「クルーガルさーーん!!」
「ジェイク、構うな!! 師匠たちを信じろ、俺たちのやるべき事は何だ、目の前の敵をマルセル村に近寄らせない事だろうが!!」
戦場、そこに情や情けは存在しない。
「クソッ、魔王軍め。ウォォォォォォォ!!」
正義も悪もない、殺されたくなければ殺せ、守りたいものがあるのなら、貫きたい思いがあるのなら。
「ジミー、エミリー、集団戦だ、全力でぶつかれ! フィリー、後方から魔法支援、指示出しを頼む。ディアはフィリーを全力で守れ!!」
「「「「了解、リーダー!!」」」」
「<聖剣術:飛竜斬>」
「<牙突千羽>」
「<聖拳術:破掌万華>」
“シュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパ、ズサズサズサズサズサズサズサズサズサズサ、ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴ”
ジェイクが飛び込む、ジミーが駆け抜ける、エミリーが粉砕する、敵陣に魔物の咆哮と悲鳴が轟く・・・だが。
“““““GUGAAAAAAAAAAAAAAAA!!”””””
“““““ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ”””””
魔物は精強である、魔物は強靭である、魔物はタフである。魔物の力を突き詰めたようなオークとオーガが防具を身に着け、集団を形成し、武器を手に戦いに臨む。纏まった力と連携の取れた集団行動が、マルセル村で体験する事のなかった圧倒的な数の暴力としてジェイクたち若者軍団に襲い来る。
「こいつらただのオークじゃない、一撃一撃の重さがヘンリー師匠みたいだ」
「ケビンお兄ちゃん、大岩砦のオーガたちを連れてきたようだ。生半可な攻撃じゃすぐに起き上がってくるぞ!!」
「オークさん、倒すのに三発掛かるって、凄い。エミリーもまだまだだって事だね」
エミリーの言葉に驚きを隠せないジェイクとジミー、彼らは敵の防御力を上方修正し、攻撃の重さを上げていく。
「魔法支援入ります、<ライトランス:レイン>」
“ヒューーーーー、ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド”
“““““GUGAAAAAAAAAAAAAAAA!!”””””
血煙が舞い内臓が飛び散る、焼け爛れた肉の匂いが鼻を突く。
周囲からぶつけられる質量を伴った殺意が、若者たちの精神を削り取る。
“ズバッ、ズバッ、ズバッ、ズバッ”
「クソッ、どれだけいるんだよ、全然減らないじゃないか」
「クハハハハハ、暗黒大陸を思い出す、この緊張、堪らないな!! 俺にもっと喰らわせろ、オーガども!!」
「うわ~、ジミーがヘンリー師匠になっちゃった。フィリーこっちに魔法支援をお願い、ジミーがああなっちゃったら下手な支援は邪魔になっちゃうから」
「了解、<ファイヤーボール×100「させねえよ?」“ドゴンッ”キャーー!!」
短縮詠唱が終わる直前に放たれた何者かの攻撃に、後方へ吹き飛ばされたフィリー。透かさずディアが追撃を防ごうと間に入るも、まるですり抜けるようにフィリーに肉薄し大剣を突き立てる襲撃者。
「フィリー、大丈夫か!? 一体何がってブー太郎!!」
「だから俺はブー太郎じゃないってのよ、魔王カオス様第三の僕クレーターだ。ここは戦場だ、油断した者から狩られる。こいつは俺からすれば隙だらけだったからな、先ずは一人脱落だ」
“ブシュッ”
引き抜かれた大剣、力なく横たわる大切な仲間。
「フィリー、どうして、何でこんな・・・」
「そんなもの、お前たちが弱かったからだろう? 俺たちオークの社会は分かり易い、強い奴が偉い。ここで言う強い奴ってのは、多くの獲物を仕留め生きて帰ってきた奴のことだがな。
この場にいるオークやオーガは大森林に集落を築き生き抜いてきた者たち、戦う事が当たり前、強さこそ全ての戦闘集団。
お前たちは王都を襲ったドラゴンを押し止めたことで、どこか心に油断が生まれちまったんじゃないのか?
ここは辺境マルセル村、大森林に囲まれた最果ての地。この地が平和だったのはお前らが強かったからなんかじゃない、俺たちが襲わなかったからだ。お前たちは俺たちの本当の力を知らなさ過ぎる、上ばっかり見ていると足元を掬われるぜ、今みたいにな」
“ドゴーーーーーン”
「ジェイクくーーーん!!」
横合いから金剛槌による横薙ぎを顔面に喰らい吹き飛ばされるジェイク、エミリーの叫び声が大気を切り裂く。
「おっと残念、まだ生きてるとは頑丈だね~。でもそんな調子で大事な彼女を守れるのかな?」
だがそれは大きな隙、そんなエミリーの油断を大森林の魔物たちは逃がさない。
“ズサズサズサズサズサズサズサズサズサズサ”
「クッ、やってくれ・・・エミリーーーーーーーー!!」
「ジェイ・・・ク君・・・よかった、今ケガを治してあげるね。<ヒール>ガハッ」
ジェイクに向かい伸ばされた手、吐血し崩れるエミリー。
「エミリーーーーー!! エミリー、エミリー、エミリー・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
最愛の者の死、ジェイクは喉が張り裂けそうなほどの声を上げ、その場に泣き崩れる。
「何をしているジェイク、ジミーと合流し状況を立て直すぞ、まだ戦いは終わってないんだ!!」
ディアの言葉が戦場に響く、ジェイクは虚ろな瞳をディアに向け口を開く。
「でもエミリーが、俺のエミリーが・・・」
「ジェイク、お前のするべき事は何だ、魔王軍からマルセル村を守ることじゃないのか!! お前はあの塔に逃れている村人たちを見捨てるのか、お前の大事な家族、大事な妹を見殺しにするつもりか!!
お前に与えられた力は何の為にある、愛する者、大切な守りたいものを守る、その意志を貫く為にあるんじゃないのか!!」
ディアの激しい言葉がジェイクの心をとらえる。それは魂の叫び、お前はどう生きるかという人生の問い掛け。
「・・・ディア・・・、そうだよな、俺は勇者、勇者とは勇気ある者。そんな俺が戦わずして折れちゃ駄目だよな。
“倒れる時は前のめり”、誰の言葉だったのかは忘れたけど、俺、結構好きなんだよ、この言葉」
差し出された右手、ジェイクはその手を取るとその場から立ち上がり“ズバッ”・・・。
「だから言っただろう? ここは戦場、油断した者から狩られるって」
真っ赤な液体がジェイクの顔面を濡らす。どこか現実味を失ったその光景、まるでスローモーションでも見ているかのように、ゆっくりと崩れ落ちるディアの姿。
「・・・そうだな、これは俺が間違っていたよ。俺はまだどこかでこれは村祭りの余興だという思いがあったのかもしれない。
ここは戦場、そして俺はマルセル村を守る為の兵士。俺のすべきことは敵を殲滅する事。<聖剣術:次元斬>」
“シュパンッ”
ジェイクの剣が振るわれる。瞬間、周囲の時間が止まったかのように一瞬の静寂が場を支配する。そして・・・。
“バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタ”
ジェイクを中心とした半径三十メートの者たちが、まるで糸の切れた操り人形のようにその場に倒れていく。ジェイクはその様子を静かに見つめている。
“パチパチパチパチパチパチパチパチ”
「ハハハ、大したもんだ、やれば出来るじゃないか、勇者ジェイク。これは先達の言葉として聞いておけ、聖剣術の<次元斬>は空間を切り裂く技、防ぐ事の敵わぬ必殺の技と言われているが、世の中に絶対なんてものはない。簡単な防御法としては馬鹿みたいな魔力をぶつけ、魔力暴発を起こさせ斬撃を散らすって手がある。ただこれは周囲一帯も吹き飛ばすから諸刃の剣って奴だな。
もう一つが同じ<次元斬>をぶつけて対消滅させるってやり方だ。これは拍子を合わせることが難しいが<次元斬>自体大技だからな、動きが読みやすいから慣れればさほどでもない」
まるで出来の悪い教え子を褒めるように拍手を送るクレーター、三十メート圏内にただ一人佇むその姿は、<次元斬>を対消滅させたことを雄弁に物語る。
「他は入念な事前準備だな、後で展望塔を<次元斬>で切ってみるといい、聖剣術は絶対なんかじゃないって事がよく分かるぞ。
それじゃあな、俺は後一人仕留めないといけないんでな」
そう言いその場を離れていくクレーター、その背中に目を向けた瞬間、視界が斜めにズレていくジェイク。
既にクレーターは全てを終えていた。ジェイクの目に最後に映ったものは、悠然と戦場を進むクレーターの後ろ姿なのであった。
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展望塔の屋上、階段状の観客席と手すりに囲まれた展望スペースが造られたそこでは、演習に参加していない村人たちが家族や仲間の戦いを見守っていた。
展望スペースの周りには幾つもの巨大モニターが中空に浮かび、今まさに眼下で戦う戦士たちの姿を鮮明な映像で映し出しているのだった。
「グルゴお父さん、ガブリエラお母さん、頑張れ~~!!」
「いけ~~、魔王軍なんかやっつけろ~!!」
「キャ~~~、ジェイクお兄ちゃんがエミリーお姉ちゃんとディアさんの死を乗り越えて大覚醒よ~~!! いけ~~、ジェイクお兄ちゃ~ん!!
・・・ってやられるの早、ブー太郎、もう少しジェイクお兄ちゃんに夢を見させてくれても良くない? ねぇロバート君、そうは思わない?」
「・・・エミリーお姉ちゃんが、エミリーお姉ちゃんが。魔王軍、絶対に許さない、エミリーお姉ちゃんの仇は僕が取る!! ミッシェル司令官、出撃の許可を!!」
「ふむ、やはりホーンラビット伯爵の作戦は一点突破、少ない人数を分散させる事なく矢じりのように敵の中心に向かわせたか。
いくらホーンラビット伯爵家騎士団が精強であろうとも、今回のような白兵戦において戦力を分散させる意味は薄いからな」
「そうですね、開幕時に鬼神ヘンリーと剣鬼ボビーによる大技で穴を開け一気に魔王の下に攻め込む作戦だったのでしょうが、それは敵の主力であるブー太郎に防がれましたから。
その後すぐに大剣聖が討たれたのは痛手でしたね、暗黒大陸の修行を終えた大剣聖は主力級の戦力、敵兵力を分散させる大きな役割を担っていましたから」
家族の戦いを応援する者、身内の死を嘆く者、展望塔最上階という位置的優位を活かし戦場を俯瞰で観察し、戦況を冷静に分析する者。それぞれがそれぞれの楽しみ方で戦いの行方を見守っていた。
「ふむ、チェリーちゃんはお父さんの応援をしないのだな。トーマスはまだ頑張って生き残っているというのに、父親というものは悲しいものなのだな」
少し下がった場所から村人たちの様子を眺めていた大剣聖クルーガルは、ジョッキのエールを飲み干すとをテーブルのつまみに手を伸ばす。
「ハハハ、そうですな、ウチは男の子だからそこまででもないですが、これが女の子だったらと思うと。トーマスには同情心しか湧きませんよ」
ホーンラビット伯爵から職務を引き継ぎマルセル村の村長となったボイルは、モニターの前ではしゃぐ子供たちに優しい目を向けてから、ジョッキのエールに口を付ける。
「しかしブー太郎があれほどの者であったとは、今のブー太郎であればヘンリーやボビーにも決して引けを取らんであろう。私もまだまだといったところだ、決して終わりの見えぬ強者との出会い、これだから剣術は止められん」
己の全てを賭した全力での戦いであった、その上での敗北であれば何も言う事はない。今考えるべきはどうすればブー太郎を打ち負かせるのかという事。
「そうですな、先程も勇者であるジェイク君を打ち負かしていましたし、本当にケビン君のところの人材は豊富ですから。
今回は大森林のオークとオーガの集落から応援を呼んだと言っていましたよ。どちらも大森林で生き残り続けてきた猛者揃い、以前のマルセル村の者たちであれば手も足も出なかったような脅威たち。それが今やこうして対等な戦いを見せている、ホーンラビット伯爵家騎士団もマルセル村の者たちも、本当に強くなったものです」
ボイルの脳裏に蘇るのは初めてマルセル村を訪れた日の事。王都の商売を行っていたボイルは信じていた妻と妻の親戚にすべてを奪われた、命を狙われ王都を逃げ出し、日々命からがら辿り着いた辺境の地。スルベ村とマルガス村の間に築かれた隠れ里は、そんなボイルを温かく受け入れてくれた。
転機は少年だった頃のケビンが隠れ里を訪れた事であった。進められる周辺五箇村の農業重要地区入りの計画、隠れ里の秘密が暴かれることは再びの逃亡生活を意味していた。
だがそれはケビンとドレイク村長代理の機転と寛容さに助けられ、隠れ里の住民たちはマルセル村での自由を手に入れた。
訪れた先のマルセル村の村人たちは、地を走り空を跳ね、まるで娯楽小説に出てくる特殊部隊の者たちのようなとんでもない人々であった。
あれから六年、ボイルは随分と遠くにきたものだとこれまでの人生を振り返る。
“オォ~~~~~~~~”
村人たちが歓声を上げる、巨大モニターに写されるのは魔王軍の一人に扮したブー太郎がジミーとの壮絶な戦闘の末相打ちに終わったところ。両者の命が尽きると同時に、倒れ伏した身体が光の粒子となって地面に吸い込まれていく。
「いずれにしてもこのマルセル村を誰かに渡す事はありません。マルセル村には鬼神ヘンリーがいる、剣鬼ボビーがいる、智将ホーンラビット伯爵閣下がいる。次のマルセル村を担う子供たちも元気に育っている。
ここは私たちの故郷であり教会や王家や貴族たちの醜い政治の舞台ではありません。それにこの地にはマルセル村をこよなく愛する一人の青年がいますから」
ボイルの視線の先、そこには巨大モニターに映るマントを靡かせた青年の姿。
「確かにの、魔王カオスとその配下たちが守るマルセル村、世界中のどの城よりも強固で難攻不落だろうて。ナミビア王国の勇者パーティーには悪いが、今から楽しみで仕方がないわ」
大剣聖クルーガル・ウォーレンは愉快そうに笑うと、給仕を行うワイルドウッド男爵家の使用人にエールのお代わりを頼む。
マルセル村の春祭りの余興であるホーンラビット伯爵家騎士団の演習“魔王軍襲来”は、村人たちの見守る中、佳境を迎えようとしているのであった。
いってらっしゃい。
by@aozora