時的に閉鎖される!! これは王家よりの通達である、各自自宅に戻り待機されたし。

尚、不要の外出は控えること。王都は我ら憂国騎士団の管理下に置かれるものとする!!」

 

東西南北の各街門より現れた騎士の集団により閉鎖された王都街門、王都は彼ら“憂国騎士団”と名乗る者たちにより占拠された。

混乱する王都民、王都は、オーランド王国はどうなってしまうのか。人々の心を不安が支配する中、その咆哮は王都の人々をさらなる混乱に叩き落とす。

 

“GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA”

それは大地を揺らし、大気を引き裂いた。これまで聞いたこともないような恐るべき轟音、身体が、魂が、自身の全てが警鐘を鳴らす。逃げろ、逃げろ、逃げろ!!

 

“ドゴーーーン、グギャーーー”

だが事態はそれだけでは終わらない。オーランド王国の希望、新たなる光と呼ばれたワイバーンが王都南街門を破壊、人々はその先の絶望を目にする事になる。

 

“ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ”

天が燃える、喜びも、悲しみも、不安も、嫉妬も、猜疑心も。地位や財産、権力や名声、人々が積み上げてきた時間も物も、その炎の前では全てが等しく燃え尽きる。

大厄災、人類が決して触れてはいけない存在、何故そのようなモノが王都に・・・。恐怖と絶望が王都民の思考を埋め尽くす。

だが彼らは知らない、それは真の終焉の始まりに過ぎないという事を。崩壊はゆっくりと、確実に近付いてきていたという事を。

 

“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ”

何の前触れもなく発生し始めた黒雲。渦を巻き、範囲を拡大し、愚かな人類を覆い尽くすかのように王都を、オーランド王国を暗闇に閉じ込める。

 

“ビカーーーー、ゴロゴロゴロゴロ”

轟く雷鳴、走る稲光、天は怒り、裁きの(いかずち)が降り注ぐ。

 

“GUGAAAAAAAA!!”

“ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ”

“ドドドドドドドドドドド”

 

大地は激しく揺れ、空は朱に染まり、ドラゴンの咆哮が響く中、終焉の使者が天より降臨する。

人は自然の前に無力である。どれ程の鍛錬をこなし、どれ程のスキルを身に付け、どれ程の魔法を操ろうとも、人が大地に生き女神様に生かされる存在である以上、決して越えられぬものがある。

 

““グギャ~~~~~~ウォ、グワッグワッ””

“ズォォォォォォォォォォォォォ”

それは黒雲を縫い、巨大な身体をうねらせながら上空を飛ぶ二体の龍。

 

““グギャーーーーーーー””

“ブワーーーーッ、バサッ、バサッ”

それは目と鼻の先を通過するかのようにその身を惜しみなく晒す強大なる二体の存在、ブラックドラゴン。

 

“シューーーーーーーーーー”

そして絶望を従えるかのように一体のドラゴンを伴いゆっくりと王都の空を飛ぶ、圧倒的な力を持つ何か。

 

そこは王都の中枢、オーランド王国の心臓であり頭脳、オーランド王国王城。その上空を五体のドラゴンが取り囲み、一体の何かが見下ろす。

 

“スーーーッ”

何かはゆったりとした動きで、右の腕を真横に伸ばす。

 

『<ダークアーム・ドラゴニア>』

“ボッボッボッボッボッボッボッボッ”

右腕から噴き出すように膨れ上がる闇属性魔力、それは見る見る間に王城ごと掴みとれそうな巨大な龍の(かいな)へと姿を変える。

 

“ブォンッ”

それは夢か幻か、振り抜かれた巨大な腕、その腕が通り抜けた時、そこは初めから何もなかったかのように何もない空間へと変わる。

人も、物も、建物すらその痕跡を残さず虚空へと吸い込まれたかのように。

 

“ビカビカビカビカ、ドガーーーーン”

降り注ぐ天の裁き、雷光に浮かぶドラゴンの影、強大な力を持つ何かは作り出した巨腕を消し去ると、城内の者に向け言葉を発する。

 

『愚かなる者たちよ、我らが同胞を迎えに来た。伏して控えよ』

それは絶対者による宣告、オーランド王国の終演。舞台は、クライマックスを迎えようとしていた。

 

――――――――――――――

 

「「「「「グハッ!!」」」」」

突如全身を襲う圧倒的な気配、魔力とも覇気とも違う、決して触れてはいけない圧倒的存在からの警告。

王城謁見の間にて近衛兵ジョシュア・ベイルにより拘束されていた軍閥貴族たちは無論、近衛兵たち、ブライアント第二王子がその場に膝を突き、ゾルバ国王は玉座に縛り付けられたかのように動きを止める。息の仕方を忘れ、瞬きを許されず、ただ目の前の光景を見続けることを強制され。

 

それは一体何の冗談か、音もなく城が消えた。一瞬目の前を黒い何かが通り過ぎた、そして暗雲立ち込める空が姿を見せる。

 

“ビカビカビカビカ、ドガーーーーン”

走る閃光、照らし出されたものは空に浮かび城を取り囲む五体のドラゴン。そしてそのドラゴンを従えるかのように、宙に浮く圧倒的な存在がその意思を伝える。

 

『愚かなる者たちよ、我らが同胞を迎えに来た。伏して控えよ』

 

国王ゾルバ・グラン・オーランドはこれまでの人生を思い出す。自身は国王として、父として、夫として、何かを成し残す事が出来たのだろうかと。

北西部貴族の諍いを利用しグロリア辺境伯家の力を削ごうとして、結果王家からの離反を招いた。南西部貴族ダイソン侯爵家をないがしろにし独立戦争を招いた。

バルカン帝国の調略と工作を警戒するあまり断罪すべき時を誤りドラゴンの襲来を招いた。

思えば国政を優先するという名目の下、父親として子供たちと向き合ってこなかった。妻たちとの関係も政略結婚であることを言い訳に真剣に向き合ってこなかったのではないだろうか。

 

“全ては我の愚かさが招いたこと、国を、家族を、オーランド王国に生きる民たちを。我は決して女神様の下には行けぬ、我は永遠に裁かれ続ける罪人なのだから”

 

ダイソン公国との戦争では十二万にも及ぶ将兵の命が失われた。そして今、王都に住む数十万という人命が失われようとしている。

 

「ブライアントよ、これが其方(そなた)の招いた事の結果、其方の夢の終わり、其方の罪。だがそれは我にも言える事、お前を正しく導くことができなかった父を許せとは言わん。我らは決して女神様の下に召されることはないだろう、それ程に我らの犯した罪は重い。

ブライアントよ、決して目は逸らすな、最期を迎えるその時まで。それこそがこの事態を引き起こした者の務めなのだから」

「・・・父上」

 

ブライアントは責任感の強い男であった、人々を導こうとした者であった、強き理想のオーランド王国を取り戻そうとした者であった。

だがそれは現実にそぐわぬ行いであった、この国は、オーランド王国は転換点を迎えていた。過去の栄光に縋るのではなく、現状を理解し、足掻き続けなければならなかった。

 

「其方の罪は我の罪、最後の最後ではあるが、其方は我にとって誇りであったよ。無論レブルやクロッカスやアルデンティア、嫁いでいった王女たちもそうであるがな?

我の子として生まれてきてくれてありがとう、そしてふがいない父親であったことを詫びよう、すまなかった」

そう言い柔らかく微笑む父ゾルバに、心の底からの後悔の念が湧きおこるブライアント。自身は何という事をしてしまったのかと、父になんと詫びたらいいのかと。

 

“スーーーーーーーッ”

ソレは静かに謁見の間に降り立った。その身から発する覇者の気配がその存在の大きさを物語っていた。

 

“ガシャッ、ガシャッ、ガシャッ”

ドラゴンを模した鎧を着た者、ドラゴンを人の大きさに変えたかのような者、五体のドラゴンを従えし絶対者。

 

『愚かなる者の王よ、我らはフィヨルド山脈に居られる御大を盟主と仰ぎし者、調停者。

御大の領域で暴れるドラゴンの話を聞き参った。愚かなる者の王よ、滅びを望むか? 発言を許す』

絶対者からの許可、周囲を覆う重圧が消え、その場の者たちが息を吹き返す。

 

「偉大なる者、調停者よ。発言の機会をいただき感謝する。先ずは貴方様方の同胞であるドラゴンの卵を奪いし罪をオーランド王国の王として謝罪する、申し訳なかった。

我らの罪が許されるはずも無い事を承知の上で申し上げる。どうかオーランド王国の民を、王都の人々をお救い願いたい。

我が命であれば喜んで差し出そう、どうか伏してお願い申し上げる!!」

玉座を降り、高台から身を下げ、絶対者の前に歩み出るや両膝を突き頭を下げ民の助命を乞う国王ゾルバ。

ブライアント第二王子はそんな父の姿に決意を込めた視線を向けるや、ドラゴンの卵の入った箱を抱え絶対者の下に歩み出る。

 

「私は第二王子ブライアント、此度の件は全て私の過ち。どうか私の命を以って場を収めていただきたい。

何卒、願い申し上げる」

ゆっくりと両膝を突き、ドラゴンの卵の入った箱を差し出し頭を垂れるブライアント。

絶対者は、そんな二人を見下ろしながら暫し佇む。

 

“ガチャッ”

絶対者は一歩前に出るや卵の入った箱を掴み上げ、音もなく宙に浮かぶ。

 

『同胞は受け取った、盟約に従い人の裁きは黒衣の者に委ねる。

だが忘れるな、二度はない。黒衣の者に伝えよ、貴様の懇願は叶えた、貴様は盟約に従い務めを果たせとな。

そこの懲りぬ者よ、無駄な足掻きは醜いがそれも人の本質。恐れを知らぬその行いに、忘れ得ぬ証を残そう』

 

“ギャーーーーー!!”

突然響く悲鳴、右腕を失い転げるベイル伯爵。床に転がるその右腕には、一枚の呪符が握られる。

 

“ガシャン”

投げ捨てられ床に転がる箱、絶対者は一瞥をした(のち)口を開く。

 

『その箱は返そう。我らには要らぬ物、懲りぬ者の最後の足掻き。

子を想いし者よ、我が声に応えしドラゴンよ。其方(そなた)の子を返そう、怒りの牙を収めてくれたこと、改めて感謝する』

“同胞よ、我が子を救い出してくれた事、感謝に堪えん。フィヨルドの御方様の領域で勝手したこと、心より謝罪する”

 

『謝意には及ばん、同胞の子を奪いし者は我らにとっても許されざる者、後の事は我らに任されよ。今は我が子との再会を喜び、塒にて休まれるがいい。元気な子故子育ては大変そうではあるがな』

“ハッハッハッ、それもまた一興、親の務めとして楽しむこととしよう。さらばだ、いずれどこかで”

 

“バサッ、バサッ、バサッ”

大きな翼を羽ばたかせ、南の空へと飛び去っていくドラゴン。絶対者はその後姿を見送ると、ゆっくりと天へ上り黒雲の中へと消えていく。城の周囲を飛び交っていたドラゴンは、絶対者の後を追うように雲の中へと消えていく。

 

「我々は・・・助かったのか?」

「そうだね、これでオーランド王国に関しては一応の終わりってところかな?」

国王ゾルバがポツリと呟いた一言、だがその言葉に答える者の存在に、その場の者たちに緊張が走る。

 

「あぁ~、随分派手にやられちゃったね~。でもまぁ王都全壊やオーランド王国消滅に比べたら誤差みたいな感じ? 僕も結構方々に働きかけたからね、本当に大変だったんだよ? 今回の件に関しては感謝してくれてもいいからね?」

そう言い椅子の背もたれにもたれ掛りながらだらりと両腕を下げるナニカ、テーブルに乗るティーカップからは甘い香りが周囲に漂う。

 

「えっと、ブライアント第二王子だったっけ、君も子供じゃないんだからちょっかい掛けていい相手とそうじゃない相手くらいちゃんと見分けないと。

もうね、フィヨルド山脈の御大に話付けるのって本気で大変だったんだからね、僕このあと千年は寝ていたいよ、本当に。

でもな~、あの人が怒ってたからな~、ちゃんと後始末を付けに行かないと、僕が消されちゃうから。

あぁ、この建物ちょっと危ないよね、一度全員外に出てもらうね」

ナニカがそう言うや途端黒い影に包まれる人々、一体何事かと驚きの表情を浮かべるも、直ぐに自身が城の外に移動させられたのだと思い知らされる。何故なら目の前には一部がごっそりと削られた王城が佇んでいるからであった。

 

「<防御城壁:王城崩壊部分>、崩れないように応急処置だけはしておいたけど、あとは自分たちでなんとかしてね。それと龍騎士に握り潰されそうだった城の人たちは僕が回収しておいたから、そこに寝かせておいたから介抱してあげてね。

あとブライアント第二王子、君王位継承権剥奪ね、そんで除籍して平民落ち。今回の件の生き証人として生涯を懸けてドラゴンの事を語り伝えていくこと、でもまぁ王都に置いておくわけにもいかないから、バルザック伯爵領でワイバーンの飼育員でもしてなさい。

君の場合殺されることが解放に繋がりそうだからね、罪と向かい合いながらワイバーンの糞の始末でもしてなさい。

それとベイル伯爵のところの息子さん、君頑張ってたね、自身の心を押し殺し耐え続けるのは大変だったでしょう、褒めてあげます。で、君にはご褒美、身分と名前を剝奪の上お母さんと妹ちゃんを連れてバルザック伯爵領行きね。名目はブライアント君の監視、この騒ぎで死んだことになってもらおうかな? 他にも頑張ってくれた人は死んだことにしてばら撒いちゃっていいよ、連座制だっけ、馬鹿な親の為に優秀な人材が失われるのはもったいないしね。

でもお家断絶は仕方がないよね、反逆者だし。

まぁその辺のことはベルツシュタイン伯爵様とヘルザー宰相様に頑張ってもらって、上手いことやって。せっかくここまで育てたのにこんなところで衰退されちゃったら、僕がなんのために頑張ってきたって話になっちゃうからね」

 

ナニカは伝えることは伝えたとばかりに、放心する人々をよそにその場を離れようとする。

 

「待ってくれ、鑑賞者よ。我らは許されたのだろうか、我らの罪は、王都の人々は・・・」

国王ゾルバは立ち去ろうとするナニカに、懇願するように言葉を向ける。

 

「・・・前にも言ったけど、僕は人を見ることが好きなんだよ。じゃなきゃこんな面倒なことしないから。

でもね、流石に今回はやり過ぎ、君たちが助かったのはフィヨルドの御大の機嫌がたまたまよかったからに過ぎないんだよ?

王家は剣の勇者様の時も馬鹿やったよね、国家滅亡の危機を救ってくれた恩人を自分たちより発言力が増しそうだからって始末しようとする。最愛の賢者を亡き者にすればいずれ取り込む事が出来ると考える辺り浅はかとしか言いようがない。

そんな事じゃ大厄災と呼ばれ恐れられた“狂った聖女”を封じた英雄である初代国王様に笑われちゃうよ? 何なら解き放つ? “狂った聖女”、うちで元気にしてるよ?」

 

何かの言葉にゾルバ国王は思い出す、この存在は決して自分たちの味方などではない、あくまで自分たちを観察し愉悦を満たす“鑑賞者”、人の思考の及ばぬ高位存在であるという事を。

 

「それじゃ後始末よろしくね、国として付けないといけないけじめはあるから表向きはしっかりやってね。でもこれでもどうにもならない馬鹿が湧くのが貴族社会なんだよね、人って本当に面白いよね」

そう言いまるで霧のように姿を消すナニカ、それが合図であったかのように天から日差しが差し込み、暗雲が嘘のように晴れていく。

その場に残されたゾルバ国王は王都が救われた喜びもそこそこに、残された課題の多さに天を見上げる事しかできないのであった。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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