「おいっすコア、復活システムの運用状況と復活に掛かる魔力使用量の集計の方はどうよ」
マルセル村に隣接した魔の森の奥、御神木様と呼ばれる大木の導きの先にはある秘密がある。そこは神聖樹御神木様により隠された聖域、許可のない者は決して辿り着く事の出来ない神聖なる森が存在しているのだ。
その神聖なる森の中に存在するダンジョン、地下七十階層を超える大型ダンジョンであるそこは、今も尚(利用者の要望により)成長し続ける難攻不落の(攻略されるとリニューアルされます)ダンジョンなのである。
そのダンジョンの心臓部であるコアルームでは(受付脇のスタッフルームから入れます)、新たなダンジョン戦略についてダンジョンの支配者(雇用主)がダンジョンコアと詳しい打ち合わせを行っていた。
“ポワポワポワポワ”
「ふむふむ、侵入時の情報を記録しておくことで状態を回復する事は可能であると。でもそうなるとダンジョン内での経験によって得た身体的成長は失われちゃうんじゃないの?」
“ポワンポワンポワン”
「へ~、スキルや記憶は残るんだ。そういったものは魂の記録として残されているって事なんだね、面白い。つまり肉体に関するものは記録データを基に再構築されるものの、内面を司る魂はそのまま使用される、人物の複製は起こらないって事だ」
“ポワン、ポワポワ”
「残月みたいに動作システムを外部から取り込む事で肉体記録による複製は可能なんだ、記録されている記憶を受け継ぐからやりようによってはなりすましも可能と。怖い怖い、これ他所に知られちゃったら俺たち完全に世界の敵じゃん、まぁやらないけど」
マルセル村の修羅たちによる娯楽、その裏ではシステムの改善と運用が行われ、ダンジョンコアのゴブリンダンジョン時代のデータと村門横の闘技場で行われた身代わり人形を使った疑似的な復活システムを基に改良を重ねた、完全な形でのダンジョン復活システムの構築が進んでいるのであった。
「でも助かりましたよ、ヒュンゲル先生の研究データとケイトとのダンジョン戦闘の際に計測された記録データが無かったら今度の祭りの準備に間に合わないところでした」
「いえいえ、私の方こそこんなに心踊る研究に参加でき、感謝申し上げたいくらいです。特に今回構築する事の出来たダンジョン復活システムは大変画期的です。これまでも学園ダンジョンにおける救済措置として重傷者の強制転移システムを導入していましたが、どうしても死亡リスクをゼロにする事が出来なかった。ですが完全な形での復活が可能となれば話は変わる、死亡リスクはほぼゼロになったと言ってもいい、これはダンジョンにおける革命といえるのではないでしょうか。
ただ問題は死亡してしまったことによる精神的負担です。変に精神負担をなくしてしまう事は危険に対する管理意識の欠如を招いてしまう、実戦における危機意識の欠如は致命的です。ですが死ぬという体験は心に拭うことの出来ない負担を与えます、これは新兵が戦場から戻った際に抱える精神障害に近いものがあります」
グロリア辺境伯領の領都学園で教鞭を振るう傍ら学園ダンジョンの維持管理を行う学園魔法講師ダリル・ヒュンゲルは、雇い主であるケビン・ワイルドウッド男爵に自身の考えを伝える。
ダンジョンにおいてリピーターの確保を期待できる復活システムは、今後のダンジョン経営に大きな流れを作り出す特異性を持つものであった。だがそれと同時に死ぬことに慣れてしまうという弊害もあり、復活システムを前提とした技術の向上は、実戦におけるデメリットとなる可能性を秘めているのであった。
「確かに、その危険性は大きいですよね。文字通り死を厭わない訓練がどれほど大きな成果を生むのかは怒り狂ったドラゴンの侵攻を食い止めた勇者パーティーが証明してくれています。ですが死というものに無頓着になることは死んでも復活すればいいといった安易な考えをうみ、安全確保を怠るただの馬鹿冒険者を量産しかねない。
死ぬ気で訓練を行うが死んでからでは遅いという矛盾を理解するには、それなりの実戦経験が必要となりますから。幸いマルセル村という環境はそうした精神的な未熟を一切許さない実戦経験豊富な指導者が揃っていた為、勇者パーティーが歪むような事は防げましたが、他所ではそうはいかないでしょう。
現在学園ダンジョンで採用されている重傷者に対する罰則規定を復活者にも適応すること、精神的負担をダンジョン側で軽減するのではなく、学園の医療職員により対応させるといった対策が必要かと。通常のダンジョンであれば持ち物全品没収の上二十日間のダンジョン進入禁止措置とし、死亡者の記録を残す事で死亡回数に応じ罰則を強化していくという方向での対策が有効ではないかと」
死んだら割に合わない、冒険者たちにとって死ぬことが終わりではないことは喜ばしくとも、慎重さを欠けば経済的に大きな負担を抱えることとなる。ヒュンゲルは自身にはない発想の柔軟性を持つケビンの言葉に感心しつつ、“やはり偉大なる存在である魔王陛下はお考えが深い”とこれから起きるマルセル村と勇者との戦いに心を弾ませるのであった。
――――――――――――――
その建造物はマルセル村に向かう街道の終わり、村門横の闘技場のとなりに忽然と造られた。
「<オープン>」
“カチャリ”
合言葉と共に開かれた扉の先は広々とした部屋であり、壁際には一面に分厚いガラスが嵌められ、外の光を室内に取り込む作りになっている。窓の外の光景は広大な草原、一本の街道が遥か遠くゴルド村に向かい真っ直ぐに伸びているのが分かる。部屋の奥には階段があり、上り切った先には扉が一つ。
“カチャリ”
開いた扉の先はまるで闘技場のように段差の付いた観客席になっており、大空の下、風を感じながら草原を見渡す事が出来るようになっている。
「“大福、残月、トライデント、これより展望塔の耐久実験を開始する。魔法攻撃を開始せよ”」
展望塔の屋上観客席に腰を下ろした俺は、業務連絡により魔法攻撃開始の合図を送る。それと同時に無数の魔法攻撃が展望塔を襲い、周囲を激しい爆音と炎と光の洪水が包み込む。
「“攻撃終了、トライデント、展望塔の被害状況を報告せよ”」
「“報告いたします。上空からの観察では展望塔の損傷は観測できません。魔力視による計測でも展望塔を包む魔力障壁結界に揺らぎは見られません”」
トライデントから届く想定通りの報告に、俺は満足気に頷くと、次の耐久テストに移行する。
「“大福、緑、黄色、キャロル、マッシュ、物理耐性テストを開始する。ただし、それぞれ通常の姿での攻撃を行うように、ドラゴンモードは禁止とする。攻撃開始”」
““““キュワーーーー、クワックワックワ~~~””””
“ポヨンポヨンポヨン♪”
““““ズド~~~~~~ン””””
四体のミニドラゴンとも呼ぶべき蛇状の魔物がものすごい速度で展望塔に体当たりを行う。
“パシュッ、ズドーーーン、パシュパシュッ、ズドーーーン、パシュパシュッ、ズドーーーン、パシュパシュッ、ズドーーーン”
漆黒のスライムが目に見えぬほどの速度で体当たりをし、瞬時に離れては再び体当たりを行うといった動作を建物全体に対し繰り返す。
「“攻撃終了、トライデント、展望塔の被害状況報告を頼む”」
「“報告いたします。先程の魔法攻撃同様、建物損傷ならびに魔力障壁結界に対する揺らぎは見られません”」
想定される魔法及び物理攻撃に対する攻撃に対し展望塔が十分な耐久性を示したことに安堵した俺は、最終テストを行うべく屋上から飛び降り草原の試験官たちの下に向かう。
「大福、緑、黄色、キャロル、マッシュ、残月、トライデント、ご苦労様。ホーンラビット伯爵閣下、こちらの建物が勇者軍による聖地奪還作戦の際の、マルセル村側の指令塔となります。
先程ご覧いただいたように魔法攻撃、物理攻撃に対し十分な耐久性を備えています。また最上階の展望観覧席へは一階扉の仕掛けを使う事で瞬時に移動する事が可能となっており上り下りの手間を極力省いた造りとなっております」
「そ、そうなんだね。うん、司令塔は大事だよね、話の中で観覧席とか言う単語が聞こえてきたんだけど、その辺は今更だしね。
でもそうなると勇者軍の先行部隊が建物に侵入した際に、逃げることが出来ないんじゃないかな?」
本日はマルセル村の村門脇に新しく建築した展望塔の完成お披露目会、とは言っても建物建築は自己領域の島で行い影空間にしまって移築しただけなので、マルセル村の住民からしたら突然建物が現れたって感じなんですけどね。
それでも建物内の各種ギミック作製を行っていた為設置から完成披露までには一週間ほど掛かりましたが、満足のいく仕上がりになったかと思います。
「その点はご安心ください、通常の方法で扉を開くと中は礼拝堂になっています。造りは祝福の礼拝堂を再現、完全な嫌味ですね。
階段を進み上の階に行くと様々な嫌がらせトラップが発動するようになっています。トラップ作製には蒼雲さん、シルビアさん、イザベルさん、カトリーヌさんにご協力いただきました。皆さんノリノリで作ってくださいました。中は全六階層、最後の部屋の扉を開けると更に先へと続く立派な扉が現れます。この扉は入ってきた扉を閉めないと絶対に開かないようになっています。そして覚悟を決め皆して部屋に入りその立派な扉を開いたとき・・・。ここから先は辿り着いた者にしか分かりません、ホーンラビット伯爵閣下も挑戦なさってみますか?」
「いや、止めておこうかな、うん。問題がないようならそれでいいかな」
流石ホーンラビット伯爵閣下、君子危うきに近寄らずの精神ですね。でもそんなに凶暴な罠じゃないんですけどね、要は嫌がらせ、ゴルド村前に作ったホーンラビット伯爵領領境詰所に飛ばされるっていうね。
仕組みは俺の自己領域作成方法の応用、このスキル、別空間に自己領域を作るだけじゃなくて、指定した部屋を自己領域に設定することも出来ちゃったんですよね。
ただこれにも制約があって、空間を俺が作る必要がある、要するに建物を自身で作らないと自己領域として設定できないっていうね。
これは生活魔法で<クリエートブロック>を再現する方法に似ていて、今のところ自身で作製した魔法レンガの建物でしか成功していません。木造の小屋だとダメって、どういう基準なんだろう。相変わらず魔法やスキルって謎だらけです。
展望塔の一階から最上階への瞬間移動も同様の方法、こっちは扉を開ける際に「<オープン>」と唱えないと繋がらないようにしてあります。
まさしく固定式の瞬間移動扉、目茶苦茶凄い魔法施設なんですが、その凄さに気が付くマルセル人がどれだけいるんだか。便利の一言で終わりにされそう。
「ケビンさん、こっちの準備は出来てるぞ」
「了解、すぐにやってくれ」
そして最後の検証、これが失敗すれば全ては水の泡って奴なんですけどね。
試験官はグランド、その手には刃渡り五十センチほどの大きなナイフが握られています。
“フ~~~~~~~~~”
グランドが膝を曲げ居合のような構えを取ってから、大きく息を吐く。
「聖剣術<次元断絶>」
“バシュンッ、バリバリバリバリバリバリ”
「聖剣術<大切斬>」
“シュパンッ、ビシュビシュビシュビシュ”
「聖剣術<乱れ紅華>」
“スパスパスパスパスパスパッ、ビシビシビシビシビシビシッ”
グランドにより繰り出される数々の剣技、その全てが展望塔の魔力結界障壁を破壊するも、展望塔自体を破壊するに至らない。
「ケビンさん、これどうなってるんだ? 俺は確かに展望塔に張られた魔力障壁結界を破壊しているはずなのに、次の攻撃の時にはすでに結界が張られている。まるで壊してもすぐに生み出されているかのようで切りがない」
「お~、流石グランド、分かるみたいだな。それがこの展望塔の最大の防御、瞬間結界作製機能だな。展望塔全体が常に五十枚の結界で覆われているんだが、破壊されるたび内側に新たな結界が張られる仕組みになっている。つまり展望塔を破壊したければ、一瞬にして五十枚全ての結界を破壊するだけの攻撃を行う必要がある。
だがこの結界の強度はかなりのものでな、強度設定はブー太郎の持つ聖霊剣グランゾートで検証し決定したんだ。たとえブー太郎が聖霊剣グランゾートで切り付けても建物表面に傷が残る程度になるように作り上げたんだよ。
それ以上の強度となるとまさに魔王城を作るくらいの巨大装置を付けなきゃいけなくなるし、魔力供給も半端ないものになってしまう。現実的な線での最高性能を目指した結果が、この展望塔の防御結界となるんだ」
俺の言葉にナイフを鞘に戻し、なるほどと頷くグランド。そんな俺たちのやり取りを見ていたホーンラビット伯爵閣下が俺の肩をトントンと叩いてから口を開かれます。
「ケビン君にちょっと聞いてもいいかな? 先程グランドさんが“聖剣術”とか言いながらナイフを振るってなかったかな? それとブー太郎くんの大剣の話をしている時に、“聖霊剣グランゾート”とか言ってなかったかな? それって俗にいう聖剣って奴だよね、勇者様が魔王と戦う時に使われたと言われる奴だよね? 確か聖剣はボルグ王国の大教会の教皇様の許可がないと持ち出す事が出来ないんじゃなかったのかな?」
笑顔で語り掛けるホーンラビット伯爵閣下、目が笑っておられません。
「え~、先ず少々補足させていただきます。ボルグ教国の大教会に管理されている聖剣の名は“聖剣バルボア”、今から四千年前に世界を滅ぼそうとした最悪の魔王デビルトレント、その討伐の為天使の導きにより勇者が手にしたとされる世界の宝です。
“聖霊剣グランゾート”はそれとは別、ブー太郎の相棒であり唯一無二の存在ですね。
それとグランドが“聖剣術”を使えるのは昔取った杵柄、若気の至りと言いますかなんと言いますか。今は落ち着いてお茶農家をしてますんで、優しく見守ってあげてください」
俺の説明にその場で崩れ落ちるグランド。ホーンラビット伯爵閣下はそんなグランドに優しい眼差しを向け、「そこまで極められれば本物だよ」と温かい言葉を送られるのでした。
本日二話目です。
連休もそろそろお終い、あと一息です、いってらっしゃい。
by@aozora