転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第834話 転生勇者、領都グルセリアに到着する

“ガタガタガタガタ”

「「「「「エッホッ、エッホッ、エッホッ、エッホッ」」」」」

「エミリーお嬢様、グルセリアの街壁が見えてきましたので馬車の方にお戻りください。ディアとフィリーも馬車に乗るんだ、いくら何でも伯爵家令嬢とそのお付きが徒歩で入街する訳にはいかないからな。ジェイクとジミーは護衛冒険者っぽくしておけよ」

 

御者台のグルゴさんから掛けられた声に、返事を向け足を止める。王都バルセンから移動すること二十日、俺たちはグロリア辺境伯領の領都グルセリアに到着することが出来た。

 

「思ったよりも早く到着することが出来たな、予定より四日ほど時間短縮出来たんじゃないか?」

「そうだな、この調子ならもっと時間短縮できそうだし、王都に向かう時はもう少し速度を上げてみるか?」

俺の呼び掛けに涼しい顔をして答えるジミー、一体何の事かとい言えば王都からグルセリアまで走ってきたって事なんですけどね。

事の始まりはジミーの一言からでした。

 

「御者台に大の男が三人って狭くないか?」

今回マルセル村から俺たちの迎えに来てくれたのはグルゴさんとギースさんの二人、馬車は四人で乗る分にはいいけど五人で乗るには窮屈な為一人は御者台に乗る形で移動していたんですけどね、正直狭い。去年の冬季休暇の際はギースさんが三頭の馬を引いて来てくれていたので問題なかったんだけど、今年はケビンお兄ちゃんが忙しかったらしく、馬車の準備しか出来なかったんだとか。

 

「ケビンの奴、相変わらず忙しなく暗躍してたみたいだからな、流石に俺たちを迎えに来いとも言えなくてな」

グルゴさん曰く村でもたまにしか顔を見なかったんだとか、それでも収穫祭の時は確り楽しんでいたそうで、「ケビンはやっぱりケビンだよ」と言っていました。

 

「今回俺とギースは馬に乗って王都入りしたんだ。馬車はケビンの王都屋敷に着いてからマジックバッグから取り出して、馬に取り付けた。本当にケビンの奴はどこで何をやってるんだろうな」

騒動の影にケビンお兄ちゃんあり、王都でのドラゴン襲来にも関与していたとか? 流石にそれはないか。あれは突然だったし、ドラゴンの襲来なんて予期できるようなものでもないしね。

そうなるとその後の情報収集とか? ロナウドの話だとバルカン帝国にとんでもない渓谷が造られたって事だし、あちこち飛び回ることのできるケビンお兄ちゃんが事態把握の為に方々に派遣されていてもおかしくありません。

 

そんなこんなで馬車一台に俺たち五人で乗車する事になったんですけどね、ジミーはデカイ、俺もそこそこ大きい、いくら残りの三人が女性とは言っても五人乗車は無理。で、御者席にグルゴさんとギースさんと俺の三人で座っていたんですけどね、これも結構無理があったっていいますか。

ジミーは窮屈な車内に耐え切れなくなって外へ、俺も狭い御者席から降りて二人で相談、「走ったらよくね?」って事で話がまとまったんでございます。

 

ギースさんによれば馬車の周りに護衛冒険者が付いて移動する事はよくある光景なんだとか、折角なんで地面から少し浮いた辺りに魔力障壁結界を張って空中歩行の練習をしていたら「私も一緒にやりたい」ってエミリーが言い出して、結局全員で走ることになりまして。

まぁ牽き馬にしたら空荷の馬車を牽いてるだけだから大分楽だったのか、特に疲れを見せることもなく快調に移動、結果そんなに急ぐこともなく四日早くグルセリアに辿り着いたって訳です。周囲からは冒険者を連れた貴族の馬車が快調に走っていくように見えたのかもしれませんが。

 

「次の方、ご身分と目的をお願いします」

グルセリアの街門では貴族専用門を通過し入街、そのままグロリア辺境伯家のお城に向かう事に。グロリア辺境伯家は北西部貴族連合の盟主にしてホーンラビット伯爵家の寄り親、ホーンラビット伯爵家とは親戚でもある為次女であるエミリーがご挨拶に向かわない訳にはいきません。

 

「先触れもなくお伺いいたし失礼する。ホーンラビット伯爵家次女エミリー・ホーンラビットお嬢様が王都学園から帰郷される為立ち寄らせていただいた。グロリア辺境伯閣下にご挨拶申し上げたいのだが、お取次ぎ願えないであろうか?」

城門前で門兵に口上を述べるグルゴさん、俺とジミーはグルゴさんの言葉に合わせ頭を下げます。

門兵は「暫し待たれよ」と言い確認の者を走らせます。待つこと暫し、門兵の「お通り下さい」との言葉で僕たちはグロリア辺境伯閣下の下に向かう事になったのでした。

 

“コンコンコン”

「失礼いたします、ホーンラビット伯爵家次女エミリー・ホーンラビット様をご案内いたしました」

城に着くと、俺たちを待っていた執事に案内され以前訪れた事のある来賓用応接室へ。

部屋の中から入室を許可する声が響き、扉が開かれます。

 

「おぉ、エミリー嬢、それにジェイク殿、久しいの。壮健のようで何より、王都は何かと大変であったであろう」

声を掛けて下さったのは高位貴族の貫禄を全身から漂わせる壮年の男性、タスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下。

 

“サッ”

「お久し振りでございます、タスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下。王都では閣下のお心遣いのお陰で無事に過ごさせていただいております。ドラゴンの襲来や軍閥貴族の造反と、この一年王都は大きく揺れ動きましたが、グロリア辺境伯家王都屋敷のネルソン代官様やモルガン商会王都支店の皆様のお陰で、私たちは混乱に巻き込まれる事なく平静さを保つことが出来ました。

これも全てはタスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下の御威光のお陰、心より感謝申し上げます」

カーテシーを決め口上を述べるエミリー、俺たちはその動きに合わせ頭を下げます。

 

「うむ、エミリー嬢は王都で多くを学ばれている様子、これであればドレイク・ホーンラビット伯爵殿もさぞ喜ぶ事であろう。どうであるかな? ドレイク殿」

“カチャッ”

グロリア辺境伯閣下の声に隣の部屋に繋がる扉が開きます。

 

「本当に、エミリーは立派になりました。タスマニア閣下にはお礼のしようもございません。我がホーンラビット伯爵領の者たちを見守り下さり、心から感謝申し上げます」

そう言いにこやかな微笑みと共に入室してきたのは、ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下?

 

「ドレイクお義父様? どうしてこちらに?」

「ハハハハ、驚かせてしまったかい? エミリー、お帰り、王都はどうだったのかな?」

驚きの声を上げるエミリー、悪戯が成功したといった笑顔を浮かべるドレイク・ホーンラビット伯爵閣下。

 

「やぁ、ジミー、ジェイク君、フィリーちゃんにディアさん。無事の到着おめでとう。グルゴさんとギースさん、長旅お疲れ様でした。エミリーお嬢様、無事のお着き、お慶び申し上げます」

ドレイク閣下の後ろからひょっこり顔を出し俺たちに声を掛けるケビンお兄ちゃん。騒動の影にケビンお兄ちゃんあり、今度は一体何をやらかしたの?

久し振りのケビンお兄ちゃんとの再会に、喜びよりも警戒心を抱いてしまう訓練されたマルセル村住民の俺たちなのでありました。

 

―――――――――――――

 

「ホーンラビット伯爵領が教会勢力により占領される? それは一体どういった事であるか」

 

ブー太郎のお見合いは聖霊剣グランゾートの乱入により強制的に終了となった。“ブー太郎は自分の唯一の主人である”と主張するグランゾートと、“聖霊剣に認められるとは何と素晴らしい、ますます惚れ直しました”とさり気なくグランゾートを持ち上げるカトリーヌ。ぶつけられる敵愾心も大らかな対応で包み込むカトリーヌの態度に次第に勢いをなくしたブー太郎チームは、“とりあえず様子見で”という先延ばし工作でその場を収めたのであった。

 

これは中々見ごたえのある攻防でした、ブー太郎チームの先延ばし工作にも「それは当然のこと、ゆっくり私のことを知っていただいた上で結論を出してください」とうれし涙を流して頭を下げるカトリーヌさん。うん、役者が違います。ブー太郎が一人「俺の意見は?」とか呟いてましたけど、勇者様に個人の意見は許されないのです。

勇者ブー太郎、諦めって大事だと思うぞ?

因みに次はオーガの集落だ、あの族長の娘さん、どうしてるかな~。頑張れブー太郎、負けるなブー太郎、明日は明日の風が吹く!!

 

で、ブー太郎の件は月影たちに丸投げ、何故かメイドさんと嫁さんズがブー太郎の嫁探しに乗り気でして。ブー太郎、愛されてるからね~。

みんな大好きブー太郎、君のドタバタ劇は人を楽しい気持ちにさせてくれます。(ニッコリ)

 

身内の問題はこれでいいとして、次はマルセル村の危機について。ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下にとってマルセル村は大変思い入れの深い村、引っ越せと言われて“はい、分かりました”とは言い難い。しかも引っ越し先が大魔境の森林開発じゃ話にならない。

他の比較的安全な地域であれば領地替えの話も検討したのかもしれない、でも“村人の命が何よりも大事である”との思いはドレイク村長の一貫した考え、それは伯爵の地位を賜った今でも一切揺らぐことがない。

ドレイク村長の実家であるブラウン男爵家の家訓、“領主にとって領民とは宝”という考え方が、ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下の中で色濃く生きているという事なのでしょう。

 

「ケビン・ワイルドウッド男爵、この件は一度タスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下にご相談申し上げよう。仮に教会勢力がこの地にやってくるとして、私の一存で決めるには問題が大き過ぎる」

騒動の大きさ、周囲に対する影響、何よりマルセル村に軍隊がやってくるといった事にでもなればグロリア辺境伯領も無関係ではいられない。タスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下に話を通すというのは正しい選択だと思います。

 

そして向かった先、グロリア辺境伯家居城でタスマニア閣下の口にされた台詞が先程のご質問ですね。うん、意味解らないですよね、普通はそうなるのが当然です。

でもそんな意味の分からない事が割とそこら中で行われてきたのがこの世界、最悪の魔王デビルトレントを収納のスキルでしまい込んだ戦士を殺して世界平和って謳った勇者がいたり、自らの職業<最上級死霊使い>の職業スキルを使い国を豊かにしようとして周辺国から魔王として討伐されたり、迫害された者たちを受け入れ多種族多民族の集落を作り上げたがゆえに脅威とみなされ魔王として討伐されたり。

 

「はい、我がホーンラビット伯爵領マルセル村に建つ礼拝堂、女神様の祝福を受けたこの礼拝堂を聖地として独占したいが為に国を動かしホーンラビット伯爵領を領地替えしようという動きがあります。

ですがその代替え地が大魔境の未開発の土地を自分たちの手で開拓せよという到底受け入れがたいもの、我々がこの要件を受け入れるのかと聞かれれば否としか言いようがありません。

ではなぜこのような話になっているのかと言えば、中央貴族が教会と手を結び北部貴族連合並びホーンラビット伯爵家を潰そうとしているからにほかなりません。

彼らの狙いはボルグ教国の影響力を利用し、オーランド王国の実権を握ること、軍閥貴族の力が衰え、バルカン帝国の脅威が去った今、発言力を増した北西部貴族連合と南西部貴族連合、ダイソン公国は彼らにとって邪魔でしかない。

ではどうやったら邪魔者を潰すことが出来るのか、そこで重要となるのがボルグ教国の発言力です。彼らの狙いはただ一つ、ボルグ教国と手を組み、自分たちの邪魔ものを世界の敵とする事、聖地を占領する我がホーンラビット伯爵家を魔王として討伐する事です。

魔王に与する者、それは即ち世界の敵、世界の敵でないとするのなら我らに従え。これは第三王子クロッカス・ウル・オーランド殿下の宣言として公表される事となるでしょう」

 

ドレイク・ホーンラビット伯爵閣下の言葉に表情を厳しくするタスマニア閣下、これまでの人類の歴史において度々そうした事が行われてきている事を知っているのか、この話が荒唐無稽の絵空事ではないとご理解されているのでしょう。

 

「因みに魔王役は俺ですね。辺境伯閣下もご存じかも知れませんが、俺の種族欄が<普人族>ではないので、魔王役には丁度良かったみたいです。

それでご相談なんですけども、ボルグ教国と中央貴族が何か言ってきても中立を貫いてほしいんですよ。“武力協力もしないが邪魔もしない、食料の販売は行おう”くらいの立ち位置でいてくれればよいかと。

王家は必死になって止めようとしているみたいですが、残念ながらこの流れは止まりません。ボルグ教国が魔王出現の知らせを発表すれば直ぐに討伐隊が組まれるでしょう。

俺の予想ではナミビア王国には既に接触がもたれ、勇者の派遣を打診しているものかと。勇者にとって魔王討伐は目標であり憧れですからね、直ぐにこの話に乗ってくるでしょう。特に被害らしい被害が出ていなくても魔王を討伐した勇者となれば歴史に名を残すことが出来る、ナミビア王国ももろ手を挙げて賛成するはずです。

まぁ痛い目を見るのは彼らの方なんですけどね~」

 

そう言いにこやかに笑う俺に引き攣った顔を向けるドレイク・ホーンラビット伯爵閣下とタスマニア・フォン・グロリア辺境伯閣下。

・・・あれ? なんか予想と違う反応なんですけど? ここは一緒になって悪い笑みを浮かべるところじゃ?

 

“コンコンコン”

「失礼いたします。ホーンラビット伯爵家次女エミリー・ホーンラビット嬢が王都学園の冬季休暇の帰省とのことでご挨拶に伺っておりますが、いかがいたしましょうか?」

扉が叩かれ聞こえてきたのはエミリーお嬢様たちが王都から帰ってきたという知らせ。

 

「おぉ、それは丁度良い。ドレイク殿、ご息女が王都でどれ程成長したのかご覧になってはいかがかな?」

「ハハハハ、それは面白い、ぜひお願いいたします。私も娘エミリーの様子を窺えることが楽しみです」

何故か二人して話題を変えようとなさっていますが、ボルグ教国と中央貴族たちの件はいいんすか? 今はエミリーちゃんのことの方が大事と、了解です。

俺は何処か釈然としないものを抱えつつも、エミリーちゃんたちを出迎え、一緒にマルセル村へ帰ることになったのでした。

帰りですか? 無論ケビン航空便ですが。だって五分で着いちゃいますからね、便利なものは使ってなんぼ、ケビン航空便をよろしくお願いいたします。

 




本日二話目です。
いってらっしゃい。
by@aozora
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