“ドンッ”
“お代わり、次は米酒を貰おう。あれは飲み口が良いからな”
カウンターテーブルに特製ジョッキを置きお代わりを要求する地上の厄災、バッカス酒店のお酒は最強生物もお気に召したようで、いつも大樽でお持ち帰りになられます。
注意点は本来の姿だと一瞬で飲み終わっちゃうこと、お酒を飲む時は必ず縮小化するように言い聞かせてあります。
俺はカウンターテーブルの下から一升瓶を取り出し特製ジョッキにトクトクと注ぎ入れます。この一升瓶はバッカス酒店のものなので当然のように大型マジックバッグのようになっており、材料のお米と共に製造依頼を出すと、出来上がった米酒をこの一本に詰めて送り返してきてくれます。
最強生物にお出しした方は古米で作ってもらった方の米酒ですね、最強生物にも島の新米で作ってもらったものをお出しした事があったんだけど、“我は前のものの方がよい”と言って古米のお酒を好まれるんですよね。
この辺は好みの違い? 俺のような若造にはまだ分からない世界です。
「それじゃドラゴンが王都に向かったところまではいいですかね? まぁ王都で軍閥貴族の造反が起きてた事やワイバーンを帝国の工作部隊が操って王都襲撃を画策した事なんかは、ドラゴンの襲撃に比べたら些事なんで割愛します。その辺は人の営みの範疇ですから。
オーランド王国にはドラゴンを怒らせたら怖いって事を確り学んでもらわないといけないんで、今回のドラゴンに加えてウチの従業員にも参加してもらってドラゴン大行進を行ってみました。王都上空を雷雲が覆ったのは演出です、その方がより怖ろしく印象的に心に残りますんで。
参加者は大福とシャロンと緑と黄色ですね。あなた様は御存じかと思いますが、二体の細長い龍とブラックドラゴンが緑と黄色とシャロンになります。もう一体のブラックドラゴンは大福の擬態ですね、アイツドラゴンに変身できますんで」
「はぁ!? あれってスライムの大福だったの? あの子、ヒドラになるだけじゃなくてそんな事も出来たの?」
俺の言葉に驚くあなた様、そう言えばあなた様は大福ドラゴンモードを見た事がないんでした。あの時は一人酔い潰れてたからな~。本部長様が何か遠い目をされてますが、見なかった事にしましょう。
「それで俺がスキル<龍の全身鎧>による変身を行った格好で、高位存在の一人ってフリをしながら色々と話を進めて全体を丸め込んだって感じです。オーランド王国王家に対するフォローは、雷雲に姿を消したと見せかけて大福たちを急いで影空間に仕舞い込んでから変身を解いた俺が、気配を消して王城に忍び込み、然もすべてを後ろで見てましたといった体で行っておきました。詳細はアーカイブをご確認ください。
次にバルカン帝国への対応ですが、バルカン帝国東部方面軍がダイソン公国に侵攻してくることは分かっていましたんで、マルセル村の戦闘狂を監視役付きで派遣しておきました。やっぱりあの四人はおかしいですね、残月の監視が無かったら四人で数万というバルカン帝国軍を滅ぼすところだったんですから。
被害が抑えられたのは戦闘狂共が国境付近から先に行かないように残月がよく見張ってくれていたのと、バルカン帝国側の東部方面作戦参謀長イワノフ・ユーリビッチが優秀だったからでしょう。
あれほどの戦闘にも関わらず死傷者が全体の一割以内に抑えられてるって、本当に凄い事ですよ。今回俺の介入があったから結果は変わりましたけど、俺が一切手を出さなかったらオーランド王国南部地域がバルカン帝国に実効支配されることは避けられなかったでしょうね。
オーランド王国が属国化するのかそれとも帝国領に組み込まれてしまったのか、その辺は俺にも分かりませんが。
俺としてはマルセル村でのんびりと生活していたいんで、世の中に戦乱の嵐が吹き荒れるのは困るんですよ。
ですんでバルカン帝国には少し大人しくしてもらう事にしました」
“コトッ、コトッ、コトッ”
カウンターテーブルに差し出した一品はイカの一夜干し。この世界、イカがいました。バルカン帝国の港街で入った食堂のご主人曰く、地元の人間くらいしか食べないとか。他の地域の者はウネウネ足を動かす姿が気持ち悪いとか言って見向きもしないらしく、市場でも二束三文で売られていると言っていました。
まぁ急ぎ市場に行って貴族買いしてきたんですけどね。漁師さんたちが呆れてましたけど、収納の腕輪には木箱に詰まったイカが何箱も唸っております。
天日干しすればスルメイカになるのかな? この辺は要実験です。
「これはまた米酒に合いますね、醤油を少し付けると美味しさが一段引き上げられます」
“うむ、見た目は昔食べた事のあるクラーケンに似ているな。あれは可愛げこそないが味は悪くなかったと記憶している”
・・・そうですか、クラーケン食べちゃいましたか~。そういえばこの自己領域の海にもクラーケンがいたな~、いつか捕まえて食べてみよう。
俺がそんな事を考えているとあなた様からのジト目が。話を進めろと、分かりました。
「ここから先はやった事こそ派手ですが話は単純です、バルカン帝国北部を分断してバルカン帝国がオーランド王国やヨークシャー森林国を攻めづらくしたって感じです。
切り取った北側をドラゴン領域としてバルカン帝国の支配を認めないものと通告しておく、もしバルカン帝国がその通告を無視したらどうなるのかは帝都の全住民に見せ付ける。数十万という帝都の住民が見せ付けられた悪夢、あれだけの状況を作り上げればいくら侵略国家といわれるバルカン帝国でも大人しくせざるを得ないでしょう。
まぁ俺も皇帝バレシュタイン・リヒテンブルグがダンジョンマスターに肉体を操られた傀儡であったとは思いもしませんでしたけど。幸いダンジョンを破壊する事でその繋がりも切れたようなので、これからは定命の者としての思考で国家運営をしてくれるものかと。
流石にそれで平和が訪れるかどうかは分かりませんけどね、人は争いごとが好きですし」
俺はこれで終わりですといった感じに肩を竦めると、グラスに米酒を注ぎ口を付けるのでした。
「イヤイヤイヤ、何全て語り終わりましたって感じの雰囲気作っちゃってるのよ、言ってることがおかし過ぎるからね?
何処の世界に故郷の村でのんびりしたいって理由で大陸に長さ四千キロ近い大渓谷を築いたり、帝都に隕石群を降らせる人族がいるってのよ。
ケビン、あなた人って言葉の意味解ってる? ついに人を辞める決心でも付いたの?」
これまで静かに黙ってたあなた様によるツッコミ、頑張って根回し(随時報告)を行っていたから今回は見逃してくれると思っていたんだけど、そうは上手くいかなかったようです。残念。
「“人”、ですか。中々哲学的な事を聞かれますね。
この世界において何故女神様が人にスキルという特殊能力をお与えになったのか、何故天使というこの世界の根幹を支える者たちに人の世界へ干渉させているのか。
思うに人とは“可能性”なのではないでしょうか。
天上界では不完全で愚かな地上人は天上人が管理し導かねばならない、不完全な地上人は女神様がお創りになられたこの世界にはふさわしくないと考える者たちがいるとか。
確かに人は愚かで醜く不完全な生き物です。美しく完成された天上人からすれば、そのような者たちが敬愛すべき女神様のお創りになったこの美しく完璧な世界で我が物顔に繁栄することが許せないのでしょう。
でも考えてみてください、天上界の方々が言うような完璧な者たちがこの世界に必要だとするのなら、何故女神様は初めからそのような存在をお創りになられなかったのでしょうか? 天上人が言うように女神様が完璧を望むのなら可能であったはず、でもなさらなかった。
何故なら完璧とは既に完成されているという事だから、それ以上の発展が望めないという事だから。
この話は誰に聞いたのかはっきり覚えてはいませんが、女神様はこの世界の発展を望まれている、その為に各補助神様方に人の世を見守らせているのだとか。
発展とはより良くなる事、より先に進む事。今日よりも明日、明日よりも明後日、先の未来に、次に繋がる子供たちに。
人の世はこうして発展と衰退を繰り返し現在まで続いてきています。
人とは“可能性”、己を信じ、前に進もうとする者。それは何も一人でなくてもいい、支え合い寄り添い。目指すモノは人それぞれ、才能であったり、家族との温かな時間であったり。
そうした意味において俺は“人”であり“人”として生きている。
俺はそう考えています」
“コトッ、コトッ、コトッ、ドンッ”
カウンターテーブルに並べられたグラスと特製ジョッキ、俺はそこに琥珀色の泡立つ液体を注いでいく。
「とある辺境の寒村に一人の男の子が生まれました。彼は日々の貧しい食事と飢えから、いつか腹いっぱい肉が食べたいと思っていた。
寒村の村長は常に考えていました、どうすればこの村を冬の寒さと飢えから救うことが出来るのかと。春の挨拶から生き残れて良かったという言葉をなくしたい、彼らの思いはビッグワーム農法という新たな農法を生み、村は豊かになった。
村人は協力し合い麦を作り野菜を育て、村人全員の努力の末、冬の寒さと飢えに怯える日々は終わった。
このエールはそんな村で生まれた新たな可能性、人々の思いが受け継がれ作り出された一つの答え」
“コトッ、コトッ、コトッ、ドンッ”
それぞれの前に置かれたグラスと特製ジョッキ、口に運んだエールは爽やかな旨味を口腔に広げる。
“旨いな”
「えぇ、確かにこれは美味しい」
最強生物と本部長様はグイッと飲み干すとカウンターのグラスとジョッキを置く。お代わりですね、了解です。
「どっしりとした味わい、爽やかなのど越し。人々の努力の末に生まれたエール、これが人の可能性。・・・って誤魔化されないからね、危ない危ない、私まで雰囲気に飲まれるところだったじゃない、この詐欺師。
もういいわ、ケビンが口を開くと碌なことにならないから、こうなったら実力行使よ。<管理者権限:ステータスオープン:モニター表示>」
“ブォン”
音を立て中空に現れる大画面モニター、そこには俺の現在のステータスが克明に記録されている。
名前 ケビン・ワイルドウッド
年齢 十七歳
種族 ***(*)(New)
職業 田舎者(辺境)
スキル
棒 自然人 田舎暮らし(*) 自己診断
魔法適性 無し
称号
辺境の勇者病仮性患者(*)
加護
創造神の加護
<スキル詳細>
<田舎暮らし>
・田舎暮らし(魔法)・・・魔力支配 影魔法 全属性魔法 生活魔法 重力魔法 儀式魔法 幻影魔法 神聖魔法 国盗り(New) 星降り(New)
・田舎暮らし(戦闘)・・・刀術 体術 斧術 弓術 槍術 盾術 索敵 身体支配 空走術 ラビット格闘術(奥伝) 空間把握 龍の全身鎧 浮遊 覇王の威圧 根性 ナイフ召喚 大声 統率 夜間自己再生 天想顕現 血界術 暴れん坊
・田舎暮らし(生産)・・・調薬術 鍛冶 錬金術 魔道具作成 農業全般 ポーション生成 糸生成 糸操作 ダンジョン生成 宝箱生成 ダンジョン魔物生成 醸し職人
・田舎暮らし(生活)・・・解体 調理 清掃 建築 生存術 魔物の雇用主 送り
称号詳細
<辺境の勇者病仮性患者>
魔物の親友 食のチャレンジャー 通貨を創りし者 新薬を創りし者 生活魔法を創りし者 魔力を理解せし者 小さな賢者 大森林の住人 導く者 進化を促せし者 呪いを解きし者 厄災の討伐者 発明家 魔物を飼育せし者 辺境の隠者 森の聖者 闇に潜む者 交渉人 魂の救済者 干し肉の勇者 風神速脚 鉄壁の門番 魔境を訪れし者 恐怖を乗り越えし者 ダンジョンマスターの友 ダンジョンの盟友 天然の魔王 影の英雄 魔境の深淵に至りし者 特殊進化魔物を造りし者 聖域を造りし者 召喚術を創りし者 堕天を食い止めし者 ドラゴン亜種との契約者 精霊女王との契約者 神聖樹との契約者 神性存在を誕生させし者 ダンジョンとの契約者 伝説級装備の製作者 聖人 救世主 傍観者 聖霊樹に名を付けし者 万軍の防壁 兎仙人の友 勇者を導きし者 フェンリル種との契約者 天魔神鳥との契約者 天界に届きし者 大特異点 女神の注目 増殖の魔王討伐者 冥府の使者 世界樹に名を付けし者 理不尽 混沌の魔王 疑似神気を作り出せし者 寄生の魔王討伐者 統治の魔王を救いし者 不可逆を覆せし亜神 天界の監査役 女神の感謝 ダンジョンを従わせし者 魔王カオス 人造天使を従えし者 禁足地の主 勇者を救済せし者 変身ヒーロー 上級天使を土下座させし者 神聖器の契約者 破滅級厄災の処理業者 呪物コレクター(特級) 古の聖女を救いし者 超越者 女神のお気に入り 龍種を従えし者 獣人の敵(New) 魔国を屈服させし者(New) ドラゴンの使者(New) バルカン帝国を分断せし者(New)
星落としの大魔王(New) 大厄災(New)
「・・・ついにシステムに見放されたわね」
“まぁ、あれ程のことをしておいて“人”と言い張るのは無理があるからな”
「そうですね、魔物であれば聖転進化を起こしていてもおかしくない偉業ではありますし」
反応は三者三様、このステータスはますます人にお見せ出来ません。
「それじゃ詳しく見ていくわね」
<種族詳細>
<***(*)>
・・・無理じゃん。こんなの「人」じゃないじゃん。って言うかこれだけやっておいて神の因子もドラゴンの因子も魔物の因子すら発現させてないって何なのさ、こんなの分類できるかーーー!!
種族ケビンでいいじゃん、何で表記されないんだよ、意味解んねえ。
もうお前の種族なんか知らん!!
byシステム
<スキル詳細>
<国盗り>
国を奪う。人も物も、その全てを奪い去る。但し傲ることなかれ、たとえ全てを奪われようとも人心が付き従うとは限らない。
空間把握に極大補正あり。
<星降り>
星を落とす。その輝きは願いを叶える希望か、破滅と厄災の訪れか。
空間把握に極大補正あり。
“キレてるな”
「「キレてますね」」
星々の輝く夜空の下、居酒屋ケビンのカウンターで一人の青年の頬を輝く星が流れ落ちていった事は、致し方のない事なのでありました。
本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora