転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第809話 星屑のレクイエム

「重装機動部隊、前線に展開、機構魔導師団、遠距離攻撃を開始せよ!!」

“ズドドドドドドドドドドドドドドドド”

連射式大口径石火矢を抱えた重装兵が標的に向け一斉掃射を行う。

“ズババババババババババババババババ”

数百という魔法使いが杖を掲げ、各属性のボール魔法・アロー魔法・ランス魔法を撃ち続ける。

 

“ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ、ズドーーーンッズドーーーンッズドーーーンッズドーーーンッ”

立ち昇る土煙、周囲一帯を爆炎と爆風が包み、戦場を荒れ果てた大地へと変えていく。だが・・・

 

「<連剣龍牙乱舞>」

「<多重暴風領域>」

「<アイアンランス・レイン>」

“ボフーーッ、ボフーーッ、ボフーーッ、ボフーーッ、ボフーーッ”

土煙を切り裂き飛び交う斬撃。

““““ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ””””

立ち昇る幾つもの竜巻。

“ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ”

天より降り注ぐ無数の鉄槍の雨。

 

「「「「「グァ~~~~~、ギャ~~~~~!!」」」」」

戦場に苦痛に歪む叫びと悲鳴が木霊する。

 

「長距離炸裂砲用意、目標、敵後方部隊、撃て!!」

“ズドーーンッ、ズドーーンッ、ズドーーンッ、ズドーーンッ、ズドーーンッ”

現れたのは巨大な砲門を構えた大量殺戮兵器、豪炎と共に撃ち出された砲弾が、高台から戦場を見下ろす敵後方部隊を直撃する、その筈であった。

 

「<空間把握><収納魔法><反転解放>」

“ボスボスボスボスボス、パシュパシュパシュパシュパシュ”

突如中空に現れた黒い穴、高速で飛び込んだ砲弾はまるで瞬間的に向きを変えたかのように撃ち出した砲門へと戻っていく。

 

“ボッボッボッボッボッ、ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ”

炸裂砲弾は十全に己の責務を果たす。着弾前に分裂し、広範囲を殲滅する狂気と化す。

 

「「「「「ギャーーーーーーーーーーー!!」」」」」

即死した者は幸いである。腕をもがれ、頭を削られ、内臓をぶちまけもだえ苦しみながら死に至る。戦場は狂気の宴、死と血煙が立ち込める修羅の楽園。

 

「のう、そろそろ飽きてきたんじゃが、このまま突っ込んで蹂躙を始めても良いかの?」

「そうだな、あいつらも最初こそ威勢よく突っ込んできたものの、すぐに動きを止めおって。離れた場所からちまちまと鬱陶しい。

ここは一気に最奥の指令本部まで・・・」(ニチャ~)

 

剣鬼がぼやく、鬼神が笑う。血に飢えた修羅が暴れ狂う欲求を解放させろと喚き出す。

 

「駄目です、決められた持ち場から先に進まないでください。今でこそ何とか引き付けられているんです、これ以上相手方を刺激すればバルカン帝国軍は直ぐに踵を返しスロバニア王国への侵攻に切り替えてしまいます。

それでは戦乱の世が始まりご主人様の平穏が脅かされてしまうではありませんか。

始めるのならお二方が皇帝なり国王なりの地位に就かれますか?」

「「すみませんでした、調子に乗りました、ですのでそれだけは勘弁してください!!」」

 

修羅たちはそそくさと持ち場に戻り、己の仕事を再開する。シルビアとイザベルは、そんな男達の姿にまるで子供のようだと笑みを漏らす。

バルカン帝国軍のダイソン公国侵攻が始まって丸一日、戦局は膠着状態に陥っていた。

 

バルカン帝国軍東部方面作戦参謀長イワノフ・ユーリビッチは戦局地図を睨み思いを巡らせていた。オーランド王国王都壊滅作戦は既に実行された。兎は餌を持ち込み、親鳥は子を探し兎の巣に辿り着いた。その後の経過報告は届いていないが、ワイバーンの仕掛けも上手く発動したとの報告は受けている、王都壊滅は間違いなく達成されたであろう。

であれば他国が救済と称してオーランド王国を掌握する前に我が軍が王都跡地を掌握、混乱に乗じ帝国の支配下に置く必要がある。

 

「これ以上時間は掛けられんか」

ダイソン公国の抵抗は考慮に入れていたものの、完全に足止めさせられるとは思いもしなかった。開戦直後の精霊砲の破壊、その後の重装機動部隊、機構魔導師団、重装騎兵団の攻撃も、彼らの壁を抜けることが出来なかった。

 

「聖者の行進、我が国の武器供与を受けたダイソン公国軍一万七千の兵をたった三十騎の兵で沈黙させた辺境の蛮族、ホーンラビット伯爵家の狂人共がオーランド王国に手を貸すとは。

いや、違うか、宰相マケドニアル・グロリアはドレイク・ホーンラビット伯爵の第二夫人デイマリアの父であったな、これは私の読みが浅かったという事か」

 

イワノフ・ユーリビッチは考える、今最も有効な手段と取るべき行動は一体何であるかと。

 

「全軍に通達、前線を下げる、警戒しつつ後退。負傷者の回収急げ!!」

イワノフの指示が飛ぶ、指令本部が慌ただしい動きを見せる。バルカン帝国軍とダイソン公国軍との戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。

 

――――――――――――

 

「いや~、しかし派手だね~。バルカン帝国もあんなに色んな兵器を持ち出して、侵略に対する本気度が違うよね、流石は侵略国家。

それじゃ、僕もそろそろ仕事を始めようかな」

その者は遥か上空から戦場を見渡していた。攻めるバルカン帝国軍とそれを個の力で抑え込むダイソン公国軍。均衡が崩れるのは一瞬、我慢比べのような戦局に、そのナニカはどちらも大したものだと称賛の声を上げていた。

 

“ブワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ”

影が広がる、それは雲が掛かり影に覆われたといったものではない、地面が一瞬にして黒く染まる。その範囲は広大で、この国境を挟む戦場全域、バルカン帝国軍とダイソン公国軍を含む全ての者たちが、影の領域に囚われた。

 

“あ~あ~、うん、聞こえてるかな? 戦争中ごめんね、ちょっと大事なお知らせがあって、一時的に皆を拘束させてもらいました。

あっ、救助活動中の人たちはこれじゃ不味いか。<広域ハイヒール>”

“ブワーーーーーーーーーーーーー”

突然広がった影、その影に捕らわれるように足下を拘束された自分たち。そして心に直接語り掛けられるかのような何者かの声、困惑と混乱、そして恐怖が広がる中、癒しの光が周囲一帯を埋め尽くす。

 

“まぁこれで大丈夫かな? 流石に失った手足が生えてきたりはしないけど、よっぽどの瀕死じゃない限り落ち着いたはずだよ?

で、話の続きね。バルカン帝国軍の上層部の人たちは知ってると思うけどオーランド王国王都で騎士団と軍による大規模な反乱が起きてね、それ自体はどうでもいいんだけど反乱軍の首謀者が王城に事もあろうにドラゴンの卵を持ち込んじゃったんだよ。

それで親ドラゴンが怒っちゃって、王都に乗り込んで大騒ぎって事になっちゃったんだよ。まぁこの流れは全部バルカン帝国軍東部方面作戦参謀長イワノフ・ユーリビッチ氏の謀略だったんだけどね。

 

いや、実際凄いと思うよ、ドラゴンを使って王都を滅ぼそうだなんて普通考え付いても実行出来ないもん。

今回の何が凄いのかって、卵を抱える親ドラゴンの情報を仕入れて塒から盗み出してきちゃったところだよね。バルカン帝国諜報部の調査能力って半端ない、無論その情報を基に作戦を組み立て実行にまで持っていった東部方面作戦参謀長イワノフ・ユーリビッチ氏の手腕が突出している事は言うまでもないけどね。

本当にこの作戦は素晴らしかったです、オーランド王国崩壊は確実、世界の歴史にまた一つドラゴンの伝説が刻まれるところでした”

 

声が止まる、イワノフ・ユーリビッチは考える、何故この声はオーランド王国王都崩壊を“ところでした”と仮定の話として語るのかと。

 

“ドラゴンの世界って結構狭いんだよ、絶対的な個体数が少ないからしようがないんだけどね。

ドラゴンは自身に剣を向ける者とは死力を尽くして戦う、それが兵を持つ権力者であれば地域や国を亡ぼす事もある。でもこれはあくまで攻撃された者と攻撃を行った者との問題であって、他の者は手を出さない。

これってドラゴン同士の暗黙の了解って奴なんだよ。

でもね、一つだけ全てのドラゴンが協力しちゃうことがあるんだよ、それが巣立ちの前の子供を守る時。さっきも言ったけどドラゴンって絶対数が少ないんだよ、だから巣立ちの前の子供はことのほか大事にするし、巣立ちの時は多くのドラゴンが駆け付けて旅立ちを祝うんだ。

 

つまり何が言いたいのかって言うと、ドラゴンさんたち大激怒、危うくオーランド王国全体が世界地図から消えちゃうところでした。いや~、危なかった危なかった、僕もうヘロヘロ、あんな交渉二度としたくない。

ドラゴンって本気で恐ろしいんだからね?

で、当然こんな馬鹿な事を行ったバルカン帝国には制裁が(くだ)りま~す。

ちょっと危ないからみんな下がってもらうね~”

 

“ブワッ”

影が身体を包み込む、それは一瞬か永遠か、自身を包んでいた闇が晴れた時、そこは自身のいた戦場とは全く違う場所。

 

“バルカン帝国軍の皆さんは全体を十キロメートほど下がらせてもらったよ。壊れた武器や亡くなられていた方の御遺体は一カ所にまとめておいたから後で処分と供養をお願いします。ダイソン公国側は特に被害らしい被害はないけど危ないからね、やっぱり十キロメートほど下がってもらいました。

で、何が危ないかって言うと、上をご覧ください”

 

何者かの声に空を見上げる、そこには雲一つない晩夏の空が広がり、先程までの喧騒が嘘のように、穏やかな風が流れている。

 

‟‟グワァーーーーーーーーー””

“ブォン、ブォン”

二体の巨大なブラックドラゴンが空を舞う。

 

““ギュワーーーーーーーーォ””

“ズドーーーーン、ズドーーーーン”

二体の巨大で細長い龍が、大地に舞い降りる。

 

‟‟グワァーーー、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ””

地面に向かいドラゴンブレスを吐きながら飛んでいくブラックドラゴン。

 

““ギュワッ、ギュワッ、ドガァガァガァガァガァガァガァガァガァガァ””

巨大な身体をうねらせ、掘り進めるように去っていく二体の地龍。

 

“ドラゴンの裁定はバルカン帝国の割譲、はっきりと分かる形で北と南を分けるから、北はドラゴンの領域と思っていいよ。別にそこの人間をどうこうしようって気はないらしいんだけど、帝国の支配は認めないってさ。

工事が終わったら後で挨拶に行くって伝えといて”

声が止まる、音が遠ざかっていく。自分たちを縛っていた影が消え、自由を取り戻した人々は戦場であった場所に戻るや、口を開けたまま言葉を失う。

 

「これは一体なんだというんだ、我々は、バルカン帝国は、一体何を怒らせてしまったというんだ」

そこにあったもの、ソレは渓谷、大地は消え、横幅が数キロメートにも及ぶ大渓谷が、西に向かいただ真っ直ぐに。

 

「イワノフ作戦参謀長、いかがいたしましょうか?」

「至急帝都にこの事態を報告、ドラゴンの襲撃と謎の人物による警告、帝都に四体のドラゴンが向かう可能性がある、この場で起きたことを包み隠さず詳細に伝えよ、ドラゴンの襲撃に備えろと!!」

 

事態の急変、バルカン帝国に襲い来るドラゴンたち。バルカン帝国帝都は今、未曾有の危機に晒されようとしているのであった。

 

 

「・・・終わってしもうたの」

「あぁ、終わっちまったな。というか何だあれは、アイツあんな隠し玉まで用意してやがったのか、意味が分からないんだが」

ドラゴンの襲来と大渓谷の出現、あまりの事態の急変に毒気を抜かれた修羅たちは、故郷マルセル村の事を思いながら、迎えはいつ頃来るのかと場違いな心配をするのであった。




本日一話目です。
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