転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第820話 辺境男爵、東方へ買い付けに行く

約束、それは人にとってとても大切な物。ある者は友との約束の為に千里を走り、またある者は幼子と交わした指切りの誓いを守る為に死地へと赴く。

約束を破ることは簡単である、だが交わした約束とは己の存在を掛けるべき重さを持つことを忘れてはならない。

そして今、交わした約束を守る為に大陸の西から遥か彼方の東方の島国へと降り立った若者がいた。

 

「玄才さん、ごめんね。リットン侯爵領での農業指導が終わってようやくゆっくり出来るって時に買い付けに付き合わせちゃって」

「いや、構わない。ケビンは雇い主だからな。それに俺も一年ぶりの故郷だ、その割には随分遠い昔に感じてしまっているがな」

 

そう言い周囲の人々を懐かしげに見つめる太田玄才さん、そこには額から角を生やした鬼人族と呼ばれる人々の姿。

エイジアン大陸の西、普人族の治める国オーランド王国で普人族に囲まれ生活していた玄才さんにとって、この光景はただ懐かしいという言葉では言い表すことの出来ない深い思いがある事でしょう。

まぁ玄才さんをそんな状況に追い込んだのは俺なんですけどね。

 

どうも、自分のところで稲作を行いたいからって襲い掛かって来た鬼人族の侍をスカウト(強制)した男、ケビン・ワイルドウッド男爵です。

だって稲作って難しいんだもん。ただ田んぼっぽい場所を作って水引いただけじゃ丈夫な稲は育たないのよ? 水は抜けるわ苗は育たないわで、素人が手を出してどうにかなるような物じゃないってことは一目瞭然なのよ?

そんな時都合のいい事に農家育ちの素浪人がいたらスカウトするでしょう、普通。襲い掛かってきた手前、「負けたんだから言う事を聞け」の殺し文句でどうとでもなりますし。

いや~、いい人材に出会えたものだ、これも女神様の御導き、日ごろの行いが良いからなんでしょうね♪

 

それでなぜそんな経緯でワイルドウッド男爵家に雇用した玄才さんと共に扶桑国に来たのかと言いますと、刀を買う為でございます。

王都で軍閥貴族のクーデターが起きた際に、ちょっと手が足りなくってですね。王都商業ギルドのベルナール・アパガード会長の経営されるアパガード商会に修業に入っているアレン君、そのお付きメイドさんである織絹さんにご協力願ったんでございます。

で、協力の見返りに扶桑国で刀を買ってくると約束しちゃってたんですよね。でも俺に刀の目利きなんかできないし、黒鴉は刀に封印されただけだし。

そこで頼りになるのが現役の人切り“胴抜きの玄才”、刀の善し悪しは使用者である侍に聞くのが一番という訳です。

 

「それじゃ最初に買い取り屋に行こうか、先ずは刀を買う為の軍資金を得ないとね」

「そうだな、しかしよくそのような服を持っていたな、それにその角」

紺色の羽織袴に腰には黒鞘の刀、羽織には白糸の刺繡でワイルドウッド男爵家の紋章入り、額にはホーンラビットの角。この角、昔白玉に戦いを挑まれたときに切り取った奴ですね、あの時は“何で魔境にホーンラビットがいるの?”って不思議に思ったもんです。

 

「これ、うちの従業員の白玉の角。白玉は歴戦の戦士だからね、貫禄があるでしょう? それを基礎魔力でくっ付けてるって感じ、摑んだくらいじゃ取れないからバレないバレない」

俺の言葉に呆れた表情になる玄才さん。「白玉ってホーンラビットだろうが」とか「これ、絶対他の鬼人族に言うなよ、馬鹿にされたって言って切り掛かってくるからな」とかの耳の痛い言葉がですね。

そう言えば蒼雲さんも“ホーンラビット族ですか?”って聞いたら嫌そうな顔をしてたもんな。本物のホーンラビット族であるゼノビアさんに会ったときは、本気で驚いていたけど。

 

なんやかんやで準備万端な俺たちは、去年も訪れた買い取り屋さんを目指し歩を進めるのでした。

 

「「「「「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております!!」」」」」

買い取り屋の店先にずらりと並んだ従業員の皆さん。店主さんは去年訪れた俺の事を覚えていたらしく、俺の格好を見て目を白黒させておられました。

俺が小声で「変装です、扶桑国で“角無し”は目立ちますから。どうかご内密に」と言うと、いい笑顔で店の奥に案内してくださいました。

 

今回の商品ラインナップは大森林深層で狩ってきたレッサードラゴンが二十体とブラックウルフが四十体、それと魔境で捕まえたデッカイ鹿とデッカイヘビですね。

ただこのヘビがデカ過ぎてですね、馬車なんか軽く一呑みに出来るサイズ。だもんでこういう獲物があるんですけどどうしますかって聞いたらぜひ欲しいって言うんでお譲りすることに。引き渡しは収納の腕輪から大型倉庫二棟分は収納できる大型マジックバッグに直接入れさせていただきました。

要は左手を突っ込んで大型マジックバッグに直接取り出したってだけなんですけどね。

 

店主さんはその大型マジックバッグを鑑定スキル持ちの従業員さんに渡して、何やら鑑定させておられました。聞けば鑑定スキルを上げていくと、自分の持ち物であるマジックバッグの中身も鑑定できるようになるんだとか。「このマジックバッグはこうした場合に備えてこの者も使用者登録してあるんですよ」とは店主さんの言葉、流石大店、こういう機会があるんですね。

鑑定士さんによればデッカイヘビはジャイアントスネークという魔物らしく大変貴重なんだとか。何と一体で金貨二千五百枚、めちゃくちゃ高額買取でございました。

因みにデッカイ鹿の名はサンダーディア、こっちのほうが買い取り価格は上で金貨三千枚。希少性よりもより需要の高い方が高価って事なんですね、了解です。

 

肝心の買取り金額ですが、レッサードラゴンが一体金貨二百三十枚×二十体で金貨四千六百枚、ブラックウルフが大きさ毛並み共に最高級という事で一体金貨百二十枚×四十体で金貨四千八百枚、それにジャイアントスネークとサンダーディアの買取価格を足して合計金貨一万四千九百枚。金板百四十五枚と金貨四百枚を受け取ってほくほく顔で買い取り屋を後にしたってわけです。

 

「玄才さん、扶桑国ってお金持ちなのね。あの魔物素材も加工してもっと高額な商品に化けるんでしょう? 俺にはどう売り捌くのかがちょっと想像できないんだけど」

「そうだな、商人の世界は俺にもよく分からん。だが扶桑国には金山を抱える武家や貴族もいるから、そうした者たちが高値で買ってくれるんじゃないのか?

どちらにしろ俺には関わり合いのない世界の話だけどな」

 

そう言えばオーランド王国の王都商業ギルドでも俺が売りに出した大森林の素材をあっさり買ってくれたし、王家主催のオークションじゃバカみたいな金額が動いてるんだよな~。

あの売上金、王都商業ギルドの口座に入れっぱなしだけどどうするんだろう? 今度ホーンラビット伯爵閣下に相談しないと。

 

「玄才さん、早速ですけど武器屋に行きましょう。軍資金はばっちりです」

「軍資金はばっちりって、ケビンはどれほどの業物を買おうとしてるんだ? 大体それ程の業物を扱ってる商人がこんな地方の街にいる訳がないだろうが。いって金貨五百から六百、それでも相当な業物だが、前に見せてくれた魔物鉄を使った剣には及ばないと思うぞ?」

 

えっ、マジっすか!? これはゾイル工房のフレムさんが凄いのか扶桑国の刀鍛冶でもピンキリって事なのか。俺が難しい顔をして唸っていると、玄才さんからナイスな助言が。

 

「ケビンは代官所の伊藤様と繋ぎを取る事が出来たとか言っていなかったか? だったら伊藤様に口を利いてもらった方が早いと思うぞ、代官って役職はそれくらいの権力を持っているからな」

「それです、玄才さん。早速代官所に向かいましょう、面会許可状は伊藤代官様から頂いてますんで門前払いって事はないと思います」

俺はそう答えると、足取りも軽く代官所に向かうのでした。

 

「おぉ、袈瓶よ、去年振りであるか、息災のようで何より。して今年も米を買い付けに来たのか?」

「これはこれは伊藤様、ご壮健のご様子、お喜び申し上げます。本年もまたお譲りいただけるのでしたらぜひともお願いいたしたく存じます。

ですがそれとは別に少々お願いがございまして、先ずはこちらを」

そう言い紫色の布地に包んだ金板三十枚をスッと差し出します。この布地、買い取り屋の店主さんがくれたんですよね。なんでも偉い人に袖の下をお渡しする時の定番だそうで、「何かとご入用でしょうから」と悪い笑顔で十枚ほど。

うん、あの店主さんとはこれからも末永いお付き合いをお願いしたいものです。

 

「ふむふむ、昨年は豊作という事もあり必要量以上の備蓄米を購入しておったからな、古米一万五千俵の引き渡しとなるがそれでよいか? それと袈瓶の用件とやらを聞こうか」

「はい、ありがとうございます。米の引き渡しは後程お願いいたします。それと私の用件というのは刀の購入でございます。ただし扱う者が只人ではない為、この者より店売りの物では到底釣り合わないだろうとの助言を受け、伊藤様におすがりに参った次第。何卒ご紹介のほどよろしくお願いいたします」

そう言い頭を下げる俺とそれに倣う玄才さん。

 

「うむ? その方は以前どこかで見たことがなかったか? 思い出したぞ、源蔵のところにいた太田玄才ではないか。何やら肌つやが良くなったばかりか少し若返っておらんか? 何より以前のような死んだ目をしておらんではないか、そうか、“胴抜きの玄才”は袈瓶の下に居ったのか」

「伊藤様、お久し振りにございます。大岩の源蔵親分のところに身を寄せていた時分は大変お世話になりました。今は袈瓶殿の下で働かせていただいております」

そう言い深々と頭を下げる玄才さん。そう言えば玄才さんは昔とある武家に仕えていたとか、複雑な大人の事情で放逐されたって話だったけど、礼儀作法はその頃にしっかり身に付けたんでしょう。

 

「うむ、太田玄才がただ人ではないと助言するとなると相当な腕を持つと考えてよいだろう。それほどの強者が扱うとなるとそれこそ名工の作となろうが、うむ、どうしたものか・・・」

そう言い顎に手を当て考えこまれる伊藤様、何か玄才さんへの信頼がめっちゃ高いんですけど? 流石は名の知れた人切り“胴抜きの玄才”、これは修羅の国扶桑国ならではの光景ですね。

 

「・・・あることはある、というか太田玄才ほどの者が只人ではないと断言するような人物にふさわしい刀となると他に思いつかん。だがその刀は酷く人を選ぶ、ある者はこれ以上素晴らしい刀はないと言い、またある者は呪われた刀であると断ずる。

我が紹介できる袈瓶の条件に合う刀はその一振りしかないが、それでもよいかな?」

そう言い真剣な表情で俺の目を見据える伊藤様。これは所謂妖刀の部類ですね、要するにO・HA・NA・SHIしろって事ですね。

 

「はい、ぜひその刀をご紹介いただきたく存じます」

俺が満面の笑みでそう答えると、「そう言えば袈瓶も中々の腕を持った者であったか」と呟かれる伊藤様。

イヤイヤイヤ、今回は織絹さんの刀を求めてきたんで、俺が使う訳じゃないっすよ?

まぁいずれにしても()()は必要でしょうが。

 

「分かった、では参ろうか。その刀がしまわれている蔵に案内いたそう」

そう言い立ち上がる伊藤様に続き代官所を後にする俺たち、その足で伊藤様が向かわれた場所はいくつか武家屋敷が続く区画の中にある一軒のお屋敷なのでした。

 

「ごめん、誰ぞある」

「はい、これは伊藤代官様、このような場所にわざわざお越しくださいますとは、御用があれば私どもがお伺いいたしますものを」

代官所のお侍様が屋敷内に声を掛けると、中から姿を現したのは着物姿の品のよさそうなご婦人。ご婦人は伊藤代官様の姿を認めるや、正座し頭を下げ挨拶をするのでした。

 

「うむ、面を上げよ。突然の訪問失礼した。用件というのは他でもない“雲切丸”のことである。この袈瓶がぜひに譲り受けたいと申してな、その為に足を運ばせてもらったという訳よ」

伊藤様の言葉に“えっ、この子がですか?”という顔になるご婦人。いや、うん、分かるよ? 俺って扶桑国の中じゃ小柄だし、強そうにも見えないしね。でもそれなりにやれるのよ?

 

「まぁ桔梗殿がそのような顔をするのも分からなくもない、だが一度試しを受けさせてみてはいかがかな? これは有田家としても悪い話ではないであろう?」

伊藤様にそう言われ悩む素振りを見せるご婦人、武士は食わねど高楊枝、武家にも色々と人には言いづらい台所事情というものがあるのでしょう。

 

「分かりました、ではこちらへ」

ご婦人はそう言うと、俺たちを連れ屋敷脇を回り、庭の奥に佇む蔵へと案内してくれるのでした。




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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