転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第843話 転生勇者、ダンジョンに挑む

そこは生まれ育った故郷の村、オーランド王国で最も大森林に近いと言われるホーンラビット伯爵領マルセル村。王都学園の冬季休暇で帰省した俺たちは、マルセル村の置かれた驚くべき現実に直面し、自分たちに出来ること、自分たちの将来について真剣に話し合った。

だが結局のところ俺たちが何の力もないガキであるという事が分かっただけで、具体的な方策が見いだせずにいた。

 

「「「「「こんにちは御神木様、今日もよろしくお願いします」」」」」

“ワサワサワサワサ”

 

そんな俺たちに声を掛けてくれた人、それはマルセル村の救世主“干し肉の勇者”ケビンお兄ちゃんだった。ケビンお兄ちゃんは普段とんでもないことを平気で行ってマルセル村の人たちを振り回す事はあっても、いつもマルセル村の為にと尽力してくれる。俺たちが悩んでいる時は声を掛け気遣ってくれる。そんなケビンお兄ちゃんのことを魔王に仕立て上げ生贄のように討伐しようとするなんて。

ケビンお兄ちゃんはただ多くの人々の為に頑張っていただけなのに。

ちょっと強いスライムを飼っていたり、どう見てもドラゴンにしか見えないビッグワームを従えていたり、あり得ない程の戦闘力を持った使用人軍団を雇っていたり、笑っちゃうほどの力を持った魔物軍団を支配していたり、王都に襲来したドラゴンよりもヤバそうな巨大ワイバーンと親しくしていたり、本人が異次元なほど理不尽なだけだっていうのに。

 

「・・・」

「どうしたんだジェイク、突然頭抱えて?」

・・・なんてこった、誰がどう見てもケビンお兄ちゃんが魔王じゃないか、魔王カオス様はそのままケビンお兄ちゃんの別の姿じゃないか! 俺、今すぐ勇者辞めたいんですけど!!

 

「ハハハハ、いや、ケビンお兄ちゃんがボルグ教国から魔王に仕立て上げられるって話について考えてたんだけどさ、何処をどう考えても否定の言葉が見つからなくって。

ジミーの話だと、ケビンお兄ちゃんは暗黒大陸の魔国の魔王城に乗り込んでジミーを救出したんだろう? しかもその後魔国からクルンさんとラビアンヌさんがメルルーシェさんに案内されてマルセル村にやってきている、つまりケビンお兄ちゃんが魔国で大暴れして優位な立場で友好関係を結んできたって事だよね、魔王と国を相手に勝利してきたって事だよね?

つまり大魔王?

俺、冬季休暇が終わったら王都に帰らないと駄目なんだろう? ケビンお兄ちゃんが今後の為にも王都の混乱をその目に焼き付けて来いって言ってたし。

絶対“勇者は魔王を倒せ!!”って言われるじゃん、王都中の人々から完全包囲されるって奴じゃん、王城に呼び出されてゾルバ国王陛下の前で跪く奴じゃん。

嫌だ~~~~~、俺今すぐ勇者辞めて~~~~~!!」

 

勇者は魔王に立ち向かわなければならない、それはこの世界の常識、幼い頃から勇者物語という教材によって無意識下にまで刷り込まれた為政者たちの戦略。勇者には負けると分かっていても立ち上がらなければならない時があるって冗談じゃない、これが極悪非道な真の意味での世界の敵ならまだしも教会勢力や王侯貴族といった権力者の都合の為になんで俺が命を懸けないといけないってんだ、ふざけんじゃねぇ!!

 

これは現実、どこかの世界のゲームのように職業を変えたりなんてできないし、敵を倒してハッピーエンドなんてありえない。

これから始まるのはマルセル村の尊厳と生き残りを懸けた戦争、圧倒的不利な状況で世界に向け放つ反撃の狼煙。

 

「ジェイク君、大丈夫だよ、何が来たってケビンお兄ちゃんが負けるなんてことありえないから」

「あっ、うん、それは心配してない。って言うかヘンリー師匠やボビー師匠は勇者と戦えるって言って目茶苦茶張り切ってるしね、昨日もダンジョン三十階層にまで到達したって言って大剣聖に自慢してたみたいだし」

エミリーの声に「問題はそこじゃないんだよ~」と答える俺、パーティーメンバーたちはそれじゃ一体何が問題なんだと言わんばかりの顔付で首を傾げる。

 

「俺たちが冒険者になって世界を旅する事は決定事項なんだろう? だから勇者の役割がどうのなんて事はどうでもいいんだよ、正直職業は職業補正の為のスキルみたいなもんだし。問題なのは俺が勇者だっていうその一点なんだよ。

これは俺が冒険者になったからって隠せるもんじゃない、何処に行ったって冒険者ギルドカードを出した瞬間ばれちゃうと思うんだ。

で、世間的には勇者は魔王と戦うものだって考えが浸透してるだろう? 魔王が出現したっていうのにお前はこんな所で何をしているって話になると思うんだよね。

魔王は人類の敵で絶対悪っていうのは世界の常識、俺がいくら声を大にしたからってそうそう覆ることはない定説。ケビンお兄ちゃんが何も悪さしてなくても、マルセル村がポンポコラクーンとホーンラビット牧場を中心とした観光地だったとしても、その偏見は変わらない。一度でもボルグ教国教会から魔王認定されてしまえばそこで終わりって事は、これまでの歴史が示す事実。

例えボルグ教国があれは間違いでしたと発表したとしても、世間は遂にボルグ教国も魔王の手に落ちたかって言い出すに決まってるしね。

結局世間は魔王を倒す勇者っていう舞台を見たいんだと思うんだよな~、要するに娯楽だね。そして主役である勇者が舞台から降りることを許さない。

様々な形で俺たちを魔王討伐に向かわせようとすると思うんだよ、要するに里帰りなんだけども。

更に言えば魔王の身内とか言って責め立てるやつも出てくるはずなんだよ、ホーンラビット伯爵閣下とケビンお兄ちゃんが説明会で話していた通り、魔王の配下とか言ってね。当然“裏切りの勇者”とかも言われるだろうし、どれだけみんなの為に尽くしても犯罪者みたいな目で見られると思うんだよね。な、唸りたくもなるだろう?」

俺の言葉にパーティーメンバー全員が頷きで応える。

 

「それを言ったら俺なんか魔王の実弟だぞ? 完全な世界の敵だな。この際だから戦う時は地味装備を解放して「「「「それだけはやめてください、余計混乱が広がります!!」」」」・・・そうか? そこまで言うんなら止めておくが」

危ね~~、もう少しで“傾国の魔王”が誕生するところだったわ、ジミーの素顔は洒落じゃ済まないからな、最低二つは地味装備を残していただきたいであります!!

 

「ジェイク君、今更じたばたしても動き出してしまった事態は変えようがありません。それにそうした政治的駆け引きをホーンラビット伯爵閣下とケビンさんが手をこまねいて放置しているとは思えません。

世界的なことまでは予測が付きませんが、少なくともオーランド王国国内に関しては掌握してしまうと思いますよ?

ヨークシャー森林国を救い一年戦争を終結させたのは間違いなくケビンさんです。そんなとんでもない功績を平然と打ち立てるような人が、この程度の騒ぎでどうにかなるとも思えませんし」

フィリーが確信を持った表情で力強く言葉を向け、ディアもフィリーの言葉を追従するように頷きで応えます。二人は精霊使いビーン・メイプルの弟子としてヨークシャー森林国に赴き、あの一国を救った奇跡を目にしているからその思いもひとしおなんでしょう。

っていうかケビンお兄ちゃんって少なくとも二か国を制覇してるの? 普通にヤバくね?

 

「う~ん、結局私たちがやれることはないし、何があろうと自分を見失わない強さを身に付けるしかないんじゃないかな? せっかくケビンお兄ちゃんが修行場所を提供してくれたんだし、頑張らないと。

難しい事はドレイクお義父さんに丸投げだよ♪」

エミリーさんが逞しくご成長なさっておられる。ホーンラビット伯爵閣下、お嬢様は何の心配もございません。私ジェイク・クロー、エミリーさんに付いていく所存です!!

 

マルセル村に隣接する魔の森の中、御神木様と呼ばれる大樹に導かれ向かった聖域の奥に広がる神聖な場所。開けた大地に佇む巨大な樹木は、全体に淡い光を帯び聖域の者たちを見守っています。

 

「ん? ジミーたちか、今日もダンジョンか?」

「ブー太郎、こんにちは。ところでお姫様の名前、ちゃんと考えてあげた? いい加減はっきりさせないと、ケビンお兄ちゃんに扶桑国風の名前を付けられちゃうよ?」

「そうだな、急いだほうがいい。こないだも“夜叉姫”にするか“百鬼姫”にするかで悩んでいたみたいだしな。蒼雲さんに聞いたら昔話に出てくる有名な鬼姫の名前だって言ってたな。鬼人族にとっては憧れの女性とかなんとか」

 

神聖樹である御神木様の下に広がる広場では、森のお店屋さんの店長であるブー太郎が聖霊剣グランゾートを手に剣の稽古をしています。ブー太郎曰く一日一回素振りをしないとグランゾートの機嫌が悪くなるんだとか。ブー太郎、剣の尻に敷かれてるんですね。(涙)

 

「わ、分かってるよ。本当に何でこんな事になっちゃったんだか」

素振りを止めガックリと肩を落とすブー太郎。ホーンラビット伯爵閣下からの招集で村人たちにボルグ教国と魔王の話が行われた次の日、ケビンお兄ちゃんたちと向かった大森林中層での山芋掘りの時に訪れたオーガの集落、そこで待っていたのは進化し人里と変わらない生活を送るオーガたちの歓迎と、潤んだ瞳でブー太郎に恋願う(当て字)美しいオーガの姫なのでした。

 

詳しい話を聞けばオーガたちを巧みに操り進化を促して自分たちの兵力にしようとしていた秘密組織から、オーガの集落を解放したんだとか。オーガたちからすればブー太郎は自分たちを救った救世主、里を救い、姫を助け、何の見返りも求めず去っていったブー太郎の姿は、彼らにとってあこがれの英雄そのものだったんだとか。

しかも大森林深層にあった秘密組織の本拠地に乗り込んで組織の中枢を叩き潰したのもブー太郎とあっては、熱狂は止まることを知りません。オーガの里からは族長の座を熱望されるわ姫様からは求婚されるわで大騒ぎになっちゃいまして。話し合いの末、姫様が嫁いでくるという形で騒ぎが治まったんでございます。

その話し合いの最中俺たちは何をしていたのか? 山芋掘りをしてましたがなにか? あの時の捨てられた子犬のような表情は最高だったな~、ケビンお兄ちゃんがブー太郎に構う気持ちがよく分かります。ブー太郎、君が優勝だ!!

 

「今日も世話になる、ブー太郎はグランゾートを構ってやってくれ。今度また打ち合いをしよう」

そう言い獰猛な笑みを浮かべるジミー、その言葉を挑発と受け取ったのか“次は負けませんからね!! さぁブー太郎様、訓練の続きをしましょう!!”というグランゾートの念話が響きます。

何でも切れるはずの聖霊剣グランゾートに、ブー太郎の石剣を使って打ち勝つジミーって一体・・・。ケビンお兄ちゃんと言いジミーと言いヘンリー師匠と言い、ドラゴンロード家の男たちはヤバいのばっかりです。

そういえばミッシェルちゃんがグラスウルフ隊を使って航空隊を編成していたような・・・。訂正、ドラゴンロード家はヤバいのばっかりです。

 

「「「「「こんにちは、今日もよろしくお願いします」」」」」

「いらっしゃいませ、それでは魔力の腕輪をお願いします」

ここは御神木様の大樹から少し離れたところにあるレンガ作りの家、周りはレンガ塀で囲われていて、庭先ではダンジョンマスター(ゴブリン)が家庭菜園に励んでいます。

家の中にはカウンターと商品棚、地下へと続く階段が用意されていて、壁にはダンジョン内の様子が分かるモニターが設置されています。

 

「はい、魔力を回収させていただきました、ご利用ありがとうございます。ダンジョン使用料分以外にポーション類のご購入は宜しいでしょうか? 携行食もご用意しておりますが」

「まだ大丈夫です、前回購入した分が残っていますんで」

 

「畏まりました。それでは残量魔力は復活使用料の積み立てに回させていただきます」

そう言い頭を下げる額から二本の角が伸びた女性。

 

「メイドさん、お姫様は今日もダンジョンに潜ってるの?」

「はい、本日は十五層を目指すと仰っておられました。ダリアさんとジャスパーさんが付いておられるので安心ですが、あまり無理はなさらないでいただきたいものです」

そう言い心配そうに微笑む彼女はお姫様付きのメイドとして長年勤めていた方で、お姫様がブー太郎に嫁ぐにあたり一緒に越してきたとのこと。最初会った時はメイド服を着たオーガに結構ビビったんだけど、人というものは慣れるもんで、今では普通の接する事が出来るようになりました。

 

「ジェイク君、壁にクルーガルさんが映ってるよ、別のところにはヘンリー師匠とボビー師匠が映ってる。グルゴさんとギースさん、ザルバさんも交代で訓練に来てるみたいだし、私たちも負けてられないね」

マルセル村に生まれた新しい冬の娯楽、俺たちは今日も己を鍛える為に、ダンジョンという未知の空間を全力で楽しむのであった。

 




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