「あっ、これはこれは御丁寧に。
私はオーランド王国の辺境ホーンラビット伯爵領から参りましたケビンと申します。仕事はドラゴンの塒の掃除やら厄介事の仲裁やらいろいろと。まぁお困りごとの解決を請け負わさせてもらっております。
それにしても竜騎士ですか~、凄いですね。
アレですか、もうこちらのお客さんの魔力や威圧には耐えられるようにはなられたって事でしょうか?」
男の子のロマンの頂点、ドラゴンライダーを目指すダイアン神官。ドラゴンを祀るドラゴン神殿に務め、“ドラゴンの塒のお片付け係り”という大変名誉な仕事に就いておばちゃんドラゴンに修行を付けてもらっているんだとか。
全国の勇者病<極み>の者たちよ、これが勇者病だ、これが勇者病の頂点だ!! 同じ夢を見るならこれくらい大きなスケールを持ちやがれ!!
ダイアン神官、超リスペクトっす!! 俺にはその発想はありませんでした、めっちゃ格好いいっす!!
いや〜、世の中凄い人物っているもんだわ。暗黒大陸でバンドリア選手の戦いを観た時も大興奮したけど、それとはまた違ったロマンの塊、ダイアン・マルコーニ神官万歳!!
俺は内心の興奮を抑えながら、ダイアン神官に修行の経過をお聞きします。
「あ~、そうですよね~、そのお顔を見る限りまだまだといったところでしょうか。
人族としてはこの場でまともに意識があること自体奇跡みたいなものでしょうから、既に誇ってもいいと思うのですが、それでは竜騎士には届きませんものね。
この場にいられるという事は<魔力耐性>や<魔力状態異常耐性>は身に付けているとして、<魔力障壁>や<魔力視>、<魔力隠蔽>なんかは出来ますか?」
どうやらダイアン神官の修行はまだまだ入り口といったところ、でも普通はその入り口に立つことすら不可能なんですから、十分誇っていいんですよ?
俺は目の前で<魔力障壁>や魔力による<触腕>を作り、ダイアン神官に魔力の扱いに関わる<スキル>の取得状況をお聞きします。
『えぇ、その辺は私が教えておいたわよ? もう一人の子もそうだけど、その辺の事が出来ないとここでのお掃除が大変なのよ。この場所の物って皆大きいじゃない? 人の手で運ぶのは手間なのよね。
その点あなたに教わった<触腕>は便利よね、細かいところにも手が届くようになって、お蔭で私も脱皮場の簡単な手入れは出来るようになったわ』
成る程、道理でゴミ屋敷が再発していない訳だわ、前回清掃作業に訪れてからちゃんと掃除していたんですね。話し振りからするとこちらのダイアン神官ともう一人のパルムさんが修行がてら手伝っていたみたいだし、一人ではなく他人の目を入れることで自堕落に陥るリスクを防いでいたと。
おばちゃんドラゴン、中々やります。これからはゴミ屋敷の主とは言えませんね。
「そうですか、それであれば<魔力制御>や<魔力操作>のスキルは目覚めているのかな?
そうすると後は<魔力回復>と<魔力感知>、<無詠唱>と<魔力枯渇耐性>か。でもな~、<魔力枯渇耐性>は時間が掛かる上に特別な魔道具が必要だからな~」
『ねぇあなた、さっきからブツブツ言ってるけど何かあるの? おそらくダイアンのスキルの事についてだとは思うんだけど』
俺がダイアン神官のスキル取得について考えていると、おばちゃんドラゴンから質問が。俺はこれまでの経験を踏まえ、自分なりの考えを伝えます。
「え~、おそらくですがこちらのダイアンさんがこのままドラゴンの塒で修行を積んでいても、今以上の成長は望めないかと。
確かにお客様の魔力に耐えられるようにはなるでしょうが、他のドラゴンの害意がある魔力に耐えられるかと言えば難しいと言わざるを得ないでしょう。あれはかなり強烈ですからね。
ですのでそうした魔力全般に耐えられるスキル、“統合スキル”というのですが、そうしたものの取得を目指すのがよいかと。
お話ではこの場にはもう一人修行を行っていた者がいたとか、その者がどういったスキルを持っていたのか、お分かりになりますか?」
俺の言葉に<縮小の魔法>で身体を人族サイズに変え、ガサゴソと何やら探し始めるおばちゃんドラゴン。
『あったあった、前に神殿長からパルムの旅立ちの儀の時のスキル詳細の写しを貰っておいたのよ』
差し出された物は教会発行の鑑定書、名前からして今ここにいないもう一人のドラゴンライダー志願者の物なんでしょう。
<鑑定書>
名前:パルム
年齢:15歳
職業:旅人
スキル
浮遊 魔物の友 健脚 気配察知 気配遮断 ポケット 暗視 魔力理解 短槍術 投擲術
魔法適性
風
称号 生還を果たせし者 ドラゴンに注目されし者
<魔力理解>
<魔力感知 魔力察知 魔力耐性 魔力状態異常耐性 魔力隠蔽 魔力操作 魔力制御 魔力障壁 無詠唱 魔力視>を統合
ビンゴ、やっぱりあったよ統合スキル。鑑定書の記載からしてこの<魔力理解>は<魔力支配>の下位互換スキルといったところでしょう。
「ふむ、あのお客さん、このパルムって方はこの洞窟内で魔力枯渇寸前になるまで魔法の訓練を行うか、何か大量に魔力を消費するようなことを行ってたりしませんでしたか?」
『そうね、この場の魔力に身体を慣らすためと言って濃厚な魔力水を作っていたかしら。わたしが飲んでも満足出来る美味しさだったから相当だったと思うわよ?』
なるほどね〜、この超濃密魔力溜まりであるドラゴンの塒でワザと魔力枯渇を起こす寸前まで魔力を使い、この場ならではの魔力の超回復を利用して魔力許容量を増やし、環境に耐えられるようにしていったと。大食い選手が大量の水を飲んで胃袋を徐々に大きくしていくトレーニングを行うのと同じ、発想がストロングスタイルでしょうが。
スゲー、やっぱり最強生物であるドラゴンの背に乗ろうなんて本気で考える英雄は頭のネジがダース単位でぶっ飛んでます。
「だったら魔力回復はそれでいけるか。うん、何とかなるかな?
えっと、ダイアンさん、これから話す事は一つの提案です。必ずしも望み通りになるとは限りませんが、少なくとも今のままよりかは前に進めるかと」
俺の言葉に目を見開くダイアン神官、どうやらダイアン神官もこの場での修業に行き詰まりを感じていたようです。
「先ほども言いましたが、ダイアンさんがこのままこの場で今と同じ修行を行っていたとしても、望むような成長を得ることは難しいでしょう。ですのでここは新たなスキルの取得、“統合スキル”の獲得を目指す事が得策であると考えます。
目標はこちらのパルムさんが取得された<魔力理解>でいいでしょう。
おそらくですが、こちらのパルムさんはこのドラゴンの魔力溢れる空間でも自由に活動していたのではないですか?今の私のように」
そう言い同意を求めると、何か思い当たる節があったのかハッとした表情を向けるダイアン神官。う~ん、このパルムって人、めっちゃ凄くね? おばちゃんドラゴンの指導で統合スキルに辿り着いたんならダイアン神官がここまで悩むこともなかっただろうし、おそらくだけど自力で辿り着いた結果だよね? マルセル村の修羅どももそうだけど、この世には俺の知らないヤバい奴で溢れてるんだろうな~。
井の中の蛙じゃないけど、やっぱり俺は辺境の田舎者って事なんだね。最近ちょっと調子に乗ってたのかもしんない、反省しないと。
「そこで先程見せていただいた鑑定書の<魔力理解>の詳細鑑定結果を思い出して欲しいのですが、ダイアンさんは<魔力耐性・魔力状態異常耐性・魔力隠蔽・魔力操作・魔力制御・魔力障壁・魔力視>に関しては既に身に付けられているかと。その事はこの場にいる事が出来る、お客様より指導を受けている事から明らかであるかと。
ですので後は<魔力感知・魔力察知・無詠唱>の三つになるのですが、ダイアンさんは魔力を感じ取ることは出来ますか? 人の魔力といったものに関してですが」
俺の言葉に首を捻るダイアン神官、まぁこの超高純度魔力溜まりで人の魔力を感じろと言われても無理がありますけど。
「う~ん、分かりづらかったですかね。人もそうですが、魔物や動物、この世界のありとあらゆるものは大なり小なり魔力を帯びています。
<魔力感知>とはこの世界の魔力を感知する力で、<魔力察知>は魔力により人や魔物の存在を見つける能力となります。
<魔力視>が出来ているのですから魔力を感じ取れてはいると思うのですが」
「そうですね、このドラゴンの塒は否が応にもドラゴン様の魔力を感じ取る事の出来る場所ですから、今も常に浴びせられているドラゴン様の魔力を感じ取っています」
「ふむ、なるほど。では<魔力察知>の確認ですが、ちょっとこの場だと分かりにくいですかね。お客さん、ちょっとこの場の魔力を
“ズゴッ”
俺はそう言うとその場の魔力を全て吸い取ります。まぁこれも黒鴉と合体した精霊モードだからこそできる事なんですけどね。合体していない状態だったらこんな事・・・できるな。うん、全てはスキルのお陰、俺が人外とかそういう事じゃないからね。おばちゃんドラゴンとダイアン神官に影響を与えないように気を付けて作業終了です。
『あなたってば相変わらず訳が分からない事をするわね。ドラゴンの塒の最奥である寝所の魔力を綺麗サッパリ消し去るだなんて前代未聞よ?
こんな話他所の仲間に言ったら鼻で笑われるか、頭の具合を疑われるわよ』
そう言い肩を竦めるおばちゃんドラゴン。ダイアン神官が固まってるんですけど、大丈夫? 頑張って話についてきて!!
「まぁ今回はそこまで酷くないですから? 前に来た時は俺でも近寄りたくないと思ったほどですし?
あっ、全体の掃除はダイアンさんへの説明が終わった後行いますので、ご安心ください。それで魔力察知ですが」
俺はサッと掌を上に向けると、光の玉を中空に浮かべます。
「今から幾つかの魔力球をダイアンさんの前に並べますので、目を瞑った状態でその数を数えてみてください。いきますよ?」
俺の言葉に目を瞑るダイアン神官、その様子を確認してから光の玉をダイアン神官の前に移動します。
“スッ”
「ではダイアンさん、これは幾つですか?」
「五個でしょうか?」
“スッ”
「ではこれは?」
「三個です」
“スッ”
「次はどうでしょう?」
「ちょっと待ってください。・・・十二個ですか?」
「はい結構です。おそらくにはなりますが、<魔力感知>、<魔力察知>共に習得されていると思われます。ただそれらのスキルを磨く訓練はそこまでされていないようですので、あまり低い魔力に関しては<魔力察知>が上手く働いていないようです」
ダイアン神官惜しい、正解は十五個でした~。うち三個が薄っすらと光る程度の微弱な魔力の球だったんですけどね。でもこれってうちの使用人の最低基準なのよ? やっぱ月影の基準設定っておかしいのかな。
「最後に無詠唱になりますが、ダイアンさんは<短縮詠唱>は出来ますか?」
「はい、私は火属性と土属性の魔法適性がありますので、<ファイヤーボール>と<アースボール>は<短縮詠唱>で発動する事が出来ます」
なんと、通常の魔法で<短縮詠唱>を行うのって相当な努力が必要なのよ? それを自身が授かった二属性の魔法適性で習得しているって、地味できつい作業もきっちりこなしたって証拠よ?
「なるほど、では<短縮詠唱>を身に付けるのがどれほど大変かという事を理解しているものとしてお話しします。
実は<無詠唱>を身に付ける事はダイアンさんが思っているよりも簡単なんです。“各属性の魔法を無詠唱で発動できるくらい使いこなす事”、これだけなんです。
これまで無詠唱を使う事が出来る魔法職の者が比較的高齢であったのはこれが原因ですね、ボール魔法だけでも無詠唱が行えるほどの数を撃ち続けるのには膨大な時間を必要としますから。
ですがこの各属性の魔法という条件には、所謂魔法に含まれない生活魔法も含まれるんです。つまり生活魔法をひたすらに使いまくっていれば、勝手に無詠唱を習得できるんです。
生活魔法の<プチファイヤー><ピット><ウインドウ><ウォーター><プチライト><アイマスク>といった魔法を使い続けるだけなんですよ。
気を付けなければいけないのは、この方法の場合火・土・風・水・光・闇の各属性の生活魔法を全て無詠唱で発動できるくらいにまで使いこなす必要があるという点です。理由はよく分からないのですが、何人かで試した結果ですので確かかと」
ダイアン神官は俺の言葉に呆気に取られている様子、そりゃそうですよね、まさか生活魔法で<無詠唱>が習得できるだなんて考えもしなかったでしょうし。まさにコロンブスの卵的発想の転換、香辛料を求めて逆回りでアジアに行こうとしたら新大陸を発見しちゃったって感じ? これでダイアン神官も生活魔法のすばらしさに目覚めることでしょう。
「あぁ、この方法は余り人には広めないで下さいね、下手をしなくても戦乱の引き金になりますから。
人は自身が周りより優れていると思うと横暴になり、その力を使いたがるもの。優れた自身が優遇されないことはおかしい、他者は自身に従うべきだとね。
過去の戦争の原因なんて総じてそんな物です。人は中々支配欲からは逃れられないものですから。
そうした問題は今後“竜騎士の試練”を受けるダイアンさんには重く伸し掛かってくるはずです。今からよく考えておいて下さいね」
俺の言葉に真剣な表情で考え込むダイアン神官、やはりロマンを求める男は素晴らしい。
『ダイアン、良かったわね、今後の訓練の方向性が決まって。
私もどうにかしてあげたかったんだけど、どうしたらいいのかよく分からなかったのよね』
おばちゃんドラゴンがダイアン神官に語り掛け、優しげに微笑みを向けます。ダイアン神官はその言葉に感じ入るようにおばちゃんドラゴンに目を向けた後、俺に向かい深々と頭を下げます。
「まぁ俺から言えるのはこれくらいですかね。あとはダイアンさんの頑張り次第です。
スキルについては教会で鑑定を受けてもらえればハッキリするかと。先程俺が言った事はあくまで推測ですので、近いうちに訪ねられる事をお勧めします。
それじゃお客さん、俺はちょっと洞窟内の掃除にいってきますんで、そこまで散らかっていませんし直ぐに戻りますから」
俺はそう言うと、伝えるべきことは伝えたとばかりにその場を離れます。掃除のついでにさっき拾った冒険者たちを洞窟前に置いてこないと、なんか凄く気分がいいのでサービスでポーションを飲ませてあげましょう。
そうだ、エッガードの件があったんだった、さっさと掃除を済ませないと。俺はドラゴンライダーの未来に思いを馳せつつ、文字通り洞窟内を飛び回るのでした。
本日二話目です。
ゴールデンウイーク最終日、遊びに行くなら近場ですかね。
いってらっしゃい。
by@aozora