転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第833話 辺境男爵、従業員のお見合いを取り仕切る

冬場の空は高い。乾いた大気、澄んだ空気、寒風吹きすさぶ草原。

フィヨルド山脈からの吹き下ろしの風が吹くここマルセル村では、乾燥野菜や乾燥芋を作る為に各家の庭に板が並べられ、茹でてからスライスした芋や薄切りにした果菜や根菜が並べられている。

冬場の保存食作りは辺境の村人にとって生命線ともいえる大切な仕事、それは村に保存食糧庫が作られ各自に時間停止機能付き収納の腕輪が貸与されるようになってからも変わらぬ村の原風景。マルセル村の村人たちは冬の飢餓や寒さに怯えていたころのことを忘れることなく、それを受け入れ生活の一部として受け継いでいっている。

俺はそんな素晴らしいマルセル村の人々が作り出す田舎の光景に目を細めつつ、村に招待した森のお店屋さんで頑張る従業員を畑脇の小屋へと案内する。

 

“シュ~~~~”

小屋の上がり框の先の板の間には囲炉裏が作られており、くべられた薪が部屋の中を温めている。囲炉裏に置かれた五徳には鉄瓶が掛けられ、白い煙を上げている。

 

「ブー太郎、急に呼び出して悪かったな。外は寒かっただろう、癒し草の煮出し茶を作っておいたんだ、先ずはそれで温まってくれ」

俺は棚からやや大きめの湯呑みを取り出すと、鉄瓶を持ち上げ中身を湯呑みに注いでいく。

 

「ありがとうございます、いただきます。正直この時期の温かい煮出し茶はありがたいです」

ブー太郎は囲炉裏端に腰を下ろすと、湯呑みを手に取り息を吹きかけながら口へ運ぶ。

 

「ところでブー太郎、最近シャロンはどうしてる? ドラゴンが王都に攻めてきたときとバルカン帝国に制裁に行ったときは、シャロンにもずいぶん頑張ってもらったんだが」

「相変わらずですよ、グラスウルフ隊の連中とダンジョンで遊んだり、家でゴロゴロしたり。進化して子供から大人になった時は驚きましたけど、シャロンはシャロンですからね、甘えん坊なところは変わりませんし」

そう言いお茶をすするブー太郎、うん、どこからどう見てもお父さんといった感じですね。

 

「そうか、ダリアとジャスパーはどうだ? あいつらも今の身体にも慣れただろうし、何かしてほしい事とか欲みたいなものが出てきてもおかしくないと思うんだが」

「う~ん、俺も気にして声を掛けてはいるんですが、「私たちの喜びはこの聖域でブー太郎様にお仕えすることです」とか言ってきかないんですよね。別に出て行けとかいう訳じゃないんですけど、もう少し自分の事を考えてくれてもいいと思うんですが、なんとも。

まぁ群れを作る魔物は基本的に上の言う事が絶対みたいなところがありますから、あの二人の言いたいことも分からなくはないんですけど、もう少しのんびりやりたいことをやってくれてもいいと思うんですが」

そう言い苦笑いを浮かべるブー太郎に、こいつは立派に森のお店屋さんの店長をしてるんだなと感心する。

 

「そういえば石工のおっちゃんはどうしてるんだ? 建物を造るっていってもそんなにたくさん建てる予定もないだろう」

「あぁ、何か最近ダンジョンマスターと一緒になってダンジョン内でゴーレムを造ってるみたいですよ? 前にガーゴイルっていう石でできた魔物の話を聞いたじゃないですか、そうしたら石工のおっちゃんの創作魂に火が付いちゃったみたいで、“最強のゴーレムを造る”とか言って石像を造り始めちゃって。

ダンジョンマスターが石像に命を吹き込んでゴーレム階層を造っちゃったんですよ。

まぁ毎日楽しそうにやってるんでいいんですけどね」

オークの森でブー太郎のように縛り上げられて囮にされていた石工職人のオークは、御神木様の聖域で新たな趣味を見つけて楽しんでいるみたいです。何かすごく楽しそう、これも全てブー太郎の人徳の賜物なのでしょう。

 

「そうか、みんなと上手くやってるみたいでよかったよ。石工のおっちゃんの事は少し心配してたんだ、クマ子クマ吉親子みたいに蜂蜜目的って訳でもないし、安全な環境を提供したってくらいで勝手に連れてくるような真似をして悪いことしたかなと思ってたんだ。御神木様の聖域がのんびりと平和に暮らせる環境として出来上がっているんならいう事はない、ブー太郎、どうもありがとう」

「何ですかケビンさん、急にそんな改まったような言い方をして、ちょっと怖いんですけど?」

 

「いやなに、今度ボルグ教国って言う宗教国家から魔王認定されることになりそうでな。前に異端審問官たちが村に来てただろう、あの連中の大本の国だな。

でもそうなるとこれからどうなるのか分からないからな、ブー太郎にはちゃんとお礼を言っておきたくてな」

俺は黙って自分の湯呑みに鉄瓶の煮出し茶を注ぎ入れる、ブー太郎は俺の話に口を噤み俺の顔を真っ直ぐ見つめる。

 

「ついにバレちゃったって事ですか?」

「いや、そうじゃない。ブー太郎には前に話したことがあるだろう? 剣の勇者とオークの魔王の物語。知性を持った心穏やかなオークが迫害された様々な種族を受け入れ集落を造っていた。迫害を行っていた普人族の王はその集団を恐れ、オークを人類に仇なす魔王であるとして勇者に討伐を命じた。

オークは強く、最前線で戦い仲間たちを守っていたが、勇者の訪れに自身の命と引き換えに仲間を逃がす決断をした。

それと一緒さ、ホーンラビット伯爵家の武力を恐れた中央貴族とマルセル村の礼拝堂を欲した教会組織が手を組んだ、そして俺が人々をたぶらかし陰で操る魔王役に選ばれたってわけだ。

まぁ称号に魔王ってあるからあながち間違いとも言いづらいんだけどな。それでブー太郎に一つ相談があるんだ」

 

俺は言葉を区切りブー太郎の目をジッと見つめる。ブー太郎はそんな俺の表情にフッと笑みをこぼすと、「らしくないですよ、ケビンさん。俺に出来る事だったら何でも言ってください、俺とケビンさんの仲じゃないですか」と言葉を返してくれるのだった。

 

「そうか、そう言ってくれると俺も気が楽になるよ。実はどうしてもお前に会いたいって女性がいてな、どうしようかと思ってたんだよ。やっぱりいきなり御神木様の所に連れて行くわけにもいかないだろう? 肝心のブー太郎が嫌がるんなら論外だしさ。でもブー太郎がそこまで言ってくれるんなら一度顔合わせだけでも「ちょっと待て~~、なんでそんな話になる!! えっ? さっきまで結構真剣な話ししてたよね、魔王にされるって結構ヤバい事だったはずだよね? オークの魔王の逸話って普人族ヤバいって話だったよね? それがどこをどうしたら女性と顔合わせするって話に繋がるの? 意味分からないんだけど」・・・ブー太郎、ナイス乗りツッコミ、腕を上げたな」

マルセル村に来て六年半、すっかり古株の一体となったブー太郎。その心にはマルセル村のツッコミ魂が確りと受け継がれたようです。俺は嬉しいぞ、ブー太郎。

 

「何一人でウンウン頷いているんですか、どうせくだらないことを考えてるんでしょう。大体女性と引き合わせるって、俺オークですから、種族違いますから。

・・・ちょっと待ってください、まさか大森林のオークの村の連中じゃ」

「あっ、大丈夫、流石にそれはないし俺も命は惜しい。あそこの連中は駄目だな、うん」

互いに顔色を青くする俺とブー太郎、肉食系オーク(性欲)、駄目、絶対なのです!!

 

「俺もちゃんと話はしたんだよ、ブー太郎はオークで人族じゃないって。でもお願いだから会わせて欲しい、自分が受け入れられなくとも思いだけは直接伝えたいって言ってきかなくてさ。かといって強引ってわけでもなくて、真っ直ぐ一途って言うか、断りづらいって言うか。

当然ブー太郎の問題だから嫌なら嫌って言ってくれてもいいんだけど、一度顔合わせするくらいは許してもらえないものかと。無論シャロンたちと相談してもらってからでもいいんだけどさ」

俺の言葉に考え込むブー太郎、こいつもなんやかんやで女性の押しに弱いんだよな~、本当に俺みたい。

 

「ハァ~、分かりましたよ、でもシャロンたちが嫌がったら無しですから、それでよければ一度会うだけ会ってみますよ」

そう言い大きくため息を吐くブー太郎。いや、本当にごめん、でも断りづらかったんだもん。

俺は自分の甘さをブー太郎に押し付ける形になったことを深く謝罪しつつ、ホッと胸を撫で下ろすのでした。

 

――――――――――――――

 

「お帰りなさいませブー太郎様、ケビンさんからのお話はどういった事だったのでしょうか?」

御神木様の聖域結界に帰ると、早速ダリアが声を掛けてきた。どう話を切り出したらいいものかと悩んでいると、横からドゴンと激しく吹き飛ばされる。

 

“キュイ~、グワグワグワ”

「はいはい、シャロンただいま。というか当たりが強いから、俺じゃなかったら大ケガ確実だから、よその人にはやらないようにな?」

俺は腰に抱き着いて頭をぐりぐり押し付けてくるシャロンに優しく言葉を掛けながら、そっと手を載せ髪を撫でる。

 

“キュワ、クワックワッ”

「あぁ、ケビンさんにだったらむしろ全力で突っ込め、助走をつけて最大加速で甘えるんだ、いいな」

 

“キュワ~~~~~~~~♪”

俺の言葉に元気よく応えるシャロン、あの理不尽にはこれでも足りないくらいだけど少しすっきりした。

 

「それでケビンさんの用件なんだが、どうも俺に会いたいって女性が訪ねてきたっていってな、心当たりがない事もないんだが。でもな~、あんな一瞬のことで俺に辿り着くわけはないとは思うんだが」

心当たりがあると言えば王都でワイバーンから助けた女性、名前を聞かれたが答えてないし、俺の正体が分かる訳がない。それじゃ一体? ケビンさんがあそこまで言う女性に心当たりなどなく、困惑の気持ちしか浮かばない。

 

「・・・そうですね、それでしたら一度お会いになってみてはいかがでしょうか、下手に悩むより会ってしまった方が話は早いかと。ブー太郎様がその女性を(つがい)に迎え入れられるかどうかは別として、どういった女性がブー太郎様を見初めたのか見極めなければなりません。

もしブー太郎様を利用してケビンさんに取り入ろうとするような、ブー太郎様を蔑ろにするような相手であれば・・・」

「落ち着けダリア、何か赤黒い魔力が漏れてるから、火属性と闇属性が混じってとんでもない事になってるから。ジャスパー、ダリアを止めてってお前もかよ、腰の辺りから何か触手みたいなものが伸びてるんだけど!?」

 

ダリアとジャスパーがヤバい、シャロンは一緒になって闇属性魔力を噴き上げてるし、“なんか楽しい♪”じゃないから、本当にみんな落ち着いて?

その後全員して御神木様から説教&正座を日が落ちるまで課せられたのは致し方のない事なのであった。(涙)

 

その後ケビンさんに<業務連絡>を入れ、翌日シャロンたちを連れマルセル村へ行くことに。ダリアとジャスパーが妙に気合を入れてるんだけど、大丈夫なんだろうか?

 

“クワックワッ、ギャウギャウギャウ♪”

「“大丈夫だよパパ、いざとなったらシャロンのドラゴンブレスで”ってマジで止めて。そんなことしたらケビンさんが切れちゃうから。今まで一度もケビンさんが切れたところって見たことないけど、平静な状態であそこまでの事態を引き起こす人だから。シャロンも言ってたじゃん、平気な顔してお空から大きな火の玉を降らせてたって、あれをこっちに向けられたら俺たちなんて一瞬で終わるから」

俺の言葉にはしゃぐのを止めて全力で頷くシャロン、ダリアとジャスパーも何故か顔色を青くしている。二人もケビンさんのヤバさを思い出してしまったのだろう、可愛そうに。

 

「ブー太郎、わざわざ悪かったね、シャロンとダリアとジャスパーも今日はありがとう。それじゃ屋敷の方に来てくれるか?」

マルセル村のワイルドウッド男爵屋敷に着くと、待っていましたとばかりに出迎えてくれるケビンさん。後ろに控える月影さんと更さんの笑顔がめっちゃ怖いんですけど?

通されたのは屋敷の応接室、俺たちがテーブル席に着くとジミーの婚約者候補のクルンと見たことのないメイドがお茶の準備をしてくれる。

 

「ケビンさん、またメイドが増えてるんですけど、もしかしてジミーの事を追い掛けて暗黒大陸から?」

「あぁ、それは大丈夫じゃないかな。夏に行われた魔都総合武術大会の時にきっちり脅しておいたしね。ちゃんとズル抜きで優勝した上にガッツリ威圧を掛けておいたから、そうそう無茶はしないでしょう。恋する乙女がそれで止まってくれることを祈るばかりなのが怖いところでもあるんだけど」

そう言いどこか遠い目をするケビンさん、ケビンさんは女性に迫られて番をもらった方だからな~。女性の怖さをよく知ってるってところなんだろう。

 

「それで俺に会いたいっていう女性ってどういう人なんですか? ちょっと心当たりがないって言うか、王都で助けた女性が訪ねてきたって事じゃないですよね?」

「えっ、ブー太郎そんな事もしてたの? 流石勇者様、俺の知らないところで嫁候補を作っていらっしゃる」

ケビンさんの話しぶりだとどうも王都の一件は関係ない模様、それじゃ一体?

 

「あっ、そうなると大森林の進化したオーガですか? そういえば今年は山芋を掘りに行ってませんけど」

「あっ、バタバタしてて忘れてた。そうだよ、山芋だよ。ジミーたちが帰ってきたら一緒に掘りに行こうかな、ブー太郎は強制参加ね。シャロンも行くよね?」

“クワックワックワ~♪”

突然の山芋掘り宣言に喜ぶシャロン、たしかにアレは楽しかったから仕方がない。

でもそうなると一体? オーガは関係ない、オークの集落は論外、あそこはマジで勘弁してください。

俺がそんなことを考えていると、お茶の準備をしてくれたメイドがスッとテーブルの前にやってきて一礼をするのだった。

 

「ブー太郎様、お久し振りでございます。再びこうしてブー太郎様にお会いできたこと、この機会を作ってくださったケビン様に感謝申し上げます。

ブー太郎様、お願いいたします、どうか私をあなた様のお傍にいさせてくださいませんでしょうか」

そう言いジッと俺の目を見つめる女性。・・・えっと、誰?

 

「すみません、俺、どうしてもあなたの事を思い出せなくて。そこまで思ってくれていることはとても光栄なんですが、正直何と言っていいのか」

俺の言葉に胸に手を当て静かに涙を流す女性、小さく「光栄って言っていただけるなんて」と呟いている声が。

・・・ちょっと待とう、俺ってそこまでの男じゃないよね? 木の実拾いのブー太郎なんですけど? 森のお店屋さんの店長なんですけど?

 

「!? ブー太郎、グランゾートはどうした!!」

「えっ、家に置いてきましたけどそれが? 送還しようとするとふてくされるんですよ、後が大変なんで基本呼び出したままにしてますけど」

急に声を上げ慌てるケビンさん、俺の言葉に窓から飛び出すと魔の森方向を凝視する。

 

“ブー太郎様~~~~~~~!! ブー太郎様に近付く女狐はこのグランゾートがバッサリと、私に切れない物はありませんから~~~~~!!”

突然頭に響く念話、グランゾートが御神木様の結界聖域から飛んできた!?

 

「うわ~~~~~、落ち着けグランゾート~~~~~~!! <五十連結界><千手触腕陣>、止まれ~~~最終兵器~~~~!!」

“バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ、ズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバズバ、ブー太郎様~~~~~~!!”

弾ける結界、断ち切られる無数の触腕、屋敷の外でケビンさんと聖霊剣グランゾートの壮絶な空中戦が繰り広げられる中、俺は乾いた笑いを浮かべる事しかできないのであった。

 




本日一話目です。
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