「それじゃ始めますね。そうは言ってもこれが上手くいくかどうかは正直分からないんで、そこまで期待しないでください。
先ほども言いましたけど、俺には<友達生成>っていうスキルがありまして、これはお客さんなんかが使う<眷属生成>のスキルに近いものなんですけど、材料を用意する事で新たな魔物を作り出す事が出来るんです。
ただ眷属生成と違って生まれた魔物との間に支配的な関係性がなくってですね、一方的に命令を聞かせたりする事は出来ないんですよ。
ですんでいざ魔物を作ったとしてもその魔物に害される可能性もあるって訳です。
そこでお客さんの血が役に立つかなと。先程の話では魔物に血を分け与える事で眷属とする事が出来るとか、であれば生成過程で血を与えてしまえば少なくともお客さんの眷属になって生まれてくれるんじゃないかって算段ですね」
俺はそう言うと巨大な平皿の上のドラゴンの血を深皿に掬い、他の材料と一緒に並べます。
「今回の素材は先程脱皮場から回収して来ました鱗と脱皮皮、それと休眠スライムにお客さんの血と涙になります。おそらくですが丈夫な体を持ったスライムになるかと。
前にこちらにも呼んだことのある俺のところのスライムに近い個体が生まれれば大成功なんですけど、こればかりはやってみないと」
<友達生成>はリスク管理が難しいスキル、最悪とんでもない化け物が生まれる可能性もありますが、その時は魔力枯渇させてから刻んで収納しちゃえば無問題って事で。
それと今回はドラゴン素材を使用する為目潰しフラッシュは不可避、「強い発光を起こしますんで周りを覆っちゃいますね。<シェルター>」と注意を促してから周りを土のドームで覆います。
「それじゃいきます。<友達生成>」
ドームが中の発光によりぼんやりと光り、<友達生成>が問題なく行われていることを示します。後はどんな魔物が生まれてくるのか、こればかりは蓋を開けてみないと分かりません。
「いや~、前も違うスキルを使ったら強く光っちゃって失明した事があるんですよ。何故か俺のスキルって俺を害しに来るんですよね」
俺は小粋なジョークを挟みつつ場を盛り上げます。おばちゃんドラゴンとダイアン神官はそんな俺に冷めた視線をですね、どうやらお二人には理解していただけなかったようです。(涙)
「あぁ、終わったようですね。一応何があるのか分からないんでダイアンさんの周りには結界を張っておきますね」
安全第一、おばちゃんドラゴンはともかくダイアン神官の安全は製作者として確保しなければいけません。
「それじゃいきます、<破砕>」
土のドームがボロボロと崩れると、瓦礫の真ん中でプルプルと身を震わせる一匹のスライムが姿を現します。
『えっと、あなた、私の言葉が分かるかしら?』
“プルプルプル”
おばちゃんドラゴンの呼び掛けにブルブルと身を震わせて、“はい、分かります”と意思を伝えるスライム、実験は成功したようです。
「どうやら上手くいったみたいですね。あとはこのスライムに名前を付けてあげれば存在が固定化されるんで、やたらな事にはならないかと。
えっと、先程の話ですとダイアンさんの旅のお供にするんですよね? でしたらダイアンさんが名前を付ける方がいいんじゃないんですか?」
俺の言葉に頷き前に歩み出るダイアン神官、その目には強い意志が感じられます。
「それではこちらのスライムに名を付けさせていただきます。
お前の名は“ガーディアン”、守護者を意味する古代語だ。よろしく頼むぞ、ガーディアン」
“プルプルプル♪”
ダイアン神官からの名付けに身を震わせ喜びを露にするガーディアン。
“ドサッ”
『えっ、どうしたの?ダイアン大丈夫?』
次の瞬間その場に倒れるダイアン神官、その様子に慌てるおばちゃんドラゴンに、俺は落ち着くようにと声を掛けます。
「・・・あぁ、これは魔力枯渇症状ですね。どうやらガーディアンに名付けを行った事ですべての魔力を失ってしまった様です。
っていうかガーディアンって相当な存在になってません? ダイアンさんってこの場所に耐えられるくらいの魔力の持ち主ですよね?」
どうやらこのスライム、相当な存在になってしまったようです。ドラゴンの脱皮皮と鱗と涙と血を与えられたスライム、うん、仕方がない仕方がない。
「因みにお客さんが人族の誰かに名付けを頼んだ場合、最悪相手が死んじゃいますんで気を付けてください? まぁその場合まず間違いなく失敗しますんで問題ないんですが、今回みたいに名前を付けて相手が了承した場合名付けが成立しますんで、下手をするとね。
俺も詳しくは分からないんで例外もあるんでしょうが、注意するに越したことはないですから」
世界樹のアマネ様に名前を付けた時はヤバかったからな~、シルフィーに貯め込んだ魔力がすっからかんになったもんな~、あの時はマジで焦ったわ。名付けで名付け親が死んじゃうかどうかは不明だけど、気を付けるに越したことはないですしね。
名付けをしてもらったら親しい相手が即死亡、うん、トラウマものだね。いや~、世界の真理って知らないと怖いな~。
おばちゃんドラゴンにはそうした事を起こさないように注意を促し、ダイアン神官を介抱します。
「ダイアンさん、大丈夫でしたか? どうやらダイアンさんは名付けによって魔力枯渇を起こしてしまったみたいです。
念の為こちらの霊薬を飲んでもらいましたんで、身体の方は大丈夫かと」
「あぁ、何かご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。身体の方は何処か痛むような場所もなく、問題ないかと思います」
“天使の微笑み”は魔力枯渇症状にも有効です。精神的にも安定する霊薬ですので、今回のような場合にはもってこいのポーションです。
「それではダイアンさんは今後こちらのガーディアンとよく交流を取り、互いの仲を深め合うように努めてください。
これはあまり知られていないようなのですが、魔物のテイムはテイムスキルがなくとも行えるんですよ。どうも互いの信頼と意思の疎通によりテイムは成立するみたいでして。
ダイアンさんの旅立ちが決まりましたらガーディアンに問い掛けてみてください、上手くすればテイム出来るかもしれません。そうなれば互いの意思の疎通がよりし易くなり、旅の相棒としても連れ歩き易くなると思いますので」
俺はそう言うと、ガーディアンを拾い上げダイアン神官に手渡します。ガーディアンはプルプルと震え、“これからよろしく”といった意思をダイアンに伝えようとしています。
うん、何か凄く頭がよくなってない? これは結果オーライということにしておきましょう。
「分かりました。ガーディアン、これからよろしくな。まだ修行が終わっていないから旅立ちは先になるが、一緒に世界を巡ろうじゃないか」
強い眼差しでガーディアンに語り掛けるダイアン神官、凄い絵になる。やっぱりヒーローはこうじゃないと、めっちゃ格好いいです。
「どうやら上手くいったみたいですね。それじゃ俺はそろそろ。
エッガード、帰るよ」
“ブルブルブルブル”
一通り用事も終わったのでマルセル村に帰ろうとした時、エッガードが何かを訴え掛けます。
「えっ、エッガードあの血の残りが欲しいの?
すみません、お客さん。エッガードがあの大皿に残った血の残りが欲しいそうなんですけど、あげちゃってもいいでしょうか?」
それは巨大な平皿に残ったドラゴンの血、おばちゃんドラゴンは『別にいいわよ』とすぐに許可を出してくれるのでした。
巨大な平皿の上に移動したエッガードは、血の上に降りるとブルブル身を震わせ血を取り込んでいきます。
“ブルッ、ブルブルブルブル”
そして一際大きく震え出したかと思うと全体が淡く光り出し、次の瞬間。
“ピシッ、ピシピシピシピシッ、バリッ、キュワ~~~”
「え~~~~、エッガード、孵ったのかよ。スゲー、感動、よかったな、エッガード」
ひび割れた卵の殻を突き破り顔を出したのは、漆黒の赤ちゃんドラゴン。
クホッ、めっちゃ可愛いんだけど、何これ、天使なの? ぬいぐるみなの? なでなでして~~~!!
『あぁ、エッガード、愛しの我が子。ついに生まれてくれたのね、本当に、本当によかった』
“キュワ~~~~~~”
飛び付くエッガードを腕に抱き、涙を流して喜ぶおばちゃんドラゴン。今度は元の大きさなのでその量も大量です。俺は急ぎ魔力の管を伸ばすと、二人の抱擁を邪魔しないように“ドラゴンの涙”の回収作業に励むのでした。
―――――――――――
“キュア~~~~~”
小さな羽を広げ宙を飛び、おばちゃんドラゴンのお顔に頬ずりをする赤ちゃんドラゴン。おばちゃんドラゴンは聖母の笑みを湛えエッガードを優しく見守ります。
ダイアン神官は感極まり過ぎてあっちの世界に旅立たれているご様子、暫くそっとしておいてあげましょう。
「いや~、生まれちゃいましたね~。って言うか今まで孵ることのなかったエッガードが、ドラゴンの血に触れる事で次の段階に進む事が出来るとは、流石にこれは思い付きませんでした。
まさに奇跡、親子の絆が引き寄せた奇跡以外の何ものでもないでしょうね。
さて、そうなるとどうしますか、ここであの親子を引き離すのはあまりに酷でしょうし、意志の確認をした方がいいでしょうね」
これどうしよう、まさか卵から孵るなんて想像もしてなかったんだよな~。こんなに喜んでる二人を引き裂くのもな、ミッシェルちゃんになんて説明したらいいんだか。
「お客さ~ん、少々いいでしょうか? それとエッガードもちょっといいか、大事な話がある」
“!?キュア~~~~~”
俺の呼び掛けにエッガードが急降下してきます。それに合わせて視線をこっちに向けるおばちゃんドラゴン、その目は“あっ、そういえばこいつらいたんだった”という驚きを示しています。
忘れちゃってたのは仕方がないよね、だってエッガードが孵っちゃったんだもんね、放置プレイも致し方がないよね。
『あぁ、ごめんなさい。突然の事であなたたちの事を完全に忘れてしまっていたわ。
でも本当にこんな事、私も長い事生きて来たけどこれ程驚かされた事って初めてよ。これも全てあなたのお陰、本当に何てお礼を言ったらいいのか』
「いえ、私は何も。全てはお客さんとエッガードが引き寄せた奇跡、私は単なる介添えに過ぎませんから。
それでエッガード、お前これからどうする? 漸く卵から孵る事が出来たんだ、このまま親子仲良く暮らしていくか?
まぁ俺はそれが一番いいと思ってるんだけどな」
俺はエッガードの顔を見つめ語り掛けます。
“キュア~~~?”
「俺か? そろそろ帰ろうかと思って。お客さんの家の様子も気になってたんだけど、思いのほかきれいに使ってるみたいだし、気になるところの掃除も終わったしな。
元々エッガードの様子を見せて、簡単に掃除したら帰るつもりだったし」
“・・・キュア、キュッキュア!”
俺の言葉におばちゃんドラゴンへ“僕そろそろ帰ります”とお別れの挨拶をするエッガード、おばちゃんドラゴンは大きな身体を縮小するやエッガードに抱き付き言葉を返します。
『そんな、折角こうして出会えたのよ? せめてもう百年くらい、いえ、千年くらいは一緒に』
“キュア~~~~、キュアッキュ”
『分かったわ、それじゃ私もそのマルセル村に行くわ。それなら問題ないわね、早速お引越しの準備を・・・』
「や~め~て~~~~~~~、マジで止めて~~~~~~!!
マルセル村は人族の集落なの、お客さんが越して来たなんてなったら大騒ぎどころじゃないの、村が崩壊しちゃうから!!
それにお客さんはこの場所の土地神的存在なんでしょう? 信仰の対象なんでしょう? 気安く引っ越しとか言わないで、お願いします、この通りです!!」
俺はその場で土下座し、考え直してくれるよう説得を試みます。いや、本当に勘弁してください。
『いいのよ別に、この場所に暮らしてるのは何かの約束や信念があっての事じゃないもの。この子の存在には代えられないわ。
さぁ行きましょう、ダイアン、悪いけどそう言う事だから、神殿長にはよろしく「分かった、分かりました、ちゃんと会えるようにしますから。だからここは一つ落ち付いて、穏便に」・・・そう? 私はこの子に会えるんなら何でもいいんだけど』
やっぱりドラゴンだよ、自由人過ぎるよ、最強生物と同類だよ。俺は自己領域の扉を取り出すと、しばらく待ってくれるようにお願いしてから急ぎ準備に取り掛かるのでした。
“ガチャリッ”
「お待たせしました、準備が出来ました」
猛ダッシュの突貫作業、本当に勘弁してほしいと思いつつおばちゃんドラゴンに解決策を提示します。
「エッガードの家を造ってきましたんで、エッガードとはそこで会えるようにしました。エッガード、お前これからは秘密基地からマルセル村に通勤な、他の従業員にはその旨伝えておいたから。
まぁ、案内しますんでどうぞ」
扉を開き皆さんをご案内した先は広い洞窟、天井は高く周囲に生い茂るヒカリゴケが空間全体を淡く照らし出すドラゴンの生活空間。
「間取りはお客さんの塒を参考にさせてもらってます、大きさや配置はほぼ同じですね。扉の設置場所は最奥の寝所にしてあります。場所は岩山の中腹になります、外の様子はそのうちエッガードと一緒に探索してください。
それと注意点です、この扉には使用上の制約があります。扉の使用者は入った扉からしか出る事が出来ません。ですのでエッガードとはこの扉内で会う事が出来ますが、扉から向こうのお客さんの家に連れて行くことは出来ませんのでその辺はご了承ください」
要するに自己領域に作ったエッガードの家で会っていただくって事ですね。エッガードと一緒にいたいがために引っ越しを即決するくらいなんだから会えれば場所はどこだっていいんでしょうし、自己領域であればこの洞窟とも行き来出来ますしね。
『よく分からないけど分かったわ。つまりこれからはこの場所でいつでも我が子とずっと一緒に・・・』
「だ~か~ら~、違うからね、俺たちは一度村に帰って、向こうの入り口からこの場所に来るから、会えるのは半日後だから。ちゃんと会えるようにするから落ち着いて。
それと二人の連絡は念話でどうにかなるんでしたっけ? フィヨルド山脈の最強生物とは念話で会話しているって聞いてるんですけど」
俺の言葉に首を横に振り、寂しそうな顔になるおばちゃんドラゴン。
『無理ね、正確には今は無理って事なんだけど。フィヨルドのと私となら大陸の端と端からでも通じ合えるけど、まだ生まれたばかりのこの子では、街の端から端が精々ね。あと千年もすれば大陸の中程くらいまでなら何とかなると思うんだけど・・・』
「あぁ、でしたら<短期雇用契約>を結んでおきますか、そうすれば<業務連絡>というスキルで好きな時に連絡を取り合う事が出来ますんで。詳しい使い方はエッガードから聞いてください」
やっぱり便利、<魔物の雇用主>。<短期雇用契約>ならおばちゃんドラゴンのスキルが俺に反映する事もありませんしね。既に緑たちがドラゴン化しちゃったから今更ではあるんですが。
「それじゃ俺たちは一度帰ります。あとはお客さんとエッガードとで連絡を取って扉の向こうのエッガードの家で落ち合ってください」
帰ったらミッシェルちゃんに説明しないと、会えない訳じゃないんだけど、これまでみたいにずっと一緒って訳にもいかなくなっちゃったしな、本当にどうしよう。
「エッガード、帰るから一度影空間に入ってくれるか?」
“キュア~~~”
俺の言葉にふわりと浮き上がったエッガードは、見る見るうちに身体を小さくすると服の胸元に潜り込んできます。
「えっ、なんでエッガードが縮小化の魔法を使えるの? 見て覚えたって凄いなエッガード」
おばちゃんドラゴンの魔法を見ただけで使いこなすって、エッガードさん、マジ半端ないっす。
『あぁ、そう言えばワイバーンを待たせているのよね。ごめんなさいね、長居させちゃったみたいで』
「いえいえ、大丈夫ですよ、今日は一人で来ましたんで」
“バサッ”
なるはやで帰らないといけないので、本気モード発動。背中から白と黒の二枚の翼を広げ宙へと浮かび上がって<精霊化>を開始します。
「それではここで失礼させていただきます。また後程扉の向こうでお会いいたしましょう、連絡はエッガードがいたしますので」
おばちゃんドラゴンが暴走しないように再会の約束を取り付け、洞窟を後にする俺氏。ミッシェルちゃんとホーンラビット伯爵閣下への報告どうしよう。
俺はマルセル村で待つ事後説明に頭を抱えつつ、胸元でスヤスヤ眠るエッガードを撫でながら西の空へと飛び立っていくのでした。
ドラゴンの赤ちゃんが生まれました!!
ぬいぐるみで欲しい。
by@aozora