転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第822話 扶桑国の代官、辺境男爵の買い物に付き合う

「さて、それではこの先は私たちだけで参ります故、桔梗様は屋敷内にてお待ちください。なに、有田家の憂いは見事晴らしてみせましょう」

桔梗殿を屋敷へ下がるように促し再び有田家の蔵へ戻る袈瓶。我はその背中を見やりながらこの者との出会いを思い出す。

 

それは去年の今頃、代官所に訪れていた扇屋勘兵衛とその場に訪ねてきた“大岩の源蔵”との引き合わせを行っている時の事。

大岩の源蔵といざこざを起こした袈瓶が誰にも気が付かれる事なく代官所の奥座敷前の庭に侵入、源蔵の声に集まった代官所の侍たちを妖刀の力を使い行動不能にし、源蔵と勘兵衛の角を切り落とすという暴挙を見せ付けた。

だが袈瓶はこれだけの無法を働いておきながら、その本質は理知的で先を見据えた交渉を行う知恵者であった。我はこの相反する両極端な行いをする大陸から来た普人族に興味が湧き、代官所の面会許可書を持たせておいたのだが。

 

「私の用件というのは刀の購入でございます。ただし扱う者が只人ではない為、この者より店売りの物では到底釣り合わないだろうとの助言を受け、伊藤様におすがりに参った次第。何卒ご紹介のほどよろしくお願いいたします」

再び我の元を訪れた袈瓶は古米の買い付けを行うと共に刀が欲しいと言う。そして刀の目利きとして伴った者は嘗て大岩の源蔵のところにいた“胴抜きの玄才”と呼ばれた人斬り、太田玄才であった。

 

太田玄才ほどの者が只人ではないと申す相手が何者であるのかという事も気になるが、それ程の者が手にするにふさわしい得物となると限られる。

思いつくものは稀代の名工と謳われた者たちが打ち上げた名刀、だがそうした物は皆力ある武家の当主や藩主の持ち物や名のある武芸者の持つ愛刀。都の刀商であればあるいは望みに近い刀を所持しているやもしれんが、一見の者が手に入れることが出来る程刀商の敷居は低くない。

 

「・・・あることはある、というか太田玄才ほどの者が只人ではないと断言するような人物にふさわしい刀となると他に思いつかん。だがその刀は酷く人を選ぶ、ある者はこれ以上素晴らしい刀はないと言い、またある者は呪われた刀であると断ずる。

我が紹介できる袈瓶の条件に合う刀はその一振りしかないが、それでもよいかな?」

であれば紹介できる刀は所謂訳ありの品、来歴こそ確かであれど生半可では手に取る事も出来ぬ一刀。

 

そうして共に刀のある有田家の屋敷に向かえば、刀には触れずその保管先である蔵の様子を観察し、そこから導き出される考察を述べる袈瓶。

袈瓶は言う、有田家の刀“雲切丸”は封じの刀であると、この蔵自体が何者かを封じるための施設であると。そして先代当主と亡くなった桔梗殿の夫有田清十郎はその何者かを封じる役目を担っていたと。

清十郎が残した最後の言葉、“雲切丸は呪われている”とは清十郎が桔梗殿たち家族に残した伝言、家族を守りたい一心で考え出した暗号文。

 

その暗号を解き再び光の閉ざされた蔵の中へと戻った袈瓶、その後に続き蔵へと足を踏み入れた我が見たものは、“雲切丸”の置かれている棚をどかし、その下の床板を剥がそうとしている袈瓶の姿であった。

 

「袈瓶よ、その床板の下に何があると申すか?」

「はい、先程蔵の中全体を歩き音の響きの違いを聞き分けたのですが、この下に空間があるように感じられました。おそらくですが、何者かはこの下の地下空間に封じられているものかと」

そう言い袈瓶が床板を引き剝がした時であった。

“ブワッ”

床板の下から突如噴き出す黒い霧のような何か、“これには触れてはいけない”、本能がそう訴え掛ける濃厚な闇属性魔力を伴う憎悪の念。

 

「伊藤様、それとお付きの方々も急ぎ御下がりください。これは怨念の塊、全てを闇に引き摺り込む憎悪の霧。矢鱈に触れてしまえばどのような障りがあるか分かりません。

幸い私はそうした物には耐性がありますので、これより原因を取り除いてまいります。ですがその間決して蔵には近付かないでください」

そう言葉を残し闇の霧の中に消えていく袈瓶、我らはただ袈瓶の残した言葉を信じ、蔵の外で待つ事しか出来ないのであった。

 

――――――――――――――

 

ケビンが憎悪の霧の中に姿を消して暫く、床板の下より溢れ出した霧は次第に範囲を広げ、蔵の中どころか蔵全体を暗黒の霧で覆い尽くすまでの状態を見せていた。

 

「伊藤様、いかがいたしましょうか? このままでは周囲に被害が出る恐れがあります。急ぎ呪術師を呼び寄せ、対処に当たらせるが賢明かと」

「うむ、致し方あるまい。あの状態では恐らくは袈瓶も・・・」

それは我が配下の助言に従い蔵を呪術的に封鎖する手配を行おうとしていた時であった。

 

“ゾワゾワゾワゾワ”

全身に走る悪寒、それは蔵の中から伝わる絶対的な恐怖。

 

「一体蔵の地下で何が、袈瓶は触れてはならぬものに触れてしまったのか!?」

有田清十郎が残した最後の言葉、あれは残された封印を守り続けろという危険を知らせる清十郎の叫びではなかったのか?

 

「伊藤様、霧が、蔵を覆っていた霧が」

それは驚くべき光景であった。蔵を覆い完全に建物を見えなくしていた憎悪の霧が、吸い込まれるように蔵の中へと戻っていったのである。

 

「なっ、これは・・・」

それは美しい光の玉であった。まるで封じられていた物から解放されたかのように、蔵の出口から飛び出す無数の光。それは天に向かい真っ直ぐ昇っていくや、やがて弾けるように姿を消してしまうのであった。

 

“フワッ”

全身を襲っていた恐怖が消えた、蔵はまるで何事もなかったかのようにその場に佇んでいる。

背中を流れる冷や汗、我らは一体何を見せられていたというのか。

それからしばらく、蔵に入った時とまるで変わらぬ様子で姿を見せた袈瓶は、鞘に収まった雲切丸と共に抜き身の短刀を携え、「全て終わりました」と声を掛けてくるのであった。

 

―――――――――――――――

 

封印の蔵の地下、そこは光届かぬ洞窟。その中に隠されていた者は、胴体に封印の短刀を刺され身動きを制約されたジャイアントスパイダーでした。

う~ん、残念。なんか物凄い妖怪でも封印されてるのかと思ったら、ただのデッカイ蜘蛛さん。ジャイアントスパイダーなら大森林中層にもいるんだよな~。レッサードラゴンを持っていくと替わりにスパイダーシルクをくれる大切な取引相手だったりもします。

 

まぁ扶桑国の固有種なのか見た目がかなり厳つい感じだったけど、それはそれで大森林のジャイアントスパイダーとは毛色の違うスパイダーシルクを作ってくれそうですし? 全身からこれ程濃厚な闇属性魔力を溢れさせているとなると、闇属性特化のスパイダーシルクを生産可能? これは路傍の石計画的にも期待大? 素晴らしい人材との出会いにほくほく顔になる俺氏。

そんで是非我が社の一員になってもらえないかとお誘いしたところ快いお返事が、これは早速契約せねばと影空間に待機していた闇喰らいにおいでいただきジャイアントスパイダーを縛り付けている各種呪術を解除したんですけどね。何でか知らないけど、ジャイアントスパイダーが小さくなってしまいました。

 

家くらい大きかった身体が、縮小化した霊亀よりもやや小さいくらい。馬と一緒くらいですかね。それになんだか表情が大人しくなったというか、可愛らしい? 大きな蜘蛛には違いないんだけど、さっきまでの凶悪さが一切感じられないんだよな~。

まぁそれでも大切な戦力(生産)ですんで、呼び名を付けてから<長期雇用契約>をと思ったんですが、守家って名前を付けたら何故か<テイム>できちゃいました。

 

う~ん、魔物の生態はやっぱりよく分からん。<テイム>って額に手を当てて「<テイム>」って言わないと駄目なんじゃなかったの? 結構その辺って曖昧なんですね、スキルに依らない<テイム>は奥が深いです。

 

とりあえず守家は影空間にGO、手を振りながら影に沈んでいく姿はどこか愛らしいものが。緑と黄色辺りだと“ギャ~~、助けて~、沈む~!!”とか言いながら沈んでいくもんな、それに比べてなんて素直でいい子なんでしょうか。

あの感じならうちの子たちの遊び相手にもなってくれるかな? 本当に良い人材に出会えたものです。

 

で、綺麗さっぱり闇属性魔力の消えた地下洞窟は本当に何もなし、王都“アーメリア別邸”の封印の地下空間と一緒ですね。この蔵は上の蔵も封印の為の施設って事で呪物を放り込んであるといったサプライズも無さそう、ちょっと残念ですが目的の短刀と刀が手に入ったので良しとしましょう。

 

短刀と刀を手に蔵を出た俺を待っていたのは驚きの表情をした伊藤様とお付きのお侍様方。俺は事態の終了を告げる為、「全て終わりました」と宣言するのでした。

 

「袈瓶よ、全て終わったとはどういうことか。それと封印されし何者かとは一体・・・」

伊藤様は早速の状況報告を求められているご様子、流石は代官様、為政者の心得が出来ていらっしゃる。

 

「はい、文字通り封印されていたモノと蔵の地下に渦巻いていた濃厚な闇属性魔力の撤去が終了したという事でございます。

封印されていたモノは巨大な蜘蛛、この蔵と変わらぬほどの大きさを誇る魔物でございました。

伊藤様のお話で、有田家先代御当主様が“雲切丸に倒せぬ怪異なし、されど我が腕それに及ばず”との言葉を残していたと仰っていましたが、先代御当主様は大蜘蛛の討伐ないし調伏の命を受け戦われたのではないかと。

ですが倒しきるに至らなかった、複雑な術式を掛け封じることで大蜘蛛の被害から人々を守ったといったところではないかと」

「なっ、まさか山蜘蛛を退治した者が有田家の者たちであったとは。なるほど、有田家に名刀“雲切丸”が保管されていた事、この封じの蔵、全てに納得がいった。

有田清十郎はその事を知りながら胸に秘めていたと、何と忠義に厚い者であったことか」

 

そう言い何か感じ入ったという表情になる伊藤様。うん、これ以上は触れない方がいいですね、複雑なお家事情は知らない方が幸せって事で。

 

「それでその蜘蛛を封じていた物がこの二振りの刀、この短刀が呪術的に蜘蛛の身体を縫い留め、定期的に刀に力を注ぐ事で、短刀の戒めを維持し続けていたものかと。今はその役目も終え、ただの短刀と刀となっていますが」

そう言い短刀を地面に置くと、刀を鞘から引き抜き刀身を日の光に翳す。

それは長年鞘に納められ手入れなどされていなかったにもかかわらず、曇りのない輝きを放ち、人々を魅了する。

 

「おぉ、まさか清十郎以外の者が鞘から剣を引き抜くことが出来ようとは。我もたった一度だけ清十郎が引き抜いたのを見たことがあったが、その美しい輝きに噂にたがわぬ名刀であると得心いったものよ」

なんと、伊藤様は実際に鞘から抜かれた刀身をご覧になっていたと。噂話だけで俺に雲切を勧めた訳じゃなかったんですね、伊藤様には感服いたしました。

 

「この美しい刀身、あの大蜘蛛と戦ったにもかかわらず刃こぼれどころか曇りすら見られない。それはこの短刀も同様、余程の名工が手掛けた名刀といったところなのでしょう」

俺は雲切丸を鞘に戻すと、腰に差した黒鴉を鞘ごと引き抜き、代わりに雲切丸を帯に差し込む。

 

「“雲切丸に倒せぬ怪異なし、されど我が腕それに及ばず”、蔵の地下に封印されていた大蜘蛛を目にした時は、“雲切丸”という名は“蜘蛛切丸”、大蜘蛛を退治するために生まれた刀であったのかとも思いました。

ですが雲切丸を鞘から引き抜き初めて刀身を見た時に思いました、雲切丸は正しく雲切丸であったのだと」

 

“フゥ~~~~~~~~”

俺は腰を落とし、左手で雲切丸の鞘を押さえると、右手を柄に沿える。

 

「“我は一振りの刀にして刃、我が一振りは天に浮かぶ雲をも切り裂く。我が名は雲切丸、我に切れぬものはなし”、<三種混合><一刀両断>」

“シュパンッ、スーーーーーーーチンッ”

 

瞬間的に引き抜かれた刀身は、ゆっくりと静かに鞘へと納められる。

何が起きたのか分からないといった顔の伊藤代官様に、俺は天を指差し疑問に答える。

 

「名刀“雲切丸”、天に浮かぶ雲をも切り裂く至高の刀。金貨五千枚、大変安い買い物をさせていただきました」

見上げた空には真っ直ぐに切り裂かれ離れ離れになっていく一塊の雲。その光景に唖然とされる伊藤様とお付きのお侍様方。

俺はそんな皆さんを横目に“これなら織絹さんも満足してくれるでしょう”とホッと胸を撫で下ろしつつ、蔵の撤去と地下洞窟の埋め戻し作業に取り掛かるのでした。

 

玄才さん? なぜか呆れた顔をしてますが、まぁいつものことです。ウチの従業員は皆俺に厳しいんです。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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