転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第817話 辺境の伯爵、辺境男爵の報告を聞く

収穫期の農村は忙しい。葉物野菜、果菜類、根菜類、夏から秋にかけては様々な野菜の収穫が行われ、木箱に詰められ村役場へと持ち込まれる。

各家から集められたそれらの野菜は村役場のマジックバッグで管理され、契約した商会に引き取られていく。

人口の多い都市に近い村であればこうした作業も難なくこなすことが出来るだろう、だがここはホーンラビット伯爵領マルセル村、嘗て“オーランド王国の最果て”、“貴族令嬢の幽閉地”とまで呼ばれた辺境の地では、労働人口不足が深刻な問題となっていた。

 

収穫期に手隙の大人はおらず、授けの儀近くの子供たちも労働力として収穫作業に参加する。結果年端もいかない子供たちは自分達だけで集まり、村の中で遊ぶ事となる。

 

「注目、昨日エッガード隊員が無事任務を終えマルセル村に帰還した。本日より原隊に復帰する、皆温かく迎えるように」

「「「「「エッガード隊員、無事の帰還、おめでとうございます!!」」」」」

“““““ガウガウガウ”””””

 

仲間からの温かい歓迎、卵型魔獣エッガードは喜びにブルブルと身を震わせながら、その言葉に応える。

 

「ではこれより空中移動訓練に入る。総員、騎乗!!」

隊長であるミッシェルの号令の下、膝を曲げ伏せの体勢になる五体のグラスウルフ隊隊員。マルセル村ちびっこ軍団の子供たちは、各自グラスウルフ隊のパートナーに騎乗し隊長の言葉を待つ。

 

オーランド王国中を沸かせた王都武術大会開会式に登場したワイバーン部隊、その知らせは、その後の猛竜隊によるスタンピード制圧の知らせと共に辺境の地マルセル村にも届けられた。

ワイバーンに跨り空を飛ぶ、ワイバーン部隊活躍の話題で盛り上がる大人たちの会話を村のちびっ子たちが聞き逃すはずもなく、旺盛な好奇心と冒険心を刺激されたちびっこ軍団が“ワイバーン部隊ごっこ”に夢中になるのは至極当然の流れであった。

 

「よし、今日はホーンラビット牧場周辺の草原で各陣形の訓練を行う」

“バッ”

となりで浮遊する巨大な卵エッガードに飛び乗るミッシェル、ちびっ子たちは頭に付けたゴーグル(マルコお爺さん作製)を目に掛ける。

 

“ブルブルブルブルブル”

「エッガード、今日も頼むぞ。出発!!」

“フワッ、シューーーーーーー”

“ワォーーーーーン、シュタンッシュタンッシュタンッ”

 

子供たちは飛んでいく、初秋の空を村外れのホーンラビット牧場を目指して。秋の収穫祭でマルセル村飛行隊の演技飛行を見せる為、今日も彼らの訓練は続けられるのであった。

 

――――――――――――――――

 

「なんかうちの村のちびっ子がヤベー」

秋の空を飛んでいくドラゴンの卵と小型化したフェンリル五体、その背中にはミッシェルちゃんを筆頭にロバート君、チェリーちゃん、ルビアナちゃん、ランディー君、ポール君。マルセル村ちびっこ軍団は今日も元気です。

って言うかミッシェルちゃん達まだ四歳だよね? ランディー君とポール君にいたってはまだ三歳児だよね? 何で魔物に跨って空飛んでるの? 意味解らないんだけど。君たちは一体何を目指してるのかな?

 

「あの子達がこれからのマルセル村の標準なのか~。ドレイク村長、大丈夫なんだろうか?」

そう言えばそろそろ村長職をボイルさんに譲って伯爵家当主一本でいくようなことを話してたよな~。ドレイク・ホーンラビット伯爵、今だ諦めていなかった村長職復帰にようやくけりを付けるのだとか。

結構しつこかったよな、気持ちは分からないでもないけど。

 

自己領域の島に聳える大きな岩山、その中腹に作られた隠れ家的酒場居酒屋ケビン。そこで行われた今回の騒動の報告会は、俺がシステムさんから見捨てられるという衝撃の鑑定結果を以って幕を閉じた。

というか何故か皆してシステムさんに同情していたってどういうこと? 見捨てられたのは俺なんすけど? システムも辛かったんだろうなって、俺の方がよっぽど精神的ショックを受けてると思うんですけど?

だって種族が<***>って、読めねえよこんなの。あれか? 扶桑国から種籾輸入して稲作の普及に努めていたからか? <米米米>の間違いか?

 

ドレイク・ホーンラビット伯爵は村長を卒業し次のステップへ、でも俺の場合種族だもんな~、諦めきれないよな~。俺は人を卒業しないぞ、システム~~~~~!!

まぁ現実逃避はここまでにして、ホーンラビット伯爵閣下に状況終了報告に行かないといけません。いずれホーンラビット伯爵閣下のお耳にも王都のドラゴン大侵攻の知らせは入ってきちゃいますしね、エミリーちゃん大好きパパさんに変な心配を掛けるのもかわいそうですし。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。伯爵閣下、ケビン・ワイルドウッド男爵が参りました」

「あぁ、分かった。入ってもらってくれるか?」

 

ホーンラビット伯爵家のお屋敷、執事長ザルバさんに案内されて向かった伯爵閣下の執務室では、執務机に着かれたホーンラビット伯爵閣下が村役場から上がってきた山のような書類に目を通し、決裁処理を行っておりました。

偉い人って大変、本当に大変。ワイルドウッド男爵家は基本的に他領との付き合いもないしその辺は結構ざる。でも村のエール工房に小麦の納品を行ったり村役場に収穫した野菜を収めてたりしてるので、帳簿等は付けていますが。

そうした事務処理は生活支援機構である残月とトライデントの得意分野、決裁処理を含め二人にお任せしているのが現状です。

まぁ島の収穫物なんかは他所に出せませんしね、バッカス酒店との付き合いや最強生物やあなた様相手の貢物等々、言えない事だらけのワイルドウッド男爵家なのであります。

 

「ケビン君、わざわざ来て貰っておいて待たせるようで済まないけど、一区切りつくまで待っていてもらっていいかな? ザルバ、ケビン君にお茶とクッキーを、それとは別に全員分の聖茶とクッキーの準備も頼むよ」

ホーンラビット伯爵閣下の言葉に慇懃に礼をし、お茶の準備を始めるザルバさん。ガーネットさんも心の底からホーンラビット伯爵閣下に感謝しているといった様子で、クッキーを並べて行きます。

・・・なんで俺の話を聞くだけなのに、そんな死地に向かう兵士のような表情になられるんでしょうか? 御三方の一体感が怖いんですけど?

俺だって話していい事、悪い事の区別くらいついてますからね、一応。

俺はザルバさんが出してくれたお茶をすすりつつ、クロック君(ザルバさんとカミラさんの息子、俺にとっては義理の弟)の様子について話を聞くのでした。

 

「さて、お待たせして悪かったね。昨日はボビー師匠とヘンリーさん、シルビアさん、イザベルさん、それとケビン君のところの残月さんから話を聞かせてもらったよ。バルカン帝国軍の数万という大軍勢による侵攻をたった五名で抑え続ける。そんな本来あり得ないような英雄譚をやってのけたあの五人には感謝の言葉しかない。

ダイソン公国を、義父マケドニアル・グロリア宰相を救ってくれた事、心から感謝する、本当にありがとう」

そう言い深々と頭を下げるホーンラビット伯爵閣下、立場上旗下に就いている男爵に頭を下げるなんてことはしてはいけないんだろうけど、ここは辺境ホーンラビット伯爵領、多少のお貴族様的非常識には目を瞑ってもらうという方向で。

 

「いえ、これは私たちが言い出した事、ホーンラビット伯爵閣下が頭を下げることではありません。ですがそのお気持ちはありがたく受け取らせていただきます。後程ダイソン公国から正式に感謝状が届くと思いますので、そちらの対応の程よろしくお願いいたします。

通常ではこの段階で十分頭のおかしな話ですが、ここからが本題となります。どこまで聞きますか?」

俺の言葉に顔を引き攣らせるホーンラビット伯爵閣下、その警戒心、とても素晴らしいと思います。

 

「そうだね、それじゃ世間の噂として流れる範囲で、時系列的にお願い出来るかな?」

おぉ、そうきますか。この新しい手法にはちょっと感心、世間の噂で聞こえるような内容であれば、否が応でも耳に入ってきますからね。でもその話に身内がかかわっていると思うと、それなりにダメージを受けるんですが。

 

「では大きなところから。王都で軍閥貴族を中心とした軍部による大規模な造反が起こりました。その首魁として祭り上げられたのが第二王子ブライアント・ウル・オーランド、軍閥貴族の中心的人物はマホガニー・ベイル伯爵、ワイバーン部隊創設の立役者、冬にマルセル村に来ていたラグラ君のお父上になります。

この動きは一年前から王都諜報組織“影”による内偵が行われており、予め行われていた準備により即日鎮圧され、造反による混乱は最小限に防がれました。

問題はこの造反と重なるように王都を襲った厄災、ドラゴンの襲来でした。轟く咆哮、王都の空を朱に染めるドラゴンブレス、王都民は恐怖の中、身を守る術もなくただ震えることしか出来なかった事でしょう。

次に「ちょっと待とうケビン君、王都をドラゴンが襲ったって、それ本当のことなのかな? えっ、それって大問題だよね? 王都崩壊しちゃうよね? エミリーは、ジェイク君やジミー君、フィリーちゃんとディアは無事なのかな?」・・・はい、全員無事です。彼らは勇敢にもドラゴンに立ち向かいドラゴンの襲来から王都を守り抜きました。

もっとも王都ではドラゴンは王都武術大会準優勝者の黒蜜とシルバリアンが押し止めていたものの、力及ばず散ってしまったという事になっているようですが。

まぁこの噂を流すように指示を出したのは俺なんですけどね、どうせ遠目からじゃ誰が戦っていたのかなんて分かりませんし、ジェイク君とジミーは黒騎士と白騎士の鎧姿で戦っていましたんで、都合がよかったものですから。

ベルツシュタイン伯爵閣下には事の真相を伝えてありますんで、王家には内々に伝わると思います。大福からの報告ですが、ドラゴンに対して一番有効打を与えていたのはエミリーちゃんの拳だったようですよ?

流石はホーンラビット伯爵閣下のご息女エミリーお嬢様でございます。黄金の拳、最高でございます」

 

俺の言葉に途端頭を抱えるホーンラビット伯爵閣下、娘の頑張りを素直に認めてあげないと、お嬢様がグレますよ?

 

「うん、エミリーが無事なら良し、そういう事だね。続きを頼むよ」

「はい、ドラゴンとの戦いは互角のまま進みましたが突如王都の空に暗雲が立ち込めました。そこに二体のヘビのようなドラゴンと二体のブラックドラゴン、その四体を従えるような人型のドラゴンのような者が現れ、勇者パーティーとドラゴンとの戦いを仲裁しました。

その後ドラゴンたちは王城に向かい、城の一部を破壊。初めに王都襲撃に現れたドラゴンはそのまま去っていき、雷雲と共に現れたドラゴンは雲の中に姿を消す形で去っていきました。

ここまでが王都で起こった騒ぎです。次に「あっ、うん。一つ聞いてもいいかな? 今の話、ケビン君はどこまで関与しているのかな?」・・・」

うん、流石はドレイク・ホーンラビット伯爵、質問が鋭い。ここは何と答えるのが正解か。

 

「どこまで答えましょうか?」

「いや、答えなくていいよ。ちょっとお茶とクッキーが欲しくなってね、ケビン君も口を潤わせてから続きを頼むよ」

そう言い聖茶を飲んでからクッキーを頬張る御三方、そんなに急いで食べなくてもクッキーは逃げませんよ?

 

「ハハハハ、すまなかったね、続きを聞こうか」

「はい、では場所が変わりましてダイソン公国国境付近で起こりましたバルカン帝国軍とダイソン公国軍の戦争の話となります。詳しい戦闘の流れは昨日残月より報告を受けていると思いますので省きます。

戦場に四体のドラゴンが現れ強制的に戦闘が終了させられたお話はお聞きになりましたでしょうか?」

 

「あぁ、信じられないような内容だったけどね。ドラゴンが去った後にあり得ないような大渓谷が造られていたとか、聞かされたこっちも一体何を言っているのかと思った話だったよ」

「そうですね、でも実際その渓谷は存在します。これはその内伝わってくる話かもしれませんが、その渓谷はダイソン公国との国境付近から始まり西に真っ直ぐ海にまで達しています。文字通りバルカン帝国は北と南に分断された訳です。

これによりバルカン帝国がヨークシャー森林国やダイソン公国、オーランド王国に直接攻め込んでくる可能性がぐんと減りました。ドラゴン様万歳って話ですね」

 

俺の話に一瞬目を見開くも、直ぐに厳しい顔になるホーンラビット伯爵閣下、何か心配事でもあるのでしょうか?

 

「そうだね、確かに今すぐバルカン帝国が攻め込んで来る危険性は随分低くなると思うよ、でもいずれあの国は攻めてくるんじゃないかな?

国が渓谷で分断されたといっても海を使えば北側に行ける、バルカン帝国は伊達に侵略国家と呼ばれている訳じゃない、十年もすれば体制を立て直してやってくるかもしれない、その覚悟はしておいた方がいいんじゃないかと思うよ」

おぉ、やはり深謀遠慮のドレイク・ホーンラビット伯爵閣下、お考えが深い。

 

「確かにその可能性は否定できないかもしれません。俺の見立てでは三十年くらいは大丈夫だと思っていましたが、少し甘かったようです」

「うん、でもこれはあくまで私の考えだ、因みにケビン君はなんで三十年は大丈夫だと思ったのかな?」

 

「はい、バルカン帝国の帝都に四体のドラゴンが攻め込んだ後、空から大量の星が降ったからでしょうか?

ドラゴンの制裁、あまりやんちゃすると滅ぼすよというドラゴンからの脅し。あんなことがあれば少しは大人しくしてると思ったんですが、俺の考えが甘かったようです」

「・・・因みに今の話、ケビン君はどこまで関与しているのかな?」

何故か目を見開いてこっちをガン見する御三方、目茶苦茶恐いんですけど。

 

「・・・どこまで答えましょうか?」

「ザルバ、聖茶とクッキーのお代わりを、クッキーは大皿で頼む。ガーネット、私はこれ以上ケビン君の話は聞いていない、いいね?」

「畏まりました旦那様、私ガーネットもこれ以上の話は聞いておりません。ケビン様、ご報告お疲れ様でした」

何故か強制終了させられた報告会、このあとクッキーを馬鹿食いしながら聖茶をがぶ飲みされる御三方に、「クッキーは口が渇くから水分が欲しいのは分かりますが、もう少し優雅にいただいた方が美味しいですよ」と苦言を呈する俺なのでした。

・・・三人して何故に睨む、俺悪くないもん。

 




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