転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第847話 辺境男爵、親子の再会に立ち会う

「さ~て、サクサクっと片付けますか~」

洞窟で倒れていた三人の冒険者を入り口前広場の脇の木立にこっそりと横たえた俺は、ポーションを飲ませた後早速清掃作業に移ることに。そうはいってもこの洞窟って基本的に物が腐ったりしないし、雑草も生えないしね。

ドラゴンの棲む洞窟に生える植物といえばヒカリゴケくらいだし、ヒカリゴケは大切な光源だからむしろ手を付けない方がいいまであるし、俺のやることは通行の邪魔になりそうな石や岩の撤去くらい。それも前回の清掃作業で撤去済みだからそこまで気にする事も無いんですが。

 

「<範囲指定:洞窟入り口から脱皮場全体:収納>」

空間を把握して闇属性魔力を流し、指定範囲の余計な堆積物を除去するだけの簡単なお仕事。本当にアフターケアって程度で済んじゃう辺り、このドラゴンの塒にとってドラゴンライダー見習いの存在がどれだけ大きかったのかということが分かります。

でも既にパルムさんっていう方は“竜騎士の試練”の旅に出ちゃったみたいだし、ダイアン神官もいずれ旅に出るってことになると、その後のおばちゃんドラゴンの洞窟はどうなることやら。

まぁ五年おきぐらいに顔を出しておけば大丈夫かな? 信者さんに逃げられてないといいけど。

 

「ん? なんかいるな。この洞窟の中でヒカリゴケ以外の生命反応があるなんて珍しい」

それは脱皮場の手前の通路脇の地面から感じた物。

 

「これってスライムだよね、固くなって縮んでるみたいだけど、乾燥スライムみたいに干からびてる訳でもないし。確かジニー師匠の「スライム使いの手記」に休眠スライムについての記述があったよな。環境に合わせて進化するスライムはその環境に適応できるまで生命活動を極端に落とし休眠するとか。これがそうなのか、初めて見た」

どうやらドラゴンの塒という環境に適応しようとしたチャレンジャーだったみたいです。ドラゴンライダーに挑むダイアン神官と言いこの休眠スライムと言い、今日は熱い魂を持った者との出会いが多いみたいです。

 

「お待たせしました。後はこの部屋の片付けだけですね」

『はや!?えっ、あなた早くない?このドラゴンの塒ってそれなりに大きいのよ?』

その後サクサクッと他の部屋の掃除を済ませた俺は、目的を果たす為におばちゃんドラゴンの下に。闇属性魔力と国すら呑み込む収納の腕輪のコンボは最強なのであります。(バルカン帝国で証明済み)

 

「まぁこの洞窟は初めてじゃありませんし、それ程散らかってもいませんでしたから。全体を覆って余計な物を回収するだけですからね。

それじゃ寝床の掃除と組み直しをしちゃいますね」

あとはこのプライベートルームを片付ければ掃除はお終い、周囲全体を濃厚な闇属性魔力で包み込んで余計なものを回収、鳥の巣ベッドは食べカスゴミが多いので一度回収して割れたり折れたりしていない木材で組み直し。収納の腕輪内で組み直し作業が出来るって、収納の腕輪さんマジ優秀です。

 

「よし、こんな感じかな?お客さん、どうですか?」

おばちゃんドラゴンは早速鳥の巣ベッドに寝転ぶとゴソゴソ身じろぎしながら大変満足げな様子を見せています。

 

「でもお客さん、前も言いましたけど寝床でものを食べてカスを散らかすのはちょっと。うちの最強生物に聞きましたけど、ソレってドラゴンの習性でも何でもなく、ただズボラなだけって言ってましたよ?」

『そ、そうね、これからは気を付ける事にするわ。それよりもお代を払わないといけないわね』

何か話を誤魔化し始めたおばちゃんドラゴン、本当に大丈夫なんだろうか?

 

「あぁ、そうでした、肝心なことを忘れてました」

掃除も終わったということで、俺は本日の訪問目的に付いてお話する事に。

 

「いや〜、すみません。何かこちらのダイアンさんの存在が衝撃的過ぎて、肝心の用件を忘れていました。前回掃除に来た時にお譲りいただいた卵の件なんですよ。

あれから俺の方でも色々と伝手を使って調べてもらいましてね、どうやらあの卵が孵らなかった原因は卵に宿るはずだった魂の欠損、発達不良によるものだったようなんですよ。

ですのでいくら手を尽くそうと卵が孵ることはないだろうとの事だったんです」

俺の言葉に卵の事を思い出したのか悲しげな表情を浮かべるおばちゃんドラゴン。しかも卵の孵らなかった原因が生まれ付き抱えた魂の欠損によるものだと知れば自身を責めてしまうのも仕方がないかもしれません。

 

「だったんですけどね、あの卵、エッガードって名前なんですけど、魂が宿ったというか、補完されちゃったんです」

『はぁ?どういう事?』

俺の言葉に訳が分からないとばかりに目を見開くおばちゃんドラゴン、まぁそうなりますよね、普通。

 

「こればかりは見てもらった方が早いですかね。出てこいエッガード!!」

俺は足下の影を伸ばすとエッガードを呼び出します。

 

「エッガード、こちらエッガードのお母さん。ご挨拶して」

“!?ブルブルブル、クルクルクル”

初めての親子の対面、ブルブル身を震わせた後空中で回転運動をしながら喜びを示すエッガード、おばちゃんドラゴンはその様子を口を開けたまま呆然と眺めています。

 

「これは全くの偶然だったんです。こちらの卵をお譲り頂いた時一緒に引き取った呪われた騎士がいたじゃないですか?

既に意思もなく、施された呪いによりただお客さんに挑む事しか出来なくさせられていた生き人形。この二つを同じ部屋に置いておいたんですよ。俺のコレクション部屋だったんですけどね。

そうしたらこの卵、エッガードがその部屋に置いてあった呪物の魔力を全部吸い上げちゃいまして。復活して動き出した呪いの生き人形も、その時に魂ごと。

どうもそれで魂が補完されたみたいでして、何か動き出しちゃったんですよね。

今考えると、俺が名前を付けたことで存在が世界に固定化された事も影響したのかと。名付けはそのモノの存在にかなりの影響を与えますから」

俺の説明も上の空に、エッガードを見つめ続けるおばちゃんドラゴン。その目からは大粒の涙が溢れ出します。

これは何とも貴重な場面、俺はコッソリ魔力の管を伸ばし、零れた涙が地面に落ちてしまう前に回収です。

 

『そう、あなたが我が子、名前を貰ったのね、良かったわね』

中空にプカプカ浮かんだエッガードはまるでそっと抱き付く様におばちゃんドラゴンに寄り添います。

“はじめましてお母さん、会えて嬉しいです”

エッガードの気持ちが、おばちゃんドラゴンに伝わっていきます。

 

『掃除屋さん。この子の事、本当にありがとう。あなたに委ねて本当に良かった、本当に・・・』

溢れる想い、止まる事のない涙。おばちゃんドラゴンはエッガードをギュッと抱きしめると、その殻を優しく撫で続けるのでした。

 

『ごめんなさいね、何かあなたの事を放置しちゃったみたいで』

それから約一時間、完全放置プレイを喰らった私。ダイアン神官は祈りモードでおばちゃんドラゴンとエッガードの対面を見守っています。

ドラゴンを信仰するダイアン神官からすれば聖母マリアのキリスト誕生に立ち会ったくらいの衝撃、脳内麻薬ドバドバだったことでしょう。

 

「いえいえ、別に構いませんよ。今日はお客さんとエッガードを引き合わせる事が目的でしたから。

やはりちゃんと物事を考えられるようになったというのに、母親に会わせないなんてあり得ないじゃないですか。それが例え呪われた騎士の魂を取り込んだ結果だとしても、エッガードは個としての存在、ドラゴンの卵なんですから。

それに珍しい物も回収出来ましたしね」

そう言い俺は先程回収してポーション瓶に詰めておいた“ドラゴンの涙”を振って見せます。これ、まだ詰めてない分が盥一杯分くらいあるんですよね。縮小化の魔法で小さくなっているおばちゃんドラゴンの涙ってセルフ濃縮されてるんだろうか? この涙を使ってエリクサーを作ったらどうなるのか気になります。

 

『あなた、もしかして私の涙を回収していたんじゃないでしょうね!!

恥ずかしいでしょうが、返しなさーーい!!』

「え〜、いいじゃないですか〜。感動の親子の対面だったんですから〜。

まぁこれはお渡ししますけどね、今日の記念という事で。

何なら世界樹の葉も付けますか? エリクサーの材料なんでしょう?」

俺はそう言いながらもポーション瓶を差し出します。今日の日の記念品? 人族にとっては超お宝だけど、おばちゃんドラゴンにとってはどうなんでしょうかね。

 

「ん?あぁ、世界樹の葉ですか。ちょっと前に世界樹のドラゴンさんのご自宅に呼ばれましてね。こちらのお宅の快適さに感心して、是非うちも頼むって言われまして。その時世界樹様の枝の剪定を頼まれたんですよ。

相当に密集していましたからね、アレは大変な作業でした。それでその時に回収した枝やら葉やらが山のように。

エルフの里のエルフ族は挿し木に失敗した世界樹の枝から取れた葉を使ってお茶にしているそうなんで、真似して作ったお茶があるんですが飲んでみます? 結構美味しいですよ」

 

“バサッ、トンッ、ガチャリ”

地面に絨毯を敷き木製テーブルと椅子を二脚、それと太めの丸木の間に溝を入れたドラゴン用の椅子を一脚。居酒屋ケビンに最強生物が入りびたるんで、ドラゴン専用の椅子を作ってみました。尻尾が邪魔にならず長時間座っていても疲れない、最強生物には高評価をいただいております。

それとティーカップ、おばちゃんドラゴン用には大きめサイズをご用意。

“チョロチョロチョロチョロ”

カップに注いだ世界樹の葉のお茶からは、得も言われぬ甘い香りが漂います。

 

「どうぞお座り下さい。ダイアンさんもどうぞ」

俺はお茶の準備を済ませると、二人に着座を勧めます。

 

『あら、この椅子は座り易いわね』

「どうですか、中々よく出来ているでしょう? ドラゴンの皆さんは尻尾がありますからね、人族の座るような椅子ではどうしても使い勝手が悪いんですよ。

そこで考えたのがこの椅子です。この真ん中の溝が尻尾を上手く逃がしてくれるんですよ。これは差し上げますので、読書部屋ででも使って下さい。因みに世界樹の枝製なので丈夫ですから」

おばちゃんドラゴンは何かを諦めたような表情を浮かべティーカップに手を伸ばします。ダイアン神官は・・・無の境地? おばちゃんドラゴンとエッガードとの親子の対面は、ドラゴン信仰を持つダイアン神官を一つの悟りへと導いたようです。

 

世界茶を口にし、少し驚いたような、ホッとしたような表情を浮かべるおばちゃんドラゴン。どうやら世界樹の茶葉はお気に召してくださったようです。

 

『これはいいわね。舌触りがいいと言うか心が温まると言うか、素直に美味しいわ』

「ご満足いただけたようでよかったです。あっ、これ、ダイアンさんは飲んじゃ駄目ですよ?どんな影響が出るのか分かりませんから。

なんと言っても世界樹の葉ですからね、ただ傷が治る程度ならいいんですけど、矢鱈な精神作用なんかがあったら目も当てられない。

実際そんなお茶もあるんですよね〜」

おばちゃんドラゴンには当然のように光属性魔力マシマシで淹れさせていただいております。でも世界樹の葉を使ったお茶は人体への影響がはっきりしないのでダイアンさんにはマルセル茶を進呈、こっちも気持ちの落ち着く美味しいお茶ですよ?

 

『そうだわ、確かあなたってばとんでもないスライムを飼っていたわよね? 他にああいった魔物を飼ってないかしら。具体的には私の血に耐えられるような魔物なんだけど』

お茶を飲みながら気分転換のリラックスタイムを楽しんでいると、おばちゃんドラゴンから予想外の質問が。聞けば“竜騎士の試練”はドラゴンに絡んでくる人族を揶揄いつつ追い払う為のお遊びで、パルムさんとダイアン神官は人間モニタリングの被験者なんだとか。

二人の被験者に眷属を同行させることで、眷属を通じ旅の様子を観察できるとのことでした。

 

「へ〜、眷属ってそういう事になってたんですか。そう言えば大福も勇者に眷属を渡していたけど、なんか面白そうだからとか言ってたな〜」

ジェイク君の護衛に就いている黒蜜からの情報を大福が回してくれる事で、ヤバそうなときは対処できたもんな。カルメリア第四王女殿下がやらかした際も、騒ぎが拡大する前に対処できたのは黒蜜と大福のお陰だし、いざとなったらおばちゃんドラゴンが動くための布石でもあるのでしょう。

このドラゴン、なんやかんや言って面倒見が良さそうですしね。

 

「あの、上手く行くかどうかは分からないんですが、一つ試してみたい事があるんですけどいいですかね?」

俺はそう言うと地面に必要な道具を並べていきます。

 

「えっと取り敢えずお客さんの血が混じってれば、それはお客さんの眷属って事になるんですよね? でも普通の魔物では耐えられない。だからお客さんの血に耐えうる魔物を探している。

そこで考えたんですが、最初からお客さんの血を前提に魔物を作ればいいんじゃないかって。幸い俺にはそうしたスキルがありまして、<眷属生成>の下位互換、<友達生成>って言うんですけど。

まぁやってみましょうか?

材料はこちら。お客さんの脱皮皮と鱗、それとこちら、何故か脱皮場の手前の通路脇の土の中から見つかった休眠スライムですね。

このスライム、この場所の魔力濃度に耐えられなかったんでしょうね、活動を停止して休眠状態に入ることで環境に対応しようとしていたみたいです」

俺の説明に並べた材料をしげしげと眺めるおばちゃんドラゴン。

 

『・・・あっ、思い出したわ。その子、パルムのところのスライムだわ』

「えっ?ドラゴン様、パルムのスライムはガッツとクリーンの二体なのではないのですか?」

おばちゃんドラゴンの声にダイアン神官が疑問を口にします。どうやらこの休眠スライムに心当たりがあるようです。

 

『あぁ、あなたは知らなかったかもしれないわね。元々あのスライムたちはパルムが自身の安全の為に持ち込んだ警報装置、最弱の魔物と呼ばれるスライムが死んでしまうような状況であればパルム自身にとっても危険であるという考えの下、自身が耐える事の出来る限界を客観的に計ろうとした試みだったのよ。

この一体は最初の犠牲者ね、パルム自身お陰で警戒心が増したって言ってたわ。でも死んだんじゃなくて休眠してただなんて、本当にスライムって謎だらけよね』

おぉ~、この場にいないパルムさん、頭のネジがダース単位でぶっ飛んでると思っていたら意外にも目茶苦茶慎重派だったようです。要は炭鉱のカナリア、動かなくなったスライムを死んだと思って地面に埋葬していたと、成長物語の一幕のような光景ですね。

 

「それじゃ早速やってみましょうか。すみませんがこの容器にお客さんの血を少々いただけますか?」

そう言い俺が深皿を差し出すと、『ちょっと待ってね』と言って元の大きさに戻ったおばちゃんドラゴンは棚にあった平皿を持ち出し、指先に爪を突き立て血を一滴垂らすと、『これでいいかしら?』と差し出してくるのでした。

 




今日から一日一話更新になります。
書き溜めが無くなっちゃったのさ。
これからも応援よろしくお願いします。
by@aozora
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