転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第815話 天上のOL(総合職)、上司と飲みに行く

天上界、そこは天上人たちの暮らす別世界。地上世界の事象を見守り、女神様がお創りになられたこの世界を管理し支えていく事を使命とする天使たちの故郷。

天使は女神様の手足として地上世界を飛び回り、時に厳しく、時に優しく世界に寄り添っていく。そして天使たちは地上人たちの生活をつぶさに観察し、世界がより良い方向へ向かうよう陰ながら導いていく。

 

「**#@様、エイジアン大陸西部バルカン帝国に落下した隕石群の被害状況をまとめた資料をお持ちいたしました。それと併せまして、バルカン帝国に出現しました渓谷に流れ込んだ海水が、ダイソン公国国境付近に到達いたしました事をご報告いたします」

「分かりました、人的被害はどのようになっていますか? まぁ、“星降り”の様子は私も閲覧していましたので分かっていますが、詳細までは分かりませんから」

 

天使は職務上三つの階級区分に別れている。地上に赴き様々な調査を行ったり神々の補佐を行ったりといった役割を担う下級天使、下級天使を纏め指示を与えたり企画立案などにも携わる中級天使、各部署を統括し、天使たちを纏め上げる上級天使。

彼らはそれぞれの役割を分担し、協力し合う事で女神様の望まれる世界を作り上げようと努力し続けていた。

 

「結果から申し上げれば“星降り”を直接的な原因とした死者は確認されておりません。“星降り”の前に行われました<広域ハイヒール>により帝都を中心として半径三十キロメートから集められた人々は余程の状態の者を除き回復しておりましたし、“星降り”によって生じた衝撃波も半径三十キロの外周に張られた大規模結界により周辺都市に向かわぬように防がれておりました。

結果今回の隕石群落下における死傷者は確認することが出来ませんでした。

また特異点が語っていたリヒテンブルグ帝城地下に存在したとされるダンジョンですが、アーカイブを精査した結果たしかに存在していたことが確認されました。現在リヒテンブルグ帝城跡地周辺部からダンジョンコアの反応は感知出来ず、隕石群落下により完全に消失したものと考えられます」

 

部下からの報告にざっと資料に目を通した**#@は大きくため息を漏らす。“星降り”、それは天使が行う神聖魔法、上級天使クラスの者にしか行使する事の出来ない神の御業。

だが今回の“星降り”はこれまでの天界の常識を大きく塗り替えることとなった。この“星降り”において神力が一切使用されていなかったのである。

 

「$$%&、ご苦労様でした、あなたも疲れたでしょう。この後居酒屋に寄るつもりですが、一緒にどうですか?」

「はい、お供させていただきます!!」

天使の休息、部下との交流も組織運営には必要な事。上級天使**#@は目の下に隈を作るほどに仕事に打ち込む部下の働きを労うため、退勤後落ち合う約束をし執務室を下がらせると、机の上の書類に目を通すのであった。

 

―――――――――――――

 

“トントントントントントン”

まな板を叩く包丁の音が、小気味好いリズムを刻む。

鍋に投入したキャロルとマッシュがクツクツ音を立てダンスを踊る。冬眠前の丸まると大きくなったマッドボア、サイズ的にはグレートボアと呼んでも差し支えない大きさに育ってしまったのは天敵がいないからか、それとも食事の影響か。

島の生態系は大丈夫なのだろうかと不安を覚えつつ、美味しいお肉は正義とばかりにスライスしたモモ肉を鍋に泳がせる。

仕上げは魔剣“匠”が作製した島産の味噌、扶桑国から持ち込んだ味噌をベースに試行錯誤を繰り返し作り出した匠の努力には、畏敬の念しか浮かばない。

自身の新しい可能性に取り組むその姿は、人として見習うべきものがあるだろう。

俺はお玉に味噌を掬い取り、菜箸で少しずつ鍋の中に溶かしていく。

秋の味覚、夏の疲れを解消する根菜とボア肉の味噌仕立てスープは、来店して下さるお客様方を温かくもてなしてくれる事だろう。

 

“カランカランカラン”

ドアベルの音が店内に響く、お客様の来店に頬を叩き気合いを入れる。料理と酒の旨い店、居酒屋ケビンは今夜もまた新たな物語を奏で始めるのだった。

 

「いらっしゃいませ、本部長様、あなた様。本日はお二人そろってのご来店、誠にありがとうございます。夏も終わりを迎え、秋野菜が取れる季節になってまいりました。先ずは身体の温まる根菜とボア肉の味噌仕立てスープをご賞味ください」

“コトッ、コトッ”

カウンターテーブルに座られたお客様方にお椀によそったスープをお出しする。常連のお二人は箸の使い方も大変お上手で、食事する姿が一枚の絵画のように美しい。

俺は嬉しそうに笑顔を浮かべるお二方を席に残し、次の皿を用意すべく厨房へと戻っていくのであった。

 

“コトンッ”

「あ~、美味しかった。やっぱり味噌のスープにはご飯よご飯、これってもしかして新米? 前に食べた物と味が違ったんだけど」

「はい、オーランド王国南部地域のリットン侯爵領で栽培を始めました稲の新米でございます。栽培指導に当たりました鬼人族の者によりますと、気候的に扶桑国北部地域に近いとの事で、丈夫な稲が育ってくれました。

本日お出しした米は魔法で乾燥したものになりますが、もうしばらくすれば天日干ししたものをお出しできるかと。

これからオーランド王国にも米食文化が広がるかと思うと、楽しみでなりません」

 

俺はそう言うと、バッカス酒店に注文して作ってもらった米酒をグラスに注いでお出しします。この米酒は島の田んぼから取れたお米から作ってもらったもの、前回の古米から作ったものよりも味が良くなっていること請け合いです。

 

「美味しいですね、スッキリとした味わいでありながらしっかり旨味が残っている。ワインとはまた違った独特の味わい、今日の料理との相性も良さそうです」

そう言いグラスの米酒を口にされる本部長様、俺は摘みにバルカン帝国で仕入れた魚の刺身盛り合わせをお出しします。やはり北側の海に当たるバルカン帝国の近海魚は島の周りの魚とは種類が違うようです。

まぁここは南海の孤島ですからね、カラフルな魚の多いこと。調査すれば違う種類の魚もいそうですが、何といっても広いんですよね、ここ。

俺は自分用のグラスに米酒を注ぐと、そっと口を付けるのでした。

 

“カランカランカラン”

「いらっしゃいませ」

“うむ、取り敢えずエールを特製ジョッキで貰おうか。おう、あなた様も来ていたか、それと本部長様であったか、今回は大変であったな”

ドアベルが鳴りお客様の来店を告げる。おれは注文のエールを小樽に取っ手を付けたような特製ジョッキに注ぎお出しします。

 

「ちょっとエンシェントドラゴン、私の隣に座らないでよ。あなた小さくなっても迫力が違うのよ、少しは存在感を抑えなさいよね!!」

“ワッハッハッハッ、良いではないか、あなた様は中級天使、十分我に対抗できるのだから。それよりもそろそろケビンの事情聴取を始めなくてもよいのか? 今夜はそれが楽しみでここに来たのだがな”

ウッ、折角旨い料理と旨い酒ではぐらかそうと思っていたのに。まぁ本部長様はあなた様と違って逃がしてくれそうもありませんでしたけど!!

 

「そうですね、関係者も揃った事ですし今回の経緯についてお話しいただきましょうか」

「あ、はい。まぁ経緯と言っても一応あなた様には相談していたんで詳細は上がっていたと思いますが、改めてお話しします。

始まりはグロリア辺境伯領領都グルセリアの暗殺者ギルドで調査を依頼していたオーランド王国の国内情勢やバルカン帝国の動きの情報報告を受けている時でした。暗殺者ギルドのマスターが不確実な情報と前置きした上で教えてくれたんですよ、バルカン帝国がオーランド王国にドラゴンを嗾けようとしていると。

話の元はスロバニア王国にあるドラゴンの塒付近でバルカン帝国の工作部隊らしき一団がたびたび目撃されているというものでした。マスターは酔っぱらいが面白おかしく話を膨らませているだけと考えていたようでしたが、俺はそうは思わなかった。

ワイバーンの卵を手に入れオーランド王国の軍閥貴族を唆してワイバーン部隊なんてものを作らせたバルカン帝国の目的がさっぱり分からなかったところにこの話です。最悪の事態が思い浮かんだ時、俺はブルッと震えましたよ。

それでその事をフィヨルド様とあなた様にご相談して、あくまで俺がバルカン帝国の作戦参謀長だったらという仮定の話として根回しをさせてもらったんです」

 

“うむ、あの時は笑ったぞ、何を馬鹿な事をと思ったからな。しかしケビンの話す事態の想定があまりにも理に適っていたのでな、我の名を使う許可を出したのよ。

気になって眷属のワイバーンに上空から監視させておいたのだが、まさにケビンの言う通りになった時はさすがに驚いたぞ。オーランド王国王都に姿を現した者は友人の子でな、千二百歳ほどの若いドラゴンであるな。

しかしあの者もよくよくオーランド王国と縁があると見える。前にオーランド王国のどこぞの貴族に戦いを挑まれて攻め込んできたドラゴンがいたであろう、それがあの者よ。あの若者が卵を育てていたとは、時が経つのは早いものであるな”

最強生物の言葉にふと思考が止まる。友人の子? あのドラゴンが?

 

「フィヨルド様、少々お聞きしたいんですが、あのドラゴン様はどちらのご友人のお子さまなんでしょうか?」

“あぁ、ケビンもよく知っておるマロニエ連山のドラゴンよ。あのとんでもない塒から無事に巣立ちを迎えた時には皆して祝福したものよ、よくぞ生き延びたとな”

 

・・・だ~~~、ゴミ屋敷ドラゴンの子供じゃん、エッガードの兄弟じゃん。というか、俺連絡入れてないんだけど? これどうするよ!?

 

“マロニエのには我から連絡しておいたぞ、卵を盗まれた話をしたら呆れておったがな。無事に卵を持って塒に帰ったと伝えたら、うちの子が迷惑を掛けたと恐縮しておったわ。

なんにせよ卵であったからな、ドラゴンの卵はドラゴンが踏もうがブレスをかけようがびくともせん程丈夫である故、何も心配してはおらんかったぞ?”

 

・・・セーフ、最強生物ナイスアシスト!! あぶねーあぶねー、最強生物からドラゴンは巣立ち前の子供のためなら一致団結する話を聞いていたからどうなる事かと思ったわ。

ゴミ屋敷には冬にでもご挨拶に行かないとな、エッガードの近況も知らせないといけないし、諦めていた卵がこんなに元気になったって知ったらあのおばちゃんドラゴンも喜んでくれるでしょう。(打算アリアリ)

 

「話は戻りますが、ドラゴンがオーランド王国の王都を襲った原因は、バルカン帝国の工作員が持ち込んだドラゴンの卵に呼ばれたからですね。バルカン帝国の工作員は魔力溜まりと化しているドラゴンの塒の最奥にまで侵入し、魔力遮断の魔道具か何かで卵を覆い王都に到着してからその装置を解除したのでしょう。

卵からの救援要請を受けた親ドラゴンは誘われる様に王都に向かった、まぁせっかくなんで王都にいる弟たちに本物のドラゴンとの戦いを経験してもらったって訳なんですけどね。

これも暗殺者ギルドからの情報で比較的若い個体だって事は予測がついていたので、いつも大福ヒドラのドラゴンモードと戦闘訓練を行っていた彼らなら何とかなるかなって思っていたからこそなんですが。

一応元剣の勇者のグランドとオークの勇者ブー太郎に待機してもらってはいたんで、危なそうなら加勢してもらうって事になっていたんですが」

 

ケビンの話に呆れた顔になる本部長様とあなた様。“この兄は過保護なんだか容赦ないんだか判断に迷う”とこめかみを揉む。

 

「それである程度の戦闘を経験してもらったところでドラゴン軍団の登場、若者たちに世の中ヤバい存在はたくさんいるんだぞって知らしめて場を収めたって感じです。まぁ上手くいって良かったですよ、あのまま戦いを見守っていたらあの子たちドラゴンを倒しちゃいそうでしたからね。

そうなったら大騒ぎどころの話じゃ済まなくなりますんで、勇者パーティーをめぐって各国による争奪戦、下手したら国家間紛争に発展するところでしたから」

そう言い肩を竦める俺に、「イヤイヤイヤ、問題はそこじゃないから、何よあの人型ドラゴンみたいな存在は!!」とツッコミを入れるあなた様。

 

「えっと、前に鑑定してもらった時見ましたよね? スキル<龍の全身鎧>。使う機会なんか一生ないと思ってたんですけど、正体を誤魔化すのに丁度良かったんで採用しました。<覇王の威圧>も併用したんで鑑定を掛けられる心配もありませんしね。残月やトライデントから“こんな威圧を掛けられながら鑑定を行うのは無理です”とお墨付きも貰ってますんで」

俺の言葉に「何でこんな子に育っちゃったの」と母親のようなセリフを吐くあなた様。

 

美しく煌めく星空の下、岩山の中腹にある隠れ家的お店居酒屋ケビンでの事情聴取は、まだまだ終わりそうにないのでありました。

 




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