転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第81話 村人転生者、お届け物をする

“カツンッ、カツンッ、カツンッ”

階段を上り扉が大きく開かれた入り口を入ると、そこは喧騒に包まれた冒険者ギルド受付ロビー。ボビー老人は受付の場所をサッと確認すると、子供たちを引き連れて“六番受付窓口の男性職員”に声を掛けた。

 

「あぁ、お忙しい所すまんのう。先程下の解体所受付で魔物の状態証明書と従魔の審査証明を貰って来たんじゃが、手続きをお願い出来るかの。解体主任殿からこちらの六番受付に持って行く様にと言われて来たんじゃが・・・大丈夫だったかの?」

 

「ん?解体主任から?珍しいな。まぁいい、爺さん書類を出しな」

そう言い手を出すギルド受付の男性職員。

ボビー老人は人のよさそうな笑顔を浮かべながら“よろしくお願いしますじゃ”と言って書類を手渡すのだった。

 

「ほう、爺さん中々やるな。そう言う訳か。で、こっちが従魔と、なるほどね。ところで爺さん、これって爺さんから頼んだのかい?」

そう言い値踏みする様な目でボビー老人を睨む受付の男性職員に、「イヤイヤ、解体職員さんのお心遣いと聞いておるよ。儂も話を聞かされて驚いたもんじゃ。ここの受付職員さん方も大変じゃの~」と言って眉根を寄せるボビー老人。

 

「フッ、アイツらも中々いい判断をするじゃないか。まぁ冒険者ギルドのギルド職員もピンキリって事だ、悪く思わないでくれ。

じゃあこれ、確認してくれるか?良かったらここにサインを頼む」

そう言い人には見えない様に深皿に入れた大銀貨八枚を差し出す男性職員。それを受け取ったボビー師匠はやはり人目に付かないようにサッと袋にしまい、ササッとサインをすると“確かに”と言ってニッコリ微笑むのでした。

 

「それとこれが鑑札になる。首や腕、脚などその従魔によって付ける場所は様々だが、基本あまり動きの多くない落ちにくい場所がいいとされている。その辺はそちらで工夫してくれ」

 

「何から何まですまんの。人目が集まってもなんじゃし、あまり長居せぬうちに引き上げさせていただくとしようかの」

 

「恥ずかしながらそうだな、爺さん達も達者でな」

 

「お主もな、世話になったぞい。ほれ、皆行くぞ。迷子にならぬ様にな」

そう言いボビー老人が子供たちを引き連れその場を去ろうとした時だった。

 

“ドガッ”

「イッタ~イ」

「ほれほれ言わんこっちゃない、ケビンや、大丈夫かの?鼻の頭が真っ赤ではないか、ちゃんと前を見て歩かんから転ぶんじゃ、泣くでないぞ?周りの皆が驚くでな。外に出たら串肉を買ってやるでそれまで我慢せい」

「う~、本当?だったら痛いけど我慢する~」

 

突然床に転び鼻の頭を強打した子供に優しく寄り添う老人。その場にいた冒険者たちも始めの物音に驚きこそすれ、どこかほっこりするその光景に頬を緩めるのでした。

 

老人と子供達が冒険者ギルドの受付ロビーを出て暫く、一人の年配の受付嬢が窓辺に佇み、荷馬車に乗り込みギルド建物を離れていく子供達の一行を見送っていた。

 

「ギルドマスター、先程の一行がどうか致しましたか?」

そんな女性に声を掛けたのは冒険者ギルドの制服を着込んだ壮年の男性。

 

「あぁ、副ギルドマスターですか。いえ、先程の老人が懐かしい顔だったものですから少し。私の記憶が確かなら、あの方は元白金級冒険者ボビー、“下町の剣聖”ボビーと言った方が分かるかしら。あなたくらいの世代にとっては憧れだったと思うのだけど」

 

「えっ、あの“下町の剣聖”ボビー師匠が来ていたんですか!?

教えて下さいよ~、自分大好きだったんですから。彼の英雄譚はどれも含蓄溢れた素晴らしいものなんですよ?知的でありながら庶民的、最高じゃないですか。平民にとっては大英雄と言っても過言じゃない人物なんですから。

って言うかギルドマスター、いつもの悪戯はやって無いですよね、英雄に失礼な事をしたらいくら貴女でも許しませんからね、職責を掛けてギルド総本部に訴え出ますからね」

鼻息を荒くして詰め寄る副ギルドマスターに顔を引き攣らせるギルドマスター。

 

「落ち付きなさい、別に受付ロビーで騒ぎなんか起きなかったでしょ?彼らも何事もなく去って行ったじゃない。

まぁ何もしなかった訳ではないけど上手く躱されたのかしらね。その辺はよく分からないのだけれど。今は子供達相手に剣術の手解きをしているそうよ、引退してから何処かの村の剣術指南の職に就いたらしいわ。

以前から人間関係が煩わしい様な事を仰っていた方だったから、それなりに幸せな余生を送られてるみたいね。いい感じの歳の取り方をなさっていたわ。ああ言う姿を見せられちゃうと少し羨ましくもあるわね」

ギルドマスターはそう言うと窓辺から視線を外し副ギルドマスターに向き直る。

 

「ま、そんな事を言っていても仕方がないわ、私達は私達の職務に戻りましょう。何か緊急の報告はあるかしら?」

 

「はい、先日会議が行われましたオークの森の間引きの件ですが、商業ギルドからの問い合わせが入っています。春先に領兵により行われたオーク掃討の際に仕入れたオーク肉の在庫がそろそろ尽きそうとの事で、市場価格が上がっているとの事です。それにより住民の生活に・・・」

 

冒険者ギルドは人生の交差点、引かれ合う者、反発し合う者、共に手を取り命を掛ける者、袂を分かちそれぞれの道を進む者。ただ横を通り過ぎる事もあれば、生涯に渡る付き合いの始まりになる事もある。今日もまた新たな出会いと別れを繰り返しながら彼らは冒険に旅立つ、彼らは皆自由を愛する者達、冒険者なのだから。

 

―――――――――――――――

 

荷馬車は揺れる、カタコト音を立てて、一路目的のバストール商会を目指して。隣には空の荷車を引く大男、そんな一行に街の者は誰も注目する事はない。何故ならここは交易地方都市ミルガル、グロリア辺境伯領北西部最大の街なのだから。

冒険者ギルドを離れて暫し、そろそろバストール商会が見えようかと言う地点に来てボビー師匠が呟く。

 

「ケビンよ、そろそろよいかの」

「そうですね、流石にここまでくれば大丈夫でしょうか」

「「・・・・ダ~、勘弁してくれ~」」

行き成りグダ~ッとする二人に驚く子供たち。一体何事かと訝しむ彼らに“お主が説明せい”と促されたケビン少年が話し始める。

 

「う~ん、ジェイク君、エミリーちゃん、ジミーの三人は“覇気”と言う言葉を聞いた事があるかな?これは僕の愛読書“勇者物語”の剣の勇者の話しによく出てくる言葉なんだけどね。剣術や棒術、体術と言った物理攻撃系を得意とする冒険者などが所謂達人の領域に達すると自然と身に付けていると言われる技なんだ。

一対一の戦いなどで互いの覇気がぶつかり合うとか集団での戦場で覇気と覇気が激しく火花を散らせるとか言った表現で語られるけど、実際この覇気を浴びせられると身体が委縮したり身動きが出来なくなったりするんだ。俗に言う”気当て”と言うものの効果がそれだね。

で、互いに達人と呼ばれる者同士になったりするとごく微量の覇気にも身体が勝手に反応してしまったりするんだよ、当然攻撃に対する反応だね。相手に覇気を当てる事は攻撃の意思とみなされるんだ。これを我慢すると言うのは達人になればなるほど難しいらしい。

 

さっき冒険者ギルドで僕が盛大に音を立てて転んだだろう?あの時あの一瞬がちょっとでもズレていたらロビーにいたギルドマスターがボビー師匠に覇気を放つところだったんだよ。前でも後でもダメ、あの覇気を放つちょっと前の間合いで盛大に転んだことで気が逸れて覇気を打つ事が出来なくなったんだ。本当にギリギリだったんだよ」

 

「うむ、あれは儂も危なかった。あの場で覇気なんぞ浴びせられたら間違いなく戦闘を開始しておったわい。

儂の見立てではあのギルドマスター“白銀”は相当にやりおるからの、被害が偉い事になるところじゃったわい。しかも儂が勝ってしまいそうだったからの、そうなったら面倒事が列をなしてやって来るところじゃった」

 

「いや、本当にボビー師匠よく堪えてくれました、穏やかな田舎暮らしのお爺さんそのものでしたから。あの後も長い時間こちらの様子を窺ってましたからね、内心冷や汗ものでしたよ」

 

「あぁ、“白銀のエミリア”はしつこい事で有名じゃったからな。少しでも疑問や引っ掛かりがあると納得するまで食らいつく。それで多くの依頼を成功に導いて来たんだから誰も文句は言えんのじゃがな。

あの冒険者ギルドミルガル支部の運営の巧みさは(まさ)しく彼女の仕事じゃ、普通この程度の規模の街の冒険者ギルドであればもっと荒くれ者がゴロゴロしていてもおかしくないんじゃが、しっかり統制が取れておったからの。ほんにしつこいくらい内部組織の立て直しを行ったんじゃろうて、何事にも緩い冒険者にしたら溜まったもんではなかった事じゃろうな。まぁ自業自得じゃわい、カッカッカッカッ」

 

「ジミーたちも気を付けるんだよ、面倒事は何処に転がってるのか分からないんだからね。特にあんな大物でしかも強い人間に目を付けられたら何をさせられるのか分かったもんじゃない。命が幾つあっても足りないっての」

 

チビッ子軍団のあずかり知らない所で行われていた静かで激しい攻防、彼らは大人たちの思惑の難しさと恐ろしさを改めて思い知るのでした。

 

「皆さんお疲れ様でした、こちらがミルガルの街を拠点とするバストール商会の本部です。早速ご挨拶に向かいましょう。」

ボイルさんの呼び掛けに旅の最大の目的地に到着したと安堵する一行。バストール商会はグロリア辺境伯領北西部で一番の商会と言われるだけあり、建物の前には多くの荷馬車と人とが行き交っているのでした。

 

「こんにちは、私どもは行商人ドラゴ氏の紹介で参りました北部マルセル村の者でございます。商会長もしくはドラゴ氏にお取次ぎ願えませんでしょうか。こちらがドラゴ氏からの紹介状になります」

忙しく動く者の中から指示役と思わしき者に目を付け声を掛けるボイル、元商人の目端の鋭さは今も健在と言う事なのだろう。

 

「お待たせしました、マルセル村の方々ですね、お話しは当商会の行商人ドラゴより伺っております。ただ今商会長は別件で席を外しております、申し訳ございませんがこちらの応接室でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?すぐに皆様の分のお飲み物をお持ちいたします」

商会の従業員に案内された応接室は商談と言うよりも会議で使っているのではないのだろうかと言った風情のサッパリした無駄のない造りであった。ただ置かれている調度品などはそれなりの品の良さを保っており、決してないがしろにされている訳ではない事は良く伝わって来ていた。

 

“ガチャッ”

「お前たちか、マルセル村とか言うこのところ野菜と干し肉で名を売って来ていると言う田舎者たちは。で、今日はその野菜を持って来たと、また野菜如きの為に遠路はるばるご苦労だったな。店の者に案内させるからササッと引き渡して帰る事だ。まったくこのバストール商会を八百屋と勘違いするとはな、うちで扱うんだったら麦や大豆と言った穀物や豆類だろう。生鮮野菜なんか買い付けてどうするんだか、ドラゴが一体何を考えているのか理解に苦しむぞ」

そう言い退出を促す若い男性。そんな男性に向かい一歩前に出たケビン少年は、子供らしい笑顔を浮かべ、ニカッと微笑むのでした。




本日一話目です。
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