転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第837話 辺境男爵、山芋掘りに向かう

「はい、皆集合~。おっ、シャロン、中々大きい山芋を掘り当てたじゃん、偉い偉い。カトリーヌさんが手伝ってくれたんだ、よかったね~。ダリアとジャスパーも頑張ったみたいだね、ブー太郎もいい従業員を持って幸せだよ」

“クワックワックワ~~~♪”

大きな山芋を宝物のように掲げて、“聖剣エクスカリバー♪”とか言って喜ぶシャロン、そんな彼女を母親のように優しい瞳で見つめるカトリーヌ。ダリアとジャスパーもそんな二人のことをどこか微笑ましげに見つめている。

 

「・・・ブー太郎、詰んだな」

「詰んだなじゃないですよケビンさん、俺の周りすっかりカトリーヌに掌握されちゃったんですけど? 御神木様ですら「この者からは嫌な気配は感じない。よかったではないか」とか言うんですよ? クマ子とクマ吉はよく分からないって顔をするだけだし、良狼は“繁栄は族長の務め”とか言ってくるし、種族が違うって言っても誰も相手にしてくれないんですよ?」

何か隣で泣き言を言うブー太郎、っていうか既にそこまで溶け込んでいるカトリーヌの人心掌握術が恐ろしい。

 

「まぁ種族っていってもね~、ブー太郎の種族ってハイオークヒーローだったっけ? 進化しちゃって普通のオークとは別物になっちゃったし、人族との境も曖昧だしね。俺なんか種族表示が訳分からんことになってるし、うちの子供たちは種族が普人族やハイエルフじゃなくて“人族”だからね? どちらかの親の種族じゃなくて完全な別物、アルバもヴィーゼもケーナも全員“人族”、ヴィーゼなんか耳がエルフで顔が俺だから。

まぁ俺は元々普人族だからブー太郎とは話が違うかもだけど、白雲の嫁さんのルインみたいに普人族の血に紛れた獣人族の血が顔を出すって事もあるみたいだし、問題なし? 尤も獣人族がどうやって生まれたのかが分からないから何とも言えないけど、暗黒大陸じゃ異種族間での婚姻は普通みたいだしな~」

 

俺がそう言ってブー太郎の肩をポンと叩くと、「イヤイヤイヤ、俺は完全に魔物ですから、オークですから、ボア族とは違いますから」と言葉を返すブー太郎。

そう、カトリーヌに話を聞いたところ暗黒大陸南東部に住むボア族はまさにブー太郎の見た目とのこと、どちらかといえばよりオークに近く、痩せたオークと呼ばれることもしばしばなんだとか。

それを聞いた時の俺とブー太郎の反応は、“まさか大森林のオークじゃ!?”といった戦慄だったんだけどね。だってあいつらめっちゃ筋肉質だし、雄雌ともにビルダーだし、迫りくる雌オークの姿を思い出しただけで震えが。

ボア族は農耕を中心とした比較的穏やかな種族と聞いたときは、心底ホッとしたものです。

 

「でも悪い女性じゃないんだろう? シャロンが懐いてるくらいだし」

シャロンは人を見る目があるというか嗅覚が鋭いというか、相手の心の内を嗅ぎ取るようなところがあるんですよね。まだ頭に骨の被り物をしてたチビシャロンだったころは、マルセル村に来た飛び込み行商人の善し悪しを見抜いては報告してくれたもんです。その辺のことはこっちも分かってるし、ホーンラビット伯爵閣下なんかは分かったうえで利用しちゃうくらいだから「シャロンは凄いね~」と褒めたりしてたんですけどね。

 

「そうですね、御神木様の結界聖域に来た当初は凄く驚いてましたけど、直ぐに慣れて森のお店屋さんの仕事やシャロンたちの世話も率先して行ってくれるので助かってはいますけど。

そういえばクマ子とクマ吉がそろそろ冬眠するって言ってました。クマ子によると、食料もあるし冬眠しなくてもいいけど、冬眠しないと春からの体調がすっきりしないって話でした。

ゴールデンハニーベアに進化してからはそれほどじゃないけどワイルドベアの頃は寒くなり始めた頃には本能的に冬眠の準備に入っていたと言ってましたし、進化してもそうした本能の部分は変わらないのかもしれませんね。

本当なら俺も冬眠の時期なんですけどね、全然眠くないって言うか、どっちでもいいかなって感じなんですよ。石工のおっちゃんはダンジョンでゴーレム造りに夢中になり過ぎて冬眠自体を忘れてるみたいですけど」

 

ブー太郎の言葉に俺は“そういえばグラスウルフ隊の連中、冬眠してないじゃん”と、大事なことを思い出す。・・・うん、めっちゃ元気、どうやらレッサーフェンリルに進化したことで冬眠が必須から嗜好にまで格下げされちゃったみたいです。

初めて会った頃の白玉はバトルホーンラビットに進化することでホーンラビットのパニック行動を克服していたし、進化はそれによって魔物の性質を大きく変化させる効果があるのかもしれません。

それじゃ俺も何かが大きく変わっているのかな? ・・・こういう事って本人にはよく分からないみたいです。

 

「ジミー、山芋掘りの成果はどうだった? ジェイク君たちもたくさん掘れたかな? 掘った山芋はマルセル村に持ち帰ったあと各ご家庭に配るんだけど、ジミーたちは自分で持ち帰っていいからね、お父さんお母さんに自慢してね。

クルンもドラゴンロード家への土産物にしていいから、村に配る分はこっちで賄えるしね」

俺は参加者の皆さんに声掛けすると、全員でキラービーの女王様にお礼をし、次の採取地点に移動を開始するのでした。

 

「これから向かう先はちょっと遠いんだけど、何と言っても大森林、植物の育ちは他所とは比べ物になりませんし? 集落の側だからめったに魔物も近寄らないんですよね~。という訳で少し急ぎます、カトリーヌはグラスウルフ隊の背中に乗せてもらっちゃって、他は頑張って走るように」

俺の言葉に一斉に駆けだす参加者の皆さん。カトリーヌはその速さに目を見開いて驚いています。「魔王軍の魔獣隊よりも早い!?」って前職が漏れてるぞ~。ジェイク君たちは王都でちょっと鈍った? でも気配隠しをしながら体内に魔力を循環させて<縮地>並みの全力疾走が出来る辺りは流石です。

ブー太郎ファミリーは楽しげですね、アイツ絶対ほのぼの転生小説の主人公だわ~、ずるいわ~。俺なんかこれから魔王よ? 世界の敵よ? どう転んでも大騒ぎよ?

最悪ブー太郎のところで雇ってもらおうかな? 何かあったらブー太郎に丸投げで。

 

「ケビンさん、今碌でもないこと考えてませんでした? 背筋がゾクゾクしたんですけど? よく分からないけどとりあえずお断りします」

クッ、ブー太郎鋭い、俺と一緒で小者精神が研ぎ澄まされている。力を持った小者がこれほど扱いにくいとは、やはりこれからもホーンラビット伯爵閣下に頼っていくか。

 

「そんな事ないよ~、それより今日はグランゾートはいないの? 家に置いてきぼりなんかにしたらまた飛んできちゃわない?」

「あぁ、それは大丈夫です。何かカトリーヌが上手いことグランゾートを宥めたみたいで、暴れなくなりましたんで。今日も山芋掘りに行くって言ったら、“何かあったらすぐに呼んでください”と言って送り出してくれました。

“家を守るのもパートナーの務め”とかよく分からないことを言ってましたけど」

うん、聖霊剣グランゾートは勇者ブー太郎のパートナー、普通普通。俺はこれ以上は踏み込んではいけないと話を切り、森の中を疾走するのでした。

 

――――――――――――

 

“シュタンッシュタンッシュタンッシュタンッシュタンッシュタンッ”

木々の合間を疾走する集団、人が、魔物が、恐ろしい速度で大森林中層部を駆け抜ける。

 

「・・・なぁジミー、緑と黄色の姿ってさ、王都で見た細長いドラゴンに似てない?」

「・・・そうだな、細長いドラゴンなんかいるとは思わなかったんだが、実際俺たちはこの目で見たしな。というかジェイク、緑と黄色、宙を飛んでないか? 俺たちみたいに魔力障壁を足場にしてるんじゃなくて、完全に飛んでるな。あれってケビンお兄ちゃんが教えたんだろうか、だったらこの冬に教わりたいんだが」

ケビンの側にいるとんでもない力を持った魔物たち、子供のころから挑み続けて未だに勝つことの出来ないマルセル村の守護獣たちは、しばらく見ない間に更なる進化を遂げていた。

ジェイクはその変化に<鑑定>を掛けてみたいという欲求に駆られゴクリと唾を飲むも、首を振ってその考えを投げ捨てる。“止めておけ、絶対に後悔する”、魂の奥から届く確信にも似た警告が、自らの衝動を押し止める。

 

「ジミー、今ここにいる魔物たちが敵に回ったとして、俺たち勝てるかな」

「無理だろうな、先ず俺たちは未だに大福ヒドラドラゴンモードの八つ首に届いていない。仮に今の実力が八つ首に辿り着いていたとしてもそこに緑と黄色が加わって勝てるかと聞かれたら難しいとしか言えない。

更にグラスウルフ軍団、こいつらは名前詐欺も甚だしいレッサーフェンリルの集団だ。ケビンお兄ちゃんは「なんか進化しちゃった」とか言っていたが、なにをどうすればグラスウルフがレッサーフェンリルに進化するって言うんだ? 意味が分からない。

それにブー太郎たち森のお店屋さん、彼らは強い、確実にな。今の俺たちに勝てるのかと聞かれれば無理としか言いようがない、今の俺たちにはな」

そう言い獰猛な笑みを浮かべるジミー、登山家は険しい山を見るだけで嬉しそうに笑みを浮かべるという、ジミーもそうした心境なのだろうとジェイクは乾いた笑いを浮かべる。

遥かなる頂、その山のあまりの厳しさに自分たちとケビンお兄ちゃんの何がそれ程違うのかと頭を悩ませる。

 

「どうしたのジェイク君、何か難しい顔をして。また昨日のことを考えてるの?」

ジェイクの様子に横を走るエミリーが声を掛ける。ジェイクは不意に子供の頃は泣き虫だったエミリーの成長に気付き、髪をクシャクシャと掻く。

 

「いや、ケビンお兄ちゃんと俺たちの間の差を考えちゃってね。同じマルセル村で育って、俺たちは毎日のように剣の稽古に励んでいただろう? その間ケビンお兄ちゃんは畑や村の発展に事で奔走していたはずなのにどうしてこれ程違うのかなって。

ケビンお兄ちゃんは魔王させられちゃうって言いながらも俺たちのことに気を使ってくれる、俺だったらもっと追いつめられるって言うか、何で自分だけって嘆き悲しむんだろうけど、全然そんな様子も見せないで。

でもそんなことを考えるだけ無駄っていうか、俺たちだってしっかり成長してたんだなって気が付いたんだ。だって考えてもみてよ、俺なんか初めはスライム一体倒すのにフラフラになってたんだぜ? それが大森林中層を疾走してるって、子供の頃の俺が聞いたら絶対嘘だって思うじゃないかなって。

確かに目標を立てたり目指したりするのはいいけど、その目標と自分を比べて落ち込むって、どれだけ自分を過大評価してるんだって話だろう? そう思ったら肩の力が抜けたって言うか、ばかばかしくなったって言うか。俺も何言ってるのかよく分からないけど、そんな感じ。

ごめんね、変に心配させちゃって」

 

ジェイクの言葉にエミリーはクスリと笑うと「やっぱりジェイク君はエミリーの勇者様だよ」といって微笑み、ジミーは「そうだな、これからも頼むぞ、リーダー」と言ってニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 

「おっ、見えてきた。皆さん到着しますんで速度を落としてください。門番がびっくりしちゃいますからね。ブー太郎、代表挨拶を頼んだ」

「え~、挨拶はケビンさんでいいじゃないですか、なんで俺が」

そこは大森林の中とは思えないような場所であった。レンガ造りの道があり集落を取り囲む壁があり、入り口らしき門の前には二人の兵士が大剣を背負い警戒の目を向けている。

 

「あ~、俺はブー太郎って言うんだが覚えてる奴はいるのかな~、一年前に騒ぎを起こした集団って言えば分かると思うんだけど」

「はい、よく覚えております。昨年大岩砦の危機を救ってくださった救世主、ブー太郎様の御一行様、おいで下さる日を一日千秋の思いでお待ちしておりました。

只今上の者に知らせを走らせております、今しばらくお待ちいただきますようお願い申し上げます」

そう言い頭を下げる二人の門番に、顔を上げるように促すブー太郎。

 

「ねぇケビンお兄ちゃん、なんかブー太郎が凄く尊敬されてるみたいなんだけど、ここってブー太郎と関係ある場所だったりするの?」

「あぁ、去年秘密組織がこの集落を乗っ取って世界征服の足掛かりにしようとしていたところをブー太郎が解放したんだよ。勇者ブー太郎の戦い、勇者物語の一節にも全く引けを取らない大活躍だったんだよね。

森の中を逃亡していた族長の姫様と出会った勇者ブー太郎が、姫を救い集落を救う物語、あれは最高だったな~」

そう言い懐かしむケビンの姿に“一体何をしてたんだこの理不尽は!?”と驚きの表情を浮かべるジェイクたち。

 

“ガチャッ、ギギギギギギ”

開かれる門、その先には多くの人々が立ち先頭の美しい女性がジッとブー太郎を見つめる。

 

「ブー太郎様、お会いしたかった。あなた様のお陰で大岩砦の集落は救われました。私たちは自分たちの力で生きる術を学びました、大岩砦はもう大丈夫です。

ブー太郎様、どうか私をあなた様の下に・・・」

女性の瞳は潤み、嬉しさからか一筋の涙が頬を伝う。ブー太郎がその光景に目を奪われている時であった。

 

“ブー太郎様~~~~~~!! 今度は鬼娘ですか!? やっぱり私がお傍にいないとダメじゃないですか~~~~~~!!”

「ブホッ、グランゾート!? お前ついてきてたのかよ、完全に気配を消してたって、突っ込んでくるな~~~~!!」

突然頭に響く念話、空を飛び迫る一筋の光。

 

「<天想顕現>、はいはい、グランゾートちゃんはこっちで見守りましょうね~、今凄くいい場面だから邪魔しちゃだめだよ~。<魔力遮断結界>、これで念話も聞こえないから大丈夫、どうぞごゆっくり~」

だが危機はケビンによって防がれる。まるでコマ落としのようにいきなり結果だけがその場に現れ、飛び込んだ大剣はケビンによって持ち去られる。

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

目の前で見せつけられた理不尽、若者たちは“自分たちは一体何に悩んでいたんだろう”と思いの置き所に困惑しつつ、虚空を見つめる事しかできないのであった。

 




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