マルセル村の村人たちが健康広場に集まり忙しなく動き回る。
「こっちのテーブル、料理の大皿が来てないよ!!」
「今食堂に取りに行ってます!」
一度はマルセル村を捨て都市部に出ていった若者たち、様々な苦労の末家族を作り村に戻って来た彼らは、故郷マルセル村の余りの変化に戸惑うも、今ではすっかりマルセル村の住民として村に馴染むことができた。
「カシムお父さん、お母さんが呼んでるよ。村長さんに言ってエールの樽を貰ってきて欲しいんだって」
「おう、分かった。ところでボイル村長は何処にいるんだ?お前たち見なかったか?」
「「さぁ? 分かんない」」
彼らが連れて帰ってきた子供たちは最初こそ戸惑いを見せたものの、今では立派なマルセル村の一員として、畑仕事に、ビッグワームプールの世話に、ホーンラビット牧場での飼育作業にと汗を流している。
若い力、新しい風。マルセル村はまた少し、より暮らしやすい村へと変化しているのであった。
村人たちの協力により多くの料理が並べられたテーブル、それぞれの席にはエールを注いだジョッキが並べられ、村人たちはこれから始まる宴に心踊らせる。
「お集りの皆さん、今年も無事に収穫祭を迎えることが出来ました。皆さんが丹精込めて育ててくれたマルセル村の野菜はグロリア辺境伯領の領都でも大変評判がよく、多くの商会から注文が殺到しております。
聞けば販路はランドール侯爵領スターリンまでも広がっているとか、嘗て飢えと寒さに苦しんでいたマルセル村の実情を知っているだけに、その言葉を聞いた時は胸が一杯になったものです。
昨年はリード君、カシム君、タイロン君、ロイ君、ベッキーさん、ジェシーさんと、嘗てマルセル村を巣立っていった若者たちが新しい家族を連れ村に戻ってきてくれるという嬉しい出来事がありました。
この一年、彼らもすっかり村に馴染み、今では重要なマルセル村の一員として頑張ってくれています。
そして今年、また嬉しい報告が舞い込みました。昨年村の一員として加わったグランドさんとリーフさん、それとワイルドウッド男爵家の一員として頑張っている白雲君とルインさんとラビアンヌさん、この二組が夫婦として結ばれる事となりました」
収穫祭会場の中央席で村人たちに挨拶をするホーンラビット伯爵領領主ドレイク・ホーンラビット伯爵は、村人の皆が無事に秋の収穫祭を迎えられたことに安堵すると共に笑顔を浮かべる。
「えっと、蒼雲さんの茶畑で世話になっているグランドです。今はまだ見習いですが、いずれ一人前のお茶農家として、マルセル茶が村の特産品と言って貰えるように頑張っていこうと思っています。
お茶農家としてはまだまだ未熟な俺たちですが、どうぞこれからもリーフ共々よろしくお願いします」
「リーフです。夫のグランド共々どうかよろしくお願いします」
“パチパチパチパチパチパチ”
鳴り響く拍手、マルセル村に新たに誕生した夫婦の未来を、皆が温かい気持ちで祝福する。
「白雲です。俺は見ての通り鬼人族で、ルインは先祖返りの獣人で、ラビアンヌは暗黒大陸出身者です。そんな俺たちをマルセル村の皆さんは何の偏見もなくただの村人として受け入れてくれている、それがどれ程ありがたい事か。
そうは言ってもマルセル村は兄弟子を受け入れる程の度量の広い村ですから、兄弟子に比べたら俺たちのことなんかは些細な問題なのかもしれませんが。
俺たちはこれからもお茶農家として皆が喜んでくれるようなお茶を作っていきます。どうか俺たちのことをよろしくお願いします」
「ルインです。私はベルガお義父さんと共にケビン様に拾っていただいた者です。そんな私がこのような幸せに巡り合えるとは今でも夢のような気持ちでいっぱいです。
これからはラビアンヌと共に夫白雲を支え、村の皆さんが誇りに思ってくれるようなマルセル茶を作ってまいります。どうぞよろしくお願いします」
「ラビアンヌです。その、私は本当に幸せで。白雲さんは本当に素敵で、強くって。私の父が棟梁を務める七部族の猛者たちなんかものともしないで、「ラビアンヌは俺の嫁にする、意見がある者はかかってこい、それが暗黒大陸の流儀なんだろう?」って言ってくれて…キャ~♡
私、あの、本当に幸せです!! どうぞよろしくお願いします」
“パチパチパチパチパチパチパチパチ”
温かい拍手が会場に広がる。白雲に対し同情の視線を送る男衆と、口元に笑みを浮かべる女衆。
辺境の村は娯楽が少ない。白雲・ルイン・ラビアンヌ夫婦が女衆の餌食になることが決定した瞬間なのであった。
「皆、エールの準備はいいだろうか? マルセル村のより一層の発展と若い夫婦の明るい未来を女神様に祈念して、乾杯!!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
“カンッ、カンッ、カンッ、カンッ”
打ち鳴らされた木製ジョッキ、マルセル村の秋の収穫祭はこうして今年も始まったのであった。
――――――――――――――
「マルセル村飛行隊、集合!!」
“バタバタバタバタバタバタ”
収穫祭会場の脇、例年の如く設置された闘技舞台の上でドラゴンロード男爵家の娘ミッシェルが号令を掛ける。その呼び掛けに集まった者はホーンラビット伯爵家長男ロバート、クロー騎士爵家長女チェリー、村役場のジェラルドさんの娘ルビアナ、ナイト男爵家の双子の兄弟ランディーとポール。
「エッガード、グラスウルフ隊、準備!!」
“ヒューーーーン”
“タッタカ、タッタカ、タッタカ、タッタカ、ザッ”
ミッシェルの隣に飛んで来る巨大卵と、闘技舞台の下に走り寄る五体のグラスウルフ隊隊員。
「これより、飛行演舞を開始する。総員騎乗!!」
““““““バッ””””””
一斉にそれぞれの相棒へと跨るマルセル村のちびっ子たち。彼らは背筋を伸ばし、まっすぐ前を見つめる。
「総員、日頃の成果を十全に発揮せよ、発進!!」
“シューーーーーーン”
“““““シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ、シュタンッ”””””
ミッシェルの跨るエッガードを先頭に宙を駆けるちびっ子たち。
「直列隊形、斜め直線隊形、矢じり隊形、円陣隊形」
「「「お~、いいぞちびっこ軍団、格好いいぞ~!!」」」
“パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ”
ミッシェルの指示の下、次々と飛行隊形を変えるちびっ子たちに、村人たちはエールジョッキを掲げ歓声と拍手を送る。年長の子供たちや授けの儀の終わった青年淑女たちも、ちびっこ軍団の活躍に目を輝かせる。
「最終隊形、五芒星!!」
ミッシェルの合図でエッガードを頂点として立体的な星位置に広がるちびっ子たち、その中心には白い魔獣に跨ったロバートの姿。
“バッ”
ロバートが右手を上げる、それを合図にその後ろに付き列を作るちびっ子たち。彼らはそのまま闘技舞台の上に降り立つと、白い魔獣から降りたロバートが前に出て口上を述べる。
「マルセル村の皆さん、本日は収穫祭、誠におめでとうございます。
今後ともマルセル村発展の為、皆で協力し頑張っていきましょう。
これにてマルセル村飛行隊の飛行演舞を終了します」
「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」
“パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ”
村人たちから送られる温かい拍手、ちびっ子たちによる初の舞台はこうして大成功のうちに幕を閉じたのでした。
―――――――――――
「トウタン、ミセルネタン、ンゴイ」
「だね~、あれでまだ四歳って信じられないよね~。それにお友達の子達もみんな立派だこと、あの見事な統制、我が妹ながら末恐ろしいよね。
人生楽しんでいる事は間違いないんだけど、ミッシェルは一体どこに向かってるんだろうね」
マルセル村秋の収穫祭会場である健康広場の上空で、エッガードとグラスウルフ隊による見事な飛行演舞を見せてくれたちびっこ軍団。いつも皆して飛行訓練に励んでいたのは知っていたけど、これほど素晴らしいものを見せてくれるとは。
今はそれぞれのご家庭のお母様方がお子様方を抱き締め、満面の笑みでお褒めの言葉を贈っております。あれだけのことをやってのければ当然ですよね、その背後でお父さん軍団が早く順番を代わってと言わんばかりにうずうずしておられます。
ドレイク・ホーンラビット伯爵、父ヘンリー、トーマスおじさん、ジェラルドさん、グルゴさん。みんな揃ってお顔がデレデレです。
これって在りし日の記憶でいうところの幼稚園のお遊戯会のようなものですからね、お父さんお母さんがハンディービデオカメラ片手に撮影しまくっちゃう場面ですからね、組体操とかパラバルーンの演技を見せられた時の感動と一緒ですからね。
アルバ君、めっちゃびっくり。そりゃそうだよね、アルバ君からしたらどう見ても幼児の年齢の子供たちが魔獣に跨って空を駆けてるんだから。
俺だって子供のころあんなもの見たらお口あんぐりですわ、ジェイク君が勇者病を発症した瞬間を見た時よりもショックを受けますわ。
ケーナちゃんはケイトの服を摑んで“マンマンマン”とか言いながら興奮してるし。あれってばマルセル村飛行隊の運用方法でも考えてるんだろうか?
やっぱりその辺は元王様、為政者の視点で物事を見ちゃうんだろうね、うんうん。
そんでヴィーゼ君はというと。
“モグモグモグ、ウマンマ!!”
・・・何か角無しホーンラビット肉にかぶり付いてるんですけど。えっ、離乳食じゃないの? まだ生後一年未満よ? 乳歯が確り生え揃っているから大丈夫? 六カ月目で堅パンをそのまま齧ってた? マジかよ。
この世界の乳幼児のお世話って一体どうなってるんだろうか? 様子を見ながらってそれでいいのか嫁さんズ。
「なぁアルバ、アルバはいつもどんなものを食べてるの? 柔らかくしたパン粥とかそんな感じ?」
「ヤキラレノパン」
「ご主人様、アルバ様のお食事は私が誠心誠意魂を込めてご用意させていただいております。アルバ様に不自由は絶対させません!!」
「あっ、うん。月白、よろしく頼んだ」
何故かグイグイくる月白、俺の言葉にアルバに対し「お義父様からご許可をいただきましたわアルバ様♡」と明後日の方向へ話を進めています。
落ち着け月白、少なくとも本人の同意のもとあと十五年待て。というか赤ん坊のアルバに対して目を爛々と輝かせるな、怖いぞ!!
収穫祭会場を見れば子供たちがグラスウルフ隊を囲んでのモフモフタイムに突入、現場からの業務連絡で増員要請が入ってまいりました。
“良狼、グラスウルフ隊を連れてマルセル村健康広場に集合、子供たちを背中に乗せて空中散歩を体験させてやってくれる? 案内は満月と新月にやらせるから”
業務連絡で急ぎ救援を要請、これで彼らが潰される事はないでしょう。子供たちのパワーって凄まじいからな~、ペットのストレスの原因って飼い主の構い過ぎだったりもするし。
「満月、新月、悪いがグラスウルフ隊のところに行って子供たちの整理をしてやってくれるか? いま良狼が他のグラスウルフ隊を連れてこっちに向かってるから、到着し次第子供たちに空中散歩を体験させるって言えば少しは大人しくなるはずだから」
俺の指示に急ぎグラスウルフ隊の救助に向かう二人、やはり動物触れ合いイベントには飼育員さんが必要ですね。(動物の為に)
「ケビンよ、楽しんでおるかの?」
「ボビー師匠、それにヘンリーお父さんもどうしたんです? お父さんはミッシェルちゃんのところに行かなくていいんですか?」
「あぁ、メアリーがミッシェルを離してくれなくてな」
そう言いどこか悲しそうな顔をするヘンリーお父様。これ、俺も他人事じゃないんだよな~、いずれ同じ目に遭うんだろうか、ちょっと悲しい。
「それでじゃ、儂らこないだ頑張ったじゃろ?ちゃんと言い付けを守って敵陣に突貫かましたりもせんじゃったじゃろ?」
「そうですね、お陰でダイソン公国の危機を救うことが出来ました、本当にありがとうございました」
「そうだな、だから褒美を寄越せ、というか立ち会え。俺のこの悲しみを息子であるケビンとの交流で埋めさせろ」(ニチャ~)
「お父様!? あの、俺これでも三児の父親ですし、もう少し落ち着いた生活をですね」
ダ~、やっぱりこうなったし。バルカン帝国軍相手に散々暴れたんだし、少しくらい大人しく出来ん物かね、この修羅どもは。
「いまさら何を言っておるかこの理不尽が。老い先短い年寄りの望み、聞いてくれても良いではないか」
「老い先短いって、ボビー師匠は死んでも女神様の下に向かわないつもりじゃないですか、シルビアさんと飽きるまで村暮らしを楽しむって言ってたじゃないですか、全く説得力ないわ!!」
「ごちゃごちゃぬかすな、こっちも変に覇気とか魔力とかの大技は使わんから付き合え、流石に収穫祭を台無しにする訳にはいかないからな」
「まぁそういう事なら、武器は木刀でいいですね」
ここで断ってもなんやかんやとギャーギャー言いそうだし、相手が譲歩するというのならこちらも多少譲歩しなければいけないか。
でも覇気や魔力の大技は使わないって、ダイソン公国軍相手に散々使ったからその辺のストレスは解消されたって事なのかな?
「あぁ構わんぞ。その代わり儂ら二人対ケビンとなるが構わんかの?」
「それはいつものことじゃないですか、今更断ったりはしませんよ」
俺はそう言うと収納の腕輪から御神木様の枝製マイスコップを取り出し、闘技舞台に上がります。
「では参るかの」(ユラ~)
「あぁ、楽しみだ」(ス~)
「ちょ、なんか二人とも怪しい気配漂わせてるんですけど、もしかして三種混合使ってたりしませんよね!?」
「安心せい、“覇気とか魔力とかの大技”は使わん。これはただの“身体強化”じゃて」
「そうだな、少しばかり敏捷性が良くなったり反応が良くなったりする、それだけの技だ」
“ス~~~、ズバッ、ズダンズダンズダンズダン”
“ユラ~~、ズバズバズバズバッ、ユラ~~、ズダンズダンズダンズダン”
「阿呆か~~~~、こんなの縮地なんてもんじゃないだろうが、起こりが全く分からないって、どんだけの境地に達してるんだよ、死ぬわボケ~~~!!」
開始から約二時間、修羅どもの猛攻に俺が叫び声を上げながら必死に抵抗しまくったのは言うまでもない事なのでありました。
子供たち、お父さん勝ったよ!! 長すぎる? 誰も見てなかったんですか、そうですか。(涙)
本日一話目です。