転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第810話 星屑のレクイエム (2)

その凶報は、バルカン帝国軍東部方面作戦参謀長イワノフ・ユーリビッチの名で届けられた。

 

「皇帝陛下にご報告申し上げます、東部方面作戦参謀長イワノフ・ユーリビッチ様より緊急の知らせが入りました。

“オーランド王国侵攻作戦は失敗、四体のドラゴンが帝国領土に渓谷を築きながら西に向かい侵攻中。何者かが渓谷が完成次第帝都に向かうとの宣言を残しているところから、ドラゴンを従える者の存在が疑われる。

帝都に緊急事態宣言を発令し、ドラゴン襲来に備えられたし”、以上となります」

 

齎された急報にざわめく帝国幹部たち、そんな中、皇帝バレシュタイン・リヒテンブルグは口元に笑みを浮かべ「ほう」と呟く。それは退屈な日常に紛れ込んだ予期せぬ催しごとに喜ぶ子供のように、純粋に、残忍に。

 

「皇帝陛下、いかがいたしますか?」

帝国幹部の一人が偉大なる皇帝に恭しく伺いを立てる。

「許す」

皇帝の口から発せられた言葉はその一言、だがそれは第一級警戒態勢の発動を告げる帝国最大の危機の知らせ。帝国はこの瞬間から、この大厄災を一丸となって打ち砕くべく動き出したのであった。

 

――――――――――――――

 

“カンカンカンカンカンカン、カンカンカンカンカンカン、カンカンカンカンカンカン!!”

鳴り響く半鐘の鐘の音、それは街に迫る危険を知らせる警鐘音。

 

““グギャ~~~~~~~、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ””

響き渡る魔物の咆哮、それは大気を揺らし、人々の恐怖を掻き立てる。

 

「何だ、一体何が起きている!!」

バルカン帝国クローザ伯爵領キャンバス、街を取り囲む重厚な街壁を備えるそこは、バルカン帝国東部に位置する地方都市であった。そんな街に突如響き渡る警鐘と轟く魔物の咆哮、この事態に冒険者ギルドキャンバス支部ではギルド長の怒声が響く。

 

“バタバタバタバタバタドガッ”

「た、大変だ!!」

階段を駆け上がり受付ホールへ飛び込んできた冒険者に、その場の者たちの視線が集まる。

 

「ド、ドラゴンが、ドラゴンがーーー!!」

「なっ、ドラゴンだと!? 街中の冒険者を集めろ、緊急依頼だ、拒否は許さん!! 銀級上位、金級の者を急ぎ招集、ドラゴンの対処に当たる。

それでドラゴンはどっちから来てるんだ!!」

 

「東、東街門の方角から真っ直ぐ、真っ黒なドラゴンが二体、ドラゴンブレスを吐き大地を削りながら向かってきてやがる。しかもその後ろにもまだ二体細長い姿のドラゴンが、俺たちはもうお終いだーー!!」

冒険者の声にその場の者たちに動揺が走る。ある者は真相を確かめるべく東街門に走り、ある者は「ふざけたことを抜かすな、この嘘つき野郎!!」と怒鳴り声を上げ、またある者は顔を青くしその場から逃げ出そうとする。

 

““ギュワーーーーーーーーォ””

近付きつつある咆哮、それはキャンバスが四体のドラゴンという未曽有の大厄災により蹂躙されつつあるという知らせ。

 

「クッ、どうしたらいいって言うんだ、女神様にでも祈れってのかよ!!」

吐き捨てるように叫ぶギルド長、受付ホール内には受付嬢の悲鳴と冒険者の怒号が広がる。その時であった。

 

“ブワンッ”

一瞬にして暗くなる周囲、何が起きたのかが分からず恐怖に押し黙る人々。雲が掛かったなどというものではない、月のない闇夜が突然訪れたかのように、響いていたドラゴンの咆哮もドラゴンブレスの轟音も、その一切が消え失せる。

 

「なっ、誰か明りを、<ライト>の魔法で周囲を照らせ。出来なければ<プチライト>でも<ファイヤ>でも構わん!!」

ギルド長の声に急ぎ光属性初級魔法<ライト>を唱える魔法使い冒険者、照らし出された普段と何も変わらぬ冒険者ギルド受付ホールの様子に、自身の目がおかしくなったのではないと安堵するその場の者たち。

 

「・・・それじゃ一体何だって」

玄関から外に飛び出せば明りのない街並みと真っ暗な空、冒険者ギルド建物だけではなくキャンバスの街全体が闇に包まれている事に、驚愕よりも理解が追い付かず呆然とするギルド長。

 

“ブワンッ”

「うわっ」

何の前触れもなく、突如として日の光が戻る。暗闇から行き成り解放された人々は、目を押さえ呻き声を上げながらしゃがみ込む。

一体何が起きたのか、全く分からないまま周囲の状況を確認したギルド長は、再び鳴り始めた半鐘の音に警戒心を呼び覚ます。今は訳の分からない現象に戸惑っている場合などではない、目の前に迫るドラゴンという大厄災からキャンバスの街を守らなければならない、それこそが冒険者ギルドキャンバス支部ギルド長としての責務なのだから。

 

「状況の確認は後だ、今はドラゴンへの備えが最優先となる。何が出来るのかなど後回しだ、先ずは東街門前に集まりドラゴンに対し牽制攻撃を」

ギルド長がその場の冒険者に号令を出そうとした時であった。

 

“バタバタバタバタバタドガッ”

「た、大変だ!!」

「どうした、今度は何が起きた!!」

 

「ド、ドラゴンが・・・」

「ドラゴンがキャンバスに迫っている事は分かっている!! だからこれから東街門に「違うんだ!」・・・何が違うのだ」

様子の異なる冒険者の報告に、その場の者たちの視線が集まる。

 

「複数のドラゴンが突然北街門からかなり離れた位置に現われて、そのまま西に向かって進んでいってるんだ。さっきまで聞こえていたドラゴンの咆哮もずっと遠くに離れて」

「はぁ? それは一体どういう事だ」

広がる困惑、理解の追い付かない事象の数々に、何をどうすればいいのか分からなくなる人々。

 

「とりあえず確認だ、誰か東街門まで行ってドラゴンがどうなったのか聞いて来てくれ、咆哮やブレスによる地鳴りが聞こえないって事はキャンバスには向かって来ていないって事だろうが、正確なところが知りたい。それと<望遠>か<遠見>のスキル持ちがいたら北街門に行ってドラゴンの様子を見てきてくれ。

何体のドラゴンがいるのか、何をしているのか、何処に向かっているのか。出来るだけ多くの情報を調べて来て欲しい。緊急依頼として依頼報酬は規定通り払うものとする」

ギルド長の言葉に走り出す冒険者、何が起きたのかを知りたいという冒険者としての欲もあるが、依頼報酬が出るとなれば躊躇するまでもない。

 

「本当に一体何が起きてやがる。もしかしてキャンバスの街は女神様に守られたって事なのか?」

一人呟きながら近くの椅子に腰を下ろすギルド長。その後街の井戸という井戸が枯れてしまっていた事、他所の街へ続く道が消えてしまった事、ドラゴンが過ぎ去った跡地に広大な渓谷が出来上がっていた事で再び緊急依頼を発動する事になるのだが、大きくため息を吐くギルド長はその事を知る由もないのであった。

 

―――――――――――――

 

遥か遠く、何処までも広がる地平線に夕日が沈む。多くの人々が住み暮らす大いなる大地、喜びも悲しみも、その全てを受け止めてくれる女神様の深い愛に感謝し、一日の終わりに祈りを捧げる。

 

「はい、皆さんそこまで~、食事休憩を取ります。大福とシャロンは姿を元に戻してください、緑と黄色は小さくなってね。俺は現場のガレキ撤去をしちゃうから」

作業員の皆さんに声を掛け、現場監督である俺は現場の仕上げに入ります。

 

“スッ”

掲げるのは魔法杖“スターダスト”、闇属性魔力を精密に操るための心強い味方。

“ブワッ”

闇が伸び、ドラゴンズがボコボコにした地面を覆い尽くす。

 

「<収納>」

“スッ”

闇が消えた時、そこには何千年という悠久の時を掛けて作られたような大渓谷が姿を現すのでした。モデルは在りし日の記憶にある世界最大の渓谷グランドキャニオン、とあるクイズ番組で崖の上で早押しクイズをやっているシーンを見ながらスゲーって思ったもんです。

結局生で見る事はなかったけど、その思いを形にしたのがこれ。横幅三キロメート、深さ五百メート、グランドキャニオンの約半分のスケールですが、国を分断するには十分かと。バルカン帝国の技術力なら橋くらい掛けちゃいそうですが、まぁその辺は人の努力って事で。

 

で、こうやって俺が渓谷造成をしていたんならドラゴンズが何をやっていたかと言えば、パフォーマンスですね。冷静に考えてドラゴンがブレスを噴いたからって大渓谷は出来ませんからね? 精々地面が抉れて深い溝が出来るくらい、周囲にはその瓦礫が散乱するって感じですか。

いつだったかフィヨルド山脈の中心部の山に最強生物が作ったと思しき洞窟を見に行ったけど、アレだってブレスで吹き飛ばした岩なんかは崖下に落ちていってたってだけだと思いますよ? でもな~、相手は最強生物だしな~、岩壁を蒸発させて洞窟を作ってもおかしくないんだよな~。

考えただけで恐怖の記憶が、この件が終わったら貢物をしなければ。

 

「はい、皆さんお待たせしました。今夜のメニューはレッサードラゴンの丸焼きです。その丈夫な皮膚の特性を活かし、皮付きのまましっかり加熱、焦げ付いた皮はキレイに剥がして中のジューシーなお肉をいただく一品、心行くまでお楽しみください」

収納の腕輪から取り出したテーブルとイスを並べ、シャロンと大福用の大皿をそれぞれ用意、緑と黄色には専用の盥桶にお肉をどさっと盛り付けてお出しします。

 

“““ガバッ、ガツガツガツ、キュワ~~~~~!!”””

緑と黄色とシャロンはレッサードラゴンの肉に喰らい付くや、歓喜の雄たけびを上げられています。無論大福先生も満足しているのかプルプル震えておられるご様子、これ、直ぐにお代わり要求がくる奴ですね、承知しました。

日が沈み、魔道具のランタンの明かりに照らされながら給仕に励む俺氏。チームドラゴンズの夕餉は、こうして夜遅くまで続いていくのでした。

 

帝国の空を闇が染める。月のない新月の晩、星々の瞬きがやけに美しく感じる。

 

“バサッ”

星の光は闇夜の道標、闇の住人が静かに活動を開始する。

 

「ふ~ん、流石はバルカン帝国、既に進路を特定して準備万端で僕たちを歓迎してくれるつもりなのかな? でも、その程度の事で本当に僕たちを止めることが出来るのかな?

今宵は新月、魔法杖“スターダスト”が最も力を発揮する夜」

 

ソレは夜空から大地を見下ろしていた。背後に四体のドラゴンを従えしナニカは、右手に持つ漆黒の短杖を星空に掲げる。

 

「<空間把握><範囲指定:西方向四千キロメート:横幅十キロメート><結界術>」

“ブワーーーーーーーーーーーーーーーーッ”

広がる横長の巨大な結界、街が、軍隊が、巨大な結界の中に包まれる。

 

「<影魔法:影空間収納><範囲指定:結界より南十キロメート地点:影転移>」

“ブワッ”

結界内を闇が走る、闇に包まれた人々は瞬間的に移動させられるも、周囲の景色が変わらないため状況が全く分からない。

 

「<空間把握>、変に分断しちゃったりしてないかなっと。 あっ、村が二つ、街が一つ中途半端に北側に残ってるよ、これダメな奴だよ。

って事でもう一回<影魔法:影空間収納><範囲指定:結界より南十キロメート地点:影転移>、これで大丈夫かな?

南側は転移地点にあった街や村は避けたし、大丈夫って事で。

それじゃ最後の仕上げ、<範囲指定:西方四千キロメート:横幅五キロメート:深さ五百メート><収納>」

“ブォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ“

結界内を濃厚な闇属性魔力が走る、その魔力が先端に到着した時、そこにはバルカン帝国を横断し海に至る大渓谷が姿を現すのだった。

 

「<結界海側下方解除:陸側後方解除>」

“ブワッ”

結界から吹き出す風、まるで何かに押し出されるように風が吹いたかと思うやゴゴゴゴゴゴと唸りを上げる。

 

「うん、これちょっと危ないね、結界は暫くこのままって事で。

よ~し、みんなで海まで競争ね~。騒ぎながら飛んでいくよ~♪」

““““ギュワーーーーーーーー♪””””

 

その夜、バルカン帝国の空を四体のドラゴンが西の空に飛び去っていく姿が各地で目撃された。そして夜が明けた時、帝国を南北に分断する途轍もなく長大な結界がある事に気付き、驚愕する事になるのであった。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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