転生勇者の三軒隣んちの俺   作:@aozora

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第853話 辺境の村人たち、予行演習を行う

「コア、領域を確認、戦闘区域内の全ての魔物を領域外へ転送」

<“フィールドダンジョン内の全ての魔物をダンジョン外に排出します。フィールドダンジョン全体を遮音遮光結界にて完全隔離、内部を外部と切り離します”>

 

薄暗い部屋の中に現れた幾つものモニター画面には、枯草の揺れる草原の様子が映し出される。部屋の中心の台座に置かれた光る球体の前に立つ美しい面立ちの男性は、それぞれのモニターに目を向け異常がないか確認を行う。

 

「今回の演習は本番に向けての最終チェックとなる。随時システムの動作 確認を怠らないように」

<“了解、マルセル村春の村祭り魔王軍襲来、状況を開始します”>

 

男性は再びモニターに目を向ける、そこにはマルセル村の村門から現れた濃紺の甲冑を着た騎士団が映し出されているのだった。

 

―――――――――――――――

 

マルセル村春の村祭り、それは毎年春の作付けが始まる前に行われる年中行事。寒さ厳しい冬を乗り越え、新しい一年を始められることへの喜びと決意の祭り。

いつの頃からか祭りには余興が執り行われることになり、その規模と内容は年を追うごとに拡大していった。

 

「ギースさん、ちょっと聞いてもいいですか?」

今年の春祭りの余興会場に向かう門番のカシムは、上司である騎士男爵のギースに声を掛ける。

 

「どうしたカシム、何か分からない事でもあるのか?」

濃紺の甲冑に身を包み愛用のロングソードを腰に携えたギースは、視線をカシムに向け言葉を返す。

 

「あの、俺春の村祭りの余興って聞いて初めてこの姿になったんですけど、これって騎士行列なんですよね? 何で村の外に向かって行くんですか? もしかしてこのまま隣のゴルド村まで行進していくんですか?」

 

そして今年の村祭りの余興は、ホーンラビット伯爵家騎士団全員参加による催しとなった。それはホーンラビット伯爵家本邸前でのドレイク・ホーンラビット伯爵の挨拶に始まり、騎士団員全員での忠誠の誓い、奥様方による見送りと、辺境の小領の伯爵家が行う騎士行列としては異例な程本格的なものであった。

 

「あれ、カシムは聞いてなかったのか? これはただの騎士行列じゃなくて演習だぞ? この後マルセル村の前に広がる草原で戦闘訓練を行う事になっている」

「えっ、そんなに大規模な話だったんですか? 俺、息子に聞かれて村を練り歩く騎士行列って答えちゃいましたよ。これ、後で妻に何か言われちゃいますよ」

失敗したなと苦笑いを浮かべるカシムに笑いながら励ましの言葉を送るギース。

 

「今日の演習は観客付きだからな。ホーンラビット伯爵家の奥様方や騎士団に所属していない村人たちは展望塔から演習の様子を見ることになっている。無論カシムの子供たちも見てるんだからな、気合を入れていけよ?」

「えっ、そうなんですか? それじゃ頑張らないと、子供たちに恥ずかしいところは見せられませんから。

でも演習の相手って誰なんですか? 俺たちってホーンラビット伯爵家の全戦力ですよね」

カシムの問い掛けにニヤリと口角を上げるギース。

 

「ワイルドウッド男爵家だ。演習の相手はケビンが用意する事になっている」

「えっ、ケビンさんがですか? それって大丈夫なんですか? 大福ヒドラドラゴンモードが出たら俺たちひとたまりもないですよ? 身代わり人形なんか持ってないですし」

途端恐怖がカシムを襲う。マルセル村の門番という職務上、身代わり人形を使った死を厭わない訓練も積んできたカシムではあったが、ワイルドウッド男爵家という格上を相手に身代わり人形なしに挑むなど無謀としか思えなかったからである。

 

「あぁ、その辺は何とかなったらしい。この演習は今度の勇者祭りを前にした最終調整も兼ねているとかなんとか、俺たちはただ全力を尽くして戦いに臨めばいいって事らしい」

ギースの言葉に“本当に大丈夫なんだろうか”と不安に駆られるカシム。

吹き抜ける風、揺れる枯草、マルセル村の春の村祭りにおける演習は、村人たちの見守る中行われようとしているのだった。

 

―――――――――――――――――

 

「わ~凄~い、階段を一つ上がるだけで屋上に着いちゃった、これってどうなってるの? 

ねぇねぇロバート君、ホーンラビット伯爵閣下から何か聞いてない?」

「う~ん、お父さんは何も教えてくれなかったんだよね。“あそこは不思議な展望塔なんだ”としか言ってなかったし。ミッシェルちゃんはケビンおじさんから何か聞いてない? この塔を建てたのはケビンおじさんだって事なんだけど」

 

「フフフフ、エリザベート、ランディー、ポール。見よ、騎士があんなに小さく」

「えぇ、そうですわね。あの方々がこれから私達のために戦うのですね、なんだか面白い」

 

「おい、ポール、見てみろ、グルゴお父さんとガブリエラお母さんがいるぞ?」

「あっ、本当だ。お父さ~ん、お母さ~ん、頑張って~~~~!!」

 

屋上展望台の手すりに摑まり周囲を見渡す子供たち、その楽しげな様子に母親たちは笑みを浮かべる。普段グラスウルフたちの背に乗り空を飛び回っている子供たちの年相応な姿に、何処か心配していた気持ちが和らいでいく。

 

“キュワ~”

“““““バウバウッ”””””

宙を飛びやってきた何か、それはドラゴンロード男爵家のミッシェルが跨っていた卵から生まれたドラゴンと空を走る白いグラスウルフたち。

 

「エッガード、良狼、グラスウルフ隊の者たちも見回りご苦労。草原地帯に異常はなかったか?」

“キュワ~、クワック”

“““““グルル、ガウ、グルルル”””””

 

「ふむ、やはりゴルド村側にはこちらの動きを警戒する者たちがすでに配置されているか。ケビンの話によれば既に勇者はボルグ教国を出たとか。早ければ三か月、遅くとも五カ月以内に接敵する。であれば監視の目が置かれるのは当然か」

「そうですわね、観光客に紛れて教会関係者が偵察に来ることも大いに考えられますわね」

 

「あっ、それなら大丈夫だと思うよ? ボルグ教国がケビンおじさんを魔王認定した事を受けて、グロリア辺境伯領の領都グルセリアとミルガル、エルセルの各都市に注意喚起及び受け入れ停止の決定が書かれた大看板を設置したってお父さんが言ってたから」

「そうなの? でもそうなると行商人さんも来なくなるから物流が停止して寂しくなるね。でも食糧備蓄は問題ないし、マルセル村的には大丈夫なのかな? お母さんたちのお仕事が無くなっちゃうのは少し心配だけど」

 

「あぁ、マルセル村の生産物に関してはケビンが買い取ると言っていたから心配せずともよい。あ奴はそうした点で信頼が置けるからな」

 

母親たちの顔から笑みが消える。その高度な会話の内容に、子供たちの将来が心配になってくる。

 

「なんだいなんだい、いい大人が揃いも揃ってそんな顔をして。頼もしい子供らじゃないかい、そんなに心配しなくても大丈夫さ」

「全くベネットの言う通りだよ、こういうのを“神童も大人になればただの人”って言うんだよ。小さい内からしっかりしてるなんていい事じゃないかい、心配するだけ無駄ってものさ。

なに、あんまり心配だったら“ケビンみたいになっちゃうよ”って言ってごらん、少しは大人しくなるはずだよ?」

そんな母親たちの心配を村のお年寄りたちが笑い飛ばす。

 

「大丈夫、子供たちのことは村の者全員で見守っているんだ、困ったことがあったらいつでも言っておいで、出来るだけ力になるよ」

「ありがとうございます、ベネットおばあさん、セシルおばあさん」

村ぐるみの子育て、自分は決して一人じゃないという安心感が、マルセル村の母親たちの愛情あふれた子育てを支えているのであった。

 

“バサッ”

“人間よ、浅ましくも愛おしい人々よ”

その声が聞こえたのは突然のことであった。心に直接響くその声音は、その場に集う全ての村人たちに向けられる。

 

“大地は割れ、星は落ち、世界は混沌の闇に飲まれた。王都バルセンを襲ったドラゴンの群れ、人心は乱れ、救いを求め大聖堂へと殺到した。

ある枢機卿は言った、我々は女神様に選ばれし民であると。ドラゴンの群れの襲来を受け無事であることが何よりの証であると。

人々は救いを求めた、女神様に祈り教会の言葉に縋った。失われた自尊心は女神様に選ばれた民という一点で復活を遂げた”

 

その声の主は空中にいた。展望塔よりも高い位置から、村人たちを見下ろすように言葉を伝える。

 

“ワッハッハッハッ、女神様に選ばれた民、確かにそうなのだろう。

人の闇に潜み、陰から人々を見続けてきた我を白日の下に晒したのであるからな。

ボルグ教国はナミビア王国から勇者パーティーを招聘、五万の兵力と教国の宝を貸し与えた。“聖剣バルボア”、“聖弓アテナ”、“聖杖グランディア”、いずれも伝説に謳われる神器、魔王を滅ぼす最終兵器”

 

“バッ”

両手を広げ天を仰ぐ、漆黒のマントが風に靡く。

 

“あぁ、何という愉悦、何という喜び。女神様の代行者が、この我の為に多くの力と共にこの地へやってくる。

最高の準備を、最高のもてなしを。我が名はカオス、今代の魔王にして最後の魔王。長きに渡る魔王の歴史は、我の出現を以って終息する。

人類よ、我が下に集え、我を倒せ!!

自らを女神様の子と称するのなら、その力を以って証明せよ!!

これより始まるは最後の聖戦、人の身で魔王に至りし我と、女神様の子である人類との戦い。

人類よ、全てを捧げよ、我という敵を通し、人類の可能性を女神様にお見せするのだ!!”

 

“ガチャッ、ガバ~~~~~~~~~~~~~~”

空中に亀裂が入る。まるで巨大な門が開くかのように空間が裂け、緑豊かな草原と武装した数百という兵士たちが姿を現す。

 

「オーク、だと? だがあの姿は一体、それと共にいるのはオーガなのか?」

それは赤い防具を身に着けた筋骨隆々のオークたちと青い防具を身に着けた理知的な瞳を向けたオーガたち、そして全身を白一色に染めた甲冑姿の者たち。

 

“行け、我が配下よ。この地を支配し、女神様の祈りが残る“祝福されし礼拝堂”を我らの物とするのだ”

“““““GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!”””””

 

大剣を掲げ、金剛槌を振るい、悪夢が人類に襲い掛かる。

 

“バッ”

掲げられた右手、迎え撃つ人類の希望。ホーンラビット伯爵は最前線に立ち、魔王の脅威からマルセル村を守る為、ホーンラビット伯爵家騎士団に命令を下す。

 

「我々の故郷マルセル村は、いかなる勢力にも屈しない、渡さない!! ホーンラビット伯爵家騎士団、命令だ、敵を殲滅せよ!!」

「「「「「ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!」」」」」

 

“バッ”

「突撃ー!!」

「<双龍牙>!!」

「<竜巻旋風>!!」

振り下ろされた右手、同時に放たれた鬼神と剣鬼の大技が魔王軍を襲う。

 

「<秘剣:断罪>」

だがその大技は魔王軍の剣士により容易く打ち砕かれる。

 

「俺は魔王カオス様第三の僕クレーター。全ては魔王カオス様の手の中、抗え人類!!」

“シュンッ、ガキーン、ガキーン”

瞬きの間に肉薄し鬼神と剣鬼を吹き飛ばすクレーターの攻撃に、その場の者たちは目を見開き驚きを露にする。

 

「クッハッハッハッ、やるではないかブー太郎。普段は力を押さえていたという事か?」

「ハッ、勘違いするなよ、大剣聖。俺は魔王カオス様第三の僕クレーター、愛剣グランゾートを握った俺を普段のブー太郎と一緒にしてたら・・・終わるぜ?」

“ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン”

 

「クホッ、ガッハッハッハッハッ、確かに今のお前は別物、一瞬でも隙を見せれば終わりだわ。ならば我も全力をもって応えねばの。<覇魔混合>、“我は剣にして刃、我が一振りは全てを切り裂く真理なり”、<絶剣乱舞>!!」

“ガガガガガガガガがガガガガガガガガ、ガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキンガキン、ズドーーーーン”

ぶつかり合う両者、激しい絶技の応酬は空間を切り裂き大地を爆発させる。

 

「クハッ、やるじゃねえか大剣聖、でもこっちも仕事なんでな、悪く思うなよ?」

「クックックックッ、まだまだ先があるというのか、これは楽しませてくれるわ」

大剣聖の背中にゾクゾクとした震えが走る。これは恐怖か、それとも喜びか、ぶつかり合う殺気、互いの間合いの空間が歪む。

 

「<秘剣:落葉(らくよう)>」

“スッ”

瞬間何かが通り抜ける、クレーターの動きに警戒していた大剣聖クルーガル・ウォーレンは、身体に感じる冷ややかさに訝しみの視線を送る。

 

「それじゃ、俺はまだまだ仕事が残ってるんでな」

「何を・・・」

崩れる視線、回る世界、これは一体・・・。

 

「落ち葉はな、気が付いた時には既に落ちてるんだぜ。楽しかったぜ、大剣聖」

視線を切りその場を離れるクレーター、大剣聖クルーガル・ウォーレンは沈みゆく意識の中で自身の敗北を受け入れ、小さく笑みを浮かべるのだった。




いってらっしゃい。
by@aozora
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