転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第811話 星屑のレクイエム (3)

バルカン帝国本土を四体のドラゴンが襲っている、この知らせは帝国の誇る通信技術により瞬く間に帝国全土に知らされた。

帝国情報部は各地から入るドラゴンの目撃情報を分析、直ちにドラゴンの進路を割り出し、その進行速度から最適な襲撃地点を導き出した。

帝国中央軍は情報部からの報告に従い直ちに行動を開始、緊急事態宣言を受け第一級警戒態勢に移行した鉄道網を使い帝国軍の最新兵器を運び込み、半日と掛からず対ドラゴン反攻拠点を作り上げたのであった。

 

それは月のない夜更け、煌々と周囲を照らす魔道具の明かりの下、反攻拠点の帝国軍司令部ではドラゴンの侵攻をいかに止め撃退せしめるのか、上層部の者たちが激しく意見を交わしていた。

情報部の予想接敵時刻は深夜二時、残り四時間ですべての準備を済まさなければならない。帝国軍人として命儚くなる覚悟は疾うに済ませている、だが何もせず何も出来ず祖国が蹂躙される事、それだけは絶対に看過できない。

ドラゴンを操る何者かは大地を傷付けるばかりか帝都ドンヌベルクに向かうと宣言しているという、これはただの魔物災害なのではなく明確な敵対行為、我らが帝国に対する侵略など決して許す訳にはいかない。

 

「敵が真っ直ぐ西に向かい侵攻している事は分かっている、その不遜で傲慢な行いを我らが叩き潰す。長距離精霊砲が二台しか用意出来なかった事は悔やまれるが、これは所詮足止めに過ぎない。長距離炸裂砲によりドラゴンの視力を奪う。

我々の目的は奴らにいかに深手を負わせ、次に繋げるかだ。命は捨てろ、最善を尽くせ、我らの戦いに帝国の未来が掛かっていると知れ!!」

“““““バッ”””””

 

「所詮我らは血に飢えた軍人、祖国のためにドラゴンと一戦交えるなどこれに勝る舞台はなし、派手に散るぞ!!」

「「「「「皇帝陛下の御為に!!」」」」」

“““““ザッ”””””

作戦は決まった、後は己の為すべき事を為すのみ。各部隊の隊長たちがそれぞれの配置に付こうと席を立ちあがった、その時であった。

 

“ブワッ”

何かが変わった、それが一体何であるかは分からないものの、明確に何かが変わった感覚が背筋を走る。

 

“バッ”

司令官は指令本部のあるテントを飛び出すと、周囲の者に声を掛ける。

 

「今のは何だ!? 何があった!!」

だが司令官の問い掛けに答えを出せる者はいない。反攻拠点では今も魔導照明により昼間のような明るさが確保され、兵士たちが攻撃準備に走り回っている。

 

「気のせい・・・なのか?」

辺りは夜の闇に沈み、多くの人の気配に魔獣の鳴き声すら響く事はない。

“やはりドラゴンとの戦いを前に気が高ぶっていたという事か”

司令官は大きく深呼吸し、自身の緊張を落ち着ける。見上げれば満天の星、その輝きは自身がいかに小さな存在であるのかという事を知らしめる。

 

「観測兵、相手はドラゴンだが夜の闇では見逃す事もある。集中を切らす事なく観測を続けろ。情報部の予測では後四時間後の接敵となっているが相手は魔物、何があるのかなど分からんのだからな」

「ハッ、了解であります、司令官!!」

部下の返事に小さく頷いた司令官が、踵を返し司令部のテントに戻ろうとした時であった。

 

““““グギャ~~~~~~~~~~~~~!!””””

遥か東の空から響くドラゴンの咆哮、急ぎ配置につく兵士たち。

 

「ドラゴンの接近、各自戦闘準備急げ!! 長距離精霊砲発射準備、観測兵、ドラゴンの位置は!」

「・・・えっ!?」

司令官の問い掛けに驚きの声を上げる観測兵。司令官は怒声を上げ再び観測兵にドラゴンの現在地を問い質す。

 

「腑抜けるな!! ドラゴンの現在地を答えんか!!」

「ハッ、ドラゴンは我々の左斜め前方を飛行、距離を取ったまま西に向け通過していきます!! 飛行速度が速い、低空ではありますがただ真っ直ぐ飛んでいる模様!!」

 

「「「「「はぁ!?」」」」」

““““グギャ~~~~~~~~~アォ~~~~~~~~””””

 

「現在北側上空を通過中、距離にしておよそ十キロメート!!」

「どういう事だ!! なぜそれ程のズレが。それに報告にあったドラゴンブレスの攻撃も一切行っていないではないか、咆哮を上げ低空で飛行するだけなど何故!?」

混乱する司令官たちをよそに四体のドラゴンは西の空に向かい飛び去っていくのだった。

司令官は急ぎ調査隊の派遣を決定、ドラゴンたちが飛び去っていった北十キロメート付近の調査を行った。

 

「司令官に報告いたします。ドラゴンの飛行した北十キロメート付近を調査しに向かった調査隊によりますと、現在地より北に五キロほど進んだ地点に結界が張られておりそれより先に進むことが出来ないとの事であります。

現在その結界の範囲について調査を行っておりますが、現時点ではどれ程の範囲であるのか不明であります」

 

この報告は通信の魔道具により即座に帝都に知らされる事となる、そして帝都には各街や軍施設から同様の報告が次々と上げられる事となるのであった。

 

バルカン帝国帝都ドンヌベルク、その中枢にして国の心臓とも呼ぶべきリヒテンブルグ帝城では、深夜にもかかわらず各地方から届くドラゴンの目撃情報に、帝国幹部たちが眠れぬ夜を過ごすこととなっていた。

 

「それで、ドラゴンの現在予測地点は?」

「はい、この位置になるかと。ただ現在も四体のドラゴンは高速飛行を続けており、この速度を維持できるとすれば明け方には海上に達するものかと。また、ドラゴンが海上から帝都ドンヌベルクに真っ直ぐ向かうとすれば五時間から六時間での到着が予想されますので、最短で本日の昼過ぎには帝都上空にドラゴンが飛来する計算となります。

ただこれはあくまでドラゴンがそのまま帝都を目指した場合であり、ドラゴンが何を目的として海上を目指しているのかが分からない以上、ハッキリとした事は何も言えません」

 

情報部からの報告に、眉間に皺を寄せる帝国幹部たち。東部方面作戦参謀長イワノフ・ユーリビッチからの報告によりドラゴンたちが帝国に対し敵対意識を持っている事は明白、そんな者たちが帝都を目指さないという事は考えられない。

手元の書類にはダイソン公国との戦闘時に現われたドラゴンの詳細と、その場の者全員の意識に直接伝えられた何者かによる宣言が克明に記されていた。

 

「十万にも及ぶ将兵全員に直接念話により語り掛けられた宣言、全ての兵に治療を施した<広域ハイヒール>、全ての兵ならびに武器装備を瞬時に転移させた謎の魔法。ドラゴンとオーランド王国の間を取り持ったと言わんばかりの話の内容。

荒唐無稽と一笑に付すことは、現在進行中の状況が許さない。

敵はバルカン帝国の長い歴史の中でも突出した強者、ドラゴンを従えるだけの力を持った存在と考えていいだろう」

「ご報告いたします。その何者かですが、我々情報部はこれまで我々がオーランド王国に仕掛けた作戦並びにヨークシャー森林国に仕掛けた作戦の際に登場した黒衣の者であると考えています。

オーランド王国では観賞者と呼称し、紛争や戦争と言った人の争いを舞台に見立て観察し続ける力ある高位存在と位置付けているようです。

また、観賞者の口から語られた話の内容を分析したところ、そうした力持つ存在は複数名いるらしく、観賞者が絶対的な存在ではないようです。

 

それと一つ気になるになる情報が。先日ドラゴンの襲来を報告して来たクローザ伯爵領の地方都市キャンバスですが、ドラゴンが迫る直前に街全体が夜のような闇に包まれ、闇が晴れた時ドラゴンが街の北側に移動し大地にドラゴンブレスを吐きながら通過していったとか。

これは東部方面軍の将兵が体験した事と酷似しており、その後の調査で街門から続く街道の消失や渓谷の出現といった現象が確認されています。

この事から観賞者は大規模な魔法により進路上の障害物を南側、すなわち帝国側へ退けていると考えられます」

 

「なっ、それでは対ドラゴン用の反攻拠点にいた者たちは進路上の障害物として南へと移動させられたというのか!?」

「正確な事は夜が明けてから測量等を行わなければ分りませんが、間違いないかと。それと報告された結界ですが結界内に渓谷が築かれている可能性が高いものと考えられます。何故観賞者が結界によって渓谷を覆っているのかまでは不明ですが、各地からの報告を考えるに、海岸線に到達する地点まで結界が続いているものではないかと」

 

諜報部の者の報告に騒然とする帝国幹部たち、反攻拠点からでも海上に達するまでに三千キロメート以上の距離がある、その全てを結界で覆うなど想像する事すら馬鹿馬鹿しい。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。沿岸部の街バルーセより報告が入りました。バルーセより北に十五キロメート進んだ街道上に結界を発見、結界はそのまま海上に向かい伸びている模様、以上となります」

「「「「「なっ・・・」」」」」

 

あり得ない規模の大結界、帝国を南北に分断する壁の出現に、唯々唖然とする一同。

 

「伝令官、この事を皇帝陛下にご報告申し上げろ。事態は我々の想定を大きく超えた規模で進行しているとお伝えするのだ。

この先は我々の判断だけで進める事の出来る次元を超えている、これはただのドラゴンによる襲撃などではないとお伝えするのだ、急げ!!」

「ハッ、失礼いたします!!」

その場を走り出す伝令官、帝国幹部たちは迫る国家存亡の危機に、眠れぬ夜を過ごすのであった。

 

――――――――――

 

「ヌオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ、クソ~~~~負けた~~~~~!! 一位・大福選手、二位・緑選手、三位・ケビン選手、四位・黄色選手、五位・シャロン選手。第一回バルカン帝国横断競争は、大福選手の勝利です、大福選手、優勝おめでとうございます!!」

“グワァーーーーーーーーー!!”

大地から昇る朝日に照らされキラキラと輝く水面、遂にやってきました本物の海!!

観賞者の演技はいいのか? いいのいいの、どうせ誰も見てないし、というか飛ぶのに一生懸命で忘れてたし。

今回の飛行は黒鴉先生と合体して精霊化してのものではない完全生身、時速四百五十キロ(適当)の風の抵抗のヤバい事、全身を魔力の膜でカバーして尚首が持っていかれると思ったわ。

もうね、飛ぶのって過酷、ドラゴンがなんであれ程強靭な肉体を手に入れたのかって、偏に高速で飛ぶためですね、多分。

それ程に空気抵抗ってヤバかったっす、見栄を張らずに円錐結界を張ればよかったとどれだけ後悔した事か。でも男の子には見栄を張らなければいけない時があるのです! だって、男の子だもん!!

 

「ほ~い、みんなお疲れ~、それじゃ朝食食べに行こうか、朝食。向こうに港街も見えてるし、海の魚が水揚げされていると見た。港町は朝早いって言うしね~。でもこのまま向かったら大騒ぎになっちゃうんで少し離れてから姿をくらませるって方向で、そんじゃ行くよ~」

““““ギャウギャウギャウ♪””””

俺の言葉に嬉しげに騒ぐ四体のドラゴン(内一体スライムの擬態)。俺はそんなドラゴンズを宥めながら陸から見て豆粒大の大きさになるくらいまで離れてから、水面に影を広げ影空間に飛び込むのでした。

 

―――――――――――――

 

「おい、今の見たか?」

「あぁ、ドラゴンたちが水しぶき一つ立てずに海に潜って行きやがった、ありゃ一体どうなってやがるんだ」

そこはバルカン帝国の西に広がる海を臨む港街バルーセ、海上運送が盛んで漁業の港としても知られるそこは、多くの海の男が集まる船乗りの止まり木。船乗りの中には<望遠>や<遠見>のスキルを授かっている者が多く、ドラゴンの咆哮により海上に目を向けた者たちは暗黒大陸方向に飛んでいった四体のドラゴンが波一つ立てずに海へ飛び込む場面を目撃する事となったのであった。

 

ドラゴンの目撃情報は直ちに街の監督官に報告されすぐに調査の船が海上に出される事となったものの、その痕跡は遂に見つけることが出来ないのであった。

 

「いらっしゃい、一人かい?」

「あっ、いや、ちょっと聞きたいんですけど、このお店って従魔って連れ込んでも大丈夫ですかね? ヘビが二匹とスライムが一体なんですけど・・・」

扉を開けて入ってきたのは漆黒のコートを羽織った人物、店主は夏の終わりのまだ暑さが残る時期に変な格好の奴が入ってきたと訝しみの視線を送る。

 

「従魔だと? まぁ今日は見ての通り開店休業中だからアレだが、よく街中にそんな物騒なものを連れ込めたな」

「ハハハ、門兵さんにはそんなので役に立つのかって言われちゃったんですけどね。大福、緑、黄色、出ておいで」

コートの若者の声にフードから飛び出す黒いスライムとコートの袖から顔を見せる二匹のスネーク系魔物。その様子に“だからこの時期にコートなのか”と納得する店主。

 

「まぁそれほど大きいって事もないし、今回だけならいいか。兄ちゃん一人なのか?」

「連れがもう一人います。友人の娘さんで、しばらく世話を頼まれちゃいまして。シャロン、ご主人が入っていいってさ」

若者に促され店に入ってきた者は白く長い髪を靡かせた若く美しい女性。

 

「なんだよ、兄ちゃんやるな」

「いえいえ、本当に友人の娘さんなんですよ。お父さん大好きっ子で俺なんか眼中にないっす。それに俺嫁さんいるんで浮気なんかとてもとても、いや~子供を産んだ女性って強いっすよね~、俺絶対に勝てる気がしませんよ」

そう言い頭を掻く若者にガハハと笑う店主。その後「お任せでどんどん持ってきてください、予算は金貨五枚までいけますから」という若者の言葉に宣言通りどんどん料理を運ぶも、三体の従魔と白髪の美女による大食い選手権により夜の食材まですっかり食べ尽くされ、お代わりの要求に乾いた笑いを浮かべながら食材を買いに行く羽目になる店主なのであった。

 




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